薄暗い書斎
ひとりの修道士風の学者が本を執筆している。
ゴート大学主席司祭ローワン・ウイリアム
「私が勇者スナイデル・ヴィンツァーと出会った1370年の秋・・・まさかヴィンツァー卿の最後にして最大の冒険が始まるとは誰が予期したであろうか。
この偉大な『ラストパーティ』の物語を始める前に、我が世界を取り巻く情勢について簡単にまとめておきたい。
ブリジッド王国とガリア帝国の全面戦争が開始されたきっかけは、同じ年の春のことであった。
ストレイシープ村、クヌート砦、エゼルバルド城といったブリジッド王国領のいくつかが、突如異世界から襲来したコマキ国によって制圧されたのである。
当時、ブリジッドとガリアは王位継承をめぐって緊張関係が続いており、この奇襲攻撃をブリジッド国王のライオンハーテドは、ガリア帝国によるものだと断定し、宣戦布告。
対するガリア帝国の皇帝、ハデス・モルドレッドも、この奇襲攻撃はブリジッドによるでっち上げであるとして徹底抗戦・・・神都ハルティロードの大神官イノストランケヴィア3世を捕囚し、聖地を大陸内のパーガトリーに移転してしまった・・・
王位継承権を持つイノストランケヴィアを奪われたライオンハーテドは勇敢にも王自ら先陣を切ってガリア大陸に進軍・・・しかし戦に敗れハデス城に人質にされてしまった。
これにより戦況は一気にガリア帝国が優勢となり、ガリア軍はブリジッド島に上陸・・・
数々の砦を落とし、村を焼き討ち・・・略奪行為を繰り返した・・・
その中には、異世界が制圧したストレイシープ村も含まれていた・・・
このとき、ガリア軍は多くの侵略的外来モンスターを送り込んだという。
しかし、これには不可解な点がある。
ガリア大陸のモンスターは全て、最強の剣士シドニア・ウィンロードによって討伐され絶滅したはずである。ハデスは一体どこからモンスターを召喚したのか?
そもそも、この戦争を引き起こした異世界のコマキという国家の目的は何だったのか?
いずれにせよ、強大な召喚獣、オディオサウルスによってコマキ国が制圧したストレイシープ村は壊滅し、コマキ国は地図から姿を消したのである。
しかし、コマキ国は最後に一人の勇敢な戦士を召喚した。
彼こそはサー・イズミ・ムツヒコ・・・トウキョウトチュウオウクを所領とするキギョウ戦士で、爵位はシュニン。彼の目的は唯一つ・・・オディオサウルスによってさらわれた最愛のプリンセス・・・レディ・ヒメカワを救出すること・・・
その崇高な自己犠牲の精神に胸を打たれた、勇者ヴィンツァーはサー・イズミに忠誠を誓い彼とともに最後の冒険に旅立つのであった・・・
さて、サー・イズミが勇者の協力を得たのと同じ頃、エゼルバルド城内ではガリア軍の襲来に備えて、王立騎士団長ベオウルフ・レイセオンが作戦会議を開いていた――」
・
エゼルバルド城内
作戦室へかけてくる兵士「伝令!クヌート砦も陥落!
敵軍の士気は高く、6日後にはエゼルバルド城に到達予定!」
キャッスルヴァニア地方の地形図を眺めるベオウルフ
「ホーン平原での敗北でマイヤー砦を奪われたのが致命的だったか・・・
敵軍の数は?」
兵士「3000!」
ベオウルフ「ふむ・・・半分以上差し向けてきたか・・・
しかし、それだけの人数の兵糧を長期間確保するのは不可能・・・
じきに季節は秋・・・ここをしのげば引き上げるか・・・」
兵士「実際ガリア軍の食料不足は深刻で、近隣の村を手当たり次第略奪しています・・・!」
ベオウルフ「まるでイナゴだな・・・
短期決戦でエゼルバルドを陥落させ食い扶持を凌ぐつもりか・・・」
兵士「ベオウルフ騎士団長いかがいたしますか?」
ベオウルフ「こちらの兵力は800・・・連中はカタパルトを上陸させていた・・・あれで城内に火炎弾を投げられたら防壁は意味をなすまい・・・
6日の猶予があるならば・・・この城を捨て王都まで兵を引くことも可能だが・・・
民間人を見捨てることになろう・・・
ふっ、騎士の名誉をかけて迎え撃つのも一興か・・・」
兵士「・・・え?」
ベオウルフ「・・・え??」
兵士「いや・・・逃げないんですか?相手の兵力は二倍以上ですよ?カタパルトも持ってるし・・・」
ベオウルフ「・・・ちょっと考えさせてくれ。」
兵士「逃げるなら今しかないですよ!
あなた、いつもかっこうばっかりつけて勝機逃すじゃないですか・・・!
この前のホーン平原の戦いだって栄(ば)えるけど重くて使いにくいロングソードなんて選ぶから・・・」
ベオウルフ「陛下から賜った聖剣エクスカリバーだぞ?せっかくだから使ってあげないと・・・」
兵士「どうでもいいでしょそんなの!その聖剣が役たたずだったから負けたんじゃないですか!」
考え込んでしまうベオウルフ「う~ん・・・」
兵士(ダメだこの人・・・!この人自身は一騎当千でも軍を率いる才覚があまりにもない・・・!)
ベオウルフ「でも・・・赤壁の戦いでは10万の曹操軍に対し、孫権劉備軍は・・・」
兵士「うちに諸葛孔明がいますか?」
ベオウルフ「う~ん、心強い援軍がいればな・・・」
兵士2「伝令!ちょうど市民ホールでHEROCONが開催されています!
元勇者の皆さんに協力してもらえば・・・!」
ベオウルフ「でも、ランスロット卿もロビンフッド氏ももう、90・・・100・・・?だよ??
あの頃とはもう武器や戦術も違うしなあ・・・」
兵士2「騎士団長!僥倖です!
なんとあの伝説の勇者スナイデル・ヴィンツァーもサイン会をやっていたとの報告!」
兵士「それは誠か!団長、これは不幸中の幸いですぞ・・・!」
ベオウルフ「ただなあ・・・ヴィンツァーくんは確かに一騎当千だが、軍を率いる才覚がない・・・」
兵士「お前やん・・・」
ベオウルフ「・・・え?」
兵士「・・・え??」
・
エゼルバルド城メインゲート
門が封鎖され、行商人らを中心に人だかりができている。
ゼリーマン「おいおい!なんで跳ね橋が閉まってるんだよ!!」
衛兵「申し訳ありません、領主ベオウルフ様の命で、非常事態宣言が出されました!
城内のすべての人と物の移動を禁じます!」
ヨシヒコ「出れなくなったってことか・・・」
シルビア「入れなくもなったわ・・・」
ヴィンツァー「まいったな・・・最悪のタイミングで街に来てしまった・・・これは籠城戦だ・・・」
シルビア「なにそれ?」
ヴィンツァー「相手が飢えや寒さに負けて引き上げるまで城内でひたすら耐える。」
ゼリーマン「最悪の手だな。」
ヴィンツァー「理由を聞こう。」
ゼリーマン「オレたちは先日ガリア軍に襲われた。連中は周囲の村の連中を皆殺しにして食料を残らず奪っている。キャッスルヴァニアの村はいくつだ?100はあるだろ・・・すべての穀物生産量を合わせると・・・エゼルバルド城の備蓄を大きく凌ぐ。それにブリジッド島の南部海岸はすでにガリア軍が抑えている。兵站も確保されているってことだ。」
シルビア「今年は不作って聞いたけど・・・」
ゼリーマン「それはそれで地獄だぞ。困窮した軍隊ほど狂暴なものはねえ。
もうひとつ。連中は巨大なカタパルトを複数台陸揚げしている。」
ヨシヒコ「僕も見た。」
ゼリーマン「俺なら、火炎弾を壁の内側に投げ込んで火災を起こして放置するぜ。
これで自軍の犠牲はゼロで城を落とせる。
・・・ベオウルフとはどこのバカだ?」
ヴィンツァー「・・・さ・・・さあ・・・」
兵士がかけてくる「失礼します!ヴィンツァー卿!
我が主君ベオウルフ卿がエゼルバルド城本丸でお待ちです・・・!ご同行願えますか?」
ヴィンツァー「・・・・・・。」
兵士「大切な旧友をお忘れですか?ベオウルフ・レイセオン卿です・・・!
学生時代に一人の女性をめぐって決闘を行ない、互いに讃えあったとか・・・!」
ヴィンツァー「・・・いきます・・・」
ゼリーマン「おい・・・」
・
エゼルバルド城作戦会議室
兵士に案内されるヴィンツァー一行
両手を広げて歓迎するベオウルフ「いや~・・・久しぶりだねヴィンツァーくん・・・!」
ヴィンツァー「ご活躍のようで・・・」
ベオウルフ「戦嫌いの君にとっては不幸だが、ぼくにとっては幸いかな。
6日後にガリア軍がこの城を攻めてくる。
ぜひ、力を貸してほしい。金と地位のある美形の僕からのたっての願いだ・・・」
すると、いきなりゼリーマンを蹴とばすベオウルフ。
ゼリーマン「いてえな!何すんだ!」
ベオオルフ「誰だ!この城に汚れた魔物を入れたやつは!」
兵士「え?全身をゼリーで塗った潜入捜査官なんじゃないんですか?」
ベオウルフ「そんな奴いるわけないだろ!!」
ためらわず剣を抜くベオウルフ
「邪悪な魔物め、この私がところてんにしてくれるわ・・・!」
ヨシヒコ(この剣どこかで・・・
はっ、ホーン平原の戦場で怯える小田さんの首を飛ばした騎士だ・・・
この男、見かけは上品だが、暴力をためらわない殺戮者だ・・・!)
ベオウルフ「醜い怪物に生まれたことを後悔するがいい・・・!死ね!!」
ゼリーマンに剣を薙ぐベオウルフ。
その剣をヴィンツァーがとっさに受け止める。そして返す刀でベオウルフの剣を跳ね飛ばしてしまう。
ベオウルフ「何をするんだヴィンツァー!」
ヴィンツァー「ぼくは師匠にこう教わった・・・いたずらに命を奪う者に剣を握る資格はないと・・・
この魔物は善良だし知恵が回る・・・きっと役に立ってくれる・・・」
剣を拾って鞘に収めるベオウルフ
「くっ・・・今回は旧友の顔を立ててやる。しかし、二度とこの城には来るな。次は殺す・・・」
ゼリーマン「生きてるだけで罪ってか・・・」
ベオウルフ「おい、お前。口は達者なようだが、本当に賢いか証明してみろ。
この戦況お前ならどう戦う?」
ゼリーマン「遠慮なく言っていいのか?」
ベオウルフ「許す。何でも言いたまえ。」
シルビア「・・・言ってやれば?」
ヨシヒコ「うん・・・」
ゼリーマン「どこのバカが考えたのか知らんが、この期に及んで籠城をするなど最も愚かな選択だ。」
剣を抜こうとするベオウルフを慌てて止めるヴィンツァーとヨシヒコ「許すっていっただろ・・・!」
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