『青春アタック』脚本㉜我田引水

詩留々高専の体育館
りかぜ「こちらが我がチームの練習場です。」
ちおり「ひれー!!」
体育館には様々なバレーボールのトレーニングマシーンが並んでいる。
花原「これ、全部作ったの・・・?」
りかぜ「うちは工科系なのでわけはないわ・・・
実は、本日最新作が完成したの。
どうです?少し遊んでいきませんか・・・?」
ちおり「いいの?わーい!!」
りかぜ「花原先生もどうぞコートへ・・・」
花原「え・・・?いやちょっとなんか嫌な予感が・・・」
りかぜがリモコンのボタンを押すと、ひときわ巨大なバレーボールマシンがこちらに動いてくる。
花原「あれは・・・」
りかぜ「仮想海野美帆子バレーボールロボよ。」



応接室
海野「あ・・・あたし、そろそろ帰るね・・・!」
スバル「あんたがこんな卑怯な手を打たないことは私はよく知っている・・・
海野さんはバレーボールバカだからね。
あんたを裏で操っている黒幕がいるはずだ。誰?」
海野「いないよ、いないって・・・!」
スバル「こっちだってせっかく作ったバレー部を廃部させたくねえんだ・・・
可愛い後輩たちに残していきたいんだよ。
廃部なんて・・・もうゴメンなんだ。」
胸が痛む海野「・・・スバルちゃん・・・うん・・・わかった・・・」

その時、応接室の扉が開く。
りかぜ「・・・白亜高校監督・・・吹雪さくら・・・元日本代表」
そう言うと、ボロボロになったちおりと花原を放り投げる。
海野「・・・・!生原さん、花原さん・・・!」
ちおり「にゃ~・・・」
花原「海野ロボに殺されかけた・・・本気の海野さんがあんなに強いなんて・・・」
二人に駆け寄る海野「一体二人に何を・・・!?」
りかぜ「ただのバレーボールの練習よ。」
スバル「おいおい・・・元全日本が監督にいるのか!」
りかぜ「素行不良ですぐに球界を追い出されたみたいだけどね・・・
勝利のためには手段を選ばない恐るべき参謀よ。」
スバル「お前より恐ろしい参謀はいないだろ。」
りかぜ「・・・まあね。」
スバル「・・・で?こいつらの目的は?心を読んだんだろ?」
りかぜ「海野は、予想通り私たちと鮎原を戦わせたかったみたい。
花原は、うちの学校を受験したかったらしいんだけど、逮捕歴があって受験資格なし。
未練があったみたい。
生原は、なんかよくわからないけど、ただ付いてきた・・・」
花原「なんで、そんなこと分かるの・・・!?」
りかぜ「・・・遺伝子操作の影響かわからないけど・・・私は人の10倍“勘がいい”の。」
震える花原「か・・・怪物だ・・・」
りかぜ「中学生で原子炉作ったあなたに言われたくないわ・・・
で、ボス・・・どうしますか?」
床に膝をつく海野「スバルちゃん、陥れるような真似をして本当にごめん・・・!
謝るから、許してください・・・!」
スバル「・・・顔を上げなよ海野さん・・・それに・・・白亜高校の提案も結構悪くない・・・」
海野「え?」
りかぜ「さすがボス。聡明ですわ。
聖ペンシルヴァニアには現在の我々がフルパワーでかかっても勝利は難しい・・・
そして、それは白亜高校も同じ・・・
しかし、我々と白亜高が協力して、鮎原姉妹を迎え撃てば・・・」
海野「それって・・・」
スバル「いいぜ、海野部長・・・鮎原姉妹と戦ってやる。ただし、ひとつ条件がある。」
海野「え・・・?」
スバル「鮎原と対戦する代わりに、その次は白亜高校と戦わせてほしい。
・・・どうだ?」
海野「でも・・・私の一存では決められない・・・みんなと相談して・・・」
りかぜ「白亜高校の部長は吹雪さくらではなく、海野さん・・・あなたでしょ?
あなたが今、決めなさい。」
誓約書を机に置くりかぜ。
スバル「でなければ、この話は無しだ。」
海野「・・・・・・。」
花原「ダメよ海野さん・・・!こういうシチュエーションでサインをしてよかった試しがなかったってうちの母さんが言ってたわ・・・」
りかぜ「・・・あなたのお母さんのように借金をするわけではないわ。」
花原「この子怖い・・・!全部心を読んでくる・・・!」
海野「・・・・・・。」
スバル「別に下心なんかないよ。あんたらの策略に乗っかってやったほうが、こっちも得だって思ったんだよ。どうすんだい?」
ちおり「海野さんはどうしたいの?」
海野「・・・わたしは・・・人を騙すようなことはしたくない・・・」
ちおり「なら、相手を信じてあげたら?」
海野「生原さん・・・
うん・・・そうだよね・・・」
サインをする海野。
りかぜ「では、こちらに主将のサインも。」
スバル「おうよ。」
サインをするスバル。
りかぜ「これで、詩留々高専と白亜高校の同盟が結ばれました。」
握手を求めるスバル「よろしくな、海野さん!」
海野「・・・うん・・・!」



白亜高校
生徒会室
華白崎「詩留々高専と同盟を結んだんですか?」
さくら「・・・うん。これが誓約書。」
華白崎「・・・白亜高校は、詩留々高専が聖ペンシルヴァニア大附属を倒せるように最大限援助する義務を負う・・・具体的には、聖ペンシルヴァニア大附属に、霧ヶ峰漸新と暁工業をぶつけるよう裏工作をすること。それが成功の後、詩留々高専は約束を果たし、鮎原姉妹と戦う。」
さくら「・・・ちょっと様子を見てこさせるはずが、相手にしてやられたわ。」
華白崎「これじゃあ、同盟どころか、詩留々が聖ペンシルヴァニアに勝利するお膳立てをうちがやるだけではないですか・・・」
さくら「ほんで、もし詩留々が勝っちゃったら6億円も取られちゃうしな。」
海野「・・・みんな・・・本当にごめん・・・」
華白崎「花原さん・・・あなたが部長についていながら、なぜ同盟を止めなかったんですか・・・?」
花原「・・・いや、止めようとはしたんだけど・・・向こうにとんでもないやばい奴がいて・・・」
華白崎「暴力で脅されたんですか?それなら、こんな契約は無効だ・・・」
花原「そういうのじゃない・・・なんというか・・・桁違いの天才の参謀がいるのよ・・・」
さくら「天才少女はめぐなちゃんでしょうに。」
花原「・・・いや・・・あのりかぜちゃんこそ本当の天才・・・」
ショックを受ける華白崎「・・・あの花原さんがそんなことを言うなんて・・・!」
さくら「マッスルくん。」
山村が出場選手の名鑑をめくる。
山村「むう、詩留々高専に網野りかぜなんていう選手はないないぞ・・・」
花原「マネージャーらしいわ・・・それに、あの子のことなら、16年前のニュートンや日経サイエンスを読んだほうが早い・・・」
科学雑誌を渡す花原。
華白崎「ウーマン・ジェネティック社が代理出産マシンで遺伝子操作された天才児を開発・・・」
花原「その研究で生まれた子が彼女よ。」
さくら「クローン人間かよ・・・すげえ時代だなあ・・・ちょっと前に羊が成功したばかりだろうに。」
花原「お母さんの子宮で生まれてきた私たちとは頭脳のスペックが違うのよ・・・」
さくら「花原さん。
私、この分野詳しくないんだけど、クローン羊のドリーちゃんがほかの羊と比べて優っていたところってあんの?」
花原「・・・・・・ない。」
さくら「そんなもんよ。その天才少女・・・この私がギャフンと言わせてやるわ。」



横浜の中華街
各地での激戦を制した全国の強豪校18校の監督が会食をしている。
会場に入ってくるさくら「・・・鮎原姉妹が関東エリアを蹂躙しているっていうのに、地方の連中はのんきに食事会?」
奥の席で飲茶を食べている霧ヶ峰漸新高校バレー部監督寺島明日香は、おっとりした美人監督。
「いや、なかなか東京に来ることないから・・・
久しぶりだね、さくらちゃん。まさか、監督をやるとは思ってもなかったよ・・・」
メニューを持った店員がさくらに近づく。
さくら「紹興酒。」
店員「かしこまりました。」
椅子を勝手に持ってきて、席に着くさくら。
北京ダックを食べる暁工業バレー部雷都光「おいおい、あんたを招待した覚えはないで・・・」
さくら「悪巧みに私も混ぜてよ。」
寺島「いや、本当にただの親睦会だよ。もう地方のチームは私たちしか残っていないから、じゃあみんなで上京しようかって呼びかけたんだ。」
さくら「・・・まあ、お人好しな先輩はそうだろうけど。ほかの監督方は、どう相手を出し抜いてやろうかって目をギラギラさせてるんじゃないかしら?」
呆れるライト「それはあんたやろ・・・」
寺島「こっちは仲良くバレーを楽しんでいるからさ・・・誰が勝っても恨みっこなし。」
さくら「負けたら廃部になるのに?
大人が楽しむのは結構だけど、それじゃあ部員に申し訳が立たないでしょうよ。」
突然笑い出すライト「にゃ~はっはっは!廃部がなんじゃい!
まだ2勝しかしとらん、あんたと違って、こちとら強豪校なんじゃ。
うちらは少なくとも10勝以上はしとる・・・!廃部期間はいくらやと思う?」
さくら「・・・3光年?」
ライト「姉ちゃん、それは距離の単位や。80日間や。そんなん部員の喫煙発覚より可愛いもんやで!」
寺島「うん・・・だから、ここまで来たら私たちにとっては普通のバレーの大会なの。」
さくら「なるほど・・・普通のバレーの大会か・・・」
ライト「あんたの得意な悪知恵なんか必要あらへんってこっちゃ!紹興酒代は払って帰りや・・・」
さくら「普通の大会だというのに、そろいもそろって鮎原に恐れをなす腰抜けってわけね・・・」
ライト「なんやと~!!」
さくら「そうでしょうよ。相手が6億だなんてとんでもない人参をぶら下げて挑発しているのに、あんたたちは誰も率先して、東京を撃破しようともしない。いい?地方のあんたたちは首都東京になめられてんのよ。」
ライト「大阪が地方なわけあるかい!地方ってのは、長野みたいなスキー場しか切り札がないところを言うんや!」
傷つく長野県の寺島「・・・ライトくん・・・」
ライト「すまん・・・言いすぎたわ・・・軽井沢も善光寺もいいところや・・・」
お冷を飲んでから寺島「昔から変わってないね、さくらちゃん・・・そうやって私たちをけしかけて、聖ペンシルヴァニアと戦わせたいんだろうけど・・・私もそこまでお人好しじゃないよ。誰と戦うかは好きにさせて欲しい。」
椅子を動かし寺島の隣に座るさくら「先輩とも、もうずいぶん長い付き合いになりますよね・・・
変わらずお綺麗で・・・私が全日本でぺーぺーだった頃は、先輩がプロの世界を教えてくれた。
よく、食事にも連れてってくれたし・・・あの頃は楽しかったなあ。
先輩はあの時、こう言った。このまま若ければいいのに。引退なんてゴメンだ、と。」
寺島「この状況で、よくそんな話ができるね・・・」
黒烏龍茶をついでやるさくら「それが、今や二人共高校バレーの監督だ。」
寺島「旧交を温めに来たわけじゃないんでしょう?」

さくらが「パンパン」と手を叩く。
山村が、台車に積まれた2億円をひいて入ってくる。
ライト「なんじゃあ・・・!?」
ざわつく監督たち。
さくら「ここにいるのは18人だったっけ?・・・じゃあ一人あたり1000万やるわ。」
ライト「買収すんのか!」
さくら「勝てとは言わない。鮎原姉妹と戦ってくれるだけでいい。どう?悪くはない話でしょう?」
寺島「・・・この部屋に、あなたの口車に乗るような監督はいないわ・・・みんなお金じゃ変えられないもののためにバレーを・・・」
監督A「乗った・・・!」
ライト「おい、福岡県・・・!」
監督B「私もやります!」
ライト「愛知県、お前も裏切るのか・・・!」
監督B「そもそも、私たちの上京の理由は鮎原姉妹と戦いたかったからだし・・・その上お金ももらえるなら、ラッキーかなって・・・」
監督A「それに、裏切るもなにも、この席はただの親睦会でしょう?寺島監督の意向に従わなければいけないわけじゃないし・・・大阪府はどうするの?」
気まずそうに寺島の方を見ながらライト「・・・しかたね~な・・・」
さくら「おっライトくんいいね~!お姉さんおまけしちゃう!2束もってけドロボー!」
ライト「にゃ~はっは~オレに~!任せとけ~!!」

札束に群がっている監督たちを見つめる寺島「・・・地方18鎮諸校はこれで崩壊ね・・・」



詩留々高専
りかぜが今日の対戦カードの一覧表をスバルに持ってくる。
スバル「りかぜちゃん、どうしたい。」
りかぜ「・・・異常事態よ・・・」
一覧表を受け取るスバル。
りかぜ「・・・地方の強豪校が一斉に聖ペンシルヴァニア大附属に試合を申請してるわ・・・」
スバル「これじゃあボスラッシュじゃねえか・・・でも、まあいいんじゃねえの?
これで、さすがの鮎原もかなり消耗するから、うちらにも勝ち筋ができるだろ。
りかぜちゃんの思惑通りだよ・・・」
りかぜ「それならいいのだけど・・・問題は万が一、聖ペンシルヴァニアが負けた時よ。」
スバル「それはそれで、強敵がいなくなってラッキーじゃん。」
りかぜ「・・・いや・・・白亜高校が、霧ヶ峰漸新と暁工業を動かしたのに、我々が聖ペンシルヴァニアと戦わなかった場合・・・契約違反として罰則金を請求してくる可能性がある・・・いや、可能性じゃない・・・狡猾な吹雪さくらは必ずそう出てくる・・・」
部員「主将、白亜高校からお電話です・・・」
りかぜ「ほら・・・」
電話に出るスバル「もしもし・・・」
さくら「あ~こんちは。白亜高校監督の吹雪なんですが・・・おたく・・・早く鮎原姉妹と戦ったほうがいいんじゃない?こっちは金払って、大阪と長野を突っついたんだからさ・・・これで、よくわからない学校に鮎原姉妹が負けちゃった日にゃあ、困るわけよ。」
スバル「そ・・・そんなん仕方がないでしょ!」
さくら「うん・・・確かに仕方がない。だから、罰則金なんてケチくさいことは言わないわ。うちの学校が買収に使ったお金だけ保証してくれればいいから。」
スバル「はあ・・・?一体いくらよ・・・」
さくら「2億円。」
がなり立てるスバル「そんな金、高校生が払えるわけ無いでしょう・・・!」
受話器をスバルから奪うりかぜ。
りかぜ「はい・・・分かりました・・・」
電話を切ってしまう。
スバル「ちょっとりかぜちゃん・・・!」
りかぜ「・・・主将。こういう時こそ冷静に。私たちはもう相手の毒をくらってしまった。
こうなれば相手のゲームに乗っかるしかない・・・2億失うか・・・6億を得るかのゲームに。」
スバル「・・・策はあるの?」
りかぜ「鮎原姉妹が今日の激戦を持ちこたえてさえくれれば・・・」
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