漢文学覚え書き②

参考文献:小川環樹、西田太一郎著『漢文入門』

契舟求剣
「契舟求剣(舟に刻みて剣を求む)」は『呂氏春秋』(『呂覧』)に収録された寓話である。
『呂氏春秋』は、秦の始皇帝の治世に総理大臣だった呂不韋によって編集された、古今の学説や思想を集めた書物で、チャプターが12ヶ月の季節によって分けられていたので、こう呼ばれる。日本では荻生徂徠が翻訳を行っている。

現代語訳
楚の国の人で、揚子江を渡る者がいた。
その剣を舟から水中に落としてしまった。
すると、にわかに舟に目印を刻んで
「我が剣が落ちたのはこの場所である。」と言った。
その後、舟が止まると、
舟に刻んだ目印のところから、水に入って剣を探した。
舟はすでに移動しており、剣は移動していない。
このように剣を探すとは、まあほんとうに見当違いではないか。

古くさい制度でその国を治めるのは、これと同じである。
時勢はすでに変化しているというのに、法は変化していない。
この法をもって国を治めようとするのは、どうして難しくないといえるだろうか?(いや難しい)

揚子江のほとりを過ぎる者がいた。
すると、(ある人が)小さい子を引いて川の中に投げ込もうとし、
子が声を出して泣いているのを見た。
そのわけを問うた。
その人は答えた。「この子の父は上手に泳げた。」
その父親が上手に泳げても、
その子どもがどうして急に上手に泳げるものだろうか(いやムリ)。

原文
楚人有渉江者、・・・①
其剣自舟中墜於水、
遽刻其舟曰、・・・②
是吾剣之所従墜、
舟止、
従其所契者、入水求之、・・・③
舟已行矣、而剣不行、・・・④
求剣若此、不亦惑乎、・・・⑤

以此故法為其國、
與此同、
時已徙矣、
而法不徙、
以此為治、
豈不難哉、・・・⑥

有過於江上者、・・・①
見人方引嬰児而欲投之江中、
嬰児啼、
人問其故、
曰、此其父善游、
其父雖善游、
其子豈遽善游哉、・・・⑥

留意すべき文法事項
①「楚人有江者。」(そひとにこうをわたるものあり)
 「有於江上、」(こうじょうをすぐるものあり)
返り点も少なく、書き下し文にしやすいので、授業最初の肩慣らしとしてうってつけである。
ちなみに、テキストによれば「江」と書くと基本的には「長江」すなわち「揚子江」を指し、同様に「河」と書くと「黄河」を指すという。

②「遽刻其舟曰」(にわかにそのふねにきざみていわく)
「遽」は、「にはかに」と読み、「突然に」という意味の形容動詞である。

③「従其所刻者、入水求之」(そのきざみしところのものより、みずにいりてこれを もとむ)
「従」は「より」と読む。

④「舟已行矣、而剣不行、」(ふねはすでにゆけり、しかもけんはゆかず)
「已」は「すでに」と読む。
置き字の「矣」に注意させる。
「而剣不行」の「而」は、置き字ではなく「しかも」と読む。
文中の「而」は読まないが、このように文頭にあると「しかも」「しかるに」など読む。

⑤「求剣若此、不亦惑乎、」(けんをもとむることかくのごときは、またまどいならずや)
「若」は、「ごときは」と読む。
「亦」は「また」と読む。
「惑」は、「まどいなら」となる。
この文章は詠嘆で、意味は「まあほんとうに~ではないか」となる。

⑥「豈不難哉、」(あにかたからずや)
 「豈遽善游哉、」(あになんぞよくおよがんや)
どちらも反語的な詠嘆で「どうして~だろうか、いや~でない。」と訳する。

指導上のポイント
この文章は二部構成になっていて、まるで歌の歌詞の一番と二番のように出だしと末尾の文章が対応している。
内容もリンクしていて、一番では、時勢は移り変わってゆくこと、二番では、世代も交代していくことを説いている。
このように、漢文は教訓を十中八九、例え話(寓話)にする。
つまり、時代の流れを揚子江の流れに見立て、動いている船に乗っていながら、動かない剣(古い制度)に固執することを戒めているのである。
まずは、こういったメタファーに気づき、そこから情景をイメージしていった方が学生は内容を理解しやすい。
そこで、むしろ中盤の「時已徙矣、而法不徙、以此為治、豈不難哉、」から訓読させ、作者が伝えたい教訓を理解してから、では今回はどういった例え話をやっているのだろう?と投げかける授業展開も効果的だと考えられる。
いずれにせよ、漢文は寓話であるという点と、注意すべき助辞を押さえさせれば、漢文の内容理解がパターン化し、効率よく訓読できるようになるはずである。
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