理科教育法覚え書き③

 戦後の日本の理科教育の変遷について覚え書き。大まかな流れは社会科教育の歴史と似ている。

参考文献:畑中忠雄著『若い先生のための理科教育概論』

1945~1950年代(昭和20年~30年代前半)生活単元学習
終戦からしばらくは、理科教育にとっても混乱の時代であり、明確な指針がないまま、墨塗り教科書(戦中の軍事色の強い部分を黒で消した教科書)による教育などが行われた。
その後、新しい学校制度への移行に伴い、経験主義、道具主義を基礎とする子どもの自己・自発活動を尊重した生活単元学習、問題解決学習が進められた。
これは生徒主体の教育が叫ばれた時代の流れに歓迎され、当時の貧しい日常生活の改善につながる実用的な理科としても受け入れられた。
こうして生活単元学習は次第に日本に定着していったが、本家のアメリカで様々な問題点が指摘され、系統だった知識の伝達を求める声が高まった。

1960年代(昭和36年頃~)系統学習
生活とのつながりを重視しすぎたために散漫になってしまった生活単元学習の反省から、体系的な知識の伝達とそれに伴う確かな学力の定着を試みる系統学習が導入された。
この頃の理科の授業時間は週に4時間(※小学校高学年と中学校)もあり、教科書も活字だらけで分厚かった。
また中学校の理科で学習する内容も現在に比べてかなりレベルの高いものが含まれていた(熱機関や比熱、スペクトル、寄生と共生、腐敗と発酵など)。
しかし、系統学習が定着した頃、日本は高度成長期に入り、理科教育で扱う科学の情報量は飛躍的に増大、限られた時間やカリキュラムでは対応しきれなくなっていった。

1970年代(昭和45年~)探求学習
膨大な知識の注入より、科学の方法の習得を重視するのが探求学習である。
問題の発見、予測、観察、実験、記録、分類、グラフ化、推論、モデル化、仮説、検証といった科学の方法さえ身に付ければ、全てに渡る知識がなくとも科学的な問題を応用的に解決できるだろうという考え方に基づく。
しかし、ブルーナーの理論を応用した探求学習も、選ばれた素材をいじくりまわすだけ、豊かな枝葉を落とした幹と大枝だけの理科、日常生活からかけ離れ学校でしかできない理科の教育は、子どもの理科嫌いや理科離れを助長した、などの批判が挙がった。

1980年代(昭和55年~)ゆとり学習
いわゆるゆとり教育で、子どもの個性や能力に応じた教育を行い、人間性豊かな児童生徒を育てるという考えのもとに、授業時数や教科内容が削減された。
高校では、中学校で削減された内容を補う総合科目である理科Ⅰが新たに設けられた。
“薄い教科書、楽しい学校”というのが当時の謳い文句であった。

1990年代(平成2年~)ゆとり選択学習
自己教育力の育成、基礎・基本の徹底、個性と創造性の伸長、文化と伝統の尊重という4つの基本方針と隔週学校5日制のもとに行われた。
小学校低学年では理科が廃止され生活科が新設され、中学校では選択教科が拡充、高校理科Ⅰは廃止され、科目は再編成された。これにより高校では理科の4つの領域をすべて学習させる機会がなくなり、地学を全く学ばないで卒業する高校生も現れた。
授業時数は、たとえば中学校では70~105時間と幅を持たせられ、学校によって授業時数を選択でき、浮いた時間は選択教科に当てられた。

2000年代(平成12年~)生きる力と総合学習
隔週だった学校5日制が完全5日制になった。
生きる力の育成や総合的な学習の時間が新設された。子どもの個性をより重視する総合学習の導入は、さらなる教科の授業時数減少と、学力の低下をもたらした。
また、小学校4年の年間授業時数90時間や、中学3年の80時間は、一年35週で割り切れないため時間割を組むことすら難しく、現場を混乱させた。

2009年~(平成21年~)確かな学力
国際的な学力調査で、子どもたちの学力低下が問題視され(科学技術の恩恵の理解や科学者志向が諸外国に比べて格段に低かった)、授業時数や指導内容が大幅に増えた。中学校ではイオンや進化が復活し、充実した理科教育への回帰の時代と言われている。
高校の理科は内容に大きな変更はないものの、なぜか科目の名称だけ変わった。こういうことは現場がすごい迷惑するからやめてくれという意見が多い。
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