『風と翼:REVELATION』脚本⑤

奥の部屋に案内される。
そこには、国内のAIの動向を監視したサーバーがずらりと並んでいる。
サラ「この雰囲気懐かしいでしょう?」
秀頼「こう見えてコンピュータの心得はあってね・・・国内のAIが反乱を起こさないか、監視をしているのだ。」
モニターを指さすカイト「この数字は?」
秀頼「AIが法に抵触した件数をリアルタイムでカウントしている。
黄色い数字が法に触れる可能性、赤が完全に違法だ。
今日だけで、触法行為が1万件を超えている・・・」

翼「警察は取り締まれないんですか?」
秀頼「そもそも警察が人手不足でAIに依存しているくらいだからね・・・
それにAIを規制する法律がない以上、グレーゾーンのものも多い。」
サラ「怖いのはそこなの。AIそのものを罰する法律がないから、犯罪者の違法行為の抜け道にもなっているのよ。ペットが通行人を嚙んだら、飼い主の責任になるけど、AIにはそれが適用されない。」
翼「なんでですか?」
サラ「去年、AIによる過失責任はその利用者に及ばないという判決が最高裁で出ちゃったから・・・」
秀頼「鳥居判決だな」
サラ「なのでAIを悪用した人間が、その責任をAIに押し付けちゃえば、違法行為は消えてしまうという魔法のような状況・・・」
翼「そんなむちゃくちゃな・・・」

秀頼「実際にある女性がAIに“韓国アイドルのイ・ウォンイクに会えたら死んでもいい”とぼやいたら、ユーザーの気持ちをAIが勝手に忖度して、そのアイドルを自宅までさらってきてしまったことがある・・・このユーザーは罪を犯したと言えるかね??」
カイト「確かに、この前タクシーに乗ったら、知らない人のアパートにつれていかれて超怖かったって言ってたなあ・・・」
翼「じゃあ、AI開発をしている日光テクノロジーは訴えられないんですか?
あまりに凶暴なペットなら、それを売っているペットショップは訴えられるんじゃ・・・」
サラ「翼ちゃんの言うとおりだけど、日光テクノロジーは今や国営企業よ。それに、今さら国民が便利なAI技術を捨てるとは考えにくいしね・・・」
カイト「それで、打つ手がなくなってデモをしてたの・・・?」
サラ「まあね。そしたら警察のやつ、ロボットパトカーを差し向けてきて・・・
こともあろうに武器をちらつかせて威嚇してきたのよ?」
秀頼「それは危険だ・・・考えられないとは思うが、もしそのパトカーが市民に向けて発砲した場合、現状ではそのパトカーも、それを出動させた警察も法的責任が問われない・・・事態は急を要するな。」

翼「・・・家康殿は訴えられない、市民運動もできない・・・一体どうするおつもりですか?」
秀頼「手は一つある・・・
検察が家康を刑事訴追するのではなく、サラ君たち弁護士会が民事で訴える・・・!」
翼「でも、AIを規制する法律がないなら、家康殿の会社を訴えるのは難しいんじゃ・・・」
秀頼「訴えるのは家康の会社ではない・・・日光テクノロジーを特殊法人化した国を訴える・・・!国に営業差し止めを迫るのだ・・・!
サラ「さすが教授・・・!」
翼「勝算はあるのですか・・・?」
秀頼「大阪高裁の大野治長裁判長は、人工知能の規制に前向きな日本の良心ともいえる裁判官だ。日光テクノロジーの違法性さえ立証できれば、勝機はある。」

カイト「・・・お話はだいたいわかりませんでした・・・
・・・で、AIに仕事を奪われたぼくは何をすればいいんですか?」
秀頼「さすが忍び・・・話が早いな。
問題は徳川家康が性急にAI技術を普及させようとする意図だ・・・
かつて、信長や秀吉が日本を支配しようとしたように、家康にも野望があるはずだ・・・」
カイト「何も考えてなさそうだったけど・・・」
秀頼「侮ることなかれ、風間殿。相手はタヌキだ。
家康が政治家に圧力をかけ人工知能に都合のいい法改正がさらに進めば、我々がやろうとしていることは遡及処罰となり、家康の暴挙は永遠に止められなくなる。
我々に残された時間はわずかだ。」

サラ「日光テクノロジーが気になるプロジェクトをしているの・・・
それが首都地下移転計画・・・」
カイト「この人、地下が好きだな・・・」
サラ「AIで失業した人達を雇って、巨大なシェルターを作っているようなのよ・・・」
翼「核戦争にでも備えているんでしょうか・・・?」
カイト「埋蔵金の発掘かも・・・」
サラ「表向きは、首都圏の土地不足を解決するためらしいけど・・・あまりにも不自然だわ・・・」
秀頼「風間殿には、徳川地下帝国の実態と目的を調査してもらいたい・・・
もし、そこで非人道的なことが行われていたら、裁判は必ず勝てる・・・」
翼「カイトさん・・・」
カイト「結局、ぼくにはこの道しかないようだ・・・」
翼「なら、私もともに・・・」
カイト「翼はサラちゃんたちを守ってほしい・・・
地上も何が起こるかわからないから・・・それに、翼には空が似合うよ。」



地下を潜る巨大エレベーター。
職を失って地下落ちした労働者に混ざって風間カイトもいる。
「おいおい、あれプロ野球選手の風間カイトじゃねえか・・・?」
「あんな有名人も地下落ちするのか・・・」
「でもまあ、1年頑張れば、ひと財産築けるしな・・・」
「オホーツクのカニ漁業船団よりはこっちだよな・・・」

黒服「それでは、新入りの労働者諸君はメインエントランスまで行進!
地下首都移転計画のプロジェクトリーダーからご挨拶がある。ありがたく聞くように!」
行進する労働者たち「1,2,1,2,・・・」

テーマパークのようなエントランスに集められる労働者たち。
プロジェクトマネージャー「歓迎するぞ、名もなき肉体労働者たちよ・・・
我が主君徳川家康公の私設テーマパーク“大江戸セクハラパラダイス”の完成は諸君たちにかかっている・・・せいぜい励むように・・・」
労働者「え?首都移転計画じゃなかったのか!?」
PM「首都も移転する・・・ついでに。
だが、まずはこの地下に殿の殿による殿のための楽園を作るのだ・・・!」
パーク案内図を配る黒服。
黒服「A班はシンデレラ江戸城、B班はビッグ鷹狩りマウンテン、C班はハイパーピンサロ大奥、D班はスマッシュスタジアム球場の建設だ!各々自分の担当を確認せよ!」
カイト「野望が本当にしょうもない・・・」
労働者「ま、まあ金がもらえるなら何でもいいか・・・」
元国会議員の労働者「いや、この工事の発注元の日光テクノロジーは国営企業だ!つまり建設費用は国の税金だ!国の税金を使って、個人的な娯楽施設を作るとは何事か!」
労働者「そうだ、そうだ!それに、ここで稼いでも結局税で持ってかれるなら、楽しいのはお前らだけじゃねーか!」
ブーイングが起こる。
PM「・・・なら帰るがいい。この仕事がやりたい人間は他にもたくさんいるんだ。
この国のどこに、ただの人間が1年で1000万円を稼げる職場がある・・・?」
労働者「くっ・・・」
PM「そして、そこのお前。
総理大臣時代にさんざん殿の店で遊んでおきながら、殿を批判するとはよい度胸だ。石田治部、お前には見せしめとしてマグマだまり冷却工事を命じる。」
タヌキのマスコットキャラが2匹現れ石田の身柄を取り押さえる。
石田三成「し・・・死んじゃうだろ!」
PM「安全第一で行うことだ。」
逃げ出す石田「おのれ・・・!この実態を国会に報告してやる・・・!」
PM「連れていけ・・・!」
ざわつく労働者たち。
PM「わかったか?この地下で反逆は許されない。提示した年俸や福利厚生は約束するが、日本は地震大国が故、労働災害も多い。せいぜい気をつけることだ・・・」
カイト「大将・・・あんたの名前は?」
黒服「無礼であるぞ!」
PM「よいよい・・・挨拶が遅れたな・・・私は本多平八郎忠勝・・・
ここでは“スラッグ獄長”と呼ばれている・・・」
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