自己組織化について

 「自己組織化」とは、そもそも生物が自発的に秩序を形成するという考え方で、そこには神の意思も、生物の意思も、遺伝子の意思もありません。
 ただ生物には己を秩序化する傾向があるのです。ちょうどただの物質にすぎない「雪」が美しい結晶を作るように・・・

 福岡伸一さんが『生物と無生物のあいだ』で取り上げた細胞膜の振る舞いもこれに当たるし、アミノ酸が繋がって一気にタンパク質の立体的な形を決めてしまうのも、この自己組織化による振る舞いの好例です。
 なにしろタンパク質の折りたたみ方をコンピュータに計算させたら1の後ろに0が27個付くほどの膨大な年を必要としてしまいます。宇宙の歴史の何倍の時間なんだ~・・・!

 このような自己組織化の概念の延長、もしくは複雑系数学からの合流によって、考えられているのが「創発」というこれまた興味深い現象です。
 これはイワシの大群がまるで一つの生命のように泳ぐこと(映画の『ディープブルー』でありましたよね)や、渡り鳥のV字飛行などがそうなのですが、彼らはあのような美しい隊形を、いちいち考えて作ってはいません!誰一人意図せずにあの形になったのです。

 渡り鳥には大変失礼ですが、「こうやって飛ぶとエネルギーの無駄がなくて合理的だよな」と考える知能は、彼らには(おそらく)ないのです。
 イワシの例で言うならば、彼らは「群の仲間の近くにいた方が安全だよな。あいつの後ろにぶつからないように泳いでこう」という(本当はこうも思ってませんよ!!)ごくごく単純な“プログラム”に従って動いているだけです。
 決して戦闘機ブルーインパルスの曲芸飛行のように「このフォーメーションでいっちょ行くか!」という打ち合わせなどしていません!!

 個体の単純なプログラムが、「意図せぬ結果」として集団の振る舞いを複雑化し、まるでそこに一つの知性があるように秩序化させてしまう。そんな不思議な現象が創発なのです。

 「んな馬鹿な」と思うかもしれませんが、実は我々もその現象に当てはまります。駅の自動改札ゲートなどがそれです。
 自動改札口がガラガラで空いている状態では、どの改札も出ようが入ろうが自由で秩序は見られません。
 しかし改札口が混雑してくると、「ホームに入る改札」と「ホームから出る改札」がなんとなく自然に決定され、その流れは固定化されます。
 一度出口に“なんとなくなった”改札は、ホームから出ようとする人が次々に並んでいくので、この出口となった改札から入ろうとする人は、よほどのことがない限り逆流して割りこむことはできません。
 仮にそんなKYな人がいても「あっちの改札からみんな入ってるんだからあっちに並んでよ!」と怒られるでしょう。
 このように個別単位のランダムかつ単純な振る舞いが、改札を割り振り「スムーズな通行」と言う全体における安定した秩序を生む。これが創発現象です。

 創発で重要な点は、集団を支配するリーダーが存在しないこと。結果的に出口になった自動改札から最初に出た人は、「この改札口をみんなの出口にしよう」などとは考えていません。
 
 私はこの概念は確かに「私の自由意思って一体・・・」と落ち込む概念だとは思いますが、それ以上に不思議で面白くワクワクする概念だと思っています。

 意思があるものも無いものも、命あるものもないものも・・・小さなカオスが大きなコスモスを形成する。ロマンチックな話だと私は思います。
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