『青春アタック』脚本⑱呉越同舟

白亜高校の校門にバスが入ってくる。
バスに荷物を詰め込むマッスル山村。
校舎に取り付けられた「がんばれ白亜高校」の横断幕。
全校生徒が白亜高校女子バレー部を見送る。
白衣を着た4組が花火を打ち上げ、チアガールの格好をした3組の女子が歌とダンスで盛り上げる。

4組女子「学期末まで理科の授業がない喜びでこの花火を作りました!」
4組男子「半年くらいは大会に行ってきていいからな!」
花原「あんたたち・・・覚えておきなさいよ・・・期末試験で復讐してやる・・・」

3組女子「乙奈先生!コートでも最高のパフォーマンスを・・・!」
乙奈「やるだけやってみます・・・」
3組女子「ブーちゃんさん、先生をよろしく・・・」
黙ってサムズアップするブーちゃん。

運動部の主将たち「頑張って来いよ。」
大此木「まあ、楽しんでこいや。」
海野「うん、行ってくるね・・・!」

羽毛田校長「吹雪先生、部員をよろしくお願いしますね。」
さくら「じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。
(生徒の方へ)お前ら、あたしが帰ってくるまでケガや病気に気をつけろよな!」

1組の生徒会役員「生原会長、華白崎副会長・・・お気をつけて。」
華白崎「みんななら難関大の二次試験もばっちりだから・・・」
ちおり「みんな、当分出番がないけど元気でね!」

病田「そろそろバスが出ます・・・」
見送るみんなに手を振りながらバスに乗り込む女子バレー部。
バスが発車する。

羽毛田「行ってしまいましたね・・・」
京冨野「また忙しくなりますね、校長・・・」
羽毛田「と、言いますと?」
京冨野「優勝祝賀パーティの準備ですよ。」

校門から出て、どんどん小さくなっていくバス。



高体連本部ビル
ネコをなでながら窓からの眺めに目をやる破門戸「いよいよゲームの始まりですね・・・」
破門戸のグラスにワインを注ぐ狩野。
破門戸「新世紀の東洋の魔女はいったい誰か・・・高みの見物と行きましょう・・・」
狩野「・・・・・・。」



バスの車内。
缶チューハイで、もうできあがっているさくら「やい、乙奈ちゃん!一曲歌え!!」
乙奈「・・・え?」
カラオケのイントロが勝手にかかる。
花原「誰よ!沢田研二なんて入れたの!」
ちおり「勝手にしやがれ!」
花原「おまえか!」
賑やかな後ろの席を振り返る海野。
海野「みんな楽しそうだね・・・」
ため息をつく華白崎「・・・みなさん気を緩めすぎです・・・
吹雪先生が持ってきた内部リークの要項が正しいならば・・・
この大会・・・一般的な運動部の大会とは全く違う・・・
試合以外にも戦略的な駆け引きがいる・・・」
海野「なんで、こんな形式にしたんだろう・・・」
華白崎「おそらくは・・・通常のトーナメント戦では予選段階で消えてしまうような無名校の選手も主催者側は注目したいのでは・・・」
海野「じゃあ、素敵な大会だね!」
華白崎「それはどうでしょう・・・優勝校以外はバレーの道を断たれるバトルロイヤルであることには変わりはない・・・それに巨額のカネが動くマネーゲームです。油断は禁物ですよ。」
海野「私はバレーしかできないから・・・
頭のいい華白崎さんや花原さんが頼り。」
華白崎「そういう意味で・・・数々の修羅場を潜り抜けた経験のある吹雪先生は、確かに頼もしいかと。」

後部座席でどんちゃん騒ぎする監督。
さくら「よし、マッスル!景気づけに脱げ!」
山村「無論だ。本日は勝負パンツをはいてきた・・・乙女たちよ刮目せよ・・・!」
花原「きゃー!」
乙奈「まあ、ビキニパンツにスパンコールとは破廉恥極まりないですわ・・・!」

海野と華白崎「・・・・・・。」



夜の波止場
バスから降りるちおり「わーい!」
海野「・・・ここが開会式の会場・・・?」
パンフレットを見る病田「会場はあの船みたいです・・・」
霧の中から豪華客船が現れる。
花原「金かかっているわね・・・!」
入場ゲートには、黒服を着た長身の女が立っている。
ちおり「あそこに人がいるよ!」
花原「なんか、不気味な女ね・・・」
女「白亜高校女子バレー部御一行様ですね・・・お待ちしておりました。」
女を見て花原「うお、で・・・でかい・・・!私よりもあるってことは・・・180以上?
というか、日本人じゃない・・・?」
女「・・・あ、あの・・・なにか?」
小声で花原「あの受付の人、人間を二、三人殺してそうな異様なオーラがない?」
乙奈「わたくしもひしひしと感じますわ・・・」
さくら「まあ、昔からスポーツ大会の興行には反社会勢力はつきものだかんね。
アサシンの一人や二人はよくいるよ・・・」
華白崎「よくいるんですか・・・」
花原「よくいちゃダメだろ・・・」
海野「あ・・・レイちゃん・・・!」
狩野「・・・海野さん。待ってたよ。」
花原「もしかして・・・この人が例の恐竜カルノサウルス・・・?」
キョトンとする狩野「・・・恐竜?」
花原「・・・い、いえ・・・」
狩野「海野さんのチームを一目見たくて。
本当に、みなさん異様なオーラを背負ってますね・・・」
海野「そうでしょ!」
さくら「お前ら、ロシアの殺し屋に言われてんぞ。」
花原「・・・え?」
狩野「豪華客船デゼスポワールへようこそ・・・もうじき出港です。」



「デゼスポワール」メインホール
全国からの参加者がひしめき合っている。
他のチームはみんなドレスを着て歓談しているが、白亜高校だけ制服で突っ立っている。
気まずい花原「・・・これ本当にバレーボール大会の開会式?船間違えたんじゃない?」
書類をめくる病田「そ・・・そんなことは・・・」
階段を下りて白亜高校のほうへ近づいてくる、ひときわ高級なブランドのドレスを着たポニーテールの美女。
美女の声は宝塚の男役のように低い。
「確かに正装とは書いてあったけど、まさか学校の制服で来るとはね・・・」
ちおり「すげー!シンデレラだ!!」
美女「今年も日本一のレシーバーと戦えるなんて、引退時期をのばして正解だったよ。」
海野「咲ちゃん・・・ひさしぶり!」
ちおり「だれ?」

周りが賑やかになる。
ガヤ「アユだ・・・!」
「間違いない、前回優勝校の聖ペンシルヴァニアの鮎原だよ・・・!」
「どっち?矛の方?盾の方?」
「矛だと思う・・・!」

美女「どうも、みなさん。鮎原姉妹の矛の方・・・鮎原咲です。
お会いできて光栄だ。今年もフェアプレーで行きましょう。」
力強く白亜高校の部員たちと握手する咲。
気まずい花原「はは・・・フェアプレーで・・・」
華白崎に気づく咲「あれ・・・?数年前、バレーボール千葉代表にいませんでしたか?」
目を背ける華白崎「ひ・・・人違いじゃないでしょうか・・・」
咲「そうかなあ・・・何年か前に千葉県にバレーボールがめちゃくちゃうまい広末涼子がいるって話題になったような・・・」
華白崎「千葉県に広末涼子はたくさんいるかと・・・」
咲「これはしたり。」
今度は乙奈に気づく。「・・・ん?テレビに・・・」
乙奈「ちがいます。」
咲「・・・そうですか・・・」

ひそひそ話が聞こえる。
ガヤ「なんであのスーパースター鮎原が、あんな貧乏くさい学校と交流があるの・・・?」
「というか、よくあんな汚い格好で入場ゲート通れたよね・・・ドレスコードでムリでしょ、普通。」

気を遣う海野「・・・私たちと離れてた方がいいんじゃない?」
咲「勝手に言わせておこう。
しかし、何度もうちにスカウトしたのに・・・
海野さんは最後まで私たちにとって最大のライバルなんだね。」
苦笑いする海野「あんな学費、私にはとても払えないよ・・・」
咲「まあ、いいわ。
おたがい、高校生活最後の大会。どちらが最強か・・・はっきり決着をつけようじゃない。」
海野「喜んで。」
咲「では決勝で。」
二階のVIP席に戻っていく咲。

花原「海野さん・・・私たち場違いなんじゃ・・・」
海野「・・・だからレイちゃんがゲートにいたんだ・・・」

ヴィバルディの「春」が鳴る。
黒服「みなさまステージ中央にご注目ください。
ただいまより、春の高校バレーバトルロイヤル大会の開会式を始めます。」
ステージに小柄の老紳士が現れる。
老紳士「えー・・・高校バレーに青春をかける淑女のみなさま、わたくし高体連の総裁を仰せつかっております、破門戸錠と申します。ただいまから、今大会のルールを説明いたします。
一度しか申しませんので、どうか集中力をもってお聞きいただきたい・・・」

各校の部長に黒服から要項が入った封筒が配られる。
部長を中心に集まる各校の部員たち。
封を切って要項を開く部長。

破門戸
「今回の大会には・・・リーグもトーナメントもございません。
開催期間中に参加各校が自主的に相手を決めて試合を行ってください・・・
試合の形式はバレーボールであれば自由・・・
9人制でも6人制でも、サイドアウト制でもラリーポイント制でも、リベロを導入しようが、ローテーションがなかろうが、ウイングスパイカーをアウトサイドヒッターと呼ぼうが・・・両校の合意があればいっこうに構いません。」

ざわつく会場。

破門戸「みなさまに課せられた条件はただひとつ・・・
封筒に入っている対戦チケットをすべて使用すること・・・」
封筒の中には、スポーツの観戦チケットのようなものが3枚入っている。
破門戸「他校と対戦する際は、このチケットが1枚必要となります。
つまり、どんなチームも3回は試合を組まなければならない・・・
4回戦以降は、わたくしどもからチケットが新たに支給されます。」

想像していたルールと異なり当惑する参加者たち。

破門戸「それでは・・・本大会の勝利と敗退についてご説明しましょう・・・
まず敗退。
一度でも試合に敗北した場合、即日その部は廃部となり、あまった対戦チケットは廃棄されます。
次に勝利。最後まで試合に勝利し続け、生き残ること・・・
以上で、本大会の説明を終わります。
みなさんのご健闘を祈ります。」
ステージを降りようとする破門戸。

参加者「ちょっと待って!そんな適当な部活の大会聞いたことないよ!」
「試合ごとにルールが違うんじゃ不公平よ!」
「開催期間中に1校まで絞られなかった場合は?」

破門戸「ご質問には一切お答えできません・・・」

参加者「答えなさいよ!こっちは賞金6億円がかかってんのよ!」
「私たちには知る権利がある!」
花原「・・・そーだ、そーだ!」
騒然とする会場。

破門戸「・・・殺しますよ。」

参加者「え・・・?」

破門戸「賞金がかかっているだと?その金はだれが払うと思ってる?
お前らのくだらない青春ごっこに6億だぞ・・・?破格の待遇だと思いなさい。
だいたい、何も生産しないお前たち未成年の部活動という思い出作りに、何人もの学校教員が土日も無給でつきあってやっていると思っている?」

ちおり「無給なの・・・?」
病田「日当で340円は振り込まれます・・・」
参加者「そんな言い方ひどいわ!私たちは高校三年間休まず一生懸命バレーに打ち込んできた!」

破門戸「それがどうした・・・?それを評価するのはお前らじゃない。我々だ。
お前らが、今までやってきたことに本当に信念や自信、矜持があるならば・・・
簡単なことだろう。勝利すればいい・・・」

参加者「う・・・」

続ける破門戸「・・・そんな覚悟もないのに、口だけはいっぱしのことを言う・・・
お前たちは、このままなんとなく部活動を引退して、なんとなく高校を卒業して、それでなんとなく感動して・・・何の夢もない・・・つまらない大人になるのか?
この国の権力者は、お前らをそうやって見くびっているから・・・年寄りだけを優遇し・・・未来を担う若者に負担だけを強いるのだ・・・」

泣き出す参加者も出てくる。

破門戸「だが・・・我々高体連は、諸君ら夢を追う高校生を決して見捨てない・・・
大人たちを見返したいのならば・・・勝って見せることだ。」
ステージから消える破門戸。

黒服「以上で開会式を終わります。ここで、ささやかですが皆さんに軽食を用意しました。
明日からの大会に向けて英気を養っていただけたらと思います。」

ホールに高級ビュッフェが運ばれる。
泣きながらバイキングを食べる参加者たち。「がんばろうね・・・!」
「優勝しよう・・・!!」
「美味しい・・・あのフリーザ、実はいい人なのかも・・・」

花原「・・・なんか異様な空気になってるんだけど・・・」
華白崎「あのフリーザがいい人なはずがない・・・
ここで口車に乗せられたら、それこそフリーザ軍の思うつぼです。」
ドリアンをほおばるちおり「でも美味しいよ!」
すでに奥のバーカウンターで飲んだくれているさくら。
ブーちゃんも一口かじって頷く。
乙奈「せっかくのご好意ですからいただきませんか・・・?」
海野「うん・・・」
花原「・・・委員長どうする?」
おなかが鳴る華白崎「・・・・・・。」
みんなで料理をがっつく。
涙を流す華白崎「こんなおいしいもの食べたことがない・・・」
花原「・・・それはよかったね・・・」

白亜高校に絡んでくる他校のバレー部員。
「女のくせに必死にがっついてみっともないわね・・・
ちょっとあなたたち不潔だから料理を触らないでくれる?」
傷つく海野「・・・え?」
華白崎「確かに我々のかっこうは制服ですが、毎日しっかり洗濯をしています・・・」
ちおり「わたしは入学してからそのまま!」
冷笑する他校の部員たち。
他校の部員に近づくちおり「言うて、そんなにくさくないよ。嗅いでみ、トライミー。」
他校のバレー部員がちおりを蹴とばす「くさいわね、私たちに近寄るな!」
「にゃああああ!」
ちおりに駆けよる花原「ちょっと何すんのよ!!
こいつがくさいのは、食べているドリアンのせいよ!誤解だわ!」
他校「くさいやつが腐った料理を食べるんじゃない!」
ドリアンを踏み潰す。
地面に突っ伏しながらちおり「あああ、私のドドリアさんが・・・!ザーボンさんも!!」
そのとき、食べ物を粗末にしたことに憤ったブーちゃんが歩み寄る。
慌ててブーちゃんを止める乙奈。
二人の前にさりげなく山村が割って入る。
山村「楽しい食事の場だ。仲よくしようぜ・・・」
海野「食事のマナーが悪かったのは謝ります・・・なので許してください・・・」
他校「試合の時にはしっかりと風呂に入りなさい。」
立ち去る他校のバレー部。

怒りに震える花原「な・・・なんだあいつら~!」
乙奈「あんな失礼な方々、白亜高校には一人もいませんわね・・・
いったいどちらの学校なのかしら・・・」
歩いてくるさくら「あれが上武高校。本当にクソでしょ?」
納得して頷く一同。
海野「あの子たちが・・・」



甲板
水平線を眺めながら破門戸「会場にあなたの姿があったから驚きましたよ・・・吹雪さん。」
シャンパングラスを持ちながらさくら「久しぶりっすね、監督。白髪増えました?」
破門戸「ほとんどは、あなたのせいですよ・・・
私のチームをめちゃくちゃにしてバレー界から姿を消して・・・
いったいどういう風の吹き回しですか?」
破門戸の隣に立つさくら「風ゆえの気まぐれよ。」
破門戸「ほほほ・・・あなたが参加するなら、退屈はしなさそうだ・・・」
さくら「今度はどんな悪いこと企んでるのよ。」
破門戸「それはお互い様です。なんですか、三畳農業高校って・・・」
さくら「面白いでしょ?
しかし、監督も変わりませんね。死ぬまでオリンピックで金を取りたいんだ。」
酒を注いでやる破門戸。
さくら「おっと、すいません。」
破門戸「わたしの夢ですからね。」
さくら「金を取ったら?」
破門戸「他の惑星のバレーチームを倒しに行きますか・・・あなたはどうなんです?」
酒を飲むさくら「上がまだまだ元気だからなあ・・・」
破門戸「さて、誰のことでしょうか。」
微笑むさくら「誰だろうね・・・
ただ・・・白亜高校はつぶさせないよ・・・」
破門戸「それが今の吹雪さくらの夢ですか。」
さくら「そうかもね。」
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