講習メモ(メダカ編)

 安倍さんが第一次政権時に打ち出した伝説の企画…それが教員免許更新講習!!ということで行ってきました。
 これでもわたくし、就職活動でメダカの飼育員を本気でやろうとしていたこともあり(※決して観賞魚に詳しいわけではない)、メダカについての講義を選択してきました。

ニコ・ティンバーゲン
トゲウオの信号刺激で知られる動物行動学者だが、彼は自然科学でたびたび起きる(今もツイッターで起きる)論点のずれた不毛な泥仕合に心を痛めていた。そこで自然界の問いに対する答え方には4つの種類があり、これを一緒くたにしてしまうことが原因だと考えた。

①至近要因
致命的に言葉がわかりづらいが、メカニズムの観点からの答え。
ホタルが光る理由は、ルシフェリンというタンパク質が酸化する際に光エネルギーが放出するため。

②究極要因
致命的に言葉がわかりづらいが、役割や利点の観点からの答え。
ホタルが光る理由は、オスとメスが出会うための同種間のコミュニケーション。
この観点が、一般的には最もウケがいいが、マニアを相手にするといろいろめんどくさいことになる。

③発達要因
ややわかりやすいが、発生、学習、獲得など後天的な観点からの答え。
ホタルが光る理由は、卵の時から光り続けているので、生まれた時から持っている。

④系統進化要因
ややわかりやすいが、進化の過程をふまえた先天的な観点からの答え。
ホタルが光る理由は、もともと昼行性の祖先から夜行性のタイプが生まれ、ある時光る形質を獲得したから。

メダカのうろこの観察実験
小学校では5年生で飼育、中学校では2年生でちょっとだけ観察に使用される魚類…メダカ。
中学校では血管を流れる赤血球の様子を調べるために、彼らは生きたままスライドガラスに乗せられるのだが、このたびメダカのプロによる正しい作法が公開されました。

メダカの静止方法
メダカをたもを使って捕獲し、麻酔薬の2‐フェノキシエタノール1500倍希釈溶液が入ったシャーレに放り込む。体力が少ないヒメダカは即寝ちゃうし、たくましいクロメダカも2分ほどで寝る。10分以上放置しちゃうと永眠してしまう。
麻酔薬がない場合は、変温動物のメダカは水温19℃以下で動かなくなるので、氷水で代用できる。
動かなくなったメダカは呼吸ができるように水で濡らしたガーゼやティッシュをえらの上にやさしくかけたあとに、スライドガラスに乗せる。

うろこの採取
うろこは動かなくなったメダカのうろこをピンセットで軽く逆なでするととれる。うろこは年輪状に大きくなるので、一個だけ観察すると指の指紋みたいに見える。
DSC_1798.JPG
うろこをいくらかはがした後は、傷がついているので、メチレンブルー溶液で消毒してあげる。ここにいれると、ほどなくしてメダカの意識も回復する。メチレンブルーは熱帯魚屋さんなどでよく売っているが1~2%の食塩水でも代用が効く。

クロメダカとヒメダカ
日本にいる一般的な野生種は広義にはクロメダカという。名前の通り、全体的に黒い。
哺乳類では黒色素胞という黒い色素細胞しか持っていないが、魚類は割とたくさんの色素細胞を持っており、メダカでは黒、黄、白、虹(バルールがなく乱反射できらきらする)の4種類の色素細胞を持っている。
DSC_1793.JPG
クロメダカが黒いのは、このうち黒色素胞の数が多いからである。
しかし、クロメダカの一部には黒い色素細胞をあまり持っていない個体がいる。彼らは黄色、オレンジに見えるのでヒメダカという。
DSC_1794.JPG
ヒメダカは劣性形質なので、近親交配になりがちで体が弱く、麻酔にも弱ければ、低酸素状態で真っ先にギブアップしてしまう。シャケのように飛び跳ねるクロメダカのたくましさと比較すると、本当にか弱い。
しかし、ヒメダカは色がきれいでレアキャラということから、江戸時代に西日本を中心に大量生産。劣性遺伝子同士をガンガン交配させて観賞魚ブームの一翼を担った。現在みられるヒメダカはこの時の子孫であると考えられている。
また、黄色色素もない個体をシロメダカ、突然変異で青くなった個体はアオメダカと呼ばれ、アオメダカはヨーロッパで愛好されているらしい。

クロメダカの遺伝子解析
クロメダカとヒメダカの体色にかかわる遺伝子(slc45a2)を比較する実験。
両者の尾びれを切断し三万円の専用のキットで採取したDNA1マイクロリットルをプラスチックのチューブに入れて、そこにさらにPCR反応液19マイクロリットルを加える。
このチューブを電動のバイブレーターで軽く撹拌、さらに遠心分離機で液をすべてチューブの底に落とす。
これをPCR用のサーマルサイクラーに入れて、95℃(3分)→95℃(30秒)→65℃(15秒)→72℃(15秒)→72℃(5分)の温度変化を35サイクル行う。
こうして特定の塩基配列のみ増幅されたDNAに蛍光色素を加え、1%アガロースゲルのスロットにクロメダカ(ただし遺伝子型は純系ホモ)、ヒメダカのDNAをマイクロピペッターで入れて、電気泳動を行う。
電気泳動では、塩基対=ベースペア(bp)の小さいDNAから順にゲルの中をたくさん泳いでいくので、これを踏まえると、ヒメダカの体色原因遺伝子は786bpで、クロメダカのそれ(910bp)よりも短いことがわかる。
よって、その分だけ黒色の色素を作る物質が働くコードの領域が狭いことになり、ヒメダカはクロメダカよりも黒くなりにくいことが遺伝子の面からもわかる。

PCR
ポリメラーゼ連鎖法。高温で働く酵素と、DNAは高温だとほどけるという性質、そしてDNAはチェーンが一本だけあれば、もう片方の塩基配列は確定するという塩基対ルールを利用することにより、温度のアップダウンのサイクルを与えるだけで、任意の塩基配列だけを大量にコピーすることができる。今回は35サイクルなので、2の35乗倍の塩基配列ができる。
シータス社のサーファー、キャリー・マリスが考案。

反応液の内訳は以下のとおり。
TaKaRa Taq HS:DNAを増やすための酵素。高温で働く。
10× PCR Buffer:反応調整剤。ペーハーや塩濃度を調整する。
dNTP Mixture:材料。たとえるならコピー紙。ATCGの化合物。
滅菌蒸留水:汚染対策。
プライマーForward&Reverse:複製エリアの指定をする合成オリゴヌクレオチド。短い一本鎖のDNAで、任意の配列を両端から攻める。
今回使ったプライマーは
Fが「5-GGA GCA GCM TCT GTG AGA ACA-3」
Rが「5-GGT CCT CTG ACA GCA GGG TC-3」
※MはAとCの混合塩基

体色変化のメカニズム
クロメダカはカメレオンのように周りの風景の色に合わせて体色を白っぽくしたり黒っぽくすることができる。しかもけっこう早くて1~2分で色が変わる。
例えば、白いカップと黒いカップにそれぞれクロメダカを一匹ずつ入れて、3分ほど経ったら、その二匹を同じ水槽に戻すと色の変化が一目瞭然となる。
DSC_1808.JPG

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これは生理的な現象で、背中から受ける光の強さと、下から跳ね返る反射光の強さのギャップが大きいほど、メダカは周囲の景色は黒いと判断し、色を暗くする。
至近要因的に言うならば、反射光のギャップが大きいと交感神経が抑制され、ノルアドレナリンの分泌が止まり、また別ルートで脳下垂体から黒色素胞刺激ホルモンが出て、色素の拡散(黒ブチが広がる)が起こる。
反射光のギャップが小さいとこれの真逆のメカニズムで、色素の凝集(黒ブチが小さくなる)が起こる。また、この際にカリウムイオンが交感神経を刺激し、ノルアドレナリンの分泌を促すため、黒色素胞を持つうろこのサンプルにカリウムイオン溶液をスポイトで滴下しても、同じ現象が起こる。ただちょっと反応は鈍い。

カウンターシェーディング
魚は背中の色が暗く、おなかの色が白っぽいこと。捕食者の目を紛らわすための工夫。
上からは暗いほうが見づらいし、下からは白いほうが太陽の光に紛れてこれまた見づらい。
このカラーリングが本当に自然選択に効果があるのか、ある研究者がプールにカラフルなグッピーと地味なグッピーを入れてどっちが生き残るか、マイティグッピーバトルロイヤルをしたことがあるらしいが、貪欲なサギによってあっという間にどちらも全滅したらしい。水曜日のダウンタウンのVTR的なオチである。
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