秘密基地
ウォンイク「結局、流しちゃったのかい?」
安藤「僕たちじゃない・・・!勝手に配信されています!」
大道寺「どういうことだオラア!?」
・
大慌ての官邸
石田総理「おい!1000億円は振り込んだはずだぞ!約束が違う!!!
は・・・早くマスコミに圧力をかけて映像を止めさせろ!」
総務大臣「ネット配信は無理です!」
大谷官房長官「あっさり金を振り込んだのが逆効果だったな・・・」
豊臣「困るなあ、うちの会社の電波使って、政界汚職を生中継かい?」
戦慄する一同「!!!」
豊臣の前でひれ伏す閣僚たち「ハハー!」
石田総理「日本の経済界を天下統一した豊臣社長・・・お見えになっていたのですか・・・!」
木下財団――豊臣社長「うん。しかし、愚かだねえ。
だから、聚楽第は早いところ地下核シェルターに変えちまえって言っただろう?」
石田「わ・・・我々はどうすれば・・・」
豊臣「ひとつ頼み事を聞いてくれれば、助けてやってもいいよ」
石田「な・・・なんでもやらせていただきます!」
豊臣「財務大臣はいるかい。」
竹中「は、はい!」
豊臣「お前らは、国民が苦しんでいるのに増税ばっか目論みやがって」
ひれ伏す竹中「へへー!」
豊臣「ここまで来たら、行くところまでいけ。よし、消費税1000%だ。」
竹中「そ・・・そんなにいいんですか!!??」
豊臣「で、法人税を廃止しろ。これで、竹中くんは我社で天下りを確約!」
扇子をパンと叩く豊臣。
竹中「ありがとうございます!!」
石田「ちょっと待ってください!そんなことすれば内閣支持率が消滅します!」
聚楽台の動画を指差す豊臣「この状況じゃそもそも国民の支持率ゼロだろ。一日でも長く総理やりたいんだろう?」
石田「ええ、まあ・・・」
豊臣「なら決まりだ。大丈夫、この動画はなんとかしてやる・・・」
・
首都高でスポーツカーを運転するサラ。
後部座席で、備え付けのテレビを見る老人「いやあ、笑った笑った。
この世に特権階級をコケにする以上の娯楽はないよな」
サラ「おじいちゃんが配信しちゃったの!?」
腕を組む老人「いや~あんちゃんはよくやったよ。さすがオイラが河川敷で見込んだだけあるな。」
助手席のカイト「ど、どうも・・・」
老人「あんちゃんは投球フォームがいいよな、うん。」
サラ「カイトくんを使って石川五右衛門の復活を大々的にPRして、今度は何を考えているの?・・・初代石川五右衛門。」
五右衛門「オイラも、もう後期高齢者だからなあ。体が動かないんだよ。」
サラ「いや、それは知ってるけど・・・」
窓の外を見る五右衛門「ここいらも戦争で焼け野原だったんだぜ、オイラの最初の仕事は鉄屑集めでさ、でかい磁石を闇市やってた朝鮮人から借りてさ・・・」
サラ「だめだこりゃ・・・」
五右衛門「今の日本は、あの頃よりも貧しくなっちまったと思うぜ。」
サラ「で、久々に世直ししたくなったのね。」
五右衛門「なあ、あんちゃん。若者が国をより良くするにはどうすればいいと思うかい?」
カイト「ええと・・・選挙に行く?」
「ろくな候補者がいねえだろ。」
サラ「自分が政治家に立候補する?」
「大企業のパトロンがいねえと出馬は無理だな。ほいで、当選後は大企業に都合のいい政策を通すのかい。」
カイト「・・・不可能な気がしてきました。」
サラ「もったいぶってないで教えてちょうだい。」
五右衛門「・・・国を盗むのさ。」
・
帝国ホテルにスポーツカーを止めるサラ。
その様子を軽自動車の中からアンパンをかじりながらみつめる八重。
八重「・・・ずいぶん金回りがいいな・・・」
スイートルーム
ソファに腰掛ける五右衛門「金がもったいねえが、よそに聞かれたくない大事な話は高級ホテルのスイートに限るんだ、へへ」
サラ「で、政府から振り込まれた1000億円はどうするの?殺し屋が襲ってきた以上、今さら引くに引けないわよ」
五右衛門「いくらなんでも、政府がそんなだいそれたことはしないよ」
サラ「なんで判るの?」
五右衛門「オイラが今なお生きてるからさ。
なあに、人生多少のスリルがねえと物足りねえよな?」
カイト「え?ええ・・・」
荷物をまとめて帰ろうとするカイト「とりあえず、ぼくはこれで・・・」
五右衛門「試験は合格だ。」
カイト「・・・え?」
五右衛門「聚楽第を攻略したあんちゃんこそ、石川五右衛門を継ぐ資格がある!」
サラ「本当にいいの?天下の大泥棒の称号を・・・」
五右衛門「いいよ、そんなもん。あの1000億円は祝儀だ。あんちゃんにやるよ。これで大学で野球もできるだろ」
カイト「野球どころか、球団が買えますよ・・・!いやいやいや、ぼくには荷が重いですって!」
五右衛門「あんちゃん言ってたじゃねえか、高校卒業後の進路は忍者だって」
サラ「その発言、客観的に聞くと、すごいバカっぽい・・・あ、いや、素敵よ、カイト君!」
カイト「でも、オーシャンズ11みたいなのは、僕の考える正義の忍者とはちょっと方向性が・・・」
五右衛門「あの姉ちゃんに憧れるよりはいいと思うけどなあ。」
カイト「え?翼さんを知ってるんですか・・・?」
五右衛門「おいらも、もともとは伊賀者だからね。
長門守って若い衆がいただろ?あいつ、よくピコハンで叩いてたぜ。」
カイト「本当ですか!?」
五右衛門「うん。連中の残酷なやり方に嫌気がさして抜けてきたんだ。あいつら、人を殺しすぎだよな。その点、おいらは暴力反対だから。」
翼が躊躇なく殺し屋を仕留める姿を思い出すカイト。
五右衛門「でだ、正義の忍びが戦うにはうってつけの巨悪を教えてやろうと思ってな。おい。」
うなずくサラ。部屋を暗くして、プロジェクターを付ける。
カイト「悪の秘密結社とか?」
五右衛門「そうそう。」
サラ「今風に言えばディープステートってやつかしら。」
リモコンでパワポのスライドを操作する。
老人の写真が映る。
五右衛門「こいつは木下財団の総裁、豊臣秀吉。」
カイト「この人って経団連の会長じゃ・・・」
五右衛門「詳しいね。」
カイト「先代の会長とはいろいろあって・・・」
サラ「え?あの織田信長と戦ったことがあるの!!??す・・・すごすぎる・・・」
五右衛門「ほらな、すごいんだよ、風間先生は。」
カイト「よしてください・・・」
五右衛門「で、こいつがさ、信長の跡を継いでさ、日本のすべての大企業を買収しちゃったんだよ。もともとは通信会社の雇われ社長だよ?」
サラ「いや正確には、牛タン料理チェーンを展開する伊達フードサービスと、お茶漬けメーカーの小田原食品がまだ残っているから。」
五右衛門「忘れてた。まあ、いいや。
ともかく、日本の殆どの企業はこいつの傘下ってことになる。」
スライドに受給曲線が表示される。
サラ「そうなると、どうなるか・・・市場競争によって物価は変動するけど、カルテル行為が横行し、ある種の不公正な独占市場になるため、価格の下方硬直性が起こり・・・」
ちんぷんかんぷんなカイト。
五右衛門「説明が難しすぎだよ、ばかやろう!」
カイト「すいません・・・」
五右衛門「物価を上げてるのはこいつってことだよ。」
カイト「じゃあ、この秀吉を倒せば物価は下がるんですか?」
サラ「多少強引だけど、まあそうね。そうなるわ。
戦後の財閥解体みたいに、傘下の企業を全部独立させちゃえば、再び価格競争が起きるから。」
五右衛門「なんでも、朝鮮出兵もこいつが政府に圧力をかけたかららしいぜ?
日本の次は中国市場を支配するんだとさ。世界はモノポリーじゃねえぞ。」
スイッチを押すサラ。
部屋の照明がもどる。
カイト「でも、秀吉を倒すって言ったって、どうすれば・・・」
五右衛門「やつが日本を買えたのは、戦後の焼け野原で無尽蔵の銀鉱脈を見つけたからだ。その銀を使って、通信革命を起こし、IT時代の覇者となった。」
サラ「随分詳しいのね。それは知らなかった。」
五右衛門「年寄りの体験談も大切だろ?つまり、やつの財源はその銀だ。
こいつをごっそりいただく。」
サラ「無尽蔵にある銀を!!!??」
カイト「一体どこに、その銀は??」
五右衛門「ワクワクしてきただろう?3億円事件から、給料は銀行振込になっちまったから、今の若い泥棒はオレオレ詐欺くらいしかできなく・・・」
サラ「そんなことはいいから・・・!」
カイト「どこにあるんですか??」
にやりと笑う五右衛門「IR大阪だ。」
・
聚楽台のニュース
ナレーター「画像解析の専門家は、今回の動画を見て――」
明智光秀博士「これはフェイク動画ですね。」
石田総理の会見
「政府を中傷する極めて悪質な行為であり、誠に遺憾に思います。」
秘密基地で、そのニュースを見つめる安藤。
安藤「この科学者、絶対に政府の御用学者ですよ・・・!」
ウォンイク「世の中カネさえあれば、なんだってもみ消せるのさベイビー」
大道寺「その発言、お前のファンに聞かせてやりてえな。」
秘密基地に戻ってくるカイトとサラ。
サラ「ただいま~」
安藤「あ、おかえりなさい」
大道寺「おう、昔の彼女とは会えたか?」
カイト「そういうのじゃないって・・・」
ウォンイク「大道寺くん、そういう質問は野暮ってもんさ」
サラ「そうそう、カイトくんの彼女は私だから。」
大道寺「やめろ、こっちが恥ずかしい。」
サラ「あんたたちだって、カイトくんに恩があるでしょ?」
大道寺「お、おう、まあな・・・」
安藤「風間先輩は僕らのために野球部の先輩たちと戦ってくれました。」
カイト「いいよ、そんな昔のことは・・・それよりも・・・」
サラ「ああ、チーム五右衛門、次のターゲットが決まったわよ。」
IR大阪のパンフレットを広げるサラ。
大道寺「スロットでもやりに行くのか?」
サラ「狙うは、IR大阪の金庫に豊臣秀吉が溜め込んだ大量の銀。」
ウォンイク「伝説の埋蔵金が存在するというのかい?」
安藤「でも、さすがに1000億円仕事のあとには、どんなお宝もかすむような・・・」
サラ「総額200兆円。」
安藤「に・・・にひゃくちょ・・・」
サラ「それこそ、国を買えるお宝よ。どうする?」
大道寺「おもしれえ、乗ったぜ。」
ウォンイク「待ちたまえ。そもそも怪盗の真似事は聚楽第の一回きりのはずだ。
我らがリーダーの意見を聞こうじゃないか。」
ボーっとするカイト。
回想。
翼(カイトさんには野球をやってほしかった・・・)
カイトの親(すまん、カイト・・・!父さんの会社がM&Aにあってリストラされた!大学進学は諦めてくれ・・・!)
五右衛門(物価を上げてるのは秀吉ってことだよ。)
安藤「先輩?」
カイト「こんないびつな社会で一体何人の人が自分の夢を諦めているんだろう・・・」
サラ「カイトくん・・・?」
カイト「ぼくらのしていることは間違ってないよね・・・?」
お金を振り込んだ人からの感謝の手紙を読むウォンイク。
「石川五右衛門様。あなたがくださった200万円で、難病の息子は命を取り留めることができました。五右衛門さん、温かい食事とクリスマスプレゼントをありがとう。」
カイトの肩に手を置くウォンイク「・・・自信を持ちたまえ、同志よ。」
大道寺「どこまでも付き合うぜ。」
カイト「よしやろう。狙うは大阪城だ・・・!」
一同「オー!」
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