『ラストパーティ』脚本⑯

コミックマーケットのような会場「HEROCON」
かつての勇者のファンがサイン色紙を持ってブースに並んでいる。
笑顔でファンと握手をする白髪の勇者たち。

ゴート大学の歴史学者のローワン・ウイリアムがヴィンツァーのブースでインタビューをしている。
ヴィンツァー「再びぼくが目を覚ましたときは・・・アッティラ大草原は暖かな日差しにつつまれており・・・ミス・アシュレイ・・・リネットと手を握り合っていました・・・」
ローワン「ほかのパーティの方は?」
ヴィンツァー「この世界に残れたのは・・・ぼくらと・・・
最後まで逃げ回っていたサー・モルドレッド・・・現在のガリア帝国の魔王ですね・・・
あとの4人は・・・生死不明です・・・
そして・・・48年のアルバレイク国とのロストミンスター戦乱でリネットが亡くなり・・・
その3年後には恩師のウィンロード卿も大往生しました・・・
わたしは、きっと欝だったんだと思います・・・
あとはご存知のとおり、勇者年金で故郷の村でほそぼそと暮らしています・・・」
立ち上がって握手をするローワン
「勇者ヴィンツァー様。今日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
この場所を教えてくれたミスター・ゼリーマンにも礼を言わなくては・・・」
ヴィンツァー「ゼリーマンは大丈夫ですよ・・・
もう随分と会ってませんが・・・今なお、臆病でひ弱なお前が勇者なんて認めない、の一点張りらしいですから・・・」
ローワン「この偉大な冒険譚を書物に残してもよろしいでしょうか。」
ヴィンツァー「こんな与太話でよかったら・・・」
シルビア・アシュレイ「ねえ、ローワンさん。どうせ本にするなら多少は忖度してよね。
例えば・・・世界を救った勇者の出自が農民はかっこが付かないじゃない・・・
名門貴族くらいにはしてよ。」
ヴィンツァー「それじゃあ、歴史の一次史料にならないだろ・・・」
シルビア「じゃあこうしましょう。正史と演義の二冊を書くってのは?」
ローワン「ま、まあ・・・それならいいか。演義の方は一般大衆にも売れそうだし・・・」

ローワンを見送る2人。
シルビア「・・・ねえ・・・そうなるとさ・・・あたしはあなたの娘ってことになるの・・・?」
ヴィンツァー「そこらへんは・・・まあ・・・複雑なんだよ・・・また今度話すよ・・・」
シルビア「今話しなさい。」



宿屋
ゼリーマン「ヨシヒコの旦那、ヴィンツァーの居場所がわかりましたぜ。
エゼルバルド市民ホールだ。そこの「HEROCON」でブースを開いてる。」
ヨシヒコ「・・・ヒロコン??」
ゼリーマン「引退した勇者がファンと握手したりサインしたりして小銭を稼いでいるケチなイベントですよ。」
ヨシヒコ「でも、それはちょっと楽しそうじゃないか?」
ゼリーマン「爺さん達にスライムをいじめた武勇伝を聞かせられるだけです。」
ヨシヒコ「君がヴィンツァー卿と確執があるのはなんとなくわかる・・・
だが・・・彼は臆することなくハルピュイアの埋葬を買って出てくれた・・・高潔な人物じゃないか?」
ゼリーマン「まあ、あいつは昔から甘ちゃんだからな・・・」
椅子から立ち上がるヨシヒコ「僕は決めた。あの人に魔王から桃乃を救い出してもらう。」
ゼリーマン「まあ旦那がそう言うなら・・・」
ヨシヒコ「名刺は・・・足りてるな・・・よし、行こう。
ぼくはリクルートがうまい。見ててくれ。」



エゼルバルド市民ホール「HEROCON」
ヴィンツァーに説教するシルビア「あなたはホントにダメな男ね・・・
なんでそこで母さんを捕まえなかったのよ・・・!」
ヴィンツァー「告白したさ・・・でもその翌日に「世界を救った勇者熱愛発覚!」って週刊誌の記事が出て、それで・・・世界中の婦人からリネットに誹謗中傷の手紙が届いて・・・
とてもじゃないけど普通の生活が送れなかったんだよ・・・」
シルビア「は~バッカみたい・・・」
ヴィンツァー「それに、その頃には、君の母さんはハルティロードの首席神官になっていたんだ・・・
ぼくは王立騎士団の軍事顧問が忙しかったし・・・なかなか二人の時間が取れなくて・・・」
シルビア「あ~あ・・・あたしの父さんは一体誰なのかしら。」
ヴィンツァー「ぼくがいるからいいじゃないか・・・」
シルビア「そういう問題じゃないの。」

その時、スーツの男がヴィンツァーのブースに現れる。
ビジネスマンのスーツはボロボロだ。
ビジネスマン「・・・あなたがスナイデル・ヴィンツァーさん・・・??」
ヴィンツァー「え?ええ・・・」
シルビア(不思議な服装の人ね・・・)
ヴィンツァー(う、うん・・・)
名刺を差し出すビジネスマン「わたくし、コマキ社の開発部主任、泉良彦と言います・・・」
ヴィンツァー「・・・このカードにサインを書けばいいですか?」
突然頭を下げるビジネスマン「伝説の勇者様!世界を救ってください・・・!」
ひるむヴィンツァー「い・・・いや、それはもう私の力ではどうにも・・・」
ビジネスマン「あなたの世界じゃない・・・私の世界が危機なんだ・・・!」
ヴィンツァー「・・・?いったいどういうことでしょうか・・・
それに、私はもう勇者稼業は引退しておりまして・・・
信頼できる人物をご紹介しますので、どうぞそちらに・・・」
ゼリーマン「久しぶりだな・・・ハナタレ・・・」
ヴィンツァー「ぜ・・・ゼリーマン・・・!なんで君がここに・・・!」



賑やかな酒場
お客がピンボールやビリヤードに興じている。

名刺を机に置いてヴィンツァー
「お話はだいたいわかりました・・・奥様がガリア帝国の魔王ハデスに捕らえられたと・・・」
ゼリーマン「来月までに救出しないと、この人の会社が倒産しちまうんだよ。
魔王退治なんか何度もやってんだろ。つべこべ言わずにやるんだ。」
ヴィンツァー「ちょっと待ってください・・・私は魔王なんて倒したことないよ・・・」
ヨシヒコ「あなたは、信用できる人だ・・・
ずっと前に、なんたら・・・っていう邪神も退治したって聞きました。」
ヴィンツァー「あ・・・あれも・・・退治したって言っていいのかどうか・・・」
ゼリーマン「ほら、嘘だって言ったじゃないっすか。
こいつの武勇はだいたい嘘なんだって・・・
そもそも子どもの頃、この俺に捕まって醜い命乞いをしたようなやつだぜ・・・」
ヨシヒコ「君に負ける人間がいるのか・・・?」
ヴィンツァー「はは・・・こりゃまいったな・・・」
シルビア「はは・・・こりゃまいったな、じゃない!!」
机をどんと叩くシルビア。
シルビア「あんた・・・さっきから聞いてれば、うちのヴィンツァーを嘘つきだの、腰抜けだの・・・ずいぶんな言い方ね!あんたがここでのんきにバドワイザー飲めてるのは誰のおかげだと思ってんのよ!!」
ゼリーマン「何だ、この凶暴なシスターは・・・お前本当に聖職者か?」
ヴィンツァー「まあまあシルビア・・・楽しい酒の席だからさ・・・」
シルビア「言ってやりなさいよヴィンツァー!
あなたたちが命懸けで戦ったから、世界から黒死病が消えたって・・・!!」
ヨシヒコ「そうなんです・・・よね??」
ヴィンツァー「ま、まあ・・・確かにゼリーマンの言うとおりで・・・黒死病の治療法を見つけたのはヘルシング博士だし、実際に感染者の治療に当たったのはリネットだからなあ・・・」
ゼリーマン「ほら見ろ。それをお前の手柄にしやがって・・・
で、国王や大神官からいくら報奨金もらったんだ?お父さんに半分回しなさい・・・」
ヴィンツァー「ずっと昔にリネットが設立した医療基金にまるごと寄付しちゃったよ・・・」
ゼリーマン「はい身内の脱税法人来ました・・・」
ヴィンツァー「そうじゃないって・・・」
ゼリーマン「じゃあ、リネットのやつの居場所を教えろ。取立てに行く・・・」
シルビア「母さんはとっくに死んだわよ。」
ゼリーマン「・・・え?あいつが??・・・本当か。」
ヴィンツァー「ああ・・・なのであの頃の仲間は・・・もう君くらいしかいないんだよ。」
ゼリーマン「そうか・・・あの憎たらしい奴が、そんなあっけなく死んじまうとはな・・・」
ヴィンツァー「あれでも、シスターになってからはしおらしくなったんだよ・・・
でも・・・リネットは、聖女として・・・無理をしすぎたんだと思う。
白魔法は・・・自分自身の生命エネルギーを消耗してしまうから。
だからロストミンスターの戦いの時には、すでに余命が幾ばくもなかったんだ・・・」
ゼリーマン「バカ野郎が・・・あの時きりがねえって言ったのに・・・」
ヨシヒコ「・・・なんか、一気に頼みにくくなったな・・・
分かりました・・・この話は聞かなかったことにしてください。
ゼリー、行こう・・・ボクら二人で暗黒大陸に渡るんだ。」
ゼリーマン「だ・・・旦那・・・いいんすか?」
立ち上がって会計をしようとするヨシヒコ「ああ・・・これはRPGのゲームじゃない・・・
この世界だって死んでしまったら、それでおしまいなのだから・・・」
シルビア「あ・・・ヴィンツァー・・・やってあげなさいよ・・・!
あの人、戦時中の暗黒大陸に丸腰で行くつもりよ・・・!すぐに殺されちゃうわ・・・」
ヴィンツァー「・・・でも・・・」
シルビア「なにも、今度は世界を救えってわけじゃないのよ、ただの民間人の救助よ。
戦に出て殺し合うわけじゃないじゃない・・・!」
ゼリーマン「あばよ、腰抜け。あの世のリネットもシドニアもガッカリだろうぜ・・・」
その言葉にぴくりとくるヴィンツァー「待ってくれ・・・
確かにぼくは腰抜けだ・・・
でも、リネットやウィンロードさんを失望させる人生は送りたくない・・・
ヨシヒコさんと言いましたね・・・座ってください・・・」
戻ってくるヨシヒコ「・・・」
ヴィンツァー「ガリア帝国の魔王はハデス・モルドレッドと言います・・・
彼のことはよく知っています・・・今では魔王とは呼ばれているが気のいいやつでね・・・
たしかに女好きでしたが、嫌がる女性を無理やりさらうような真似はしないはずだ・・・」
ヨシヒコ「ま・・・魔王と知り合いなんですか??」
ヴィンツァー「同じパーティだったんですよ・・・」
ヨシヒコ「え?えええ??」
ゼリーマン「ふん、立場が人を変えちまったんじゃねえのか??」
ヴィンツァー「だとしたら・・・ぼくは古い友人を諫めないといけない・・・
分かりました。ぼくは殺し合いは嫌いだが・・・魔王までの案内と護衛をお引き受けします。」
深々と頭を下げるヨシヒコ「あ・・・ありがとうございます・・・!!
いくらお支払いすれば・・・!」
にこりと微笑むヴィンツァー「あの時の金貨でけっこうですよ。」

――泉ヨシヒコのパーティに伝説の勇者スナイデル・ヴィンツァーが仲間になった!




ドリームワールドのコントロールルーム
妖精は蛍のように発光し、室内をふわふわと飛び回る。
脚についた手紙はすでにない。
結城「きいい!小うるさい便所バエだよ!死んで地獄にゴートゥーヘル!!」
ハエたたきで潰されてしまう妖精。
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