ざわめく3組
練習生「この学校にスーパースターの百地翼ちゃんがいるって本当なのかな?」
他の練習生「くだらないガセネタでしょう。この学校にそんなオーラのある美少女なんていないじゃん。」
「でも、ウソだったら、あんなにマスコミが押しかけなくない?」
「週刊誌の記事なんてウソばっかだって。」
音楽室に入ってくる乙奈「その通りです。事実無根だと思いますわ・・・」
練習生「先生・・・」
「やっぱりそうか~でも会いたかったなあ。わたし、翼ちゃんに憧れて芸能界を目指したの。
また、テレビに出てくれないかなあ・・・なんで突然芸能界からいなくなったんだろう?」
「不祥事で消されたんじゃない?
アイドルは恋愛禁止とか言いながら、イケメン俳優と片っ端からデートしてたらしいよ?」
「あ~そのスキャンダル私も知ってる!曜日ごとにローテーションしてたんだよね!」
「あと、後輩アイドルをいじめていたり、裏では相当性格悪いらしいよ」
「ちょっと!ファンの前でそんなこと言わないでよ~!」
「でも清く正しく美しい子だったら、芸能界から突然消えたりしないでしょう?」
乙奈「・・・・・・。」
ちおり「翼ちゃんはそんな子じゃないよ!」
練習生「ちおりちゃん・・・」
「・・・なんでわかるの?」
ちおり「性格が悪い子が歌う歌で感動するファンはいないよ。」
ちおりの頭をなでる乙奈「ちおりちゃん・・・ありがとう・・・
でも、学校にこれ以上迷惑をかけるわけにはいきませんわね・・・」
顔を上げる乙奈。
・
校門
マスコミの群衆の前に乙奈が現れる。
記者「おおっ出てきたぞ!」
「そこのモブ女子のきみ!百地翼ちゃんって君の学校にいるよね?」
乙奈「ええ・・・」
記者「やっぱりだ!ちょっと呼んできてよ!」
乙奈「あなたの目の前にいますわ・・・わたくしが百地翼です。」
記者「いやいや、そんな冗談はいいから・・・」
乙奈「そう・・・わたくしなど、どこにでもいる平凡な高校生にすぎない・・・
アイドルのオーラなんてたくさんの大人が作り上げた虚構ですわ・・・」
乙奈にカメラを向けるカメラマン「おい、確かに、この子かも・・・」
涙を流す乙奈「こうなってしまった以上、わたくしはどうなってもいい・・・
でも・・・この学校・・・白亜高校だけは・・・見逃してほしい・・・
わたくしの・・・大切な場所なの・・・」
・
音楽室のテレビ中継を見て言葉を失う練習生たち
「うそ・・・」
「ねえ、あんたさっきの発言謝りなさいよ・・・
あの人がイケメンをローテーションするわけないわ。」
「強く当たられたこともない・・・いつも褒めてくれた・・・」
「乙奈先生どうなるんだろう・・・」
「芸能界につれてかれちゃうのかな・・・」
「でも、いったい誰がマスコミに垂れ込んだの?」
「きっと生徒会よ!そもそも100万円の話だって生徒会が押し付けてきたんだもん!」
「みんなで文句言いに行こう!パンチラーズ、アッセンブル!」
・
生徒会に押し掛ける3組
「華白崎副会長、出てきなさい!よくも乙奈先生をマスコミの餌食にしたわね!!」
扉があく。
華白崎「・・・私が垂れ込んだと?」
練習生「100万円は払ったのに・・・!こんな仕打ちひどいわ!!」
華白崎「証拠は・・・?」
練習生「じょ・・・状況証拠がある・・・!
あなたは乙奈先生の自由放任なやり方を嫌っていた・・・!」
一笑する華白崎「根拠もない憶測で、他者を非難するなんて、外のマスコミ連中と変わらないわね・・・」
練習生「・・・う・・・」
華白崎「反面教師になさい。アイドルになったあなたたちに襲い掛かるのは、ああいった輩よ・・・」
練習生「謝ってよ・・・!」
扉を閉める華白崎「謝る道理がない・・・」
・
音楽室
号外「百地翼ついに発見!芸能界復帰はあるか!?」の見出し。
号外をたたむ練習生「先生もいなくなって・・・これから3組はどうなるんだろう・・・」
ちおり「乙奈さんってもともと教室には来なかったんでしょう?別に今までと変わらないよ!」
「そ・・・そうですけど・・・」
「アイドル百地翼だって知ってたら、もっといろいろ教えてもらえばよかった・・・」
「というかサインもらえばよかった~!」
「なんで隠してたんだろう・・・水臭いなあ・・・」
ちおり「きっと、みんなと対等に付き合いたかったんだと思うよ。
ふつうに学校に通って・・・ふつうのおともだちが欲しかったんだよ。」
立ちあがる練習生「・・・練習しよう。
年明けには芸能事務所のオーディションがあるんだよ。
先生がせっかく用意してくれた夢を叶える舞台・・・
わたし・・・無駄にしたくない・・・!」
「うん・・・やろう!カラオケボックスのバイトもあるし!」
「・・・ちおりちゃんはこれからどうする?」
ちおり「わたしは、至近距離で乙奈さんの全力ライブを見ちゃったから、別の方法でしろったま子さんに会うよ!」
練習生「いいな~」
「超うらやましいです・・・」
ちおり「いや、見ない方がいいよ!圧倒的実力差でアイドルなる気なくすから!」
・
体育館
2組の学生たちがストレッチをしている。
笛を吹くジャージ姿の海野「はい、ゆっくり伸ばそう、ゆっくり・・・
ストレッチパワーを感じているかな?」
体育館に入ってくるちおり
気まずそうに笑うちおり「へへ・・・」
微笑む海野「あ、ちおりちゃん・・・話は聞いてる、ようこそ2組、フィジカルクラスへ!」
・
その後の百地翼に対する世間の誹謗中傷はむごいものだった。
「自分勝手な失踪でファンの期待を裏切った」
「みんな忘れかけていたところで今更芸能界に復帰してもオワコン」
「黒いうわさがありすぎて、もうスポンサーがつかない」
「この末路は自業自得」
など・・・
これに激怒したファンがアンチと関ケ原で激突・・・多くの兵が打ち首となる大惨事となった・・・
とどのつまり、みなが言いたいことを言って、言いっぱなしで嵐は過ぎ去った・・・
スーパーアイドル百地翼のその後は誰も知らない・・・
・
教会
器をもって炊き出しの列に並ぶちおり。
乙奈「あら・・・ちおりちゃん・・・」
ちおり「乙奈さんだ!」
そばに刻みネギを入れる乙奈「ここ、私の実家。」
乙奈はブーちゃんと年越しそばをよそっている。
ちおり「わ~おいしそ~!十割そばだ!」
乙奈「あの子たちはうまくやれてる・・・?」
ちおり「ちょこちょこ小さい仕事取ってるみたいよ。」
乙奈「それはよかった・・・きっと私を超えるスターになりますわ・・・」
蕎麦をすするちおり「乙奈さんは今年の紅白歌合戦出ないの?」
乙奈「芸能界に混沌を生んだブラックアイドルですから・・・」
ちおり「じゃあさ、バレーをやろうよ!」
・
体育館
始業式の全校集会
京冨野「校長の話だ。気をつけ。礼。」
羽毛田校長「みなさんあけましておめでとうございます。みなさんのおかげで白亜高校は年を越すことができました。ありがとうございます。
本校は有志の寄付で運営されています。なので、もしみなさんの周りにチャリティーに関心がある富豪がいましたら、ぜひ連絡をしてください。あまっているお年玉を職員室によこしてくださっても大歓迎です。」
舞台袖の教員たち
花原「生徒になんつーこと言ってんだ・・・」
隣の華白崎に小声で話しかける海野「ありがとう」
華白崎「・・・なにが?」
海野「・・・生原さん、2組でバレーボールができて喜んでる。」
華白崎「海野部長もお人よしですね・・・去年を思い返してみなさい。
4組の花原さんは大やけど、3組の乙奈さんは誹謗中傷・・・
あの生原ちおりが入ったクラスの担任は必ずひどい目に遭っている・・・」
海野「・・・疫病神みたいな言い方。」
華白崎「あなたもせいぜい気をつけることね・・・」
横から話に割って入るマッスル山村(5組英語担当)「・・・疫病神はあんたじゃないのか・・・?」
華白崎「なんですって?」
山村「生原さんの家を燃やしたのも、乙奈さんをマスコミに売ったのも、あんただっていう噂で持ち切りだぜ。当然俺はそんなこと信じてないがな・・・
だが、あんた、ちょっと嫌われすぎだぜ・・・」
海野「・・・ちょっと山村くん・・・!」
華白崎「・・・・・・ばっかじゃない・・・」
病田「・・・あの・・・華白崎さんはそんな人じゃな・・・」
華白崎「かばわないでください。みじめになるから。」
速攻で謝る病田「ごめんなさい。」
・
廊下を一人で歩いていく華白崎
「男子バレー部」と書かれた部屋の前で立ち止まる。
扉が開く。
部屋の中から声がする。
「早く入ってくれ。お前と接触しているところを見られたら、俺様まで嫌われる。」
華白崎「・・・どうも。」
部屋の中に入ると、男子バレーのトロフィーがそこらじゅうに飾られている。
白亜高校男子バレー部部長、大此木勝行(おおこのぎかつゆき)
「いいか、幼馴染のよしみで話を聞いてやるだけだ。
引き受けるかどうかの決定権は俺様にある。それを忘れるな。」
華白崎「女子バレー部が年末から活動しているのはご存知かしら?」
大此木「海野が活動を再開したって?バカを言うな。女子バレー部の部員はあいつだけだ。
いくらやっこさんでも1人でバレーボールはできねえよ。」
華白崎「生原ちおりっていう子を入学させてね・・・そのホームレスの他にもバレーボールの未経験者を集めて、例の大会に優勝しようとしているの。これが、そのリスト」
リストをめくる大此木「4組の花原に3組の乙奈・・・運動神経の乏しい根暗女子ばっかりじゃねえか。海野は血迷ったのか?」
華白崎「・・・この子たちにスポーツの厳しさを教えて欲しいのよ。」
大此木「華白崎・・・貴様、この俺様に女子と試合をしろっていうのか?
だいたいネットの高さはどうするんだ?」
華白崎「・・・報酬は弾むわ・・・これは前金・・・」
蒲焼さん太郎をばら撒く華白崎
大此木「・・・!」
華白崎「あんた、昔からこの駄菓子に目がないでしょう?」
大此木「スーパービッグカツだ。それで考えてやる・・・
だがな・・・男子バレー部はもう廃部してんだ。お前の緊縮財政でな。」
華白崎「手段は問わないわ。」
蒲焼さん太郎をかじる大此木「・・・女子をいじめるのは小1のスカートめくり以来だぜ・・・
腕がなる・・・」
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