鏡と自己形成の「キャッチ22」

 このブログは私のとりとめもない思いつきを、日常会話のていでバカスカタイプしちゃているのですが、前回の鏡の話の記事はまとまりがさすがに悪かったので(酔っぱらいがうったみたいだ)、何が言いたかったか整理しようと思います。
 そもそもラカンはけっこう難解なんですよね。そしてそれ以上に私はあまり「鏡」というものを意識していなかったのが良く分かりました。考えてみれば鏡って結構面白いですよね。

 まずラカンの主張のおさらい。
「赤ちゃんが自分の体をうまくコントロールできないのは、自我のイメージが未熟だからである。生後6か月~18か月の時期に赤ちゃんは鏡に映った自分の姿を見て、自分自身の統一したイメージを獲得する(鏡像段階論)。」

 疑問:赤ちゃんは鏡抜きでは自分の統一したイメージが獲得できない?

 私はラカンの言う、人間の発達段階における鏡の重要性を全否定はしていません。ただ、自己のイメージの統一には他の要因も多分にあると思っています。
 たとえば鏡が無くても、自分の腕や体は見えます。楽々視界に入るんで。鏡が無いと見えないのは顔や後頭部や背中なのですが、人間は目しかないわけではないので、触って形状をなぞることもできます。

 また触覚で言うならば、自己の認識には、他人との接触が重要な意味を持っていると思います。これは人間が社会的な動物だからだと思うのですが、たとえば「殴り合いの喧嘩をして人の痛みが解る」というベタな話があります。これはどういうことかと言うと、喧嘩をすれば「攻撃すると自分は痛くないが、攻撃されると自分は痛い」という自己と他者が異なる感覚を持っていることが実感できます。
 これは勿論喧嘩だけでなく、それこそ数え切れない様々な外的刺激のフィードバックによって、「もしかしてオレはあいつとは違うのか・・・?」というイメージを形成していくのです。

 鏡に映る自己像を自分のものと認識できる動物はゾウやチンパンジー、イルカと言った高度な知能を持つ動物だけであるという現在の研究からも、大雑把な推論が可能です。
 鏡がなければ自己が形成されないならば、鏡を見せても鏡の現象が理解できない動物は自己が認識できないということになってしまいますが、鏡が理解できなくとも、自分の痛みと他の個体の痛みが別であることは理解できているでしょうし(ライオンの赤ちゃんは取っ組み合いの喧嘩をすることで、社会性を学んでいる・・・と思う)、実際鏡が無くてもぶっちゃけほとんどの動物の生活にはあまり支障がありません。
 
 つまりラカンの理論は典型的な「キャッチ22(ニワトリが先か卵が先か論争)」で、私は鏡があってそれから自己認識ができるのではなく、高度な自己認識力、すなわちイメージする力を持った動物のみが、単に鏡を理解できているだけなのではないか?と思うのです。
 自然界の鏡、「水鏡」は太古の昔からあったが、それを理解できるほどの知性を持った動物が誕生するのはかなり時間がかかったというわけで。
 チンパンジーは調べたところ、野生の群でもけっこう鏡(水鏡)を活用しているらしいですね。そういや、BSのドキュメントで見たこと忘れてました。恐れ入りました。
 ゾウもサーカスするだけあって何気にインテリですからね。檻破り名人のブタも鏡が解るそうです。

 そう考えると、赤ちゃんが自分の体を上手くコントロールできないのは、自我のイメージ構成が未熟なだけではなく、その原因は主に生理的早産(脳の大きい人間の赤ちゃんは、母親の産道を通過するためにかなり未熟なうちに出産されること)による肉体の発達不足が原因だと考えた方が、やはりつじつまが合います。
 実際、サバンナで産み落とされるヌーの赤ちゃんなどは「鏡を見る前に!」立ちあがって歩きまわりますから。めっちゃ体コントロールしてますからね。ヌーとかトムソンガゼルの赤ちゃん。生後初日でバリバリです。

 結論:高度な知性、および社会性のある人間にとって自己のイメージの統合は重要な発達課題であるが、そのイメージ統合に鏡は高度な影響を与えてはいるものの、その全てではない(自分が他者にどう見られているかという、自意識の問題は鏡だけの話ではないから)。
 ゾウやチンプなどの「イメージを想像することが出来る高度な知能を持った動物」が、鏡の自己像を理解できるが、それは進化した脳の結果としてのいわば“応用”である可能性が高い。

 最後に、他者とのコミュニケーションが苦手な子ども(自閉症の子など)は、鏡に映った自分に戸惑うというYukiko Tさんの指摘について。
 自我の形成と鏡像認知は関わりはあるのですが、鏡像認知は心理テストの結果のようなものだと捉えた方がいいのかもしれません。
 この場合は「鏡像認知→自我形成」というラカンの主張する順序でなく「もともと他者とのコミュニケーションが苦手→鏡像に戸惑う」のだと考えています。
 私の親友のお子さんが自閉なのですが、自閉症はまだまだ分からないことが多いものの「先天的」なものらしく、生まれつき社会的なコミュニケーションをとることが苦手だそうです。
 たとえば鏡が理解できるほどの知能のある動物でも、コミュニケーション下手な個体は、鏡に映った自分の像が自分であると理解できず戸惑うそうです。
 他者との関わり合うことのできるコミュニケーション能力(=想像力!!)がまずもってあって、それによって鏡が解るのではないでしょうか?
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