参考文献:松井徳光・小野廣紀著『わかる化学 知っておきたい食とくらしの基礎知識』、井上祥平著『はじめての化学―生活を支える基礎知識―』
モル濃度
12本の鉛筆を1ダースというように6.02×1023個の粒子を1モル(mol)といい、6.02×1023という数字をアボガドロ数という。
また、1molの質量は原子量や分子量に等しく、さらに1lの水溶液の中に溶けている溶質のモル数はM(モル濃度)と呼ばれ、モル濃度(mol/l)=モル数(mol)÷水溶液の体積(l)である。
以上のルールに従うと、0.1Mの水酸化ナトリウム(NaOH)を200mL調製するには、まず200mLに含まれる水酸化ナトリウムの量を求め・・・
0.1mol×200ml/1000ml
=0.02mol・・・①
次に水酸化ナトリウムの式量を求めれば良い。
水酸化ナトリウム(NaOH)は水素と酸素とナトリウムの化合物なので
1+16+23
=40g・・・②
①×②で
0.02×40=0.8
よって0.8gの水酸化ナトリウムが必要である。
こんな感じで、今度は塩化水素が7.3g溶けている水溶液が180mLあるときのモル濃度を計算してみる。
H=1、Cl=35.5なので、塩化水素の分子量は36.5
まずモル濃度は1lあたりの溶質のモル数なので、180mlで7.3gの溶質が溶けているなら、1lなら何gかを比で出してみる。
7.3:X=0.18:1
0.18X=7.3
X=40.5g
次に塩化水素は1lに36.5g溶けたときに1Mなので、40.5g溶けたら何Mかを求める。
1:36.5=X:40.5
36.5X=40.5
X=1.1
よってモル濃度は1.1Mである。
砂糖(ショ糖)171gに含まれる分子数
ショ糖の化学式はC12H22O11で、原子量12の炭素原子が12個、原子量1の水素原子が22個、原子量16の酸素原子が11個集まって出来ている。
したがってショ糖の分子量は
12×12+1×22×16×11=342
である。
つまりショ糖分子が6.02×1023個(1モル)集めるとその重さは342グラムになるというわけである。
問題ではショ糖の重さは171グラムで、ちょうど342グラムの半分なので、ショ糖の物質量は0.5モル、よって砂糖(ショ糖)171gに含まれる分子の数は6.02×1023個の半分=3.01×1023個だということがわかる。
水と電気陰性度
一般的に物質は分子量が大きくなるほど沸点や融点は高くなる(固体は液体に、液体は気体にしにくくなる)。逆に言えば、軽い物質ほど気体になりやすいということである。
しかし、分子量18の水と、分子量32の酸素では、水は酸素の半分くらいしか重さがないのに、水は液体、酸素は気体として一般的に存在している。
実際、大気を構成する物質の中で常温で液体なのは水だけだという。
その理由は、水分子が、水素原子に比べて圧倒的に電気陰性度の強い酸素原子が水素の電子を引きつけており、電子を剥ぎ取られた水素原子はプラスに、酸素原子はマイナスに帯電しているからである。
このような状態の分子を極性分子といい、水分子それぞれがちょうど磁石のような状態になっているため、酸素よりも軽い分子にもかかわらず液体として存在しているのである。
ちなみに、水の表面張力(表面をできるだけ小さくしようと分子どうしがくっつく力)が高い理由もそのためである。
氷
固体の氷が液体の水に浮くのは、氷の方が水よりも比重が軽いからである。
つまり同じ質量ならば水より氷の方が体積が大きいということである。実際、密封された容器に水を入れて凍らせると、容器が膨張し変形してしまう。
水も一般的な物質と同様に、温度を下げていくと分子の運動エネルギーが下がり、どんどん比重は重くなっていくのだが、その温度が4℃以下になると、今度は逆に軽くなっていってしまう。つまり水は4℃のときに最も重く、体積も縮小するということになる。
そのため4℃を下回った水は水面に浮いてきて、0℃になると凍りつく。
つまり水の場合は一般的な物質と異なり表面から凍っていく。だから氷点下20℃の湖も(表面にできた氷が蓋をするので)内部は凍らない。
このように固体の方が液体よりも比重が軽くなる物質は水やケイ素、ゲルマニウム、ガリウム、ビスマスなど僅かな種類だけである。
ではなぜ、水は固体の方が液体よりも体積が大きくなるのかというと、氷は水分子が水素結合で結びついて出来ているのだが、水分子のL字型の形状や、水素結合ができる方向が決まっているために、綺麗に並べても隙間が出来てしまい、そのため体積がかさばってしまうのである。
液体の場合は水分子は自由に動けるので、水分子の運動エネルギーが水素の結合エネルギーにまさっている4℃までなら温度を冷やせば冷やす分だけ隙間は小さくなり、密度は増えていく。
ちなみに、数千~数万気圧という強い圧力をかけて水を冷やせば結合が歪んだり重なったりして、水よりも比重が大きい氷を作ることができるらしい。
溶解
液体中にほかの物質が溶けて均一な混合物ができることを溶解という。
このとき、溶けている物質を溶質、溶かしている液体を溶媒という。
溶媒が水の溶液を水溶液というが、物質が水に溶けるしくみには、水分子の性質が大きく関係している。
水分子は、水素原子側がプラスに帯電し、酸素原子側がマイナスに帯電している極性分子であるため、塩化ナトリウムのようなイオン結晶を入れると、陽イオンのナトリウムイオンは酸素原子に、陰イオンの塩化物イオンは水素原子にくっついて、塩化ナトリウムは水分子に取り囲まれてしまう(水和)。
そのためイオン結晶は、水和分子となって水に溶ける。
しかし、水とグルコースが溶解してできた砂糖水や、水とエタノールが溶解してできたお酒など、イオンに分かれない物質でも水に溶かすことができる。
これはグルコースやエタノールの分子に、ヒドロキシル基という新水基があるからである。
ヒドロキシル基は水分子と同じく、水素原子側がプラス、酸素原子側がマイナスに帯電しており、ヒドロキシル基の酸素原子と水分子の水素原子、ヒドロキシル基の水素原子と水分子の酸素原子がそれぞれくっついて、水素結合が起こるため、エタノールは水によく溶ける。
炭酸
コーラのシュワシュワの正体は、液体中に強い圧力をかけて(沸点を上げられて)溶かされた二酸化炭素である。
つまり、二酸化炭素が気体となって液中から出て行ってしまうとシュワシュワはなくなってしまい、ただの黒い砂糖水になる。
気体となり膨張した二酸化炭素はペットボトルの上部にあるわずかな隙間に集まり、このためにペットボトルの内圧は上がる。栓を抜くとプシュッとなるのはこのためである。
このような炭酸ガスに限らず、温度が高くなり沸点を超えると液体は気体に状態変化をしてしまうので、炭酸飲料は冷蔵庫などで冷やして保存したほうが炭酸は長持ちする(ホットコーラが存在しないのもこのためである)。
とはいえ、一度栓を開けてしまったら炭酸ガスはキャップのわずかな隙間から抜けていくので、栓を開けてしまったものはお早めに飲んだほうが美味しい。
あと、ほんとどうでもいいけどコーラは昔薬局で売っていて、クリスマスのキャンペーンの際にはサンタクロースをコーラのイメージカラーであるレッドでコーディネートした。こうしてサンタの衣装は赤で定着した。
コロイド
コロイドとはろ紙は通過できるが、セロハン膜などの半透性の膜は通過できないくらいの大きさ(直径1ナノメートル~1マイクロメートル)の粒子である。
この粒子が溶媒中に均一に分散したものをコロイド溶液という。
コロイドは懸濁液(ほっておくとそのうち沈殿ができる溶液)の固体粒子よりは小さいが、真の溶液(溶質と溶媒の粒子の大きさが同じ)の中の粒子よりは大きい。
コロイド粒子には以下の3種類がある。
①分子コロイド
分子一つがコロイドの大きさのもの。デンプンやタンパク質など。
②会合コロイド(ミセルコロイド)
小さい分子が集まってコロイドの大きさになったもの。石けんなどの界面活性剤。
③分散コロイド
不溶性の固体(無機物質)がコロイドくらいの大きさになったもの。多くの金属。
また、コロイドは分散質と分散媒の組み合わせで8つに分類される。
①エアロゾル(分散媒が気体)
分散質:液体 分散媒:気体 霧、雲、蒸気、スプレー
分散質:固体 分散媒:気体 煙、粉塵
②泡沫
分散質:気体 分散媒:液体 スプレーフォーム(ムース状のやつ)
③エマルション(どちらも液体)
分散質:液体 分散媒:液体 牛乳、クリーム、マヨネーズ
④サスペンション
分散質:固体 分散媒:液体 ペンキ、印刷インク、墨汁
⑤ゲル(分散媒が固体)
分散質:気体 分散媒:固体 スポンジ、ウレタンフォーム、木炭
分散質:液体 分散媒:固体 寒天、ゼラチン、含水シリカゲル
⑥固体コロイド(どちらも固体)
分散質:固体 分散媒:固体 色ガラス、オパール
さらにコロイド溶液には以下のような特徴がある。
チンダル現象
コロイド溶液に光を当てると、コロイド粒子によって散乱した光の通路が見えること。
発見者のイギリスのジョン・チンダルに由来。
ブラウン運動
分散媒粒子とコロイド粒子との衝突で生まれる、コロイド粒子の不規則な運動。
発見者のイギリスのロバート・ブラウンに由来。
吸着
コロイド粒子の内部には微小な空間があるため、単位質量あたりの表面積は非常に大きい。
そのため、コロイド粒子はほかの物質に大量に吸着できる。これを利用したものが、消臭のための活性炭や、湿気を取り除くシリカゲルである。
電気泳動
コロイド粒子は電荷を帯びているため、電流を流すと自らが帯電している電荷とは逆の電極側に移動する。
また、コロイド溶液に逆の電荷を帯びた電解質を加えるとコロイドは沈殿する。
このとき少量の電解質を加えるだけで沈殿するコロイドを疎水コロイド、大量の電解質を加えて、塩析しないと沈殿しないコロイドを親水コロイドという。
さらに、沈殿しやすい疎水コロイドに、沈殿しにくい親水コロイドを加えて安定させたものを保護コロイドという。
太陽電池
太陽電池はアインシュタインの光電効果によって、太陽光のエネルギーを直接電気エネルギーに変えることができる装置である。ちなみに電池というが電気を貯めることは原理的にできない。
太陽電池は、太陽光で最も強い波長である緑色で光電効果を起こすシリコンの半導体で出来ている。
もう少し詳しく説明するとn型半導体とp型半導体を重ねた構造になっていて、p-nの接合部は電気的に打ち消されて空欠層という領域ができる。
これによりn型半導体のp型半導体に近い部分は相対的にプラスに、p型半導体のn型半導体に近い部分は相対的にマイナスになり、接合部分に電界ができる。
この接合部に太陽光が当たると、シリコンの結合が太陽光のエネルギーによって一部切断されて、自由電子と正孔が増える。
このとき出来た正孔(プラス)はp型半導体へ、電子(マイナス)はn型半導体へ引き寄せられ、導線に電気が流れる。
太陽電池は理想のエネルギー源だが、大量のエネルギーを作り出すとなると広大な面積の太陽パネルがいること、また、半導体を作るために多くの費用とエネルギーを必要とすることなど、課題は多い。
化学肥料
光合成に必要な炭素、水素、酸素は二酸化炭素や水の形で地球上にたくさんあるが、タンパク質を作るのに必要な窒素は空気中の窒素分子ではなくアンモニアの形でなくてはならず、その合成にはリンやカリウムが必要になってくる。
そのため農業で使う肥料には窒素を始め、リンやカリウムが含まれている。
窒素肥料の代表は硫酸アンモニウムと尿素で、尿素はアンモニアと二酸化炭素を高温高圧で反応させて合成される。
硫酸アンモニウムは土の中で分解されると硫酸が残って土が酸性化してしまう。
そのためアルカリ性の石灰をまいて土を中和するが、不溶性の硫酸カルシウム(石膏)ができて土が固まってしまう。
しかし尿素は土の中で分解してもアンモニアと二酸化炭素を出すだけなので、こういった心配はない。
リン肥料の代表はリン鉱石と硫酸を反応させて作った過リン酸石灰で、リン酸の一カルシウム塩や硫酸カルシウムなどを含む混合物である。
またリン酸アンモニウムのように窒素とリンをどちらも含んでいる複合肥料も存在する。
カリ肥料はリン酸二水素カリウムや硝酸カリウムなどが含まれている。
農薬
農薬には殺菌剤、殺虫剤、除草剤などがある。
そのどれもが、細菌やカビ、虫を殺し、雑草を枯らすが、作物には影響が出ないように作られている。しかし、作物と、作物に害を与える病害虫や雑草は、同じ生体物質で出来ているため、これを区別して効果を発揮する農薬を作ることは難しい。
殺虫剤には天然物と、それに由来するピレスロイド系、有機塩素系、有機リン系などがある。これらのほとんどは昆虫の神経系に作用し、人畜への毒性は低い。
除虫菊の花にはピレトリンという有効成分があり、この構造をもとに合成されたものがピレスロイドである。
有機塩素系殺虫剤はイネの害虫防除に使われてきたが、殺虫成分が農作物の中に残留し、人間にも害を与える可能性があるとして、現在ではほとんどが使用禁止となっている。
代表的なものがDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)で、これはカの駆除に優れた効果を発揮し、熱帯でのマラリアを激減させた。
この功績を称えられ、発見者のミュラーはノーベル医学生理学賞を受賞したが、大量に使用されたDDTが生物濃縮を繰り返していることがわかり、現在では多くの国においてDDTは禁止されている。反面、マラリアの発生は増えている。
有機リン系農薬は、強い殺虫力を発揮し、1930年代以降たくさんの種類の有機リン系殺虫剤が合成された。たとえばパラチオンは殺虫力も強いが人畜への毒性も強く、中毒事故も少なくなかった。
これをうけて、毒性が低く散布されて効果を発揮したあとは自然に分解されるようなものを求めて、マラチオンやフェニトロチオンが開発された。
除草剤は作物と雑草を区別し、後者だけを作用しなければならない。特に水田の雑草の除草剤は、同じイネ科でもイネ以外の植物だけに効果を発揮するものが開発されてきた。
ちなみに、もともと水田は雑草対策という一面がある(雑草の種は水中では呼吸ができないため育たない)。
除草剤の作用機構で植物特有なものは光合成への作用が挙げられる。
農薬は、化学的な構造が似た物質が同じような効果を示すだろうということで開発がされているが、ピレトリンと似ていないフェンバレレートのように、あまり似ていない化学構造の物質が同じような効果を示すこともある。
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