国語科教育法覚え書き③

 ワン・モア・ソウセキ。

夏目漱石『こころ』の授業計画

学年:高校2年
時数:4時間

作者の紹介
明治~大正時代の作家。本名は夏目金之助。
金之助は、母親が年をとってから生んだ子で、それが原因か、幼い頃に里子に出されてしまう。しかし、里親の夫婦仲は悪く、結局孤独な幼年期を過ごす。
学生時代は、とにかく成績優秀で、特に英語の成績は並外れたものがあったらしいが、神経が細かったのか、たびたび神経衰弱に悩まされていた。
また大人になって結婚した妻もヒステリー持ちで、人生に対する厭世感をさらに強めていった。漱石の作品は時にユーモアがあるが、それは漱石が現実に踏みとどまって生きるために切実に必要なものであったのである。

漱石の作家人生は4期に分けられる。※
第一期は、『吾輩は猫である』を書いた明治38年から、朝日新聞社に入社する明治40年まで。ニヒルな現実的傾向と、詩情的なロマン的傾向が表裏をなしている。

第二期は、朝日新聞社に入社して『虞美人草』を発表してから、『門』を書いた明治43年まで。恋愛を主要テーマにしている。

第三期は、修善寺の大患が癒えて、『彼岸過迄』から『こころ』を書いた大正3年まで。一作ごとに現実を深く凝視し、生と死の関連から人間探求に深く食入り、心理的傾向を帯びるようになった。

第四期は、『硝子戸の中』から『明暗』を書いて没するまでの晩年である。自己を越えた普遍的な世界を望んだ。その可能性を信じたればこそ、漱石は執拗に自己に固執し、自我の可能性の極限にまで登ろうとしたのである。

※参考文献:筑摩書房編『名指導書で読むなつかしの高校国語』

1時限め
めあて:一通り音読ができるように、漢字や語句の下調べをする。

まずは本文に段落番号をつけさせ、漢字の読み書きと語句の意味を確認し、一通り音読できるようにする。
・厭世:この世を嫌なものだと思うこと。
・平生(へいぜい)。読みに注意。いつもという意味。
・咀嚼:噛み砕くこと。
・悄然:しょげているさま。
・彷徨:あてもなくさまようこと。
・外套:コートなどの防寒着のこと。
・煩悶(はんもん):悩み悶えること。
・懊悩(おうのう):悩み悶えること。
・拘泥:ひとつのことにこだわること。
・曠野(こうや):広野のこと。

教師が本文を一度音読し、生徒に分からない漢字や語句をチェックさせる。
授業で取り上げなかったものについては、残り時間、もしくは宿題で辞書などを使って調べる。
内容そのものについては2時限め以降に譲る。

2時限め
めあて:物語のあらすじを理解する。

第三部の一部分とは言え、テキストの量はかなり多いので、いくつかの設問に答えさせながら、本文の大まかなあらすじを読み取らせ、まとめさせる。
一般的な小説の授業では、登場人物の心情を的確に読み取ることが目標とされるが、それは最終的にはアンビバレントに否定されなければならない。なぜならば、優れた文学作品とは、多面的かつ重層的な解釈を可能にするからである。
特に、タイトルでわかるように、この作品の主題は人間の「こころ」である。本来心というのは「この時点ではこう思っていた」と明確に分かるようなスタティックなものではなく、常にうつろいゆく流動的でダイナミックなものである。
よって、登場人物の心情については教師が特定の見解を誘導することがないように留意し、本時では、客観的な状況、場面についての問いかけを中心に授業を進めていきたい。

3時限め
めあて:キャラクターの人物像を探る。

登場人物の設定を履歴書(ワークシート)にまとめ、漱石がどういった人物像をイメージしてキャラクターを構築したのかを追体験する。

「わたくし(先生)」
・新潟県出身の金持ち。それなりの教育を受け一通りのモラルもある。

・20歳にならない時分に両親を病気で亡くし、人生を他人事のように客観視するニヒルな癖がついた。
・自分の財産を管理していた叔父に騙され、いよいよ人間を信じられなくなる。

・倫理的な理由だけではないだろうが、困窮する友人のKに住む場所を提供してやる。でも、相手にもプライドがあるだろうし、ひざまづいたとはいえ、ここら辺は審議がつくところだろう。

・今まで自分を裏切り騙してきた人物と同様に、Kを欺きお嬢さんと結婚してしまう。
自分自身が築いた、もしくは思い込んでいた誠実なキャラを失いたくなかったのか、Kの自殺の真相について奥さんに打ち明けられず、ひとり罪悪感に苛まれることになる。

・天皇の崩御と乃木大将の死をきっかけに「明治の精神とともに死ぬ」と最後までカッコつけて自殺する。個人的な葛藤だったはずなのに、前近代的な国家や時代、歴史といったものと殉死するという結末は、作者の皮肉が効いているようにも解釈できるが、読んだ人の受け取り方によるだろう。

相棒のKについても、こんな感じで履歴書を作成する。
おおむね、どちらも純粋で傷つきやすい近代的な自我をもつ若者であることがわかる。彼らはトラディショナルな歴史や慣習に自分の判断を丸投げすることができない悲しき個人主義者である。
ただし、Kいついては、先生の遺書でしか言及されていないので、先生というレイヤーを通した存在であるということは留意しなければならない。

4時限め
めあて:作品について主体的に考察する。

3時限めに作成した履歴書を参考し、「なぜKとわたくしは自殺したのか」「二人の自殺にはどんな共通点、もしくは相違点があるのか」をテーマに議論し、班ごとに意見をまとめて発表する。
また、「作者の夏目漱石がこの作品で最も伝えたかったことは何か」もしくは「無意識的に作品に表出している作者の観念とは何か」について言及させても良いだろう。
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