『青春アタック』脚本⑰三顧之礼

体育館
花原「・・・海野さんは?」
華白崎「また臥竜岡(がりょうこう)へ行ってますよ・・・」
花原「またか・・・東京から帰ってきてからずっと保健室に入り浸ってるなあ・・・」
ちおり「怪我しすぎだよね!」
花原「ちがうわよ・・・さくら先生を監督にスカウトしようとしてんのよ・・・」
華白崎「あの人が本当に全日本代表とは思えませんが・・・」
乙奈「あら、人は見た目じゃありませんわ・・・」
山村「うぬが言うと説得力があるな。」
華白崎「待っていてもしょうがない・・・今日も海野さん抜きで練習をしましょう。」
花原「え~また基礎練・・・?」
ちおり「あきた~」
華白崎「基礎を軽んじる者に勝利はない・・・」
山村「それに、そもそも人数的に基礎練しかできないしな・・・」
黙って一人でトスの練習をするブーちゃん。
乙奈「・・・やりましょう。」
ちおり「今日も顔でレシーブするの?」
花原「うるさい・・・
くそ~・・・海野さんがいないと華白崎さんのストイックな練習を止める人がいないのよ・・・」

体育館に入ってくる海野「みんな・・・」
花原「海野さん・・・!今日は練習に混ざってくれるのね!」
海野「やっぱりさくら先生に誠意を見せなきゃいけないと思うのよ!
生原さんと花原さん・・・一緒に保健室へ行こう!」
ちおり「わ~い!」
花原「・・・し・・・しかたないな~・・・」(ちょっとラッキー)
華白崎「・・・いいかげんにしてください海野部長。」
海野「・・・え?」
華白崎「東京で古い友人に何を吹き込まれたのか知りませんけど・・・
仮に吹雪先生が全日本代表だとしても、監督に迎えたからって魔法のようにチームが強くなるわけじゃない・・・大切なのは私たちは今、どう努力するか・・・」
海野「そうだけど・・・全日本代表といえば・・・私たちにとっては雲の上の存在・・・神のような人よ。
誠意を持って接しないと・・・
先生が監督を引き受けてくださるまで、私はあきらめないわ・・・」
目をパチクリする華白崎。
顔を見合わせるちおりと花原。
華白崎「冷静に考えましょう。選挙ポスターにらくがきを推奨していた人ですよ・・・?」
ちおり「酒を密造しようともしてたよ!」
海野「二人共行こう。」
小声で花原「・・・海野さんには私からうまく言うよ・・・」
華白崎「花原さん・・・お願いします・・・
海野部長までが変な方向に行ったらいよいよチームは終わりだ・・・」
花原「までって・・・」



保健室
扉の前でさくらが出てくるのを待つ海野とちおりと花原の3人。
花原「・・・留守なんじゃない?」
海野「いつもこうだから。」
ちおり「立ってるの疲れた~花原さんおんぶして。」
花原「まったく・・・」
ちおりをおんぶしてやる花原。
花原「華白崎さんじゃないけれど・・・
さくら先生を監督にしてもそこまで劇的に変わらないんじゃない?」
海野「・・・運動部の強豪校には必ず優秀な指導者がいるの・・・
中学時代もそうだった・・・
今の私たちに欠けていたのはそこだったんだ・・・
私たちは個々の能力は決して低くない・・・
むしろ全国的にも高いと思う。
男子チームとも試合になったんだから・・・
さくら先生と・・・バレーについて語り合いたいな・・・」

日が暮れてあたりが暗くなる。
花原「今日はもう帰ろう・・・本当に出張なのよ・・・」
ちおりは眠っている。
海野「・・・私はまだ待っているから・・・先に帰ってていいよ。」
花原「・・・信じているのね・・・」
海野「・・・信じてる。」
帰らない花原「・・・・・・。」
海野「・・・?」
微笑む花原「・・・あの人には私も恩があるからな・・・」
スカートをめくって太ももを見せる花原。
目立たないがやけど跡がある。

深夜
ふらふらと学校に戻ってくる教職員
「校長!このハゲ!今夜は朝まで付き合え!学校で飲みなおすぞお!」
さくらを抱える羽毛田「かんべんしてください・・・」
京冨野「俺たちはもう帰るぞ・・・」
目をこする病田「ねむい・・・」
さくら「はくじょーもの!刺青はがすぞ!」

校舎に電気がついていることに気づく。
羽毛田「おや・・・誰かまだいますね・・・」
京冨野「アルソックかけたよな・・・?」
病田「きっと生徒です・・・そうですよね、吹雪先生・・・」
さくら「・・・・・・。」



保健室の前の廊下に歩いてくるコートのさくら。
振り返る海野たち。
さくら「・・・負けた。
大切な大会の前に風邪ひくわよ・・・入りなさい・・・」

保健室
ストーブをつけるさくら。
「私の同期は、実業団や名門大学・・・強豪高校・・・いろんなところに監督として就任したけど・・・
私は全て断ってきた・・・私から見れば・・・すべて三流だったからね・・・
この私が仕えるほどじゃない・・・」
海野「この海野美帆子・・・高校三年間チームに恵まれずくすぶっていました・・・
私にとって、学生時代はもうわずか・・・どうか・・・お力を・・・!
誠意というなら、私たちは髪を丸刈りにします・・・!」
花原「・・・ちょ・・・何言って・・・」
さくら「・・・私の現役時代の愛称を知ってる?」
海野「ええ・・・確か・・・闘将・・・」
さくら「私は中途半端な戦いは嫌い。
やるからには私のやり方で徹底的にやらせてもらう・・・
でも、どいつもこいつも、なまじプライドが高くてごちゃごちゃウルサそうでね・・・」
ちおり「私たちはプライドの欠片もないよ!」
花原「お前、言ってて情けなくないのか・・・」
微笑むさくら「うん・・・強豪校に仕えるより・・・
強豪校を作るほうが楽しいかもね・・・それもひと月足らずで・・・」
海野「で・・・では・・・」
さくら「・・・約束が一つだけあるわ・・・
優勝したら・・・とびきり旨い酒をおごってちょうだい・・・」
海野「ありがとうございます・・・!!」
さくら「・・・後悔はないわね・・・?やっぱりやめたはナシよ。」
海野「はい・・・!」
ちおり「やったー!」
つばを飲む花原「ど・・・どんな厳しい練習が・・・」

さくら「さて・・・私がどこに出張に行ってたかわかる・・・?」
ちおり「駅前の、よろこんで庄屋でしょ!」
さくら「ご名答。」
そう言うと、机に大会の要項と強豪校の資料をばら撒く。
さくら「元チームメイトにスポーツ誌の記者がいてね・・・そいつと呑んでた。
今から話すのは優勝へのサクセスルートよ・・・」

机に近づく三人の女子高生。
さくら「今回の春高バレーにはリーグもトーナメントもないのはご存知?
いや・・・知らないわよね・・・開催時に突然発表されるのだから。」
海野「え・・・じゃあどうやって対戦カードを・・・」
さくら「出場校どうしが試合を取り付けるのよ・・・練習試合のようにね・・・」
花原「でも、両者の合意がない場合は・・・?
例えばいきなり強豪校から試合を申し込まれたら、そこで終わっちゃうわけだし・・・」
さくら「その場合、強豪校は弱小校にハンデキャップを設定することができるの。
そのハンデで相手が了承すれば、対戦カードは成立・・・
参加校は開催期間中に最低でも3校と対戦しなければ失格・・・
最後まで生き残った学校が優勝・・・
はい、どうすればいい・・・?」
花原「まずはレベルの近い学校と試合を取り付けて・・・」
さくら「ちがーう!優勝するために試合をする必要はないってこと・・・」
海野「で・・・でも、最低でも3校と対戦しないと失格なんじゃ・・・」
さくら「優勝するためには、決勝戦の一戦だけ戦えばいい。
それまでは期間ギリギリまで試合から逃げ続けて、ライバル校のつぶしあいを待つ。」
海野「決勝以外の2校はどうするんですか・・・?」
地図を置くさくら「栃木県の北部の山中に三畳農業高校という学校がある・・・」
花原「奥日光に・・・?そんな高校、聞いたことないけど・・・」
さくら「それはそうよ。私が作ったんだから。」
花原「作った・・・??」
さくら「この学校とまず戦う。練習試合ね。
勝敗はいくらでもでっち上げられる。誰も知らない秘境高校だからね。
もともと野生動物しかいないし、敗退させて部を潰しても大丈夫。」
海野「も・・・もう一校は・・・?」
さくら「埼玉県の上武(かんぶ)商業高校。
ここは本当にクソみたいな学校で、金さえ払えばどんな汚いこともやってくれる。
1000万円で八百長に乗ってくれたわ・・・
これで2勝できる・・・」
海野「・・・決勝は・・・?」
さくら「おそらく・・・決勝まで残るのはこいつらね・・・」
長身の双子美少女の写真を置く。
さくら「東京都の聖ペンシルヴァニア女子大学附属高校・・・」
海野「鮎原姉妹・・・春高バレー常連校ですね・・・」
さくら「こいつらはさすがにタイマンでは勝てない。絶対に無理。
普通にバレーが強いし、清く正しいから汚い金でも動かない。
そこで・・・ほかの強豪校や中堅校に金を払って、聖ペンシルヴァニアと積極的に戦ってもらう。
そして、体力を消耗させたところで、HP満タンの我々が容赦なく叩き潰す。
裏工作の費用の試算は・・・学校の設立も含めて・・・1億6752万円・・・
優勝賞金で充分返せるわ。」

言葉を失う三人。
あまりに卑怯なやり方にドン引きの花原「・・・やっぱり監督やめてもらおうか・・・」
海野「・・・うん・・・」
ちおり「スポーツマンシップの欠片もないね!」
さくら「・・・え?」

――こうして、白亜高校女子バレー部に天才的戦略家の吹雪さくらが加わったのである・・・



翌日
生徒会室
華白崎「・・・学校を・・・作った・・・?定款に当たる寄付行為は?文部省の認可は?
そもそも資金はどうするんです?」
花原「通信制高校ってことにすれば数万円で設立できるらしいよ。」
奥日光の地図を開く華白崎「・・・インターネットどころか、電線も通っていなさそうなんですが・・・」
ちおり「車道もないよ!」
華白崎「校舎はどうするんです?設立申請の際に県教委の立ち入り調査があるはず・・・」
花原「廃校になった分校を譲ってもらったって・・・
当局が詳しく調査するころには、この集落はダムに沈んでいるから証拠も隠滅できるってさ。
大会出場申請もすでに済ませたって。」
書類をめくる華白崎「・・・なんと・・・」
華白崎「しかし・・・この、裏工作費の1億6千万円は法外です。
そんな金があったら、そもそもこの大会に出場していない・・・」
花原「なんとかするらしいよ・・・」



雑居ビルの中の裏カジノ
美しい女性を侍らせた富裕層が楽しそうにギャンブルに興じている。

VIPルームに案内されるスーツの京冨野とドレスのさくら。
出迎える店長「こ・・・これはこれは・・・京冨野さん・・・」
京冨野「世間は不景気なのに、ここはずいぶん景気がいいじゃねえか、徳川店長・・・」
店長「お・・・おかげさまで・・・」
さくら「あんたさ、京ちゃんに口きいてもらって、この店やらせてもらってんでしょう?
ちょっと2億円くらいわたしたちに貸しなさいよ。」
店長「いや、それは・・・」
さくら「二か月後には絶対返すから!絶対!」
店長「そんな2千円のノリで言われても・・・」
さくら「賭けてんでしょう?今度の大会。」
店長「ま・・・まあ・・・うちは、昔からプロ野球もJリーグもすべてやらせてもらってますんで・・・
最近では高校部活動も・・・」
さくら「春高バレーの現在のオッズを教えて。」
店長「おい見せてやれ・・・」
ホール主任「わかりました・・・」
オッズ票を受け取るさくら。
京冨野「我が白亜高校は・・・?」
さくら「すばらしい!ダントツで人気最下位!オッズは250.3倍!」
ニヤリとする京冨野「悪くねえな・・・」
さくら「店長・・・この学校が優勝したらどうする?」
店長「胴元としてはぼろ儲けですけど・・・」
さくら「・・・なら、私たちと組みなさい。」



生徒会室に入ってくるさくら。
アタッシュケースを机の上に乗せる。
さくら「御所望の“矢”を集めてきたわ・・・金庫に入れときなさい。」
華白崎「御冗談を・・・」
無言でアタッシュケースを開ける花原。札束が詰め込まれている。
さくら「色を付けて2億5千万円融資してくれたわ・・・」
さくらの前でひざまずく花原「先生・・・!孔明先生・・・!!」
ちおり「・・・もし大会に負けちゃったらどうなるの?」
さくら「良くて全員ソープランドね。」
ソープランドを知らないちおり「わーいやったー!」
一転、青くなる花原「・・・“良くて”??」
華白崎「生徒を風俗に売るなんて・・・とんでもない教師だ・・・」
さくら「よくてね。
なあに、負けなきゃいいだけ。簡単な話でしょ?」
ちおり「今度は戦争だー!」
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