日本語表現法覚え書き

 来月のテス勉コーナー。

参考文献:沖森卓也、半沢幹一編『日本語表現法』

日本語における話しことばと書きことばの違い
「シンジョウを打ち明ける」と聞いた場合、この「シンジョウ」はどのような意味の語として理解するか、いくつかの可能性がある。
まず「信条」「身上」は文脈に合わないため、「心情」「真情」に絞られるが、前者は「心情を察する」といった場合で使うため、「打ち明ける」という部分から、単なる心情ではない「偽りのない心」の意味がある「真情」が正しいとなる。
このように、話し言葉の場合、音声による伝達であるため、同音異義語が特定しにくいことがある。また、よく知らない語が使われるとなおさら理解が困難になる。
これに対して、書き言葉は文字による伝達であるために、漢字によって意味が特定・推測できたり、また読み返して理解を深めたりすることも出来る。このように、話しことばと書きことばには、その伝達形式による大きな違いがある。

話しことばは口頭による表現であって、独り言を除いて、たいていは話し手の前に聞き手がいる場で話される。
その場合、周囲の環境や時間的な制約などにより、その場面に応じた言葉づかいをする。実際の話しことばは、しばしば文脈が乱れたり、口ごもったり、文中や文末に「ね」「さ」「よ」といった助詞や、「え~」「あの~」「その~」といった感動詞を挿入したり余剰的なことも多い。
また、言語による伝達を、表情や身振り、あるいは音声の抑揚などの手段で補うこともでき、それでも通じない場合は言い直したり、別の言い方で言い換えたりすることもできる。このように、話しことばは、相手やその場に応じて意味の伝達を補完することができ、簡便で気軽なものである。

これに対して、文字による表現である書きことばは、相手が目の前にいるわけではない。
時間的空間的な制約を受けることなく、ただ書いていけばよいのであるが、表情や身振りなど、ことばを補うすべがないだけに、話しことばよりも正確でなければならない。
そして、書かれた文字は残るため、誰に読まれるか分からないから、安易には書けない。そのため、書くことは大きな緊張を伴う。
しかし、書くことによって考えたことの不備を反省し、それを整ったものにしたり、思考を深めたりすることもできる。それは自己を認識し、自己を鍛える場でもある。その意味で、書くことは人間形成の場であるとも言える。

日本において、近代以前の中世・近世においては、話しことば(口語)と書きことば(文語)は全く異なるものであった。
口語は時代とともに移り変わるが、文語は平安時代の言語を模範として、そのまま定型化したため、両者は乖離し、文語文は特殊なものとなった。
これが明治の半ば頃になると、言文一致運動が起こり、旧来の文語は日常的に使われなくなり、書きことばも話しことばに基づくようになった。これが現代の口語文である。
ただ、前述したような相違点は、伝達形式の根本的な違いによって現代においても認められている。

まとめると、話しことばと書きことばの違いは以下のような点が挙げられるだろう。
①音声(聴覚)で伝達するか、文字(視覚)で伝達するか。
②目の前に聞き手がいるか、いないか。
③周囲の環境や時間的制約があるか、ないか。
④情報が余剰的か、洗練されているか。
⑤表情や身振り、声の抑揚などで補完できるか、できないか。
⑥通じない場合にその場でただちに修正できるか、できないか。
⑦簡便で気軽か、煩雑で緊張を伴うか。


日本語の表記の特徴
日本語の文章を書き表す(表記する)時に用いる文字には、漢字・平仮名・片仮名・ローマ字(アルファベット)がある。これらは、それぞれ内的整合性を持つ組織的集合であり、これを文字体系という。
このうち、漢字と平仮名、片仮名は混合表記されるため、欧米などアルファベットだけを用いる言語に比べて文字表記に際しての労力が非常に大きい。
しかし、その反面、「とんねるをぬけるとゆきぐにであった。」→「トンネルを抜けると雪国であった。」のように、文脈の理解を助け、情報に対する柔軟な対応を可能にする。片仮名がトンネルを外来語と限定し、漢字は視覚的に語の意味を限定する働きがあるためである。
このように表記は単にことばを文字に定着させるだけでなく、文脈理解と深く関わっている。

また、社会的に規範とされる正しい表記法を正書法というが、これは日本語にはない。
例えば、「すでに」「既に」(漢字表記ゆれ)でも、「いなずま」「いなづま」(仮名遣いゆれ)でも、「行う」「行なう」(送り仮名ゆれ)でも、どちらでもよく、どちらが正しいということはない。このことは逆に書き手自身が表記法の選択を任されているということになり、時に表記に迷うこともあるが、その分個性を発揮したり、芸術性を付帯させたりすることも出来る。
このように、複数の文字体系を有していることは、日本語の書き言葉を豊かにしており、これを面倒がるのではなく、逆に表記するおもしろさ、楽しさを味わいたいものである。

ただし、正書法はないといいながらも、以下のような社会的な傾向や慣例はある。
①外来語や擬声語、動植物名は片仮名で書く。
②副詞・接続詞(「すべて」「また」など)は、多く平仮名で書く。
③形式名詞・補助動詞(「こと」「ゆく」「もらう」など)は、ふつう平仮名で書く。
④読みにくい難しい漢字は避けて、できるだけ常用漢字を使う。


日本語の表記の特徴には他にも「仮名遣い」がある。
「王手」と「大手」はどちらも「オーテ」と発音されるが、前者は「おうて」、後者は「おおて」と書き分けることになっている。
このように、同じ発音なのに、仮名遣いが一定しないことがある。しかし、この仮名遣いには合理的な根拠がある。
そもそも、現代仮名遣いは歴史的仮名遣いを受け継いでいる面があり、両者の対応には規則性があるのである。
①基本的には発音通りに仮名を用いる。
②助詞の「を(オ)」「は(ワ)」「へ(エ)」は歴史的仮名遣いを用いる。
③長音はア~エ列のものはそれぞれ「あ」~「え」を添え、オ列については「う」を添える。例:「王手(オーテ)」→仮名「おうて」
④オ列の長音のうち、「通り」「氷」のように、歴史的仮名遣いでオ列の仮名に「ほ」「を」が続くものは、「う」ではなく「お」を添える。
また、「映画(エーガ)」「稼いで(カセーデ)」などは、エ列長音で発音されるが、エ列の仮名に「い」を添えて書く。 
⑤「ち」の次の「ぢ」、「つ」の次の「づ」は、例外の「いちじく」「いちじるしい」を除いて、「ちぢみ」「つづく」のように歴史的仮名遣いによる。
⑥「ち」と「つ」がにごった場合、「はなぢ」「かたづく」のように「ぢ」「づ」と書く。ただし、「地」の字音は「ち」であるが、元来「じ」の字音もあるため、「布地」などは「ぬのじ」と書く。
⑦「杯(さかずき)」「世界中(せかいじゅう)」など現代語の意識では二語に分解しにくいものは、「じ」「ず」で書くことを基本とするが、「ぢ」「づ」を用いてもよい(「いなずま」「いなづま」どちらでもOK)。

日本語の敬語の特徴
日本語の表現は、それ自体に、話し手が、聞き手、あるいは話題の中の人物とどのような人間関係であるか、そしてそれらの人に対して尊敬・親愛・軽蔑など、どのような気持ちを抱いているかということが含まれている。
例えば、「何を召し上がりますか?」と「何を食べるの?」の違いだったり、「その件につきましては社長の沖森がご説明申し上げます」といったように、地位・身分などの社会関係に基づく上下の意識や、同一の社会集団に属しているかいないかという人間関係に基づくウチ・ヨソの意識などによって、話し手がことばを選んで敬意を表す言い方を敬語という。

ただし、話し手の主体的な意識は、敬語という言語表現に特有のものではない。例えば、「あいつがぬかしやがった」など、相手を軽んじる軽卑語や「あの人が言った」などの普通語においても、相手に対する意識の在り方がうかがえる。
また、敬語は聞き手や第三者に対して敬意を表す言語活動であるが、相手を敬わない場合にも用いられる。例えば、夫婦げんかで「仕事仕事とおっしゃいますが、こんなに遅くまでどういうお仕事をなさっているのですか?」と奥さんが皮肉を言ったり、道ばたで知らない人に「申し訳ございませんが、郵便局への道順を教えて下さいませんでしょうか」と尋ねたりする場合である。
これら例において、敬語とは、相手との距離を隔て、あえて親しい間柄に心理的なよそよそしさを作り出したり、また、知らない相手から自分の身を守ろうとしたりする、一種の「なだめ行動」ととらえることも可能である。
したがって、親しい間柄では、敬語を使う必要がなく、普通語や軽卑語を交えて会話をしているのである。
このように、あらゆる言語行動自体に、話し手、聞き手、第三者とのさまざまな関係が表されている。こうした社会的心理的関係や場面によって表現を使い分けることを待遇表現という。

さて、敬語には、話し手が聞き手に対して直接敬意を表す丁寧語(聞き手尊敬)と、話し手が話題の中の人物に対して敬意を表す尊敬語(為手尊敬してそんけい)、謙譲語(受け手尊敬)に分けられる。
丁寧語は「です」「ます」によって表現され、尊敬語と謙譲語は一対になっていることが多い。さらに表現形式のうえでは、語を添加するタイプ(分担型。お身体、わたくしども、お父上様、行かれるなど)と、特定の語を代わりに用いるタイプ(統合型。言う→おっしゃる、申すなど)がある。
ちなみに、分担型と統合型を比べると、統合型の方が敬意が高い傾向がある。

このほか、敬意を表す表現に、「寝る→休む」「死ぬ→なくなる」といった婉曲語や、「きょう→本日」「すこし→少々」といった改まり語がある。
さらに、話し手自身の上品さを保つ「お買い物」「お洗濯」といった、女性特有の「お」は美化語と呼ばれている。

最後に敬語で最も間違えやすい点が、尊敬語と謙譲語の混同である。
特に以下のように、尊敬語を使う場面で謙譲語を使う間違いが多い。

×この度課長にご昇進されました。
○この度課長にご昇進なさいました。

×おたずねしてください。
○おたずねになってください。

×ご使用できます。
○ご使用になれます。

×ご納得していただけると思います。
○ご納得いただけると思います。

×一度お目にかかってくださいませんか。
○一度お会いになってくださいませんか。

国語辞書を効果的に活用する方法
文章作成ツールのひとつである国語辞書は、おおよそ、小型辞書と中型辞書、大型辞書のみっつに分けられる。
小型国語辞書は、6~8万語程度を収録し、一般的にB6版のソフトカバーの体裁を取る。『三省堂国語辞典』や『新明解国語辞典』などがこのクラスに当たる。普通名詞や動詞など、現代語の基本的な語を収録し、人名・地名などの固有名詞や古語などはあまり載せない。
中型国語辞書は、20万語程度を収録し、B5変版のハードカバーの体裁を取るものが多い。固有名詞や専門用語も多く収録し、古語も現代語に交えて掲載されている。『大辞林』『広辞苑』がこのクラスである。
大型国語辞書は、『日本国語大辞典』のように数巻に及ぶもので、その語の初出例や時代的な意味の変遷なども記述されている。
これらは、中型が小型よりも辞書として優れ、正確であるとは限らず、現代語の助詞や助動詞など、付属語の用法については小型の方が詳しいこともある。辞書によって特色があると考えるべきだろう。

実際の国語辞書の項目の内容は以下の通りである。
①見出し
辞書に提出する単語を配列する部分。
原則的に和語・漢語は平仮名、外来語は片仮名で表示される。
仮名でどう表すかという表記情報の他、語幹と語尾の区切れや、語構成の区切れ情報なども「・」や「-」などの記号で表される。

②漢字表記
その語を漢字で表記する場合の、標準的な表記や慣例的な表記が示される。
ここには「▽」「×」などの記号によって、その漢字の音訓が常用漢字に含まれるとか、「五月雨」は熟字訓であるといった情報も記される。
もちろん漢字仮名交じりで表記されるところから、送り仮名の情報も含まれる。

③歴史的仮名遣い情報

④品詞情報
基本的に中学校の国語科で扱われる学校文法に準拠して品詞の認定がされるが、辞書によって語の品詞認定には異同が少なくない。
また「いわずもがな」「にっちもさっちも」のような固定的な言い回しは「連語」として単語扱いされることもある。

⑤語釈
語の意味を文章で定義したもの。

⑥言い換え語
理解を助けるための類義語を示す。

⑦用例
典型的な用例の他、慣用句や固定的な言い回しがここでされることもある。

このように国語辞書には、豊富な情報が盛り込まれているのだが、多くの利用者は、漢字表記を探す「字引」として利用するか、意味を確認するのに利用するくらいである。
しかし国語辞書から旨く情報を引き出すことで、より正確で的確な表現を探し、語彙力や表現力を高めることも可能となる。
そのために、まずなにより、辞書を身近に置き、すぐ引く習慣をつけるようにすることである。初めは漢字調べや意味調べでよいので、気になったらすぐをモットーに、辞書を引き慣れることが大切である。
「気になったらすぐ」を実行するには、一冊の辞書で済まそうとせず、自宅の机に小型辞書と中型辞書、カバンにはコンサイス(簡潔)な辞書、学校のロッカーにも別の小型辞書といったように、複数の辞書を準備しておくとよい。
まさに辞書にまみれたライフスタイルである。
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