『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑧

警察署のオフィス
警官から二人に所持品が返される。
ミグの方を向くゲオルグ「余計なことしちまったかな、まあオレの供述がなければあんたは一生塀の中だったがな。で、ええとあんたがTIAの・・・」
イワン「イワン・ウェイドだ」
ゲオルグ「天王警察のゲオルグだ。サーペンタリウスがこっちで悪巧みしているという情報が入ってな、TIAと共同で捜査に当たれとよ。」
ゲオルグと握手するイワン「よろしく・・・そちらで何かわかっていることは?」
懐から写真を取り出すゲオルグ「イルミナ・ヴェルヌ博士は知ってるか?」
写真を受け取るイワン「人類最高のIQをもつ科学者・・・確か専門は生物学・・・」
ゲオルグ「微生物だ。数年前うちの星でサーペンタリウスによるバイオテロ事件があってな。
まあ幸い未遂に終わったんだが、その生物兵器を開発したのがヴェルヌだ。」
ミグ「もしかしてその事件って・・・」
ゲオルグ「ああ、ライトが解決した事件だよ・・・そういえば、なんであいつがこの事件をあっさり解決できたのか言ってなかったよな。ライトにタレコミがあったんだ」
ミグ「?」
ゲオルグ「ヴェルヌは地球時代のライトの幼馴染だ。
ヴェルヌがサーペンタリウスを裏切りライトに情報を漏らしたのさ。
その後ヴェルヌは生物兵器開発の罪で刑務所行き。」
ミグ「・・・・・・。」
イワン「彼女は脅されて兵器を作らされていたのかもしれないな・・・」
ゲオルグ「ヴェルヌの公判記録を読んだんだが、ろくな裁判もせず有罪が確定。
宇宙一厳重な刑務所、月面のトランキュリティにぶち込まれた。
どう思う?」
イワン「静かな海に沈められた人魚姫ってとこか・・・
よほど重要な情報を握っているんだろう、サーペンタリウスにとって・・・そして」
ゲオルグ「月を管轄する地球連邦にとってもな。
トランキュリティ刑務所に入れたのは蛇使い共からかくまうためでもあったんだろ」
イワン「例の生物兵器はどうなった?」
ゲオルグ「地球連邦がすべて差し押さえた。少なくとも天王星のものは全て。」
ミグ「それで・・・その人をどうするんですか?」
ゲオルグ「ああ・・・死刑が確定したんだ。執行は三日後。
そしてこれを見てくれ。先週のヴェルヌの面会者だ」
刑務所の監視カメラの写真を見せるゲオルグ
ミグ「ピカール卿・・・!」
イワン「トランキュリティに行っていたのか・・・」
ミグ「ピカール卿が裏で動いて、彼女を死刑に??」
イワン「いや、死刑になる前になにか大事な情報のやり取りをした可能性もある・・・」
ゲオルグ「ヴェルヌが開発した生物兵器は太陽系すら滅ぼしかねない代物だ。
言っとくが、これは大げさな表現じゃねえぞ。」
ミグ「じゃあ・・・もし、そんなものがまだどこかに残ってたとしたら・・・」
ゲオルグ「なんとしても奴らの企みを阻止しねえと。
ヴェルヌが死刑になったら、生物兵器の手がかりは消えちまう」
写真を見つめるイワン「・・・・・・。
・・・で、TIAは何をすればいいのかな?」
ゲオルグ「冗談はやめろ地球野郎。こちとら警察だ。法に反することはできねえんだよ。
オレの言ってる意味わかるよな?」
イワン「なるほど・・・ようくわかったよ。」
ゲオルグ「わかればいい。」
頷いて部屋から出ていくゲオルグ。

ミグの方に向き直るイワン「ミグお別れだ。次の任務なんでね・・・」
ミグ「いえ、私にも手伝わせてください。貿易商の仕事、興味があるんです」
イワン「ダメだ・・・トランキュリティは危険すぎる。」
ミグ「だからこそ力になりたいんです・・・」
首を振るイワン「キミにはもっと大事な任務があるだろ。」
ミグ「・・・・・・。」
イワン「彼のそばにいてやれ・・・」
ミグ「今度は帰ってきますよね・・・?」
イワン「ああ、約束する。」



病院――夜。
ライトの個室。
ドアには「面会謝絶」のプレート
ベッドで横になりながら、テレビのチャンネルを回すライト
どのチャンネルも自分が誹謗中傷を受けている
ライト「まるで犯罪者になったような気分やな・・・」
一つだけライトのニュースではなく、惑星連合のサミットを報じている。
そのチャンネルで止めるライト。
キャスター「今月火星で行われる惑星連合首脳会議、通称“宇宙サミット”は宇宙温暖化問題がテーマで、宇宙に放射される熱源の世界的な削減目標について話し合われる予定です。
宇宙温暖化とは、宇宙全体が収縮していくことで銀河どうしが近づき、徐々に平均温度が上がっていくという仮説ですが、この宇宙の未来は研究者のあいだでも意見が分かれており、宇宙温暖化にどれだけ人為的な活動が影響しているのかはわかっていません。
しかし急進的なエコ派は先日のコズミックグランプリにも反対し大規模なデモを・・・」

デモの様子が映る。
エコ派のプラカードに「ライトのクラッシュは宇宙を汚した当然の報い」と書かれている。

テレビを消す。
ため息をつくライト「これで全局制覇や・・・」
ノックのような音が聞こえる。
ライト「面会謝絶や・・・書いてあるやろ・・・」
ロープをつたって窓から入ってくるイワン「こんばんは」
ライト「・・・そんなことまでしてオレに悪口言いたいんか?」
部屋に降りるイワン「いや・・・」
ライト「あれ?あんたどこかで見たような・・・」
イワン「君と私は同じ女性を知っているようだね・・・」
ライト「そうや、ミグの元恋人やろ!あんた随分ひどい男みたいやな」
イワン「ああ、自分でも最低な男だと思うよ。
だからキミにお願いしに来た。
彼女を・・・ミグを守ってくれないか。幸せにしてやって欲しい・・・」
ライト「ミグをさんざ傷つけといて、随分虫がいいな・・・」
イワン「私はおそらくもうミグには会えない・・・だから・・・」
ライト「またどっかへ行っちまうのか?ミグを置いて・・・」
イワン「そうだ・・・おそらく生きて戻れない」
ライト「ざけんな!
ミグはお前のことをずっと思ってたんやぞ!!
十年間たったひとりでお前の帰りを待っていたんや!
ミグにとってはな、今もあんたは大切な人なんや、ええか、死ぬなんて俺が許さん!」
イワン「なるほど・・・思ったとおりの人間だ・・・
そういえば、昔キミに似た少年にあったことがあるよ」
ライト「・・・なんやと・・・?」
窓から出ていくイワン「さよならだ、ライト・ケレリトゥス。会えてよかったよ。」
ライト「もういくんかい!おいちょっと待てルパン三世・・・!」
カーテンが揺れる

ミュウが入ってくる「どうしたの?」
ライト「いや・・・」
ミュウ「そう・・・面会者よ」
ライト「え・・・?」

ミグが花束を持って入ってくる
ミグ「謝って済む話じゃないけれど・・・ごめんなさい・・・」
ライト「・・・・・・。」
微笑むライト「何言うとんねん。戻って来てくれるって信じてたで・・・」
ミグ「許してくれるの・・・?」
ライト「ミグ言ってたやろ・・・自分だけはオレのファンでいてくれるって・・・
オレはお前さえいれば十分や」
ミグ「ライト・・・」
ライト「それにな・・・まだレースに負けたわけやない・・・」
ミグ「え・・・?」
ライト「あれは第一戦や。コズミックグランプリは全5戦の総合順位で優勝を決めるんや。
まだ名誉挽回できる可能性はある・・・」
ミグ「で、でもその体じゃ・・・
(首を振る)ううん、キミならきっとこう言うんだね」
ライト&ミグ「なんでここで諦める?」



宇宙の果て。
強力な光を撒き散らす小さな天体が不気味にうごめいている。
その光を目の当たりにするひとりの宇宙飛行士。
(宇宙は何も変えられない・・・我々がどうあがいても・・・)


うなされて目を覚ますイワン。息を整える。
ベッドで汗グッショリのイワン「はあはあ・・・」
携帯電話が鳴る。
電話を取るイワン「ウェイドだ・・・」
フレミング「ダイヤル3に変えろ」
電話のボタンを押すイワン「変えた」
フレミング「よし、あんたの昔の女を調べたぞ。地球連邦のデータベースにはなかった。
ソースは驚くことなかれ惑星連合だ。
サー・ミグ・チオルコフスキー32歳。
冥王星宇宙軍将軍。
小惑星解体舞台ディープインパクト所属。
昨年起こった冥王星の軍事クーデターでは戦艦が惑星に衝突するのを命懸けで防ぐ。この功績が冥王政府に讃えられ名誉将軍に昇格。
海王星では王室からナイト爵を授与、天王星ではアイドル暗殺計画を阻止、土星では有名実業家を襲った殺し屋を撃退、暴走した自律型戦闘機を停止させている。最近では内戦状態の木星で和平への合意を裏で取り付けた・・・
まあ、とんでもない奴だ。何度世界を救ってるんだか・・・聞いてるか?」
イワン「ああ・・・かつての少女は私よりずっと腕の立つエージェントになっていたってことだな・・・」
フレミング「あんたも歳をとったのさ・・・」
イワン「そうだな・・・」

機内アナウンス「当機はまもなく月に到着します」



月面。
トランキュリティ(静かな海)宇宙刑務所
警備スタッフ「お疲れ様です、ええと・・・」
ライトで認識票を照らす警備員
イワン「国選弁護人のウェイドです」

刑務所の地下に続くエレベーター。
壁のフロアマップには地下の中央が球体になっていることがわかる。
イワン「・・・・・・。」
スタッフ「いわゆる“エコボール”ってやつですよ。
完全に外界から隔絶されています。
空気、水、食料、すべてがこの超強化ガラスの球体の中で循環している。
光と電波以外はエコボールの中へは入れないし、何も出れない・・・永遠に」
イワン「君たちはこんなところに若い女性を閉じ込めているのか」
スタッフ「若い女性と同時に宇宙で最も知恵の回るテロリストです。
万が一彼女があの球体から脱走した場合、この刑務所ごと核爆弾で焼却されるようになっています。いくら宇宙一の頭脳を持つ人間といえども生物である以上、核爆発には耐えられませんから」
イワン「まるで怪獣の檻だな」
スタッフ「ええ・・・我々が飼育しているのは正真正銘の怪物ですよ」
エレベーターが地下に到達し、扉があく。
スタッフ「つきました、どうぞ」

刑務所の地下管制室。監視モニターが数え切れないほど並んでいる。
正面の巨大なモニターには、吹き抜けのエリアの中央に設置された巨大な球体が映されている。
球体は直径15mほどで、植物が生い茂っている。
吹き抜けには青白い光が差しこみ、球体を上から照らしている。
イワン「球体の中とはどうやってやりとりをするんだ?」
面会ブースの中に入って受話器を差し出す看守
ブースに入るイワン「ありがとう」
看守「これまでにも何人かの先生がやってきましたけど・・・彼女は何も喋りませんよ」
イワン「まあやるだけやってみるさ」
ブースから出ていく看守「規則なので施錠させてもらいます。
では面会が済んだら、そのボタンで知らせてください」
イワン「わかった」
ブースの扉を閉める看守。機密ロックがかかる。
イワン「なにかあったら怪獣と一緒に燃やされるのか・・・」

管制室で監視カメラの映像を見つめる看守
カメラが切り替わり球体の中からイルミナを探す。
看守「囚人番号7283、面会者だ」
球体の中央へ痩せた女性がよろよろと歩いてくる。
体には不必要と言えるほどの桎梏がついている。
看守「受話器を取れ」
球体中央の台にある受話器を取るイルミナ
看守「先生、どうぞ。
くれぐれも見た目に騙されないように」
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