『ラストパーティ』脚本①

東京湾「うみほたる」から9km――
人工島「風の砦」
「私有地立ち入り禁止!――コマキ社」の看板。
人工島には巨大なテーマパークが建設されており、ロマネスク調の城や密林、宇宙ロケットなどのモニュメントが見える。

駅の改札のような入場ゲートがあり、頭上には「さあ、7つの世界の冒険に旅立とう」と書かれた垂れ幕がかかっている。
入場ゲートを進み、パーク中央に向かうとジオメトリック構造の半球状ドームが現れる。
その中に入ると、地下に続くエスカレーターが並び、その長いエスカレーターを下ると広いメインエントランスが現れる。
「VIP専用全エリアファストパス入場口」と書かれた看板と、薄暗い構内。
不思議なことにテーマパークなのに、アトラクション設備が見当たらない。
近未来的なメカニックなデザインのメインエントランスの周囲には、7つの円形ゲートがぐるりと並んでおり、ゲートの基部は床に埋め込まれたエネルギーダクトにつながっている。

「マジックキングダム」と書かれたゲートの中に入ると、さらにトンネルの石段が続いている。
トンネルの装飾はレンガ造りで、中世ヨーロッパのような趣になっている。
トンネル内には、ランス、シールド、フレイル、チュニック、プレートアーマーなどの中世の装備品が棚に並んでいる。
「安全第一!装備品は常に最強装備にすること!」と書かれたパネル。

一番奥には「最終転送」と書かれたゲートがあり、そのゲートの周囲にはショットガンやロケットランチャーを装備した保安職員が真剣な表情で並んでいる。
オペレーター「反応を確認・・・!帰還してきます!キセノンガス注入・・・!」
照明がゲートを照らし、ホールに希ガスが漂ってくる。
パトランプが灯り、サイレンが鳴る。
オペレーター「転送秒読み・・・10・・・9・・・8・・・7・・・」
「帰還者は1名・・・心拍数がかなり高い、興奮状態です。」
ゲートが振動し徐々に開きだす。
ゲートの内側から光が漏れる。
緊張して汗をぬぐう保安職員。

すると、ゲートの中からボロボロになった勇者の格好をした男が現れ、青ざめた顔でホールに飛び込んでくる。
髙橋「ゲートを閉めて!!」
スタッフ「他のゲーマーは?」
髙橋「ゲートを閉め・・・!!」
すると、ゲートの隙間から、巨大なかぎづめが飛び出し、髙橋につかみかかる。
髙橋「ぎゃあああ!」
巨大な怪物の腕に捕まれ、扉の向こうへ引き込まれてしまう高橋。
オペレーターが赤い緊急停止ボタンを叩き、ゲートを再び閉じようとする。
閉まりだすゲートの隙間から、巨大な爬虫類の鼻づらが飛び出す。
保安職員が怪物に向けて、一斉射撃をしてゲートから飛び出さないように制圧を試みる。
怪物の口の中がほのかに明るくなる。
保安職員「火を噴く前に追い払うんだ・・・!」
ロケットランチャーを怪物に撃つと、怪物はひるんでゲートの奥に引っ込む。
その刹那ゲートが閉まる。
明るい声でアナウンスが流れる。
「ゲームクリア―おめでとう!君の次の挑戦を待ってるよ!」
髙橋の血痕をモップで片づける清掃員。
カブトムシがあしらわれた高橋のキャップが転がる。

スタッフ「・・・湯浅専務・・・やはりゲーマーでは救出は無理です。」
ひとがよさそうなスーツを着た中年の男性がスタッフに近づいてこう呟く。
湯浅専務「このパーティで何回目だね・・・」
スタッフ「すでに12回・・・死者は2名、行方不明は5名、重傷者多数・・・
もう、社長にことが知れ渡るのは時間の問題です・・・
次が最後のチャンスです・・・ラストパーティの・・・」

ラストパーティ

天空の修道院ハルティロード――
雲を見下ろす高地に建設されているメテオラのような修道院。
修道院の巨大な扉が開く。
長い修行を終えて、若い女性が修道院から現れる。
お辞儀をして送り出す修道女たち。

ロバに荷物を積んで高山地帯を歩いていく女性。
通りすがりの羊飼いが会釈をする。
風を感じて振り返る羊飼い「あれが・・・風の巫女・・・」

ブリジット王国
ローク地方リーズガーデン
小さな小屋のような家に引きこもる男
引きこもり「かんべんしてくださいよ~またですか~
私はもう冒険はしたくないんだ!ほっといてくれ!!」
村長「しかし勇者様!今度こそ王国の危機です・・・!」
引きこもり「いつも危機だな・・・」
村長「終焉の魔王ハデスがアルバレイクの地底湖に封印されし巨竜、オディオサウルスを復活させたのです・・・」
引きこもり「オス湖のオッシーでしょ・・・?
大丈夫だよ、あれは連中の縄張りにさえ入らなければ危害はない・・・」
村長「市民からクレームが入っているのです・・・!
勇者様・・・ちょっくら退治してきてください!」
引きこもり「やだやだやだやだやだやだ・・・!」
小屋に近づいてため息をつく女性「・・・前と何も変わっていない・・・信じられないわ・・・」
村長「あ・・・あなたは・・・」
女性「風の巫女・・・シルビア・アシュレイよ・・・」

小屋のドアを開けて、ベッドで寝ている中年男性をたたき起こすシルビア。
中年の引きこもり「だ・・・誰だお前は!」
シルビア「誰だって・・・あたしよ、シルビア・・・!」
中年「・・・え?本当にあのシルビアなの?見違えたなあ・・・!すっかり大人の女性じゃないか・・・」
シルビア「あなたは変わらないね・・・ヴィンツァー・・・」
ヴィンツァー「修道院生活はどうだった・・・?話してくれよ・・・」
シルビア「そうだね・・・紅茶でも飲みながら・・・」

紅茶を入れるシルビア
「この戦争は百年は続くわ・・・」
ヴィンツァー「神都も大変だったらしいね・・・」
シルビア「大神官様が魔王に捕囚されちゃったから・・・聖地もハイランドからパーガトリーに移転しちゃったし・・・」
ヴィンツァー「これからは悪魔にお祈りかな。」
シルビア「無神論者はのんきでいいわね。でも、ことは信仰心だけの問題じゃないわ。
各国の王位継承の仲裁役がいなくなったことで、ブリジットのライオンハーテド王が魔界の王位継承権を主張したのよ・・・それがこの長い戦争の始まり・・・」
ヴィンツァー「それで、魔王ハデスが怒っているわけか・・・
どいつも魔王の椅子に執着してるわけだ・・・きみは戦地には・・・」
シルビア「・・・後方支援だったから・・・でも、聖都ハルティロードも野戦病院のあり様・・・
多くの傷ついた人を見取ってきたよ・・・
昔は国のために戦えば平和が訪れるって考えていたけど・・・
王様も魔王も・・・どっちもどっち・・・まるで子どもの喧嘩よ・・・」
ヴィンツァー「馬鹿どもの喧嘩は、はたから眺めている分には面白い。
この村にいるんだろう?」
シルビア「魔法雑貨店の2Fに診療所を開くつもり。」
ヴィンツァー「あのシルビアが開業医か・・・天国のお母さんも喜んでいるよ。」
ティーカップをおいて立ちあがるシルビア「そう。そして次はあなたの番・・・いくわよ。」
ヴィンツァー「どこに?」
シルビア「あなたの就職活動よ。」

履歴書をめくる採用担当者
「あなたの経歴は立派で申し分はないのですが・・・」
ヴィンツァーの隣に座っているシルビア「なら内定ですか?」
採用担当「いや今回はご縁がなかったということで・・・すいません・・・」
シルビア「ちょっとあんた狂ってるの?ここにいるのは王立騎士団最強の剣士よ?」
採用担当「ええ、確かに履歴書にそう書いてありますね・・・」
シルビア「そんな偉人を雇わない手はないでしょう!」
採用担当「そう言われましても・・・ヴィンツァーさんが世界を救ったのは、もう十年以上前のことですよね・・・?
それに、そんな偉大な方が入社してしまいますと・・・社員の方も・・・その・・・
やりづらいというか・・・」
興奮して立ち上がるシルビア「それってあなたの感想ですよね!?」
ヴィンツァー「もういいよ、シルビア・・・行こう・・・」
シルビア「だって・・・!」

モンスターハンターギルドを後にする二人。
ヴィンツァー「きみが面接官を狂人呼わばりした時点で、採用の目は消えた・・・」
シルビア「・・・ごめん・・・」
ヴィンツァー「それに、私ももういい年だ・・・昔のようには動けない・・・」
シルビア(彼も仕事を探そうとしてたんだ・・・
でも・・・勇者という偉大すぎる肩書きで・・・ダメだったんだ・・・
そうだよね・・・好きで引きこもりなんてする人はいない・・・)
ヴィンツァー「心配しないでくれ。私だって勇者年金だけで食ってるわけじゃない・・・」
シルビア「そうなの・・・?」

コミックマーケットのような会場「HEROCON」
かつての勇者のファンがサイン色紙を持ってブースに並んでいる。
笑顔でファンと握手をする白髪の勇者たち。

老勇者「おお、スナイデル来たか。」
ヴィンツァー「ランスロット卿・・・」
ランスロット「今日はロビンもいるぞ。」
ロビンフッド「リウマチが治った。」
シルビア「・・・このおじいちゃんたちは・・・?」
ヴィンツァー「伝説の勇者だよ!僕らの世代の英雄・・・!」
ランスロット「元な。わしらの全盛期はお嬢ちゃんが生まれる前だから知らんだろう。」
ブースを設営するヴィンツァー「手伝ってくれ。」
シルビア「・・・は・・・はい・・・」
ヴィンツァー「どんな分野にもマニアはいてね・・・サイン会はいいお小遣いになるんだ・・・」
悲しい目をするシルビア
ファンに昔話をする老勇者「わしが若い頃は薬草を買うのだけでも苦労したもんじゃ・・・」
シルビア「・・・あなたはその年でもう老人会に入会するの・・・?」
ヴィンツァー「・・・偉大な先輩方の前で、失礼だぞ君!」
シルビア「だって・・・」
ヴィンツァーの前に赤ちゃんを抱いた若い夫婦が現れる。
夫「ファンなんです!サインしてください・・・!」
微笑むヴィンツァー「もちろん。」
妻「この人、小さい頃の夢があなただったんです。」
皮肉を言うヴィンツァー「夢が現実にならなくて本当に良かった。」
夫「1348年のロストミンスターの戦いで巨大な軍馬を退治した話を聞かせてください・・・!」
ヴィンツァー「正確にはわたしは命からがら逃げ回っただけで・・・」
割って入るシルビア「このヴィンツァー卿は剣ではなく、長槍の先を弓矢にして、追い風を利用して怪物の脚を貫いたんです。」
夫「さすが勇者様だ・・・」
妻「臆病なアナタには到底無理ね。」
夫「そうだね・・・」
妻「坊やがくずりだした・・・帰るわよ。」
幸せそうな夫婦を見送る2人。
シルビア「見なさい。あなたが冒険の後もまっとうに働いていれば実現した姿よ・・・」
ヴィンツァー「私は一人が好きなの。」
シルビア「・・・強がりはやめなよ。」
ヴィンツァー「強がりじゃないって・・・!」

その時、スーツの男がヴィンツァーのブースに現れる。
ビジネスマンのスーツはボロボロだ。
ビジネスマン「・・・スナイデル・ヴィンツァーさん・・・??」
ヴィンツァー「え?ええ・・・」
シルビア(不思議な服装の人ね・・・)
ヴィンツァー(う、うん・・・)
名刺を差し出すビジネスマン「わたくし、コマキ社の開発部主任、泉良彦と言います・・・」
ヴィンツァー「・・・このカードにサインを書けばいいですか?」
突然頭を下げるビジネスマン「伝説の勇者様!世界を救ってください・・・!」
ひるむヴィンツァー「い・・・いや、それはもう私の力ではどうにも・・・」
ビジネスマン「あなたの世界じゃない・・・私の世界が危機なんだ・・・!」
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