私立白亜高校――
長い桜並木を登った丘の上に、その高校はある・・・
様々な事情で学校を追われた若者が最後に辿り着く、千葉県にある小さな私立高校・・・
坂道をかけあしで登っていく小さな女の子
他校の学生とすれ違う。
「・・・?なんで小学生が高校の制服を着てるの・・・??」
「さあ・・・」
冬の寒さを耐えた桜並木の桜はつぼみをつけ始めている。
生徒会室
華白崎「生徒会長がお見えです。」
生徒会員たち「生原会長おはようございます!!」
生徒会長の椅子によじのぼって座るちおり「みんな、おはよ~!」
会長の机の上に書類を置く華白崎
「こちらが春の高校バレー、バトルロイヤル大会の出場申請書です。
目を通していただいて決裁を。」
海野「いよいよだね・・・!」
引き出しからアンパンマンのスタンプを出すちおり「ここにハンコ?」
華白崎「それとこちらにも。」
ちおり「こっちはしろったま子さんでいい?」
華白崎「会長のご自由に・・・」
スタンプを押すちおり。
書類をまとめる華白崎
「ありがとうございます。この起案文書を高体連に提出すれば、申し込みはすべて完了となります。
大会の日程は3月3日。つまり全国の高校の卒業式よりも早いので、春高バレー初の高校三年生の出場が可能です・・・つまり海野部長と、乙奈さん、ブーちゃんさんはエントリーができます。」
海野「高校生活の最後の思い出を作ろうね!」
乙奈「・・・はい!」
部屋の隅でその様子を見る花原
「・・・。ちおりのやつなんで華白崎さんを副会長に残留させたのよ・・・
おかげで生徒会費を私的に使い込むという私の大作戦が不可能になったじゃない・・・」
華白崎「花原さん・・・なにか?」
花原「いえ・・・」
華白崎「何度も申しました通り、この大会にはリスクもあります。敗退した場合は、その時点でその高校の女子バレー部は廃部。
何回戦まで勝ち進んだかによって、バレー部の廃部期間が変動するものの・・・初戦敗退では、その期間は10年。10年分の部費は高体連に吸い取られ、優勝チームの賞金にあてられるのです。」
海野「10年間も後輩はバレーができなくなるのね・・・」
華白崎「その点、我が校はもともと女子バレー部員が海野部長だけであり、海野部長が卒業したら自然消滅でしたから、あまり大きな影響はないかと思いますが・・・
女子バレーに実績のある名門校の意気込みは違うでしょう・・・
例年以上に本気で優勝を狙いに来るに違いありません。」
海野「6億円だもんね・・・」
乙奈「所さんの宝くじレベルですわ・・・」
華白崎「わたしの試算によりますと、この賞金6億円が白亜高校の資金に丸々充てられた場合、向こう10年間、つまり2008年まで白亜高校は経営を継続することができます。」
ちおり「・・・10年後この学校で、みんなと会えるといいね!」
海野「そのころは28歳か・・・」
乙奈「わたくしは30ですわ・・・」
華白崎「この学校を未来にも残しましょう・・・!」
一同「えいえいおー!」
花原「え・・・私の借金は・・・??」
・
東京都千代田区
GHQのビルを改造した、全国高等学校体育連合の本部ビル
全国の高校生の健全な発達を促すために、体育・スポーツ活動の普及と発展を図ることを目的とし、競技普及、競技力向上、指導者育成を目指す、悪の秘密結社である・・・
高級な椅子に座り、穏やかにペルシャネコをなでている小柄な紳士。
彼こそ高体連の総裁「破門戸錠」である――
総裁の部屋に入ってくる、ロシア系の長身の女性。
ロシア女「・・・幹部は全員集まっています・・・」
破門戸「それはけっこう。」
立ち上がって高級ブランドの背広を着る紳士。
ネコが破門戸の膝の上から飛び降りる。
かがんでネコに触れるロシア女「ほら、おいでスペクター・・・
総裁はネコがお好きなんですね・・・私もです・・・」
破門戸「ネコは優れたハンターですからね・・・我々は愛くるしい愛玩動物だと勘違いしていますが・・・彼らは屋外で多くの野生動物を殺す・・・その狩猟本能は決して失われない・・・
さて。」
ネコにモンプチを食べさせるロシア女。
破門戸「我々も狩りと参りましょう・・・」
牙を向いてキャットフードを食べるネコ。
・
高級レストランのようなホール。
タキシードを着た高体連の幹部たちが、フレンチのフルコースを食べている。
幹部「ああ・・・破門戸新総裁、遅かったじゃないか・・・もう食べ始めているよ。」
微笑む破門戸「構いませんよ・・・」
幹部「破門戸くんの提案したバレー大会だが・・・悪くない。
優勝校以外は廃部というバトルロイヤルシステムの話題性は十分で、多くのスポンサーがついた。昨年の10倍だよ。高野連の奴らも青ざめてるんじゃないか・・・ははは」
破門戸「・・・どうも。」
幹部「それでだ。今みんなと話し合っていたんだがね。
やはり優勝校は、我が高体連に巨額の供託金を毎年支払っている、例の高校にしようかと思うのだよ・・・」
破門戸「ほう・・・」
ほかの幹部「主審とラインズマンはすでに買収したので、ご心配なく。
すべて我々が進めるので、総裁は何もしないでゆっくりしていてもらいたい・・・
もちろん総裁にも美味い汁はたっぷり・・・」
破門戸「みなさんバレーボールがお好きなようだ。」
幹部「ああ、ほかの競技よりも“忖度”がしやすいからな。」
破門戸「私もバレーボールが大好きでね・・・」
ホールの幹部たちの後ろをうろつく破門戸。
「地位も金も極めたこの老体でも・・・バレーボールに青春をかける若者たちの姿を見ていると・・・
胸に熱い情熱を感じます・・・
コートには・・・チームの仲間たちがいる・・・」
葉巻を吸う幹部「そうだな・・・チームは大切だな。」
破門戸「レシーブし、トスをあげ、パスをつなぐ・・・チームプレーです・・・
チームがなければ・・・意味がない。」
すると、一人の幹部の後ろで立ち止まる破門戸
「一人が頑張っても・・・意味がないんだ・・・」
幹部「うんうん・・・」
その刹那、バレーボールのポールを持ったロシア女が、その幹部の後頭部をポールで殴りつける。
幹部の頭蓋骨がひしゃげて、テーブルに血しぶきが飛ぶ。
ほかの幹部が目を背ける。
破門戸の表情は変わらない。
幹部たち「ああ・・・なんてことだ・・・」
ロシア女は、さらに2、3発、幹部を殴りつける。
床にポールを投げつけるロシア女。激しい音がホールに響く。
席に着く破門戸「64年の東洋の魔女から34年・・・
我が国の女子バレーは転換点にある・・・
本当に強い選手をみつけ・・・育てなければ・・・高体連に未来はない・・・」
破門戸にナプキンを付けるロシア女。
微笑む破門戸「さて・・・食事を始めましょう。」
・
体育館
山村「ばかな・・・!こんなところにここまでの選手がいるとは・・・!うわあああああ!!」
華白崎のアタックを受けて吹っ飛ぶマッスル山村。
地面に着地する華白崎「まあまあか・・・」
ちおり「かっけー!!」
海野「華白崎さん・・・すごい・・・!」
華白崎「中学時代にちょっとかじっただけですが・・・」
海野「ちょっとかじったレベルじゃないよ・・・!
これならすぐに即戦力として戦えるわ・・・!」
ちおり「かっけー!!」
花原「・・・乙奈さん、わたしたちは即戦力じゃないみたいよ・・・」
乙奈「ま・・・まあ、素人ですからね・・・」
華白崎「みなさんも即戦力になってくれなければ困ります。
大会予選はもうすぐなんですから・・・」
海野「みんなにバレーボールを教えてくれないかな・・・」
華白崎「そう来ると思いまして・・・すでに個人メニューを作成しました。」
書類を配布する華白崎。
華白崎「花原さんはブロックとレシーブとサーブ。
生原会長はレシーブ。
乙奈さんは・・・だいたいすべて・・・」
ちおり「わーい、レシーブ練習100セットだって!やったー!」
乙奈「私のメニューはずっしり重いですわ・・・」
華白崎「どんなスポーツも結局は基礎練習の量で決まります。
毎日このメニューをさぼらずにこなせば、少なくとも初戦敗退はないでしょう・・・」
海野「みんながんばろう!」
華白崎「では、二人一組になってください。」
レシーブ練習。
ちおりには海野が、乙奈には山村が、花原には華白崎がボールを打っている。
海野「生原さん行くよー!」
ボールを打つ海野。
レシーブをするちおり「え~い!」
海野「じょうずじょうず・・・!」
山村のボールをよける乙奈「きゃああ!」
山村「恐怖に打ち勝つのだ歌姫・・・!」
乙奈「ご・・・ごめんなさい・・・もう少し弱く打ってくださる・・・?」
山村「こ・・・これ以上か?チャンスボールになってしまうぞ・・・まあいいだろう・・・」
ほとんど自由落下状態のボール。
それでも怖がる乙奈「きゃああ!!」
山村「お・・・オレの触ったボールが嫌とかないよな・・・?」
ブーちゃんが山村を慰める。
華白崎「いきますよ、花原さん・・・!」
勢いよくアタックをする華白崎。
花原「・・・いや、うちらだけ速くね!!?」
みぞおちにボールが当たる。
花原「うぎゃあ!!」
華白崎「姿勢を低く・・・!もう一度・・・!」
花原「よしこい・・・!」
アタックをする華白崎。
今度は顔面にボールが当たる。
花原「ぐぎゃあ!!!」
華白崎「ボールをよく見る・・・!もう一度・・・!!」
花原「球速を下げてよ・・・!」
華白崎「低速は甘え・・・!花原さんならいける・・・!」
花原「いけないって・・・!」
花原の悲鳴。
海野「めちゃくちゃしごかれてる・・・」
花原「ねえ・・・そろそろ交代しない・・・?」
華白崎「え?ええ・・・もちろん・・・」
ニヤリと笑う花原。
超全力でアタックを撃つ。
花原「死ねや~~~!!!」
華白崎は必死にレシーブで食らいつく「さすが、いい球です・・・!」
花原「馬鹿な、返された?!」
華白崎は上がった球を再びアタックする。
華白崎「はい!」
花原の顔にボールがめり込む。
格ゲーのように吹っ飛ぶ花原。
「うーあ、うーあ・・・!!」
花原「海野さん・・・!あのヒロスエが私をいじめる・・・!
きっと選挙戦で私を恨んでいるんだ・・・!」
海野「そ・・・そうかなあ・・・」
遠くから華白崎「・・・さっき、死ねって言ってませんでした?」
花原「い・・・いえ・・・」
ふと、乙奈のほうに目をやると、山村がとうとう床にボールを転がしている。
山村「ほーら」
それでも怯える乙奈「きゃああ!!」
海野「・・・・・・。」
・
男子バレー部部室
大此木「お前がここで愚痴ってるなんて珍しい・・・」
海野「花原さんと華白崎さんの折り合いがつかなくて・・・」
大此木「やっかいなのは、あいつらはどちらも学があり、弁が立つところだ・・・
結局のところ、似た者同士だから衝突する。
似た者同士だから、そのうち分かり合うよ・・・気にするな。
それに、華白崎はお前に勝るとも劣らない選手だ。
中学時代に県大会で優勝しているからな。戦力になる・・・」
海野「知らなかった・・・」
大此木「・・・まだあるか・・・?」
海野のコップにスポーツドリンクを注いでやる大此木。
海野「うん・・・それとね、乙奈さんは、過剰にボールを怖がるの・・・」
大此木「オレ様のドライブサーブがトラウマを植え付けたか・・・すまねえな。」
海野「・・・そうなのかな・・・その前からボールをよけていた気がするけど・・・」
大此木「お前らは古いんだろ?」
海野「もともと幼稚園が一緒だったんだけど、そのあと私の家が神戸に引越しちゃって・・・
再会したのは、被災地の支援コンサートに乙奈さんが来てくれたとき・・・驚いたな・・・」
大此木「じゃあ、ずっと一緒だったわけじゃねえのか・・・」
海野「うん・・・いつの間にか私の手の届かないところへ行ってた・・・」
大此木「あいつは芸能界で天下を取ったんだ・・・ボールくらい克服できるよ。」
海野「ありがとう・・・」
立ちあがる海野。
海野「男子バレー部の分まで頑張るね。」
大此木「白亜高校の名を全国に知らしめて来い。がんばれよ。」
『青春アタック』脚本⑬春愁秋思
2024-01-26 23:50:38 (321 days ago)
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