『青春アタック』脚本㊻最終兵器

ベンチに控える狩野と海野。
狩野「海野さん・・・ごめんね・・・
結局わたしは・・・大事な時にいつも大切な人を守れず・・・傷つけてしまう・・・血塗られた死神よ・・・」
海野「そんなことない・・・私・・・高校生活の最後にレイちゃんとバレーができて幸せだったよ。」
狩野「・・・海野さん・・・足のない私を・・・好きでいてくれる・・・?」
海野「もちろんだよ・・・これからも・・・ずっと一緒にいようね。
レイちゃんは・・・私が守るから。」

山村「・・・で、誰が代わりに鮎原姉妹と戦うんだ・・・?」
華白崎「わたしは無理です・・・足の骨が折れているのでね・・・」
乙奈「わたくしも、あの方たちを相手にできる自信がありませんわ・・・」
気まずそうなブーちゃん。
乙奈「あと、ブーちゃんはこの前、数年ぶりに狩野さんに孔雀拳の奥義を繰り出したことで、ひざをやったみたいですわ・・・」
後ろでずっと手を挙げているが、誰にも気づいてもらえない小早川。
山村「となると・・・」
さくら「この状況でも顔色一つ変えないメンタルお化けと、超ド級のアタッカーが残っているでしょ・・・」
花原「え・・・あたしたち!?」
ちおり「わーい!砂遊びだ~!」
花原「いや・・・ちょっと・・・こいつはともかく、私はビーチバレーは勘弁して欲しい・・・」
乙奈「・・・まさかの出場拒否ですわ・・・!」
山村「あんたの大好物の金がかかってるんだぞ・・・!」
花原「で・・・でも・・・私・・・スタイルに自信がないし・・・
これ・・・全国ネットで放送されてるんでしょ・・・?」
大此木「この期に及んで、とんでもないこと言ってやがる・・・!」
乙奈「ブルマ事件の再来ですわ・・・!」
スレンダーな小早川「花原先輩・・・自分に自信を持ってください・・・!
私たちの中で一番胸が大きいのは先輩です・・・!
貧乳の私にとって、先輩のおっぱいは憧れでした・・・」
乙奈「かずさちゃん、その励ましは焼け石に水ですわ・・・」
花原「なんか、一人だけ性的な目で見てる後輩がいるよ・・・怖い・・・!」
花原の前に狩野がひざまずく。
狩野「花原さん・・・すべては私のせい・・・お願いします・・・
海野さんを助けてあげて・・・!」
海野「私からもお願い・・・!鮎原姉妹と互角の戦いができるのは、いまや天才の花原さんだけなの・・・!」
2人が土下座しても煮え切らない花原「う~ん・・・悩むなあ・・・」
大此木「こいつ・・・ぶん殴ってやる・・・」
山村「気持ちは分かるがよすのだ・・・マスコミのカメラが回っている・・・!」
そんな騒動のあいだに、その場で水着に着替え終えてしまったちおり「あたしは準備OKです!」
幼児用のワンピース水着を着て、腰に手をやっている。
花原「あんた・・・この場でパンツ脱いだって言うの・・・!?」
ちおり「花原さんも早く!」
花原「絶対いや・・・!」
さくら「誰が水着になれといったの・・・?ビーチバレーに服装の規定はない・・・
学生服でやりたいならやればいい・・・」
海野「いいんですか・・・?」
さくら「セーラー服にゼッケンつければ。」
華白崎「すごい動きづらそうですけど・・・」
乙奈「どうですか、そのへんで妥協しませんか?」
花原「わ・・・わかったわよ・・・でもミニスカートの下にスパッツは履かせてよね・・・」
そう言うと、スニーカーとルーズソックスを脱ぎ出す。

実況「白亜高校は、海野・狩野両選手が負傷のため、ペアが変更となります!!」
スクールファイター「サブスティチュエーション!生原・花原ペア入場!!」
ちおり「わ~い!」
花原「お・・・お手柔らかに・・・」

咲「狩野さんと変わって、今度はメチャクチャちっちゃいのが入ったわよ・・・」
幹「高校生・・・なんだよね・・・?・・・ビーチバレーに身長は関係ないとは言え・・・あの身長ではブロックは不可能ね・・・」
咲「もうひとりは結構大きいなあ・・・私たちくらいじゃない?」
幹「なんでセーラー服なんだろう・・・まあいいか。」
芝「・・・油断しないほうがいい・・・さくらは結局仮病だったわけだし・・・
きっとこれもあの子の罠よ・・・」
咲「芝さん・・・向こうの監督となんか確執があったんですか・・・?」
芝「・・・え?」
幹「気になる。」
芝「・・・全日本時代のチームメイトだったのよ・・・スポーツマンシップなんて母親のお腹に忘れてきたような、ずる賢い選手でね・・・チームの悪性腫瘍と呼ばれていたわ・・・」
幹「・・・そこまで卑怯なことしてたかな・・・?」
咲「う・・・うん・・・」
芝「あの長身のセーラー服の子を、私たちにぶつけてきたのが証拠よ。」
幹「あのコギャルは一体誰なんです・・・?」
芝「私の娘よ。」



1985年――女子バレー世界大会、日本対ソ連戦
さくら「なんだとこのやろう・・・!」
監督の破門戸を突き飛ばし、彼が座っていたパイプ椅子を掴むと、ソ連側のコートに殴りかかっていくさくら。
破門戸「特選隊のみなさん・・・さくらさんを止めるのです・・・!」
ソ連選手と乱闘するさくらを止めようとする日本代表。
つよめ「まったく星野仙一じゃないんだから・・・!」
有葉「よしなよ、さくらちゃん・・・酒くさっ・・・!」
パイプ椅子を振り回すさくらに何やら罵倒の言葉をロシア語で浴びせるソ連代表。
狩野紗耶「チームメイトを侮辱されて引き下がれないわ・・・!
私は祖国を捨てる・・・!死にたいやつから前へ出なさい・・・!」
寺島「うわ!こっちも始まった・・・!」
芝「みんな・・・バレーボールをやろうよ・・・!」
誰も芝の言葉など耳に入っていない。
血まみれのソ連選手が芝の足元に吹っ飛んでくる。
芝「このチームはもうおわりだ・・・」

――小学生の頃からバレーボール一筋で、高校に進学せずにプロ入りした私を採用する企業など、どこにもなかった・・・
でも私には大切な一人娘がいたから・・・どんな仕事でもやるしかなかった・・・

高級料亭で特権階級にエッチなサービスをする仕事をしている芝。
三つ指をついて客を出迎える花魁姿の芝。
中年男性「・・・またこの店に戻ってきたのだな・・・」
芝「・・・あなたは・・・花原議員・・・」
中年男性「仕事がないなら・・・世話してやるぞ。」

ホテルのスイート
ベッドに入っている花原議員と芝。
花原議員「・・・娘は元気かね。」
芝「・・・はい・・・」
花原議員「いくつになった・・・?」
芝「5歳になりました・・・」
花原議員「そうか・・・きっと君に似て賢いのだろう・・・」
芝「わたしは中卒ですよ・・・」
花原議員「しかし、バレーボールを選ばなければ、どんな高校でもいけただろう・・・?」
芝「わたし・・・進路を失敗したのかも・・・」
花原議員「実は・・・我が党で、あるプロジェクトが水面下で進行中でね・・・
物品税の対象を全消費財に拡大させる大型間接税を導入したいのだ・・・」
芝「また、私に知恵を貸してほしいんですか・・・?」
花原議員「今後必ずやってくる高齢化社会の財源がどうしても必要なのだ・・・」
芝「それなら法人税を引き下げなきゃいいんですよ。」
花原議員「ははは・・・まいったな・・・」
芝「その代替案なんでしょう・・・?そんなものを導入したら、選挙で惨敗ですよ・・・」
花原議員「政府税調も同じ見方をしている・・・問題は国民の反発なのだ・・・」
芝「一般庶民からこれ以上金をむしり取るのは、やめたほうがいいです・・・農民は生かさず殺さず・・・」
花原議員「きみはかつて、動物行動学で論文を出していたな・・・気性の荒い家畜を従順にさせる神経系の誘引ガス、チオペンタールの研究を・・・」
芝「実家が牧場でしたから・・・」
立ち上がってYシャツを着ると、ベッドの上に札束を置く花原議員。
花原議員「前金で500万やる。そのガスを人間用に改造してくれないか。」
芝「・・・頭がおかしいんじゃないの・・・?」
花原議員「完成したら、1億上乗せ。我が党はなんとしても、大型間接税を導入しなければならない・・・未来の日本のために・・・」
芝「今の金持ち連中のためにでしょ・・・神経系ガスで国民の判断能力を奪うなんて許されない・・・!」
花原議員「めぐなには毎日何を食べさせているんだ・・・?」
芝「う・・・」
花原議員「この住所に行くといい。名前もない研究施設だ。設備もスタッフも君が自由に使え。
試作品が完成したら、私に連絡するんだ。
まずは、党の意向に歯向う愚かな官僚どもに実験をする。
それでは、めぐなによろしく。」
部屋から出ていく花原議員。

――消費税導入を実現した花原龍太郎は、戦後最年少で総理大臣になった・・・
そして、消費税の更なる税率アップを目論み・・・彼らはとうとう悪魔の所業を実行した・・・

1995年――地下鉄千代田線
黒髪の小さな少女が家族と地下鉄に乗っている。
アナウンス「次は~霞ヶ関~霞ヶ関~」
黒服の男がボストンバッグを地下鉄車内に置いてドアから出て行くのに気づく少女。
少女「あれ?」
ボストンバッグを手に取り、男の方に声をかける少女。
「おじさ~ん!忘れ物だよ・・・!ドアしまっちゃうよ~!!」
少女に振り返る男「それはね・・・チオペンタールって言うんだ・・・」
少女「ちお・・・?」
その瞬間、バッグが破裂しガスが車内に充満する。
悲鳴を上げる乗客。



花原のボロアパート
東京消防庁の化学機動隊が地下鉄を除染するニュース映像にショックを受ける芝「・・・・・・!」
コーンフレークを食べながら花原「へ~私以外にも爆弾を作る奴がいるのね・・・」
すると、花原の頬をひっぱたく芝。
涙を流す芝。
花原「ご・・・ごめんなさい・・・」



地下鉄チオペンタール事件原告団
華白崎弁護士「これは政府の陰謀です!!
一部の心ある官僚は、今回の消費税率の引き上げに反対していた・・・!
日本政府は彼らの通勤時間帯を狙って口封じをしたんだ・・・!
なにが、官から民へだ!そんなものは詭弁だ!!」

――唯一、この事件の黒幕を日本政府であると断定していた人権派の華白崎和也弁護士は、脅迫電話に毎日脅され、精神が衰弱した奥さんとは離婚・・・家庭は崩壊したという・・・



警視庁の記者会見
八重警視正「え~捜査の結果・・・事件と自由民政党を結びつける証拠は一切見つかりませんでした・・・
しかし千葉県の某化学プラントが、今回の事件に使われた毒ガスを製造していたことがわかりました・・・プラントの職員には事情を確認し・・・」
記者「そんな手ぬるい捜査でいいんですか!!これは世界初の化学テロですよ!
その施設を公表し、職員には罪を償わせるべきです!」
八重警視正「し・・・しかし・・・彼らが事件の実行犯であることに確証がないので・・・警視庁としては慎重に捜査を・・・」
記者のブーイングがすごい。



豊臣自動車本社
豊臣藤吉郎「姉ちゃんのことは花原からだいたい聞いてるよ・・・災難だったな・・・
オイラにできることがあるならなんでも言ってくれ・・・
お笑いウルトラクイズで死者が出たら、その責任を取るのは番組スタッフじゃねえ・・・
企画したオイラだ。」
芝「ありがとうございます・・・」
豊臣「話は変わるんだけど、実はさ・・・オイラの孫娘がバレーボールをしててさ・・・」



鮎原咲「あの日本代表の芝さんに監督になってもらえるなんて幸せ・・・!」
鮎原幹「ホントホント!・・・サインください・・・2枚ね。」



さくら「あんたがやったことは無差別テロだ・・・
私はどうしょうもないクズ人間だけど、医者の端くれ・・・
あんたみたいな人殺しは嫌いでね・・・」



芝(そう・・・私は人殺し・・・だから、めぐなには絶対に会えない・・・)

『青春アタック』脚本㊺背水之陣

サービスエリアに入る海野。
狩野「海野さんナイスサーブ!」
海野「うん・・・!」
相手コートに強力なジャンプサーブを打つ海野。
レシーブする咲の顔が歪む「あたた・・・!」
トスする幹「咲ちゃん・・・!」
アタックをする咲「だ・・・だいじょうぶ!」
スパイクは海野を狙ってくる。
レシーブする海野。
芝「そう・・・海野さんにレシーブをさせ続ければ、殺人スパイクは封じられる・・・」

スクールファイター「コートチェンジ!」
実況「聖ペンシルヴァニア4点対白亜高校3点で合計7点になりましたので、コートが交換されます・・・!」
ベンチに戻ってくる選手たち。
さくら「あの鮎原姉妹相手によくやった・・・!」
山村がスポーツドリンクを配る。
海野「はあはあ・・・あっちのコートは眩しかった・・・」
乙奈「それなら、これを差し上げますわ。アイドル時代に使っていた偏光グラスです。」
海野「いいの・・・?」
乙奈「はい。わたくしにはもう素性を隠す必要はないので・・・」
サングラスを受け取る海野「ありがとう・・・大切に使うね!」
ちおり「ねえねえ!
あの地面に埋まっちゃうスパイクって体育館でやったらどうなるの・・・?」
狩野「体育館の床は、人体よりも硬い・・・私から言えるのはそれだけです・・・」
花原「いやいや・・・グロイから・・・」
大此木「本当に死ぬじゃねえか・・・」
気象観測をする4組女子
「花原さん・・・これから、こちら側のコートを風上に強い海陸風が吹きます。」
女子が付けていたヘッドセットを受け取ってコンソールをいじる花原
「ちょっと見せて。
ということは・・・相手は強い向かい風で戦うのね・・・海野さん、これはチャンスよ。」
華白崎「ええ・・・監督。ビーチバレーはポジションはないんですよね?
つまり、相手がサーブをしたら・・・」
さくら「あなたたちの好きにやりな。」
海野「どういうこと・・・?」
華白崎「・・・殺人スパイクが打ち放題です・・・」

鮎原姉妹側のベンチ。
咲の腕にコールドスプレーをかける芝「・・・だいじょうぶ・・・?」
咲「なんか、どんどん色が変わっていくなあ・・・」
幹「無理だけはしないでよ・・・咲ちゃん・・・」
咲「無理をしているのは、私だけじゃない・・・」
芝「・・・え?」
幹「そうね・・・あの狩野さんって子・・・かすかにだけど、片脚をかばっている・・・
過去に大きな故障をしたんじゃない・・・?」
咲「こんどはこっちが向かい風・・・相手はこの有利な立場を利用するはず・・・」
芝「・・・トラップを仕掛けるのね。」
幹「表現が良くないなあ・・・ティラノサウルスと素手で戦う奴はいないでしょう?」

スクールファイター「ゲーム再開!ファイッ!!」
サービスエリアに入る咲。
咲「風が強くなってきた・・・ついてないわね・・・」

サーブレシーブ体制に入る海野
海野(この風では、いくら咲ちゃんでもサーブの球速は出ない・・・)
前衛の狩野がサインを送って、後ろの海野に目をやる。
頷く海野。
海野(華白崎さんの作戦・・・可能かもしれない・・・)

幹「あまり露骨に打たないように・・・」
咲「わかってますよ・・・!」
海野に向けて無回転フローターサーブを打つ咲。
向かい風でボールに勢いがない。

海野「いまだ・・・!」
すると、海野が前衛に出て、狩野が後衛に下がる。
狩野が咲のサーブをレシーブする。
海野「間に合った・・・!」
狩野に十字トスをする海野。

芝「気をつけて!殺人スパイクよ!!」

強力な殺人スパイクをはなつ狩野。
彼女のアタックに、鮎原姉妹はレシーブすることを諦め、その威力を呆然と見つめている。
砂地に埋まってしまうボール。
幹「はあはあ・・・怖かった・・・まるで隕石ね・・・」
咲「でしょ・・・?どんまい、どんまい!海野さんが十字トスをしたら、もうそのラリーは捨てよう!」
幹「ええ・・・腕を骨折するよかマシよ・・・コントローラーまだ握りたいもん・・・」
実況「なんてことだ!狩野選手の殺人スパイクに鮎原姉妹は手も足も出ない!」

花原「よっしゃあ!作戦成功!!」
華白崎「花原さん・・・この海風はどれくらい続きそうですか・・・?」
花原「この気圧配置だと・・・少なくともあと10分は・・・」
華白崎「ならば、10分のうちに、こちらのコートで7点を取ってしまいましょう・・・!」
海野「レイちゃん・・・いける?」
狩野「もちろん・・・」

気象条件に助けられて、次々に殺人スパイクを決めていく白亜高校。
鮎原姉妹は、殺人スパイクを見ていることしかできない。
スクールファイター「コートチェンジ!二回目!!」
実況「なんてことだ!殺人スパイクの猛攻で白亜高校が7連続ポイント!!
鮎原姉妹を大きく引き離した~!大番狂わせです!!」
観客「・・・なんか、あれってずるくね?」
観客「ああ・・・チート技すぎるだろ・・・」

華白崎「もしかして・・・この世論の形成が相手の策略・・・?」
花原「だとしたら、相手は私たちを甘く見ているわね。
こんなもん泥水すすって生きてきた私たちには屁でもないわよ・・・」

コートを移動する鮎原姉妹。
咲「どうする・・・?そろそろ・・・」
幹「いや・・・まだ早いわ・・・機を誤ったら、もう二度と仕留められない・・・」
咲「まだ慌てる時間じゃないってことね・・・」
幹「それより・・・できそう・・・?」
ニヤリとする咲「コンビネーション技は双子キャラの得意分野でしょう?」



コートが変わっても白亜高校の快進撃は続く。
乙奈からもらった偏光サングラスのおかげで、鮎原姉妹のビキニが反射してもボールを返せる海野。
芝「・・・誰よ、あんなサングラスを渡したのは・・・」
狩野の殺人スパイクをレシーブせずに見つめる鮎原姉妹。
スコアボートは「聖ペンシルヴァニア7―白亜14」となり、テクニカルタイムアウトになる。
スクールファイター「テクニカルタイムアウト&コートチェンジ3回目!!」

さすがに違和感を感じる白亜高陣営。
鶴橋「あの鮎原姉妹がダブルスコアで負けてる・・・?」
スバル「どう思う・・・りかぜちゃん。」
りかぜ「ええ・・・分析している。」
有葉「あの殺人スパイクを?分析したところでレシーブできるんですか?」
シマダ「前脚がへし折れちゃいます・・・」
アライ「骨が太いお前ならいけるんじゃねえの?」
首を振るクマガイ。
オジカ「あの殺人スパイクを攻略できるのなら1セット落とすのは安いものなんだろ・・・」
アライ「攻略できるのならな・・・」
オジカ「ならば、ヒントをやろう・・・
お前は必殺のアタックカウンターを1ゲームでいくら繰り返せるんだ?」
アライ「・・・まさか・・・」
葛城(・・・なんでこの動物たち、普通に会話してるの・・・?)



スコアボードは「聖ペンシルヴァニア12―白亜20」となり、とうとう白亜高校のマッチポイントになる。
海野「よし・・・マッチポイントだ!このまま1セットとっちゃおう!」
狩野「ええ・・・!」

花原「・・・なんか向こうさ、勝負を投げちゃった感じがしない?」
小早川「え?ええ・・・」
乙奈「咲さんの腕のミミズ腫れが痛々しいですわ・・・」
山村「とっくに、相手は限界だったのかもな・・・」
華白崎「そうだといいのですが・・・」
大此木「それはどうかな・・・
あの鮎原姉妹があっさりセットを落とすはずがねえ・・・」
スクールファイター「勝負あった!第一セット・・・勝者白亜高校!!」
ちおり「あっさり落としたよ。」
大此木「・・・・・・。」
花原「おっしゃ~!」



セット間のタイムアウト
聖ペンシルヴァニア陣営。
咲「あたた・・・まあ、健闘したほうでしょ・・・」
幹「ナイスファイト、咲ちゃん。
・・・で、第一セットに殺人スパイクは何度打った?」
カウンターを見せる芝「13回。」
幹「もう十分ね・・・やってみるか。シミュレーションはもうばっちり?」
咲「うん・・・でも、気をつけてよ、幹姉まで腕をやられたら・・・」
幹「こういうのはね、覚えゲーなのよ。13回もリプレイすれば、どんな弾幕も対処できるわ。」

白亜高校陣営
花原「狩野さん、本当にうちに加入してくれてありがとう!
あんたのおかげでドリームジャンボ12億に王手よ!」
狩野「それは光栄です・・・」
興奮して狩野に抱きつく花原「ポーリュシュカポーレ!」
狩野「ちょ、ちょっと重い・・・!」
その時、バランスを崩して倒れかける狩野。
花原「あっ、ご・・・ごめんなさい!」
桃源楼のチャーハンをブーちゃんと食べながらちおり「本当に余計なことするよね!」
花原「なによ、謝ったじゃない・・・」
狩野「優勝したらハグしてください・・・」
乙奈「海野さん、そのサングラス似合っていますわ。」
海野「これのおかげで絶好調。このまま優勝するね。
レイちゃんと私は一心同体だから・・・」
狩野「海野さん・・・」
手を握り合う海野と狩野。

華白崎「監督・・・第二セットの作戦は・・・?」
さくら「・・・・・・」
華白崎「監督?」
さくら「・・・・・・?あ、ああ・・・そうね・・・日焼けに注意して頑張って。」
山村「・・・それだけか?」
さくら「え~と、ポロリにもくれぐれも気をつけて・・・」
海野「先生・・・わたしたちスクール水着なんで、多分ポロリはしません・・・」
ちおり「・・・というか、さっき寝てたよね?」
さくら「ばっ・・・なに言ってんのよ~ちおりん・・・
生徒の大事な決勝戦で寝おちするわけないじゃない、やだなあ。」
華白崎「昨夜は何本缶チューハイをあけたんです?」
さくら「そういうことは教師の守秘義務に当たるんで教えられないわ・・・」
華白崎「なんの守秘義務ですか・・・」

その様子を遠くから見つめる芝。
芝(さくら・・・もしかして本当に体調が悪いのでは・・・いや・・・
それすら罠かも・・・わ・・・わからない・・・!)

スクールファイター「それでは第二セットをはじめる!両者前へ!!」

サービスエリアに入る咲(この一発勝負の攻略法が失敗したら、私たちはもう終わり・・・
いや・・・終わりって何?むしろ、始まりじゃない・・・
私たち姉妹を閉じこめた、がんじがらめの鳥かごからの・・・)
後ろを振り向いて妹を見つめる幹(・・・あなたならやれる・・・あなたの二つ名は・・・ランサー・・・!
一撃必殺の突きをするのよ・・・!)
咲がジャンプサーブを狩野に繰り出す。

大此木「海野ではなく狩野を狙った・・・!?」
花原「これで殺人スパイク確定よ!」

狩野が飛び込みレシーブで海野にボールを上げると、海野が手をクロスさせて十字トスの体勢に入る。
海野「レイちゃん・・・!」
飛び上がって、強力無比な必殺アタックをぶちかます狩野。
その殺人スパイクをなんとオーバーハンドパスで受けようとする咲。

大此木「な・・・なんだって~~!!」
山村「いや・・・前頭骨は人間の骨でも強度が高い・・・!」

咲は額を使って殺人スパイクを受けて、無理にレシーブをあげようとせず、スパイクの威力を減衰させて、後ろに控えた姉にボールを送る。
咲「ぐええええ!砲弾を頭突きしたようよ・・・!幹ねえお願い・・・!」
それでも、強力な剛速球が幹に襲いかかる。
幹「見てなよ・・・これがあたしたちの・・・」
幹が渾身のレシーブで綺麗に咲にトスを上げてしまう。
幹「ツインレシーブよ!!」

海野「そんな・・・!殺人スパイクをレシーブした・・・!!!」
ショックを受ける狩野「・・・!」

幹の渾身のトスを受けて、咲が前方に低く飛び、全身の体重を乗せたフェンシングの突きのようなスパイクを打つ。
咲「もらった・・・クードロア!!」
大此木「なんだ、あの低いアタックは!」

狩野「しまった・・・!」
レーザービームのような弾道はネットをかすめて、狩野の脚に勢いよくぶち当たる。
すると、狩野の脚は真っ二つになり、ひきちぎれた狩野の脚が空中に飛んで、海野の顔面に激突してしまう。
粉々になる海野のサングラス。海野の顔から血が吹き出す。
砂場に崩れ落ちる片脚の狩野。

花原「・・・!そんな・・・!!」
会場から悲鳴が上がる。
手を振るスクールファイター「ドクターストーップ!!」

青ざめる鮎原姉妹。
幹「咲ちゃん・・・誰もそこまでやれとは・・・」
咲「うそでしょ・・・バレーボールで人体破壊なんてできるわけが・・・」
幹「・・・あの子が片足をかばっていたのは気づいたけど・・・義足だったんだ・・・」



車椅子を飛び降りて、海野の手当をするさくら「マッスルくん!消毒液・・・!」
救急箱を開ける山村「了解!」
血まみれの海野の顔面にライトを当てるさくら「海野さん・・・目はどう?痛い?」
海野「うう・・・眉を切っただけです・・・多分だいじょうぶ・・・」
ピンセットで顔に刺さったガラスやプラスチックを引き抜くさくら。
さくら「はあはあ・・・こんなことになるなんて・・・!」
海野にぶつかり、木っ端微塵になった狩野の義足。
狩野「ご・・・ごめんなさい・・・義足のこと・・・みんなに言えば・・・」
さくら「そんなこといいって・・・狩野さんは怪我はない?」
頷く狩野。
涙目になるさくら「本当にごめん・・・みんなあたしのせいだ・・・
可愛い生徒をこんなに傷つけるなんて・・・ごめん・・・」
花原「さくら先生・・・落ち着いてください・・・らしくないですよ・・・」
ちおり「うん、スパイクがあたって脚がちぎれるなんて誰も予測できないもん。」
さくら「はあはあ・・・」
さくらの背中に優しく手を置く芝「さくらちゃん・・・深呼吸・・・」
さくら「・・・芝先輩・・・」
芝「監督のあなたが冷静にならないでどうするの・・・生徒が不安になるわよ・・・
あと、やっぱり仮病だったのね。」
海野「先生・・・私だいじょうぶですから・・・」
咲「海野さん・・・狩野さん・・・本当にごめんね・・・!」
海野「謝る必要ないって・・・それよりも、咲ちゃんもおでこ大丈夫・・・?」
咲「全然無傷。わたしは趣味がヘッドバッドだからさ。」
幹「うそつけ。PC原人か。」
さくら「・・・もうたくさんだ・・・私・・・これ以上は・・・」
芝「あなたは何を言ってるの?試合はまだ始まったばかりよ・・・」
さくら「・・・え?」
ちおり「・・・!」
芝「希望を捨てなければきっと勝てるわ・・・」
ちおり「し・・・しろったま子さん・・・?しろったま子さんなんですか!?」
芝「・・・え?だれ??」
ちおり「あのアニメ・・・実話だったんだ!!わーいわーい!!
あたし、本物のしろったま子さんに会っちゃった~!」
はしゃぎまわるちおりを見て、思わず笑ってしまうさくら「はは・・・なんなんだか・・・」
芝「で・・・どうするの?試合の続きは・・・
ビーチバレーは登録ペアが負傷した場合に限って・・・ペアを変更することができるけど?」
海野「先生・・・続けましょう・・・わたし・・・希望を捨てたくない・・・!」
ちおり「海野さん、ちがうよ!正しいポースはこうで・・・」
右手の親指を立てて、左手を腰にやるちおり「希望を捨てなければ・・・きっと勝てるわ!!」
花原「・・・馬鹿だろコイツ・・・」

『青春アタック』脚本㊹生殺与奪

実況「事前の打ち合わせで、先攻が白亜高校、コート選択が聖ペンシルヴァニアとなっています!」
海野「レイちゃん・・・脚は大丈夫・・・?」
狩野「へいちゃらよ・・・」
サーブを打つ狩野に、海野が相手に見られないように、おしりに手を乗せてサインを出している。
頷く狩野。
花原「なにあれ?」
大此木「ハンドサインだ・・・」
花原「あんなの6人制であった?」
大此木「いっとくが、ビーチバレーはコートが若干狭いだけで、たった2人で6人分のプレーをこなさなきゃならねえ・・・つまり、相手の打ったボールを見てから反応しちゃあ間に合わねえんだ。
レシーバーがアタックするしかねえからな・・・
そこで、事前に次の動きを決めてしまう・・・」
小早川「あのダートでは、助走も加速が難しそうです・・・」
大此木「わかっているじゃねえか・・・(いったい誰だコイツは・・・?)」

狩野がボールを放り投げ、回転をかけないように優しくフローターサーブを打つ。
海野「ナイスサー!」
花原「狩野さん・・・あのガタイでサーブがめっちゃ優しいんだけど・・・」
ちおり「お腹すいてるのかな。カップヌードル買ってくる?」
乙奈「いえ・・・あれが正解だと思いますわ・・・現在、こちらのコートが風下・・・
回転をかけたら向かい風にボールが煽られてしまう・・・」

咲がレシーブする。その直後、すでに走り込んでアタックモーションに入る。
幹がトスを上げる。
アタックする咲。
壁のような狩野のブロックをかいくぐってクロス(カット)方向にスパイクを放つ。
それを予見して、すでにレシーブに入っている海野。
海野「レイちゃん!!」
狩野のトスを勢いよくアタックする海野。
それを幹がブロックし、二段攻撃で咲が相手コートに叩き落とす。
ネット際の低い攻撃に長身の狩野が苦戦する。
それを海野がリカバーする。
狩野「ごめん!」
海野「だいじょぶ!!」

実況「お互いになんというコンビネーション・・・!
天才鮎原姉妹に、海野・狩野ペアは一歩も譲らない・・・!」

ちおり「なんか・・・1.6倍速で試合を見ているみたいだね!」
花原「確かに、お互い全く息つく間がないような・・・」
乙奈「テニスのダブルスの試合のようですわ・・・」
花原「シングルスをバレーでやったカッシーはどう思う・・・?」
華白崎「これ・・・めちゃくちゃハードですよ・・・私はあれで骨を折りましたし・・・」

なかなかラリーの決着がつかない。
咲「あのコンビ仲が良すぎない・・・!?」
幹「私たちはお母さんのお腹の中からずっと一緒だったじゃない・・・!」
咲「そうだね!」
幹がかなり高いオープントスを上げる。
咲が海野の方へアタックを打とうとする。
ブロックに入り頭上を見上げる海野。
すると、咲のメタリックブルーのビキニに太陽光が反射し、一瞬だけ海野の視界が奪われる。
海野「・・・う!」
咲「もらった~~!」
クロス方向と思わせて、ストレート(ライン)方向へ渾身のアタックを決める咲。
スクールファイター「1本!!」
大歓声。
実況「最初のラリーはやはり鮎原姉妹が制しました・・・!
しかし、素人の白亜高校も予想以上のナイスファイトです!」

海野「ごめん・・・上を見すぎちゃった・・・」
狩野「こっちこそごめんね・・・カットが来ると思った・・・」
海野「さすが鮎原姉妹ね・・・本当にビーチバレー初経験なのかな・・・」

咲「いや~・・・これけっこう難しいぞ・・・!
目まぐるしくて・・・すき家で一人で働いているみたい・・・」
幹「すき家でバイトしたことあるの・・・?」
咲「ないけど・・・
まず、砂地に足を取られやすいし、ボールにエアがないから力が乗らない・・・
屋内バレーが硬式テニスだったら、こっちはソフトテニスよ・・・」
幹「かもね・・・」



次のラリーでも、鮎原姉妹が点を決める。
海野「はあはあ・・・こっち側、太陽が眩しいなあ・・・」
狩野「両チームの合計点数が7点になったらコートが変わる・・・それまで頑張ろう・・・」
海野「うん・・・!」

咲「ねえ・・・幹ねえ・・・このメタリックカラーの水着を選んだのって誰?」
幹「芝さんじゃないの?」
咲「なるほどね・・・それで、あのトスを上げたと・・・」
幹「なによ・・・今から墨汁でこのビキニを塗れって言うの?」
咲「そうは言ってないけどさ・・・いつも大人が気を使ってくれるなって・・・」
幹「応援してくれる大勢の人の期待に応えるのもプロゲーマーにとって大切なことだよ。」
咲「私はプロゲーマーじゃないし・・・」

狩野「ねえ海野さん・・・ここで負けたら、白亜高校のみなさんに申し訳が立たないわ・・・
だから・・・“あれ”を解禁していいかな・・・」
海野「え・・・?もしかして・・・」
狩野「うん・・・“ボルチンスカヤ”をやりたい・・・」
海野「でもあれは・・・肉を切らせて骨を断ち・・・」
狩野「骨を断たせて命を狙う・・・
だいじょうぶ・・・このボールのエアなら、あの子達が腕を失うことはないわ・・・」
海野「う~ん・・・」
狩野「変わらないね海野さん・・・
でも相手は本気でかかってきているのよ・・・こちらも本気で戦わないと相手に失礼よ・・・
その甘さは相手を見くびっていることと同じ。」
海野「わかった・・・相手は日本で一番バレーがうまい双子姉妹・・・やってみよう・・・!」
狩野「ええ・・・3年ぶりの殺人スパイクのお披露目よ・・・!」

白亜高校の方に声をかける芝。
芝「・・・さくらちゃん・・・ちょっと・・・」
車椅子のさくら「ごほごほ・・・」
芝「そういうのいいから。あの子・・・狩野紗耶さんの娘だよね・・・?」
さくら「らしいね。」
芝「しらじらしい・・・ということは・・・あれができるの?」
さくら「知らんよ・・・この前、破門戸のところから移籍してきたばっかりだし・・・」
芝「冗談じゃないわ・・・うちの選手に大怪我をさせるつもり・・・?」
さくら「スポーツに怪我はつきものさ・・・」

山村「向こうの監督・・・何を慌ててるんだ・・・?」
花原「さあ・・・へんなババアね・・・」



1986年ウクライナ――
原発事故で廃墟になった遊園地。
手をつなぐ母子。
狩野(6)「・・・母さん・・・今度はどこへ行くの・・・?」
母親「国境へ行くのよ・・・もうここにはいられない・・・」
狩野「日本でバレーボールはもうしないの・・・?」
母親「西側陣営への裏切り者って言われちゃったからね。」
狩野「なにそれ?あたし・・・わからない・・・」
母親「私にもわからない・・・この世界が二つに分かれて殺し合いをしている理由が・・・」
狩野「じゃあ、母さんもソ連に帰ろうよ。」
母親「それは無理。あなたはこれから一人で生きるの。
強くなりなさい・・・誰よりも。
そして・・・私が授けた力を・・・大切な人を守るためだけに使いなさい。
決して、私欲のために暴力を振るってはダメ・・・
その末路は・・・私のような惨めな死よ・・・」

これが、母さんとの最後の別れだった。
私をソ連に亡命させたあと・・・多くの政府要人を葬った母さんは蜂の巣にされたという・・・



レシーブ体制に入る狩野。
狩野(鮎原姉妹は目ざとい・・・
身長がある私のほうがレシーブが苦手なことは、すぐに気づくはず・・・
さあ・・・打ってきなさい・・・)

3点目を決めようと、サーブの準備をする幹。
サインを出す咲「ナイスサーブ!」
幹「咲ちゃん・・・わたしはあなたと違ってリアリストなの。
勝利への最短距離を狙うのが私のやり方。
ファミ通の攻略本があるなら買うし、大技林の裏技があるならやるのよ・・・」

狩野の予想通り、狩野にジャンプサーブを打ってくる幹。
飛び込みレシーブで幹の強力なサーブをレシーブする狩野。
狩野「海野さん!十字トスよ!」
すると、腕をクロスさせてトスに変化を付ける海野。
花原「なにあのトス!?」
大此木「し・・・知らん!」
すると、重い巨体を飛び上がらせて、狩野が拳を握り締め、ボールが破裂しかねないほどのフルスイングを叩き込む。
重く速い弾道を咲がとっさに拾おうとするが、ボールの威力が砲弾並みでレシーブした腕ごと砂地にめり込んでしまう。
咲「え!?」
そのまま、逆立ちしてひっくり返ってしまう咲。
咲「きゃあああああ!」
スクールファイター「勝負あった!」

咲にかけよる幹「咲ちゃん・・・!」
砂に顔が埋まっている咲「い・・・息が・・・」
足を掴んで、大根のように地面から妹を引っこ抜く幹。
咲「ごほごほ・・・!一体何が起きたの・・・!??」
幹「スクールファイター!タイムを・・・!」
頷くスクールファイター「ブレイクターイム!!」

咲に駆け寄る芝「咲ちゃん!怪我はない・・・!?」
咲「う・・・腕の骨が粉砕・・・はしてない・・・よかった・・・」
幹「でも、腕が真っ赤だよ・・・手当しないと・・・」
咲「い・・・痛い・・・」
咲の腕を見つめる芝「やっぱり・・・ボルチンスカヤ式殺人スパイクに間違いない・・・!」

実況「な・・・なんてスパイクだ・・・!
狩野選手の巨体から繰り出された垂直落下式のアタックはまるで殺人兵器です!
レシーブをした咲選手は無事でしょうか・・・!?」

花原「・・・な・・・なにあれ・・・レシーブした選手が地面にめり込んだんだけど・・・」
大此木「本で見たことがある・・・」
山村「なに?知っているのか、雷電・・・!」
大此木「俺様は雷電じゃねえが・・・
おそらくあれは、日ソ2強時代にソ連の選手が使用していたとされる、ボルチンスカヤ式殺人スパイクだろう・・・」
花原「え・・・?人が死ぬの・・・?」
大此木「選手生命という点では、確かに人は死んでいるな。
レシーブをした選手は必ず大怪我をしてしまうという必殺スパイクだ・・・
しかし、ソ連選手がドーピングをしていたことが発覚し、公式試合では禁止となったんだ・・・
俺様もこの目で見るまで、60年代の都市伝説だと思っていたがな・・・
まさか、その使い手がいたとは・・・」

芝「そのとおり・・・あのスパイクの使用は禁止されているはずよ・・・!」
さくら「あら・・・それは春高バレーのルールブックの何ページに書いてあったの・・・?」
芝「う・・・あんなの打てる高校生がいるわけないでしょう!!
こんなのスポーツじゃない・・・」
さくら「あんたの娘が言っていたわよ・・・すべてのスポーツは暴力だと。」

観客の方に呼びかける芝「観客の皆さん・・・マスコミ各社の皆さん・・・!
神聖なバレーボールの試合で、こんな暴力が許されるのでしょうか・・・!」
ドン引きする観客「た・・・たしかに・・・あれはひどい・・・」
鮎原ファン「そうだ・・・咲ちゃんを傷つけるなんて許さないぞ~!」
白亜高校にブーイングが飛ぶ。
実況「おおっと、白亜高校のラフプレーにブーイングの嵐だ~!」
海野「・・・まずい・・・」
狩野「・・・ごめん・・・やはり失敗だったかな・・・」

怒鳴る咲「うるさい!やめろ!!」
幹「咲ちゃん・・・」
立ち上がる咲「私はあなたがたの可愛いフランス人形じゃない!痛みを感じれば、怪我もする!
いい加減、私たちに純粋なバレーボールをやらせてよ・・・!」
幹「・・・怪我は大丈夫なの・・・?」
咲「いや・・・めちゃくちゃ痛いよ・・・でも、スパイクを強く打ちすぎてはいけないなんて、そんなくだらないルールはないでしょう?」
幹「そうだね・・・」
口を使って腕をテーピングする咲「・・・芝さん・・・私たちに好きにやらせてください・・・
大丈夫・・・殺人スパイクだろうが、ギロチンアタックだろうが・・・絶対に攻略法はある・・・
そうでしょう、幹姉?」
幹「ええ・・・そのひとつはもう見つけた。」
咲「さすがゲーマー・・・!」
芝「咲ちゃん・・・」
咲「約束します・・・芝さんの借金は私たちがきれいにするから。」
芝「知ってたの・・・?」
咲「もちろん・・・」



タイムが終わり、コートに入ってくる鮎原姉妹を見つめる狩野。
狩野「さすがね鮎原姉妹・・・あれを受けても、まだ立ち向かってくる・・・」
海野「そうだね・・・」
狩野「この殺人スパイクの効果は、初見で相手に大けがを負わせ、強い恐怖心を植え付けること・・・それに失敗したら・・・」
不安そうな海野「レイちゃん・・・」
微笑む狩野「心配しないで・・・海野さんは私が守る。」

幹「咲ちゃんも見たでしょ・・・あのスパイクの前にミホミホが出したトスを・・・」
咲「うん・・・十字トスって言ってた・・・」
幹「殺人スパイクは、あのトスからじゃないと繰り出せないと見たわ・・・
なら対処方法は簡単よ。」
咲「ええ・・・十字トスをさせなきゃいいだけ・・・海野さんにレシーブをさせれば、殺人スパイクは絶対に打てない・・・」
幹「とどのつまり、あれは一撃必殺技なのよ。ここで相手を殺せなければ、もう使えない。
腕は大丈夫?さあ・・・逆襲するよ。」
咲「オーケイ・・・!」

『青春アタック』脚本㊸以心伝心

春の高校バレーバトルロイヤル大会決勝戦
横浜の赤レンガ倉庫はマスコミ関係者と観客でごった返している。
実況「春の高校バレーもついに決勝戦となりました!
スケートリンクを改造して作られた、ここ、赤レンガ倉庫の特設ビーチバレーコートは、未だかつてかつてない熱気に包まれております!
優勝賞金6億円を手にするのは、絶対王者聖ペンシルヴァニア女子大学附属高校か!?
それとも、初出場の白亜高校か・・・!!?
ああっ今リムジンで鮎原姉妹が会場に到着です!!」

リムジンからコートまで赤絨毯が敷かれる。
カメラのフラッシュがたかれる。
リムジンから降りてくる、ジャージ姿の鮎原姉妹。
記者たち「相手はバレーボールの素人らしいですが、意気込みはどうですか・・・!?
バレーボールを馬鹿にされていると思いますか!?」
「来年はプロ入りするとの話ですが、日本代表入りはしないのでしょうか・・!??」
呆れる咲「どっから、そんな話が出たのよ・・・」
笑顔で手を振る幹「咲ちゃん、笑顔笑顔・・・」
記者「この試合ではストレート勝ちだと思いますが、賞金6億円は何に使いますか?」
咲「相手は曲りなりも、決勝にまで勝ち上がってきたんです・・・
私はどんな相手でも敬意を持って試合をします。」
記者「しかし、白亜高校が相手に勝利したのは2回戦のみで、あとは相手チームの棄権です!
卑怯な裏工作で勝ち上がってきただけだという意見もありますが・・・!」
咲「あの・・・いったい私はどう答えるのが正解なんですか・・・?」
マイクを奪う幹「ええとですね・・・!賞金の6億円は全額寄付します!!」
記者の喝采が起きる。
幹「もういい・・・今のうちにとっととコートに行こう!」

狩野の4WDで赤レンガ倉庫に到着する白亜高校。
助手席から海野が降りてくるが、記者は誰も振り向かない。
運転席から降りる狩野「人気がなくてよかったわ・・・人ごみは嫌いだから・・・」
海野「はは・・・レイちゃんはいつも屋上にいたもんね・・・」
若い女記者が二人に近づく。
「ちょっといいかしら?
この試合ではストレート勝ちだと思いますが、賞金の12億円は何に使いますか?」
海野「・・・つよめさん・・・!」
つよめ「こんにちは。絶対勝ってよね。白亜高校に密着取材しているのは、私の雑誌だけなんだから。」
海野「もう輪転機を回してください・・・絶対に勝ちます。」
つよめ「あなた・・・さくらに似てきたわね・・・そうこなくっちゃ!」



ほかの部員はバスで現地に向かっている。
麦わら帽子をかぶって、バスの外を眺めるちおり
「日清カップ麺博物館だって・・・!花原さん!あたし、赤レンガよりもあそこ行きたい!!」
花原「狂ってるのかお前は・・・」
華白崎「今日の優勝賞金12億円で日清カップヌードルは600万食食べられますよ・・・」
一日に3食食べたとして・・・5479年・・・」
乙奈「カップヌードルだけで生涯を閉じられますわ・・・」
ちおり「すげ~!」
ブーちゃんがつぶやく。
小早川「シーフードヌードルのクオリティは侮れないそうですよ。」
山村「あれ美味いよな。」
花原「だから、海野さんと狩野さんを全力で応援するのよ・・・」
ちおり「おっけー!」

さくら「そろそろ到着よ・・・みんな準備して頂戴な。」
華白崎「・・・監督、一体何をしているんですか・・・?」
さくら「車椅子を組み立ててんのよ。」
華白崎「私はもう松葉杖で移動できますよ・・・」
さくら「ちがう、私が使うの。」
ちおり「さくら先生どっか悪いの・・・?」
さくら「今朝、ぎっくり腰をやっちゃってね・・・」
華白崎「さっき会長と鬼ごっこしてませんでしたっけ・・・」
さくら「なんのことかしら。はい、めぐなちゃん、これ着て。」
花原に白衣を渡すさくら。
花原「私の白衣だ・・・」
さくら「歌姫、顔色悪く見えるようにメイクしてくれや。」
メイク道具を開ける乙奈「あらあら・・今度はどんな悪巧みなのかしら・・・」
呆れる花原「よくやるわ・・・」



ビーチバレーのコート
上着を脱いでコートに入る鮎原姉妹と、海野・狩野ペア。
鮎原姉妹は遮光グラスを頭に、海野たちはサンバイザーをつけている。
セクシーなビキニ姿の鮎原姉妹にカメラのシャッターがきられる。
幹「いや~ん、エッチ~」
咲「・・・あほくさ。」
幹「商売、商売・・・」

一方の海野たちは高校のスクール水着を着ている。
海野「水着を買うお金がなかった・・・」
狩野「あんなグラビアアイドルみたいなのに負けちゃダメよ、海野さん・・・」

取材陣と観客に愛想をふりまきながらも、相手を冷静に分析する幹。
幹「・・・ミホミホが出てくるのは当然だとして・・・もうひとりのあの子は誰・・・?
芝さんの見立てでは、野生のクマを吹っ飛ばした花原さんっていうアタッカーだったはず・・・
花原さんってスラブ系だったの?咲ちゃん船で会ったんだよね?」
咲「いや・・・あの人じゃなかったような・・・というか・・・あの人もどっかで・・・」
幹「しかしでかいなあ・・・180センチは超えてるわね・・・
咲ちゃんの身長はいくつ?」
咲「ねえちゃんと同じだって・・・」
幹「じゃあ170か・・・さあて面白くなってきた。」

コートサイドで敵を見つめる芝。
芝「さくらめ・・・あの子は狩野さんの娘じゃない・・・
このためだけにロシアから連れてきたっていうの・・・?」

すると、赤レンガ倉庫の上空に、輸送ヘリが飛んでくる。
風圧でバタバタと揺れる、屋台やパラソル。
輸送ヘリからひとりのジャッジマンが投下される。
ジャッジマン「は~はっは~!!」
笑いながらスカイダイビングをすると、手際よくパラシュートを開いて、砂浜に綺麗に着地する。
騒然とする観客。
咲「な・・・なんだ、あの陽気なおっさんは・・・」
ちょび髭の中年のジャッジマン「春の高校バレーバトルロイヤル大会決勝戦・・・
この勝負・・・我がスクールファイターがあずかろう!!」
実況「おおっ!全国の高校生のバトルを公平にジャッジするスクールファイターの登場だ~!
スクールファイターが主審の審判台にあがります!!」
キリッとするスクールファイター「白亜高校の監督はまだかね?」
海野「は・・・はい・・・もうすぐ到着するかと・・・」

すると、マッスル山村に車椅子を押されて、病身のさくらが現れる。
山村「砂場で車椅子を押すのは辛い・・・」
さくら「いよう・・・待たせたわね・・・ごほごほ・・・」
看護婦姿の乙奈「監督・・・落ち着いて呼吸を・・・!」
乙奈から酸素の吸引を受けるさくら「はあはあ・・・すまねえ・・・」
呆れる芝「いったい、何のマネなの・・・?」
白衣の花原「さくら先生は持病が悪化し、立つこともままならないので、急遽我々が監督代理をすることになりました・・・」
ちおり「にゃ~よろしくね!」
スクールファイター「白亜高校監督・・・大丈夫かね・・・?帰ったほうがいいのでは?」
さくら「・・・はあはあ・・・生徒の一生の晴れ舞台・・・
果たしてここで帰れるだろうか、いや、むり。」
芝「・・・こんな茶番聞いたことがないわ・・・」
花原「でも、学生でも監督はやれるんでしょう?九頭りりあが実際にやってたし・・・」
芝「そうだけど、めぐなちゃん・・・あなたに本当に指揮が取れるの・・・?」
花原「めぐなちゃんって・・・あなた随分馴れ馴れしいなあ・・・」
芝「ごめんなさい・・・」
さくら「ぜえぜえ・・・みんなありがとう・・・白亜高校は生徒みんなが監督よ・・・
みんなで優勝しようね・・・」
嘘泣きをする花原「せ・・・先生・・・!うううう・・・」
芝「さくら・・・あんた生徒に一体どんな教育を・・・
教え子を詐欺師にするつもり??」
さくら「国語・数学よりもずっと将来役に立つと思うけど。」

すると、白亜高校側の監督席に白亜高校の学生たちが集まってくる。
大此木「おい、白亜高校の生徒全員がこのチームの監督といったよな・・・?
ならば、バレーボール国体出場経験のある、この俺様を使わない手はねえだろ・・・」
海野「大此木くん・・・!来てくれたのね、嬉しい・・・!!」
各運動部の主将も集まってくる。
野球部「運動競技だったら俺たちにも力になれることがあるぞ・・・」
サッカー部「とりあえずボールは蹴っとけば、どうということはない!」
山村「いや・・・違うだろ・・・」
ビキニパンツの水泳部「ビーチならこの私のオンステージだぜ!景気づけにとりあえず泳いでくるわ!」
山村「お、おう・・・サメに気をつけてな・・・」

砂場にワゴンから機材を下ろす4組学生
「野外でのスポーツでは様々な気象条件が試合に影響を与えます。
この移動型ウェザーステーションで神風を完全に予測しますよ・・・」
花原「あんたたち・・・」

3組のアイドル「乙奈先生・・・私たちは歌って踊ることしかできないけど・・・一生懸命応援します!」
乙奈「みなさん・・・」
すると、顔の一部にやけど痕がある美少女が現れる。
「師匠・・・私を覚えていますか・・・?」
涙目になる乙奈「・・・ええ・・・そらちゃんでしょう・・・?」
そらちゃん「年末のニュースでこちらにいるのは知ってました・・・師匠にはこんなにも素晴らしい生徒さんがいるのですね・・・私も応援させてください・・・!」
乙奈「ありがとう・・・」

1組の生徒会役員「優勝賞金12億円を獲得した際、もっとも税金が安くなるような手続きを計算しました!所得税法第9条より、賞金額が50万以上になると課税対象になりますので、12億円を一度全校生徒に分割支給してもらうようにすれば、事実上の非課税となります・・・!」
華白崎「ごくろうさま・・・となるとOB、OGにも連絡をしたほうがいいわね・・・」

桃源楼夫妻「智子~!白亜高校の皆さんに昼飯を作ってきたぞ!!」
老師「わしからは、監督に勝利の美酒をもってきたぞい・・・ロマネ・コンティ64年ものじゃ・・・!」
頷くブーちゃん。

すると、砂浜に移動式動物園のバスがやって来る。
アナウンスする有葉「よい子のみんな!この横浜赤レンガ倉庫に愉快な動物たちがやってきたよ~」
すると、バスの扉を足で蹴飛ばして荒々しく飛び出してくるアライ「オラーー!!」
オジカ「アライよ・・・小さい子が泣くからやめろ・・・」
アライ「奥日光から横浜まで軟禁状態だぞ!オレはもう暴れたくてウズウズだぜ!!
てめえら、全員噛み付いてやらあ!」
アライを取り押さえるクマガイとイノセ「冗談です・・・冗談・・・!」
海野「理央ちゃん・・・!」
有葉「来ちゃった。みなさんの最後の試合を見せてあげたくて。みんなのウンチはしっかりと片付けて帰りますから。」
運転手の万石先生「今度はヒトの解説でもしようかな。
どんな動物よりも残忍で業があり・・・どんな動物よりも慈しみ深い霊長類の解説を・・・」

スバル「オフロードのスポーツならやっぱりうちだろう?」
パラソルを差すりかぜ「そうですね・・・ボス。我々が味方に付けば白亜高校は優勝です。」
葛城ユリ「海野さん・・・私たちがついてる。全国制覇をするのよ・・・あなただけじゃない・・・みんなの夢なのだから・・・」
鶴橋美羽「みなさんは、私に生きる勇気をくれた・・・がんばってください・・・!」
スバル「海野先輩、最高の全員野球をしようぜ!」
涙を拭う海野「みんな・・・ありがとう・・・」

咲「おいおい・・・どんどん向こうの監督が増えているんだけど・・・」
幹「仲のいい学校だこと・・・羨ましいわ・・・」
咲「芝さん、どうしよう・・・」
幹「もうマスコミはあたしたちのビキニに興味がないみたいよ。」
芝「船頭多くして、船山に登るですよ・・・」

さくらの車椅子の横に来る病田「作戦成功ですね・・・」
さくら「ここまで集まるとは思っていなかったけどね・・・」
羽毛田校長「すいません、私の権限で休校にしちゃったんです・・・」
京冨野「明日の卒業式の準備は済ませたからな・・・」
さくら「校長先生・・・京ちゃん・・・」
京冨野「さくらの姉ちゃんが養護教諭としてうちに赴任したとき・・・正直不安だったぜ・・・
くわえタバコで生徒の怪我の手当をしていたからな・・・」
微笑むさくら「極道に言われたかないわよ・・・」
京冨野「でも・・・あんたほど生徒に慕われる教師はいなかった・・・」
羽毛田「ええ・・・みんな先生のことが大好きなんですよ。」
さくら「やめてよ・・・」

スクールファイター「それでは、春の高校バレーバトルロイヤル大会決勝戦をはじめる!!
スクールファイト・・・レディ~~~~~GO!!!」

『青春アタック』脚本㊷頂上決戦

出盆総合病院
ノックして病室に入ってくる看護婦。
「検温しますね~」
華白崎「・・・さっきしたような・・・」
狩野「ここの外科部長の名前は?」
看護婦「・・・え?」
その直後、看護婦を殴りつけて気絶させてしまう狩野。
倒れる看護婦。
すると、看護婦からポロリと催涙弾がこぼれ落ちる。
狩野「早い・・・!つけられたか・・・!」

病室に充満するガス。
すると、ガスマスクをつけ武装した黒服たちが、煙が充満した病室に殺到してくる。
しかし、入口のところで待ち伏せしていた狩野が点滴スタンドで黒服を殴りつける。
黒服「!!」
倒した黒服から、ゴム弾のグレネードランチャーを奪うと、後続の黒服たちを次々に倒していく。
狩野「入口が狭いからって一列で来るバカがどこにいるのよ・・・」

銃撃戦の中ベッドを横倒しにして隠れている華白崎とりかぜ。
足にギプスをつけながらも、りかぜを守る華白崎「・・・ゴルゴ13って実話だったんですね・・・」
クレヨンで手紙を書くりかぜ「願わくばスバルちゃんを表彰台の一番高い場所に登らせたかった・・・
PS・・・お土産はマトリョーシカでいい・・・?できた・・・」

黒服「なぜ、催涙ガスが充満しているのに、効かないんだ・・・!」
最後の一人にランチャーを向ける狩野。
狩野「なぜって・・・催涙ガスじゃないから・・・あれは私の車にあった発炎筒・・・
総裁に伝えなさい・・・親子ゲンカがしたいならいつでも受けて立つと・・・」
黒服「こ・・・これを総裁から預かったんです・・・
でも、狩野さんは抵抗するだろうから、無力化してから渡せと・・・」
小包を差し出す黒服。
ランチャーを黒服に向けたまま狩野「あなたが開けなさい。」
黒服「は・・・はい・・・」
手紙が出てくる。
狩野「読んでくれる・・・?」
黒服「3年間本当にご苦労様でした・・・
あなたは、高体連での裏方の仕事は自分の生きがいだと言ってくれましたが・・・
大切な高校時代に大好きなバレーボールを奪ってしまったことだけが悔やまれます・・・
もう脚のリハビリは済んだのでしょう・・・
あなたには高校で一緒にバレーをする約束をしていた親友がいましたね・・・
この最後のチャンスで、あなたが輝けることを祈っています。」
狩野「・・・ほかには?」
黒服「・・・ユニフォームです・・・」
狩野が中学時代に着ていたユニフォームが出てくる。
微笑む狩野「催涙ガスをまいて泣かせてから、はなむけの言葉を送るなんて・・・総裁らしいや・・・」



高体連本部ビル会議室
高級そうなテーブルに向かい合って座る、白亜高監督のさくらと、聖ペンシルヴァニア監督の芝。
破門戸「・・・この度は決勝進出まことにおめでとうございます・・・
参加した全国1350校の頂点がいよいよ来週決まりますが・・・
お二人をお呼びしたのはほかでもない・・・試合形式の確定です・・・
なにしろ、巨額の優勝賞金がかかっているので・・・運営側としてもトラブルは避けたいのですよ。
私としては、スタンダードな6人制バレーをお勧めしますが・・・」
さくら「私は芝先生に従うわ・・・」
芝「・・・さくらちゃんも年長者を立てられるようになったのね・・・
なんて思うわけないでしょう。何を企んでいるのかしら・・・」
さくら「いやだなあ先輩・・・」
芝「明日香ちゃんに聞いたよ・・・あなたは13年前とまったく変わってなかったって・・・
金をばら撒いて、うちのチームに強豪校を次々にぶつけてくれてありがとう・・・
おかげさまでこっちのチームはボロボロよ・・・私が何をしたって言うの・・・?」
さくら「・・・無差別テロだろ・・・
私はどうしょうもないクズ人間だって自覚はあるけど医者の端くれ・・・
あんたみたいな人殺しは嫌いでね・・・
鮎原姉妹を勝たせまくって、いったいいくら稼いだんです?
10億円の損害賠償請求は被害者に払えそうですか・・・?」
芝「・・・相変わらず面白いことを言う・・・そろそろバレーの話をしない?」
さくら「ええ・・・だから私はどんな形式でもけっこう・・・勝つのは白亜高校だから。」
破門戸「くっくっく・・・このやりとり・・・非常に懐かしい・・・
監督の私をないがしろにしているのも13年前と全く一緒だ・・・
では、聖ペンシルヴァニア大附属の芝監督の意向に全面的に従うということで、吹雪監督はよろしいでしょうか・・・?」
さくら「けっこう。」
芝「ひとつだけ言っておくけど・・・私の人生を狂わせたのは、未成年のあなたが酔っ払って相手選手を殴ったからよ。あれさえなければ、私はバレーボールを続けられたし、家族を失うこともなかった。」
さくら「はいはい・・・全部私のせいですよ・・・」
立ち上がる芝「負けたらソープランドにはあなただけが行きなさい。」
部屋から出ていく芝。

紅茶をすする破門戸「・・・昔はあんなに仲が良かったのに・・・さみしいですね・・・」
さくら「そういや、あんたの用心棒はどうしたの・・・?」
破門戸「ちょっと喧嘩しちゃいましてね・・・彼女は退職しました。」
さくら「監督・・・予定空いてる?よかったら一緒に飲まない?」
破門戸「・・・喜んで。」



屋台のおでん屋で日本酒を酌み交わすさくらと破門戸。
破門戸「あの時・・・読売ジャイアンツの監督の気持ちがわかりましたよ・・・優秀な選手を集めても集団競技はうまくいかないと・・・」
さくら「・・・ちょっと言いすぎちゃったかな・・・最近歳のせいかイライラしちゃってね・・・」
破門戸「ほほほ・・・あなたは昔から短気でしたよ・・・でも・・・誰よりも優しかった・・・」
さくら「うちのチームの悪性腫瘍とか言ってなかった・・・?」
破門戸「それは事実です。ただ・・・あの時、あなたが日本に帰化した狩野さんをかばって、ソ連の選手を殴ったとき、私も心の中で拍手してましてね・・・
まあ、あんなことは酒でも飲まないとできません。」
酒を注いでやるさくら「迷惑かけたね・・・監督。」
破門戸「・・・吹雪さん・・・ひとつ尋ねてもよろしいかな・・・」
さくら「・・・うん。」
破門戸「・・・なぜバレーボールの監督を引き受けたんです・・・?
あなたの性格上、二度とこの世界には戻ってこないと思っていた・・・
もしかして・・・」
微笑むさくら「・・・さすが監督。
でも、このことは内緒にしてくれないかな・・・一生のお願い・・・」
破門戸「・・・・・・。」
さくら「・・・でも・・・あの子達じゃなかったら引き受けなかったと思うな。
あの子達が・・・私を変えてくれたの・・・」
破門戸「あなたは選手に恵まれましたね・・・」
微笑むさくら「監督と違ってね。
あともう一つお願いがあるんだけどさ。」
破門戸「一生のお願いをさっき聞いた気がするのですが・・・まあ、いいでしょう・・・」
さくら「うちにさ、花原さんって女の子がいるのよ・・・
失踪した親の借金を返そうと必死に頑張っている子がさ・・・」
破門戸「花原・・・まさか・・・」
さくら「そう・・・万が一、そうだったら・・・傷つけてしまうかもしれない・・・
花原さんも・・・そして・・・あの人も・・・」
破門戸「お気持ちはわかりますが・・・隠し続けるのは不可能かと・・・」
さくら「・・・・・・そっか。」
破門戸「とはいえ、あなたの最後の頼みだ。
よろしい。高体連として出来る限りの忖度はいたしましょう。」
さくら「ありがとう監督・・・
ほんでさ、もし・・・あの子らが・・・このままプロになったらさ監督が・・・」
破門戸「くくく・・・何個わたしにお願いするんですか・・・ささ・・・」
さくらに酒を酌む破門戸。
さくら「オヤジ、熱燗もう一本つけて。今日の酒はいつもよりも美味いや。」



白亜高校の保健室。
自分に点滴をしているさくら。
高体連から届いた書類を手に取る。
さくら「・・・ビーチバレーと来たか・・・」



体育館
海野「決勝戦はビーチバレーなんですか!!??」
花原「・・・なにそれ?」
小早川「やっぱり砂浜でやるんでしょうか・・・」
ちおり「わーい!たのしそー!」
乙奈「水着でやるんですか・・・?わたくし恥ずかしいわ・・・」
山村「アメリカ西海岸でウェーイなサーファー連中がやってそうな茶番だな・・・」
さくら「マッスル、そういう偏見よくない。
3年前のアトランタ五輪では正式種目にも採用された、れっきとした競技よ。」
花原「海野さんやったことある・・・?」
海野「中学時代に神戸の海水浴場でレイちゃんとやったことがあるけど・・・」
さくら「確か大人相手に優勝したんだよね。ルールは覚えてる?」
海野「ええ・・・試合は2人ひと組で、2セット先取のラリーポイント制・・・」
さくら「それに足場が砂だし、ボールのエアがゆるいから、かなり勝手が違うのよね。」
花原「2人だけでバレーをするの?むずくね?」
ちおり「華白崎さんはロボットとシングルスでラリーしてたけどね!」
花原「じゃあできないことはないのか・・・でも、そうなると誰が出るの?」
さくら「できれば経験者がもうひとりほしいところねえ・・・」

体育館に入ってくる松葉杖の華白崎
華白崎「ここにいますよ・・・」
花原「カッシー!退院できたの?」
華白崎「というか・・・病院を強襲されて出て行かざるを得なくなったというのが正確でしょうか・・・」
ちおり「ちょっと何言ってるかわからない。」
海野「でも華白崎さんがビーチバレー経験者だなんて知らなかった・・・!足は大丈夫なの?」
華白崎「いえ・・・私ではなく・・・」
体育館に狩野が入ってくる「・・・おじゃまします・・・」
海野「レイちゃん・・・!!」
花原「で・・・でも、あんたは高体連のスタッフだから試合に参加できないんじゃないの?」
華白崎「・・・やめたそうですよ・・・」
狩野「・・・あの時の約束・・・覚えてる・・・?」
海野「う・・・うん・・・」
花原「感動に水を差すようで悪いんだけど・・・
ここに来てあのフリーザの部下がうちのチームに加入してくるのはめちゃくちゃ怪しくない・・・?」
山村「確かに、あのフリーザならスパイを送りかねんな。」
狩野「そう思われても仕方がないですよね・・・
でも選手としての参加は認められなくても・・・みなさんにビーチバレーを教えることはできます・・・」
さくら「私は狩野さんがうちに入ろうが構わないよ。あとはみんなで決めなさい。
スパイだと思うなら、塩を撒いて茨城県に送り返せばいいし。」
華白崎「海野部長。あなたが決めてください。
ただ・・・ひとつだけ言えるのは、網野りかぜさんを高体連から命懸けで守ってくれたのは、狩野さんだということです・・・」
海野「みんなは・・・どう思うの・・・?」
ちおり「私はレイちゃんとビーチバレーしたい!キリンさんみたいにでかいし!」
乙奈「わたくしも異論はありませんわ・・・海野さんの親友はわたくしの親友です。」
花原「・・・山村・・・あんたはどう思うの?」
山村「う~む・・・いい人ではあるとは思うのだが・・・溢れんばかりの殺気がたいへん気になる・・・
ブー師匠はどう思う?」
すると、ブーちゃんが突然ノールックで狩野に孔雀拳の脚をぶちかます。
狩野はとっさに腕で防御をするが、そのまま吹き飛ばされる。
狩野「くっ・・・!」
海野「ブーちゃん・・・!なにを・・・!!」
乙奈にぼそぼそつぶやくブーちゃん。
乙奈「・・・合格だそうです。一般人であれを受けたら、だいたい即死らしいので・・・」
ブーちゃんの拳法を初めて見て言葉を失う花原「・・・・・。」
狩野「はあはあ・・・私を信じてくれますか・・・?」
花原「あ・・あの・・・狩野さん・・・うちのチームに入ってくれるのは心強いんだけどさ・・・
その・・・賞金があるじゃん・・・それについてはどうなの・・・?
なんだかんだで、うちもこれで8人になっちゃうし・・・ひとりあたりの分け前が・・・」
狩野「もちろん、いただきませんよ・・・
私みたいな者を仲間に加えてくださるだけで嬉しいです・・・」
小早川「わたしもいりませんよ。先輩といっしょにいられるだけで幸せですから。」
花原「・・・え?」
ちおり「つーか、そんなことまだ言ってるの、花原さんだけだよ!」
花原「ちょ・・・ちょっと・・・みんなそんな守銭奴を見るような目で私を見ないで・・・きゃあああ!!」
山村「別に普通に見ているだけだが・・・」
海野「じゃあ、みんなレイちゃんを加えてもいい・・・?」
一同「異議なし!」
遠くで狩野を見て怯えている病田(私は嫌だな・・・)



九十九里浜で、ビーチバレーの練習をしている白亜高校。
それを座って見つめているさくら「・・・・・・。」
隣に座る病田「いよいよ明日ですね・・・」
さくら「・・・そうだね・・・ほいで、あさっては卒業式か・・・あっという間ね・・・」
病田「明日は誰を出場させるの・・・?」
さくら「すっごい悩む。
実はビーチバレーって普通のバレーよりもずっと高度だから・・・まあ、順当に行けばビーチバレー経験者の海野と狩野になるんだけど・・・なんか違う気もするんだ・・・」
病田「先生が決めたことなら、あの子達はきっと従いますよ・・・」
さくら「今の子って素直だもんね・・・校舎の窓ガラスを叩き割ってた私らとは違うわ・・・」
病田「た・・・叩き割ってたんですか・・・」
さくら「なんでああいうことをしていたのか自分でも謎だわ・・・多分やり場のない怒りを抱えてたのね・・・バレーに出会えてなかったら、何をしでかしてたか・・・」
病田が、さくらの手元に自分が執筆した小説が置いてあることに気づく。
病田「・・・そ・・・それって・・・」
さくら「買っちゃった・・・けっこう面白くて・・・これって実話・・・?
先生も苦労したんだね・・・ごめんね・・・
もしかしたら、私はこういう子をいじめていた側だったからさ。」
病田「あはは・・・」
さくら「・・・先生・・・あたし、最近死ぬのが怖いんだけどさ・・・どうすればいいかな・・・」
病田「・・・え?」
さくら「先生は小さい頃から難病と付き合ってきたわけじゃん。
自分の死にどう向き合ってきたのかなって・・・」
病田「私だって怖いですよ・・・死んじゃったら、みんなともう会えないし・・・
でも・・・こう考えるようにしていました・・・
死は人生の卒業式なんじゃないかって。
卒業してみんなと別れちゃうからって、絶望して友だちを作らない人はいませんよね・・・
私は作りたくても、できなかったけど・・・学校は楽しいところです・・・
だから私は・・・この職業を選んだ。」
さくら「卒業・・・か・・・」
病田「そして・・・桜の咲く頃には・・・新しい子が入学してくる・・・
希望を胸に抱いて。」
病田の小説を手にとって立ち上がるさくら
「病田先生・・・ありがとう・・・私を監督に誘ってくれて。あんたは長生きしてくれよ。」
病田「が・・・がんばります・・・」
砂浜に向かってさくら「あ~違う違う!ビーチバレーでフェイントをかけるんじゃない!」
ちおり「だめなの~?」
さくら「反則取られるんだって・・・!まってな・・・!」
ビーチバレーのコートにかけていくさくら。
その姿を見つめて、目に涙を浮かべる病田。
病田「そんな・・・」
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