『ラストパーティ』脚本㉒

闇の中で、名探偵黒神志郎がこちらを向く。

黒神
「え~みなさんはじめまして・・・ホーンテッドレジデンスへようこそ・・・
この常夜の世界には999の亡霊が存在し、あなたを1000人目の仲間にしようと狙っているのです・・・え?そんな怪談はありきたりで怖くない・・・?
ああ・・・失礼しました・・・あなたはすでに亡霊でしたね・・・」



大雨の夜。
不気味な針葉樹の森の車道で一台の車が立ち往生している。
助手席のヴィンツァー「あれ?動かなくなったよ?」
ハザードランプを付けるゼリーマン「くそ・・・こんなところでエンジントラブルとはな・・・」
ヴィンツァー「こんなところに本当に黒神さんは住んでいるの?」
ゼリーマン「警視庁の警部補を定年退職してからは・・・このあたりの洋館に隠居しているって聞いたが・・・」
ヴィンツァー「直せそう?」
車外に出てボンネットを開けるゼリーマン「なるほど・・・3番バーニアがディストリビュータしてATフィールドがファルシでコクーンしてるぜ・・・」
ヴィンツァー「つまり?」
ゼリーマン「ホワイトからもらったこのリムジンは廃車だ・・・残念だがな・・・
傘があったな。車から出ろ。ここからは歩きでいく・・・」
ヴィンツァー「風邪ひかないかなあ・・・」
リムジンを乗り捨てる2人。
運転席のメーターパネルには、ただ「ガス欠」と表示されている。



不気味な屋敷にたどり着くゼリーマンとヴィンツァー。
ゼリーマン「化物がいそうな薄気味悪い洋館だぜ・・・」
ヴィンツァー「化物の君が言うんならそうなんだろうな・・・」
チャイムを鳴らして、扉をどんどん叩くゼリーマン
「お~い!出てこい名探偵!チンケな殺人事件よりも戦場で大量虐殺を解決しないか!!」
ヴィンツァー「チンケって・・・」
その時、屋敷の中で悲鳴が上がる。
2人「!!」
ゼリーマン「惨劇の舞台の幕が上がったようだぜ・・・めんどくせえから帰るか。」
扉を蹴破るヴィンツァー「女性の声だ!!今助けに行きます!!」
ゼリーマン「おい、馬鹿!!」
メインエントランスに飛び出すと、傍らに地下室への小さな扉が空いているのに気づく。
ヴィンツァー「きっとあそこだ・・・!女性を守らなくては・・・!」
そう言うと剣を抜き地下室に降りていく。

地下室には、不気味な拷問器具が並んでいる。
その内の一つ、アイアンメイデンの扉がしまっており、隙間から血液が流れ出している。
ヴィンツァー「!!」
アイアンメイデンを開けるヴィンツァー。
すると、串刺しになった少女が現れる。
少女(小石川ちおり:元少女漫画家)「超いて~」
ヴィンツァー「け・・・怪我の手当を・・・!」
地下室を眺めるゼリーマン「なんつー悪趣味な部屋だ・・・」
その時、ぞろぞろと屋敷にいた他の人間も地下室に入ってくる。
屋敷の人間は7人で全員が若い女性である。
女2(井口ひろみ:元ピアニスト)「きゃああああ!!
悲鳴を聞いて駆けつけたら小石川ちおりちゃんが串刺しに・・・!!」
ヴィンツァーを指差す双子の女性3・4(鏡さき・鏡みき:元脚本家)「あなたがやったの・・・?!!」
ヴィンツァー「え・・・ちが・・・」
ちおりの脈を見る白衣の女性5(小田嶋さくら:元医師)「ご臨終です・・・」
ちおり「え~生きてるよ!」
ちおりの首に手刀を入れて気絶させるさくら「ふん!・・・ご臨終です・・・」
ひろみ「きゃあああ殺人事件ですわ・・・!!」
双子「あの騎士が殺したのよ・・・!凶器はあの剣よ・・・!」
ゼリーマン「鉄の処女じゃないんかよ・・・」
女6(宇佐美よわか:元高校教師)「ひいいい!!こっちには硫酸で溶けた死体が・・・!」
ゼリーマン「俺のこと言ってんのか?」
宇佐美「死体が・・・しゃべって・・・はわわ・・・」
心臓麻痺を起こして倒れてしまう宇佐美。
脈をとるさくら「こいつもご臨終です・・・」
女7(鳳桐子:元華道家)「・・・この屋敷でみんな死ぬのよ・・・
そして、私の灰色の脳細胞がこう言っている・・・犯人はあなたたちだってね!」
桐子に指をさされるヴィンツァーとゼリーマン。
さくら「うん。ほぼほぼ現行犯だしね。」
ヴィンツァー「ちょっと待ってください・・・!ぼくは屋敷の中から悲鳴が聞こえたので助けに駆けつけてただけで・・・!」
桐子「初めて屋敷に入った割には、随分スムーズにこの隠し部屋に来たわね・・・」
ヴィンツァー「そ・・・それは・・・昔こんなようなお屋敷に住んでいて、そこにも隠し部屋が・・・」
桐子「苦しいわね・・・」
剣を見せるヴィンツァー「それに見てくださいよ!この剣には血痕はついていない・・・!」
さくら「こんなところで剣を抜くんじゃない!!」
ひろみ「暴力反対ですわ・・・!」
慌てて剣をしまうヴィンツァー「あ、ああ・・・ごめんなさい!!」
桐子「簡単よ・・・あなたはその剣で小石川先生を脅して、アイアンメイデンに押し込んだのよ・・・封印された地下室の鍵は、そこの珍生物が体を変形させて、ドアの隙間から侵入し、内側から開錠・・・訳はないわ・・・」
ゼリーマン「密室トリックやりたい放題ってか・・・では聞こう。俺たちの犯行動機はなんだ?」
桐子「小石川ちおり先生の漫画は連載休止が多かった・・・
しかも直近の休載理由は、取材という名目のハワイ旅行・・・
作品への愛が憎悪に変わるのに時間はかからなかった・・・
それじゃ不十分かしら?」
ゼリーマン「不十分だよ!!バカバカしい、いこうぜヴィンツァー。黒神を連れて帰っちまおう。」
無言で出口に手をやる桐子「・・・・・・。」
ゼリーマン「いや・・・そこでスタッフロール出しても警察には行かねえぞ!!」

桐子「では、心臓麻痺に見せかけた第二の殺人はどう言い訳するのかしら・・・」
ゼリーマン「コイツが勝手にオレに驚いてくたばったんだろ、これはこれでひどい差別だかんな・・・?
それよりも、あんたらはなんで女ばかりでこの屋敷に集まってるんだよ・・・」
桐子「・・・ちょっとした同窓会よ・・・」
ゼリーマン「そうかな・・・?見たところ、年齢も職業もバラバラだ・・・全員大学のクラスメイトってわけじゃねえだろ・・・?」
ひろみ「謎の人物から招待状が届いたんです・・・」
ゼリーマン「招待状?そんなもん届いて、のこのこ本当に足を運ぶバカがいりゃあ詐欺師は苦労しねえんだ・・・その招待状を見せてみろ・・・」
ひろみ「それは・・・家に置いてきましたわ・・・」
ゼリーマン「くくく・・・読めたぜ・・・てめえら、この俺をはめようとしやがったな・・・
俺たちが来る前に、ちおりは・・・ちゃんと死んでなかったけど・・・アイアンメイデンの中でとっくに死んでたんだ・・・
そして俺がチャイムを鳴らしたタイミングで、てめえらは自身の犯行を俺たちに擦り付けることを思いついたんだ。てめえらこそ、ちおりの漫画のファンクラブなんだろ?
見てみろ、どいつもこいつも辛気くせえ根暗な女どもじゃねえか・・・」
鏡姉妹「ひどいわね・・・うんひどいわ・・・」
桐子「私たちが小石川先生のファンだという証拠はないわ・・・」
ゼリーマン「そりゃお互い様だろ。だが、これはオリエント急行殺人事件だ。てめえらがいくらでも口裏を合わせられるんだ・・・」
桐子「そのとおりよ・・・
そしてか弱い乙女たちと、醜い魔物のどちらの証言を裁判所は聞くかしら?
少なくとも、あなたは一人は確実に殺している・・・」
ゼリーマン「痛いところつくな、こいつ・・・」
ヴィンツァー「ゼリーマン頑張れ・・・!」
ヴィンツァーに囁くゼリーマン「俺たちが勝てる手がひとつだけある・・・」
ヴィンツァー「ほんとう?」
ゼリーマン「ここでお前がメイルシュトロームを打って、このバカ女どもを皆殺しにしちまえ。
作戦名は『そして誰もいなくなった』だ。」
ヴィンツァー「勘弁してよ・・・!!」
ゼリーマン「考えろ・・・俺たちがちおりを殺していない以上、犯人はあいつらなのは確定だ・・・
となると、連中は人を殺めるのに躊躇がない手練ということ・・・
人は見た目じゃねえ・・・甘い考えをしていると本当に消されかねないぞ・・・」
ヴィンツァー「でも・・・もし他に犯人がいたら・・・?
それにちおりちゃんがふざけて自分で鉄の処女に入ったってことはないの?」
ゼリーマン「それで痛くて叫んでたってか・・・糞馬鹿だな・・・
(何かに気づく)叫んだ・・・?」

ヴィンツァー「ゼリーマン・・・?」
ゼリーマン「おい、女ども・・・お前ら何が聞こえて地下室に駆けつけたって言った?」
鏡姉妹「え?え?」
唇を噛み締める桐子。
ゼリーマン「おい、ピアニスト・・・お前最初にこう言ってなかったか?
悲鳴を聞いて駆けつけたと・・・」
ひろみ「ええ・・・それが何か・・・?」
ゼリーマン「アイアンメイデンはエレガントな拷問器具だ。犠牲者の悲鳴は決して外には漏れない・・・」
ひろみ「・・・え?」
ゼリーマン「お前らは一体なんの悲鳴を聞いたんだ??」
桐子「・・・バレてしまったら仕方がないわね・・・」
2人に近づいてくる女たち。
ヴィンツァー「ゼリーマン、まさか本当に彼女たちは・・・」
ゼリーマン「ああ・・・プロのアサシンどもだ・・・
なあ・・・殺される前に、あんたらがこの屋敷に集まった理由を教えちゃくれないかね・・・」
桐子「・・・復讐よ。」
ゼリーマン「復讐?」
桐子「私たちは全員、この屋敷の主、黒神警部補に完全犯罪を崩されて逮捕されたのよ・・・」
ひろみ「ええ・・・毎週たった40分で・・・」
さくら「わたしたちが殺人事件起こすと必ずあの刑事いるからな。」
鏡姉妹「私たちなんてわざわざオーストラリアで手の込んだ双子トリックをやったのに・・・!!」
ゼリーマン「なるほど、読めたぜ・・・」
ヴィンツァー「どういうこと?」
ゼリーマン「こいつらの目的も黒神志郎なんだ・・・
殺人犯どもが事件を起こす前に、名探偵の自宅に殴り込んできやがったのさ・・・」
膝を打つヴィンツァー「それ、なんで今まで誰もやらなかったんだろう・・・!」
ゼリーマン「・・・で、ターゲットは殺せたのかい?」
桐子「襲撃を事前に察知したのか、屋敷内のどこにもいなかったわ・・・」
ひろみ「そして、最後にみなさんでこの隠し部屋を捜索していたら・・・
ちおりちゃんがまちがってアイアンメイデンに挟まっちゃったんですわ・・・」
ゼリーマン「ふつうに馬鹿だろ・・・」
ヴィンツァー「でも、犯行前に間に合ってよかったね・・・
黒神さんはまだ生きているってことだもん・・・」
ゼリーマン「だが、この屋敷にいないとなると・・・一体どこだ?」

その時、拷問室の隅にあった柩が開く。
一同「!!!」
柩から起き上がる紳士「さっきからうるさいな~君たちは・・・」
桐子「いたわ!!黒神警部補よ!!」
黒神「・・・?おや、ご無沙汰しております。お元気でしたか?」
ゼリーマン「おい・・・あんた、今、名探偵人生で一番危険な状況にあるぞ・・・」
ヴィンツァー「逃げてください!この人たちみんな殺人犯です・・・!!」
黒神「心配はいりません・・・
これまで私が関わってきた多くの犯罪者たち。彼らに共通しているのは、誰一人逮捕の瞬間、悪あがきをしなかったと言うこと。誇り高き殺人者。そして、それが私の自慢でもあるのです。」
なぜかじ~んとしてしまう犯人たち「・・・・・・。」
微笑む黒神「・・・さあ、同窓会を開きましょう。」
歴代犯人たち「は・・・はい・・・!」
ヴィンツァー&ゼリーマン「・・・なんだこれ・・・」

――「ホーンテッドレジデンス」の名探偵黒神志郎が仲間になった!
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