国語学概論覚え書き④

参考文献:伊坂淳一著『ここからはじまる日本語学』

日本語の語種とその特徴
語感や文体の違いをもたらす要素には語の出自が関係している。
日本語の語彙は出自によって、和語(日本語に元々あった)、漢語(中国語からの借用)、外来語(それ以外の国からの借用)の3つに分類される。
漢語、外来語には、借用語としての漢語や外来語から新たに日本で作られた言葉(ナイター、マイカー、イメージアップ)も含まれ、また、餃子や麻雀のような近代の中国語からの借用は漢語ではなく外来語として分類される。
さらに、中華そば、自動ドア、チェックする、のような複数の語種からなる合成語は混種語と呼ばれる。
ちなみに、政治家や評論家が大好きな外来語の過度な多用(カタカナ語)は情報弱者にわかりにくさをもたらしており社会問題となっている。
エンフォースメント(法を執行すること)
コンソーシアム(企業連合や資本連合のこと)
エンパワーメント(個人の自律性を促すこと)
タスクフォース(特定の任務のために一時的に組織されるチームのこと)
インキュベーション(元々は孵化という意味。できたばかりの企業への支援を行うこと)
キャピタルゲイン(資産を売却することによって得られる利益)
などのカタカナ語は一般への浸透度がかなり低く、行政や医療に関わる場合は、時に重大な事態を生じかねない。

日本語における語彙の変化
同じ記号であるとはいえ、数学とは異なり、言語における言葉は変化する。
語形と語義との結合の決まりは、その社会の構成員相互の暗黙のルールとして成り立っていて、また人間の連想や発想は自由であることから、ある語の形や意味には必ず流動的な領域が存在する。
新しい言葉が作られる過程には以下のパターンがある。

①合成
二つの言葉を繋げて一つの言葉にすること。

②縮約(略語)
一つの言葉を略した言葉。卑俗的な響きになることが多い。
メルマガ、アラフォー、キャラなど。

③混成
二語の一部を切り取り、連結させること。
略語と異なる点は、略する前のフレーズが存在しないことである。
「とらえる」+「つかまえる」=「とらまえる」、など。

④逆成
動詞(走る)から名詞(走り)ができるのではなく、逆に名詞(たそがれ)から動詞(たそがれる)ができるパターン。

⑤類推
「しあさって」の次の日を「ごあさって」と呼ぶ地域があるように、ローカルな俗解(4の次は5)が働くこと。

⑥異分析
「ハンブルグ(地名)」+「er」=「ハンバーガー」なのだが、「ハム」+「バーガー」だと間違って解釈し、その間違った解釈からチーズバーガー、ダブルバーガーなど新しい言葉が作られること。

語形の変化は発音の変化として捉えられることがある。

①音の脱落
書きて→書いて
歩いて→あるって
なのです→なんです

②音の添加
はるあめ→はるさめ
やはり→やっぱり
とがる→とんがる

③音の交代
けぶり→けむり
やっぱり→やっぱし

④音の融合
と言う→ちゅう

⑤音の転倒
さんさか(山茶花)→さざんか
ふんいき(雰囲気)→ふいんき

一方、語義の変化は以下のようなパターンがある。

①指示対象の拡大
頭部の一部だけを指していた言葉の「あたま」の意味が、頭部全体や知能をも意味するようになった、など。

②指示対象の縮小
夫婦の一方から他方に対する名称だった「妻」が夫から見た妻に対する名称だけになった、など。ダーリン的な。

③価値の上昇
「天気」というプラス評価でもマイナス評価でもないニュートラルな言葉が、「今日は天気だ」というようにプラス評価として使われ出した、など。

④価値の下降
「因縁」はもとは仏教用語で、単純に物事の因果関係を指す言葉だったが、因縁をつけられた、などマイナス評価の意味が生じた。

他にも誤用がある。言い間違いや知識の欠如による誤用が勢力を拡大し、誤用から慣用へ、慣用から正用へという道をたどるか、個人的な言い回しや、限られたグループでの流行語で終わるかどうかは単純に予測ができない。

日本語における位相語
社会的属性の違いに基づいた集団に特徴的に見られる言語のこと。
「~~よね」といった女性語、「~~じゃ」といった老人語、「~~でちゅ」といった幼児語などが代表例。
現実的な実体として本当に存在するのか疑問が持たれることもあるが、現代でも特定の社会集団や専門分野に関わる集団特有の言葉は確かに存在し、それらは一般に集団語と呼ばれている。学術的な専門用語、職業語、業界用語、若者語、ギャル語、ネットスラングなど。
ある集団のみ理解が可能な言葉を交わすことで、他から差別化を図りその集団の独自色を強調すると同時に、その集団の構成員相互の連帯意識を高め、自らの帰属意識を確認することができるのである。
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