『青春アタック』脚本⑭合縁奇縁

深夜
文部大臣の邸宅。
暴走族が集合し、邸宅の周りをバイクでグルグル回っている。
「ブンブンブブブン!!卒業式!1回!卒業証書!2枚・・・!」

カーテン越しに外を眺める文部大臣
妻「あなた・・・警察に通報したほうが・・・」
明智文部大臣「無駄だよ・・・警察が到着する頃には消えているさ・・・
それに・・・警察にもとっくに息がかかっているだろう・・・」
娘「どういうこと・・・?」
文部大臣「あれはメッセージさ・・・今度の大会に余計な口を出すなという・・・」

波止場にある廃倉庫に入っていく暴走族。
パラリラパラリラ~と爆音を鳴らす。

廃倉庫の中にはロシア女が一人だけいて、ドラム缶の上に片膝を立てて座っている。
暴走族の総長が大勢の部下を従えて凄みをきかせて入ってくる。
ロシア女に話しかける総長「・・・約束の金を出せ、狩野(かるの)レイ。」
狩野「・・・それは約束を守った人が言う言葉・・・」
総長「ああ?てめえ、関東最大の暴走族のヘッド呼び出しといて、コケにすんのかこの野郎、ぶち殺すぞ!」
大勢の暴走族が狩野を取り囲む。
狩野「暴力はいけないわ・・・」
にやりと笑う総長。
総長「俺は暴力が好きだぜ・・・」
すると、総長をとりかこむ暴走族。
突然の部下の裏切りに慌てる総長「・・・!な、なんだてめえら・・・!!」
囁くように狩野「・・・私をぶち殺すんじゃなかった・・・?」
総長「・・・はは・・・冗談だよ・・・悪かったよ・・・」
狩野「そう・・・それならよかった・・・」
ドラム缶から降りて、総長に近づいてくる狩野。
総長「・・・・・・。」
総長が警戒して懐のナイフを探る。
すると、狩野がその手を咄嗟につかみ、総長の股間にナイフを刺してしまう。
真っ赤に染まるズボン。
慟哭する総長「ぎゃああああ・・・お母ちゃん・・・!!」
狩野「私も暴力は好きなの。」
激痛で倒れる総長。
そこに狩野がバイクを蹴り飛ばし、総長を潰してしまう。
狩野「隠れ家に爆音で来る馬鹿がいるかよ。」
恐怖で凍りつく暴走族。

怯えながら狩野に声をかける暴走族の副長「か・・・狩野さん・・・」
狩野「レイでいいよ・・・」
副長「レイさん・・・破門戸さんから、バレー大会の選手名簿が届きました・・・
確かに出場しているそうです・・・」
狩野「本当に・・・?」
副長が資料を渡す。
封筒を開ける狩野。
笑顔になる狩野「ホントだ・・・」
資料には、海野美帆子の写真が入っている。



白亜高校の学生寮。
海野の部屋のキャビネットには、両親と弟との家族写真の隣に、中学時代にバレーの大会で撮った記念写真が立ててある。
そこには、海野と狩野が写っている。
海野「中学時代か・・・そういや、レイちゃん今頃何してるんだろう・・・」



1993年神戸――
中学校の教室
海野「千葉県から転校しました海野美帆子です。好きなスポーツはバレーボールです。
みなさん仲良くしてください。」
教師「よろしくしたってな!」
ひそひそ話をする生徒たち
「なんやあいつ、坂東の人間か、ディズニーランドをなわばりにしとるからって、なめくさりやがって・・・」
「あいつ、金持ちらしいで。見てみい、あの世間知らずそうな顔・・・はらたつ。」

海野(わたしが転校した中学校はいわゆる下町の学校で、貧しい町工場の子どもが多かった・・・)

女子「なあ、あいさつ代わりに、畿内のしきたりを教えてやろうやないか・・・」
「よっしゃ!いっちょ、しばいたるか・・・!!」



学校の屋上
嬉しそうに階段を上って屋上へ向かう海野。
海野「ありがとう!私が立ち上げた女子バレー部に入部してくれるなんて・・・
一緒に大会で優勝を目指そうね!」
海野を取り囲む女子たち「ああ・・それはうそや。
誰が、お前みたいなよそ者の下でバレーなんかするかい。」
海野「・・・え?」
女子「お前んち金持ちなんやろ、とりあえずウチらに5000円ずつくれや。」
海野「神戸市って友だちを作るのに料金が発生するの・・・!?」
女子「誰がお前と友だちになるかい!!」
「いてまうぞコラ!」
海野「ご・・・ごめん、私みんなに失礼なことしちゃったかな・・・」
女子「そのしおらしい態度がむかつくんじゃ!関西のもんを下にみやがって・・・!
生まれて今まで人にいじわるとかしたことないんか!!」
海野「い・・・いじわる・・・?いじわるとは・・・?」
女子「特定の人物に対して、とおせんぼとか、なかま外れとか、ぶったり蹴ったりとかして、あわよくば泣かしてしまおうっていう、人間なら誰しも通る所業や・・・!」
本気で悩む海野「う~ん・・・あったかなあ・・・
たーくんを泣かしちゃったことはあったかも・・・」
女子「たーくん?」
海野「あ、わたしの弟です・・・
たーくんは今度小学校なんだけど、まだおむつをしてて・・・」
女子「・・・なめとんか!やっちまえ!!」
海野をリンチする女子たち。
うずくまる海野「痛い痛い!!やめてよ・・・!」

その時、給水塔から起き上がる巨体の女。
?「・・・眠れない・・・」
女子「なんやお前は!」
「うめちゃん、あいつも転校生や!」
「ロシアから来た狩野や!」
海野「狩野・・・?」
狩野「・・・せっかく静かに落ち着ける場所をみつけたのに。」
給水塔から降りてくる中学時代の狩野。
すくっと立ちあがると、身長は170センチ以上はある。
その巨体に驚く女子たち「なんじゃあ、ごっついな!!」
「お前本当に13歳か、巨人ちゃうんか!!」
傷だらけの海野に目をやる巨体の転校生。
狩野「・・・同族になんてひどいことを・・・」
女子「じゃかしい、黙っとけ、この外人。
ここはおめえらが来ていい国じゃねえんだ!」
狩野「・・・うん・・・ひどい国ね・・・」
女子「なんやと!?日本に喧嘩売ってんのか?」
狩野「私は喧嘩はしない・・・」
相手がひるんだと思って笑う女子「へっ・・・びびったか・・・」
狩野「私がするのは・・・」
そういうと、ボス格の女子の脚をつかんで持ち上げてしまう。
パンツ丸見えで逆さになるボスの女子。
女子「あああ、うめちゃん!!」
股間を手で隠すうめちゃん「きゃああああ!なにするんや!やめろ!!」
すると、そのまま屋上の手すりを乗り越えて、5階からうめちゃんを落下させようとする。
恐怖で失禁するうめちゃん「う・・・うわあああああ!!!やめて・・・!死にたくない!!」
狩野「・・・殺し合いよ。」
海野が狩野の巨体にすがりつく。
必死に女子をかばう被害者の海野
「だいじょうぶ!わたしはもうだいじょうぶですから!!勘弁してあげてください!」
狩野「・・・落としてみない?」
海野「みない!みない!!」
いじめていた女子たちの方を振り向く海野「・・・ほらみんなも!!」
女子たち「あたしたちが全面的に悪かったです!許してください!!」
狩野「・・・そう。わかった。」
土下座する女子たち「ありがとうございます!!」
一瞬場の空気が緩む。

狩野「・・・でも落とすけど。」
脚をつかんでいた手を放す狩野。
うめちゃんは絶叫しながら落下していく。
あまりの光景に失神したり、吐いたり、号泣する女子たち。
屋上から出ていく狩野
「・・・人類が暴力を禁止している理由が分かったかしら。」
海野は、うめちゃんが落ちていったほうを、おそるおそるのぞく。
すると、中庭の木にうめちゃんが引っかかっていることに気づく。
息を吐く海野「・・・よかった・・・」
女子たちに声をかける海野
「じゃ、じゃあ・・・とりあえずみんな無事だったことだし、あらためてバレー部の入部について話し合おうよ!」
涙を流す女子たち「こ・・・こいつも狂ってる・・・!!うわああああ!!」



昼休み。
校舎の裏で一人でパンを食べている狩野。
駆けてくる海野「狩野さ~ん・・・!」
狩野「あなたはさっきの・・・」
海野「こんなところにいた・・・捜しちゃったよ・・・」
狩野「私に何か用・・・?」
海野「さっきの・・・お礼が言いたくて・・・ありがとう。」
狩野「・・・そんなことでわざわざ・・・怪我は大丈夫だった?」
海野「うん、こんなのへっちゃら!バレーボールやってるし!」
狩野「・・・あなた変わってる。」
海野「そうかな・・・となりいい?」
狩野「・・・どうぞ。」

狩野の隣の芝生に座る海野。
海野「私は美帆子・・・海野美帆子です。千葉から転校してきたんだ・・・」
狩野「レジーナ・カルノヴァ・・・こっちでは狩野レイだから・・・レイでいいわ・・・」
海野「よろしくね、レイちゃん!」
狩野「・・・この国で私に親しく近づいてきたのはあなたが初めてよ、海野さん。」
海野「そうなの?」
狩野「だいたい差別するか、怖がるかのどちらかだから・・・
いえ・・・もしかしてその二つは一緒なのかもしれないわ・・・」
海野「日本を嫌いにならないでね・・・でも確かに驚いちゃった。
めちゃくちゃ強いんだもん!」
狩野「両親が特殊な職業についていたのよ。」
海野「へ~どんな?」
狩野「父が鉄砲の通信販売、母が腕利きの殺し屋。どっちも殺されちゃったけどね。」
ドン引きの海野「・・・・・・。」
微笑む狩野「冗談よ。
それに私は特段強くはない・・・みんな本気で戦う覚悟がないだけ・・・
ちょっと脅せば相手は従うと思っている・・・相手が殴り返すかもしれないことを忘れてる・・・」
海野「・・・どこでそんなこと習うの?」
狩野「・・・知りたい?」
頷く海野。
狩野「私の国はね、今戦争をしているの・・・」
海野「・・・え?」
気持ちよさそうに背伸びをする狩野「・・・やっと、静かに落ち着ける場所を見つけた。」
海野「ねえ・・・私でよかったら・・・友達になってくれないかな・・・」
狩野「わたしと・・・?・・・いいの??」
明るく微笑む海野「わたしもこっちでは友達がいないし・・・一緒にご飯を食べようよ。」
狩野「・・・うん。」



海野(すぐにわたしたちは親友になった・・・
レイちゃんは、よく私の家にも遊びに来てくれて、家族ぐるみの付き合いになったんだ。)


海野「お待たせ。レイちゃん、はいこれ。あげる。」
狩野に何かを渡す。
狩野「なにこれ?」
海野「お揃いのポケベル。お父さんに買ってもらったんだ。
(ボタンを押す)こうするとメッセージがやりとりできるんだよ!」
狩野「ありがとう。これで、この国でスパイ活動ができるわ。」
海野「レイちゃんが言うと冗談に聞こえないから・・・」

中学のバレーの大会
トスをする海野「はいっ!」
海野のボールを受けてアタックを決める狩野。
ホイッスルがなる。
ハイタッチをする海野と狩野。

海野の親がカメラを構える。
海野のお母さん「とるよー!」
写真に収まるユニフォーム姿の海野と狩野。

海野「ねえ・・・レイちゃん。」
狩野「・・・うん。」
海野「高校でも一緒にバレーをしようよ。」
狩野「いいよ・・・」
海野「約束だよ。」



現在。
中学時代の写真を眺める海野
「約束・・・守れなかったな・・・」
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