『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

 著者は数学者でAIに東京大学を受験させるという電波少年的な企画に携わった新井紀子さん。

 出版直後、私は東京駅前の大型書店に、この本(※筆者の著書『コンピュータが仕事を奪う』)がどこに置かれているか見に行きました。ビジネス書の棚をいくら探しても見当たらない。結局どこに置かれていたかというと、SFのコーナーでした。その事実に私は慄然としました。日本人はこのシナリオをSFだと思うのか、と。

 いや~近年稀に見る後味の悪い本。スパコンのスペックが上がり始めた80年代後半~90年代前半、DNAのゲノムさえ解析できれば、バイテクは何でも出来ると思われていたことがあった。それこそ恐竜のクローンも作れるんじゃないか、と。実際はゲノムだけ調べればなんとかなるほど単純なメカニズムじゃなくて、こしさんがやってるエピジェネとかホックスとかなんか色々出てくるんだけど。
 もっと直近の例だと、アップル社のスティーブ・ジョブズが世界を変えるとか。私は当時からアイパッドごときで変わらないと思ってたんだけど、まあ、そういう最新トレンドを過剰に崇め奉る信者っていつでも出てくるわけだ。なんか日経新聞とか好きなインテリに多そうなイメージだが。
 ほいで、現在のAIフィーバーですよ。右も左もシンギュラリティーで、『ターミネーター』の見すぎだろって思うんだけど、その論調に、意外にも東ロボくん(東大受験にチャレンジしたAI技術)の育ての親の新井さんは、シンギュラリティーはありえないとバッサリ切り捨てるのが面白い。

 しかし、そこから導き出されるのは、『ターミネーター』以上にリアルでゾッとする未来予想図なのだ。紀子は、AIにも、そして全国の中学生にもケンカを売ったのである。
 つまり、計算機でしかないAIはもう、どうアプローチしても文章が理解できない。物語を読んで感動することなんて絶対にできない。
 だが、だがである。では、私たち人類の方は文章が読めるのかというと、ほとんどの中学生は「エベレストは世界で一番高い山です。」レベルの文章もまともに理解していないというのだ。
 つまり、教科書が読めないAIと教科書が読めない子どもたちの泥仕合が近未来に勃発するというのだ。

 そして、調査の結果、学問に王道なしbyユークリッドとはよく言ったもので、子どもの読解力を向上する特効薬のようなものはどうやらないらしい。
 例えば、学習塾に通っているかどうかなんかは相関がなくて、確かに、塾の授業って点数さえとって合格できれば手段は問わないとこあるから、長期的な視点で見るとあれって東ロボくんとやってること変わらねえよなっていう。思考力なしでも正解が出せる訓練というか。
 本をたくさん読んでいるっていうのも、あまり関係がないそうだ。確かに、10000冊読んだ!ってやついるけど、本当に1冊1冊をしっかり読解しているかは怪しいもんな。バベル的に積んでいくのが好きな人は例外だし。
 そして紀子の攻撃は、名門中学や高校にも及び、ああいう学校もカリキュラムがすごいんじゃなくて、読解力がない子どもをあらかじめ入試で切り捨てているだけで、別に入学後に賢くなっているわけじゃないよと、本当にもう、よくまあこんな冷徹な文章かけるなって言うw
 実は新井素子っていう人は存在しなくてAIでしたってオチだったら、ちょっとすごいぞというか。生年月日などの記載も奥付になかったしな。※ただし学校教育におけるこういった見方(=入学後の学習効果は無視)は経済学ではよくやる。

 いずれにせよ、本が読めないほとんどの人類にとっては、AIはやっぱり仕事を奪いかねない驚異だというのだ。そして失業者が溢れれば、本が読める人もとばっちりを受けるという。
 では、AIに奪われないような仕事の形とはなんなのかってなるんだけど、そのアンサーで出てきたのが糸井重里さんのサイト(ほぼ日刊イトイ新聞)っていうのは、もう一気に、話の内容が岡田斗司夫ゼミみたいになっちゃって脱力というか。
 ちなみに、この本の最大の説得力のなさは、そこそこ本が読める私がまったく社会的成功をおさめていないことに尽きる。結局、この本もSFのコーナーに置かれちゃうんじゃないかなあ。
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