白亜高校の校門
バイクにまたがった二人乗りの昭和のバンカラがマッスル山村と対峙している。
「オレッチ、樹羅高校で番長やらせてもらってるジョニーってもんだけどよ、ここに海野美帆子っていう女子生徒がいるって聞いてよ、連れてきてくんねえか?」
山村「なんだ貴様ら・・・
剃り込みと木刀がトレードマークのお前たちに大切な学友をハイそうですかと差し出すわけなかろう・・・」
ジョ二ー「ほう・・・オレッチとやんのか、おお?」
ブレザーを脱ぐ山村「拳を交えたいのなら・・・このマッスルが相手になるぞ・・・」
後ろの木刀を持った細身のバンカラが止める。
「やめるのだジョ二ーよ・・・他校の学生とのトラブルは、あのお方に固く禁じられているはずだ・・・」
バイクを降りるジョ二ー「固いこと言うな久蔵・・・って、おめえどこまで脱ぐんだ!!??」
ブリーフ一枚になっているマッスル山村。
山村「お前も遠慮せず脱ぐがいい・・・」
久蔵「気をつけろジョ二ー・・・目の前にいるのは本物の変態なのやもしれぬぞ・・・」
ジョ二ー「あ・・・あの・・・別の人呼んできてもらえますか・・・?」
駆け寄ってくる女子たち
華白崎「こちらです・・・」
ちおり「うわー本物のくにおくんだ!かっけー!」
ちおりの腕章に気づくジョ二ー「・・・もしや、おめえがこの学校のヘッドか?」
ちおり「夜露死苦!」
華白崎「生徒会長の生原です・・・
わたくし共としては、本校の学生の個人情報を他校の学生に伝えることはできません。
おひきとりを・・・」
華白崎にすごむジョ二ー「あああ!!??」
たじろいで後ずさる華白崎「・・・け・・・警察を呼びますよ・・・!」
ジョ二ー「気の強い姉ちゃんだな・・・どうする?」
ちおり「いいアイディアがあるよ!」
校庭に土俵を作り、シコを取るジョ二ーと山村。
ジョ二ー「オレっちは相撲で負けたことがねえ・・・」
山村「奇遇だな・・・俺もだ。」
小声で華白崎「どうするんですか・・・山村先輩が負けたら・・・」
ちおり「そしたら昔剣道をやってた華白崎さんが、あの居合の先生みたいな人と二回戦。」
華白崎「・・・なんで、こういう時に不良の扱いがうまい京冨野先生と吹雪先生がいないんだ・・・」
ちおり「みあってみあって・・・!はっけよーい・・・!のこった!!!」
ぶつかり合う両者。
ジョ二ー「やるなオメエ・・・!」
山村「お前こそ、なかなか可愛い乳首をしているではないか・・・!」
ちおり「のこったのこったー」
相撲を見に来る海野「一体何の騒ぎ・・・?」
ちおり「あ、海野さん!つっぱり大相撲春場所。」
海野「へ~私おすもう大好き!枡席に座っていい?」
久蔵「お主が海野氏か・・・?」
海野「はい・・・そうですけど・・・」
久蔵「実は我が主から手紙を預かっておってな・・・」
海野「てがみ?」
久蔵「・・・狩野レイを覚えているかね・・・」
海野「・・・え?今なんて・・・」
久蔵「狩野レイだ。彼女は我が樹羅高校に通っている・・・もうじき卒業で番長は引退したが・・・」
目をうるめる海野「・・・し・・・親友です・・・生きてたんだ・・・」
久蔵「そなたのことを忘れたことは一時もないと申しておったぞ・・・」
海野「れ・・・レイちゃんのこと・・・もっと教えてください・・・こ、こちらへ・・・!」
ちおり「私も聞きたい!」
海野「茨城県のヤンキーとも戦ったんですか・・・?」
久蔵「その話は長くなるな・・・まずレイ殿は成人式で暴れる馬鹿どもをひとり残らず・・・」
学校の中に入っていく一同。
校庭に取り残されるジョ二ーと山村。
がっぷりよつで硬直状態。
ジョ二ー「もう降参したらどうだ・・・!?」
山村「お前こそ、鳥肌がたっているぞ・・・」
・
電車を降りる海野。
東京駅から丸の内のビルディング街を歩く。
久蔵からもらった手紙を開く。
海野「このビルが・・・高体連本部ビル・・・」
・
屋上に駆け上がる海野。
扉を開けると、スーツを着た長身の旧友が立っている。
狩野「・・・覚えている・・・?」
涙を流す海野。
「もちろんよ・・・」
狩野「・・・もういじめられてない・・・?」
頷く海野「強くなったもの・・・」
駆け寄って抱きしめ合う二人。
狩野「・・・ただいま・・・」
・
丸の内のカフェで話し合う狩野と海野。
海野「手紙読んだよ・・・高体連で働いているってすごいね・・・」
狩野「・・・バレーボール・・・続けてるんでしょう。
あの大会に出場するの?」
海野「うん・・・」
狩野「・・・海野さんなら優勝できるよ。」
海野「レイちゃんといっしょにやりたかったな・・・」
狩野「そうだね・・・」
海野「ね・・・ねえ・・・よかったらうちの学校で一緒にやらない?」
苦笑いする狩野「相変わらずだね・・・もう何年もやってないよ・・・」
狩野の脚の古傷に目が行く海野。
海野「・・・ごめん・・・」
狩野「・・・悩んでいるの・・・?チームのことで・・・」
海野「・・・え?」
狩野「海野さんのことなら何でも分かるよ・・・」
海野「まいったな・・・みんな素質はあるんだけど・・・個性が強すぎて・・・」
狩野「・・・確かに大会の選手名簿をみたら・・・海野さん以外は女子バレー部じゃないよね・・・」
海野「メンバーは、家なき子と、狂った科学者と、元アイドルと、料理人と、全国模試一位の秀才。」
ドン引きする狩野「それ・・・どこまでが本当の話?」
海野「・・・え?」
狩野「なるほど・・・
私のアドバイスが役に立つかはわからないけど・・・」
海野「お願いします。」
狩野「あの二人に聞いたと思うけど・・・震災のあと・・・私は樹羅高校に入学したんだ・・・」
海野「全国の元気な子が集まるビーバップ的なハイスクールだよね・・・」
狩野「・・・どんな無法地帯なんだろうって不安だったんだけど・・・
今までで一番秩序があったんだ・・・」
海野「みんな喧嘩自慢のツッパリなのに??」
狩野「どうしてか分かる?」
海野「う~ん・・・」
狩野「・・・誰が一番強いかハッキリしていたからよ・・・
樹羅高校は喧嘩が強い新入生が来ると、まず学校の番長がタイマンをはるんだ・・・
勝負に勝ったほうが次の番長。それでおしまい。」
海野「それでレイちゃんが勝っちゃったの・・・?」
照れて赤くなる狩野「わ、私は一応、女の子だから・・・みんな女子には優しいんだ。」
海野(なんか久蔵さんの話と違うけど・・・まあいいか・・・)
狩野「何が言いたいのかというと・・・チームのボスをはっきりさせたほうがいいってこと。」
海野「そうか・・・確かにな・・・
部長の私か、生徒会長でセッターの生原さんか・・・スキルが高い華白崎さんか・・・」
狩野「ちがうちがう・・・」
海野「・・・え?」
狩野「部員じゃない・・・監督を付けるの・・・それもとびきり優秀な・・・」
海野「・・・監督・・・?」
狩野「中学時代に私たちが勝てたのも、素子さんのおかげでしょう・・・?」
海野「たしかに・・・でも・・・うちの学校にはそんな先生は・・・」
狩野「・・・おかしいな・・・いるはずだけど・・・」
海野「・・・え?」
狩野「若干15歳で日本代表に選ばれ、輝かしい成績を残したセッターで二つ名は“闘将”・・・」
海野「ほ・・・ほかの学校の先生じゃない・・・?」
狩野「そうだったかなあ・・・
オリンピック予選で未成年なのに飲酒したまま試合に出て、熱くなって相手の選手を殴って、女子バレー界から一瞬で姿を消した、伝説の選手が確か・・・」
突然思い当たる海野「・・・いるかも・・・」
狩野「その人は今なにをしてるの・・・?」
海野「・・・保健室で飲んだくれてます・・・」
椅子から立ち上がる海野。
海野「こうしちゃいれない・・・!東京に来た甲斐があった・・・!
ありがとうレイちゃん!!また絶対連絡するね!」
狩野「お役にたててよかった・・・」
海野の後ろ姿を見送る狩野。
狩野「がんばれ、バレー少女・・・」
・
職員室
さくら「はくしょん!・・・風邪ひいたかな・・・熱燗であったまろう・・・」
とっくりを傾ける。
脚立に乗って不器用に窓に横断幕を飾り付ける羽毛田と病田。
病田「こっち・・・」
位置を調整する羽毛田「そっち?こっち?」
さくら「誰かの誕生パーティ?」
羽毛田「女子バレー部が大会に出るんですよ。」
さくら「こんな年度末に?」
病田「学校を挙げて応援してあげたくて・・・」
遠くから横断幕を眺める京冨野「ちょっと傾いてねえか・・・?」
病田「どっち・・・??」
横断幕を読むさくら「がんばれ白亜高校・・・」
羽毛田「病田さんが書いたんですよ。達筆でしょう?」
さくら「さすが国語教師・・・」
病田「顧問の私にはこんなことしかできないですから・・・」
京冨野「この学校にバレーを教えられる教員がいればな。」
羽毛田「生徒にいい思い出を作ってやれるんですけどね・・・」
タバコに火を付けるさくら「そうねえ・・・」
バーンと職員室の扉を勢いよく開けて入ってくる海野。
羽毛田「おや・・・」
病田「美帆子ちゃん・・・」
京冨野「東京に行ってたんじゃねえのか?」
荒い足取りで、さくらの前に近づく。
さくら「・・・?」
海野「・・・日本代表だったんですよね。」
さくら「・・・ま・・・まあ・・・」
深く頭を下げる海野
「うちのチームの監督になってください・・・!!」
タバコを口からポロリと落とすさくら「あつ・・・」
・
保健室の人気教師のさくら先生が女子バレー日本代表だったことは即座に全校に知れ渡った・・・
人目を気にして、窓から保健室に忍び込むさくら。
保健室の前の廊下では海野が立って待っている。
保険室のドアには「バレー部勧誘お断り」というパネルがかかっている。
さくら「・・・あの子本当にしつこいな・・・しかし・・・なんであの黒歴史がバレたんだろう・・・
全日本バレー連盟の選手データも抹消したはずなのに・・・
もしかして・・・高体連の方には残っていたのか・・・」
廊下の海野に声をかける病田。
病田「今日はもう諦めたら・・・?」
海野「それでは、明日また来ます。」
病田「吹雪先生は監督はやらないと思うよ・・・」
海野「・・・輝かしい実績があるのになんで・・・」
病田「・・・きっと吹雪先生の中ではそうじゃないんじゃないかな・・・」
海野「・・・全日本が?」
病田「スポーツ選手には・・・必ず引退があるから・・・
その競技に人生を懸けていたほど・・・やりきれない思いがある・・・」
海野「・・・私にとってそれは今なんです。」
保健室に一礼して歩いていく海野。
保健室の扉が開く。
さくら「行った・・・?」
病田「・・・はい。」
保健室の中で話し合う女教師たち。
さくら「諦めてくれたかな・・・?」
病田「美帆子ちゃんを見くびりすぎです・・・
きっと先生が監督になるまで、通い続けますよ・・・」
さくら「そのまま卒業させちゃおうぜ・・・」
病田「・・・やってあげればいいのに。」
酒を煽るさくら「私のやり方はもう古いよ・・・」
震える病田「・・・ずるい。」
さくら「病田先生・・・?」
泣き出す病田「さくら先生は・・・いつも生徒から人気があって・・・
私は見向きもされない・・・
私は・・・あの子達に何も教えてやれないから・・・」
慌てるさくら「ちょ、ちょっと大の大人が泣かないでよ・・・」
病田「私が自慢できることは・・・人よりも闘病生活が長かったことだけ・・・」
さくら「・・・す・・・すごいじゃない・・・」
病田「・・・今、この時を摘め・・・」
さくら「・・・は?」
病田「古代ローマの詩人ホラティウスの一節です・・・人はいずれ死んでしまう・・・
私はきっと長生きできないけれど・・・
自分が生きた意味をほかの人に残せるってことは・・・幸せなことだと思いますよ。」
さくら「・・・そうかもね・・・」
病田「・・・監督やってあげたら?」
でも断るさくら「・・・いや・・・いいかな・・・」
病田(・・・え?)
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