『青春アタック』脚本㊲無二無三

ブーちゃんがレシーブした木野の変化球を、乙奈がトスをする。
乙奈「お願い、海野さん・・・!」
海野「このチャンスを無駄にはしない!」
海野が渾身のスパイクを打つ。
火野がブロックに入るが、海野のスパイクに腰が弾ける。
火野「ひいい怖い!」
金野が海野の剛速球をレシーブしようとするが、間に合わずコーナーに決まってしまう。
主審が笛を鳴らす。
山村「やった・・・!これでスリーアウトだ!」
マスクをあげる主審「チェンジ!」
スコアボードに目をやる海野「7点差か・・・危ないところだった・・・」
実況「1回裏、白亜高校の攻撃です!」

海野「すごいよ・・・ブーちゃんのおかげで助かった・・・!」
乙奈「ブーちゃんは、中国拳法の気功を極めた達人ですから・・・私の無回転サーブの才を見出してくれたのもブーちゃんなんです・・・」
花原「なんでそんな半生を黙っていたのよ・・・!第3話から登場してたのに、もう37話よ!!」
ボソボソとしゃべるブーちゃん
乙奈「・・・本当に優れた拳士は自分の実力をひけらかさないものだ・・・・・・それに・・・」
花原「それに・・・?」
乙奈「・・・おしゃべりな料理人じゃかっこがつかないだろう・・・?」
ちおり「か・・・かっけー!」
花原「トラをタコ殴りにしたことがあるんじゃ、そら栃木県でクマに会ってもビビらないわ・・・」
華白崎「ひ・・・人に歴史ありですね・・・」
海野「乙奈さん・・・本家の無回転フローターサーブで7点差は埋められるかな・・・?」
乙奈「・・・お任せください・・・」

乙奈の無回転サーブは、詩留々高専のメンバーも対応できない。
スコアボードは「詩留々7対白亜8」になり、逆転している。
山村「ようし、逆転だ・・・!」
タバコに火を付けるさくら
「・・・ブーちゃんをメンバーから除外したことの重大性を思い知るがいいわ、天才少女・・・」

慌てるスバル「おい・・・!1回表でコールド勝ちできるんじゃなかったのか!?」
りかぜ「ええ・・・予定では。だから人生は面白い・・・」
金野「木野さん・・・これであなたの利用価値は何もなくなったわよ・・・」
木野「そんな・・・ひどいですわ・・・」
火野「・・・いいかげんにしなさいよ金野!あんただって、レシーブを失敗したじゃない!
なにがバレー経験者よ!利用価値がないのはあんたよ!」
金野「・・・あなたが海野にひるまずにブロックをしていたらレシーブはできていたわ。」
球場の土を食べる月野「土もうめー」
2人に割って入る水野「責任者探しみたいなことはやめようよ・・・私たちは大切な仲間じゃない。」
金野「・・・わたしたちが仲間・・・?そんなこと誰が決めたの?
我々に与えられた任務は、詩留々高専を勝利させること・・・仲良しクラブを作ることじゃないわ・・・
無能な役たたずは排除する。勝利とはそこまでしなければ得られないものなのよ・・・」
水野「それが・・・もし・・・金野さんでも・・・?」
金野「・・・ええ。
私が足でまといになったら、ためらうことなく処分なさい。それがロボットの本懐でしょう?」
水野「そんなの・・・悲しすぎるよ・・・」
金野「その感情だって、きっとプログラムされたものに過ぎないわ・・・
私たちはただの人間のイミテーションよ・・・
人間の欲望によって生み出された・・・」
胸の奥が冷たくなるりかぜ「・・・人間のイミテーション・・・。」
スバル「もういいやめろ!たくさんだ!!うちは、この試合に仮に負けてもあんたらを処分なんかしない!うちの大切なマネージャーが寝る間も惜しんで、命を吹き込んだのが、あんたたちなんだ・・・!
あんたたちは使い捨ての道具なんかじゃ決してない!
わかったら、敵の攻撃に備えろ・・・!」
目を潤ませるりかぜ「・・・ボス・・・」
スバル「なんで、あんたが泣いてるんだ・・・!」
りかぜ「い・・・いえ・・・目にゴミが・・・」
金野「榛東主将・・・」
木野「私も・・・まだコートにいてもいいんですか・・・?」
スバル「当たり前だろ!自分が作った製品を愛さないエンジニアがどこにいるんだ!」
火野「金野さん・・・やるわよ・・・」
金野「ええ・・・」
水野「あのサーブを力を合わせてなんとか克服しよう・・・!」

山村「なんか、あの個性の強い海野ロボたちがまとまったように見えるが・・・」
さくら「向こうには、職人ブーちゃんの代わりに、頼れる精神的支柱・・・主将榛東スバルがいるってことか・・・」
海野「あっちも成長をしているんだ・・・」
華白崎「・・・ええ・・・私たちのように。」

りかぜ「みんな・・・ちょっと・・・」
スバル「どうした、りかぜちゃん・・・」
りかぜ「ずっと黙っていたけど・・・私にはもうひとつの能力があるの・・・
でも、これはあまりにも非科学的で・・・きっと信じてくれない・・・」
ニヤリと笑うスバル「非科学的な軌道のサーブが今起こっているだろう?」
りかぜ「・・・お願い・・・私を嫌いにならないでね。」
スバル「うちはあんたにこのチームの全権を任せている・・・りかぜちゃんを信じているから。」
頷くりかぜ。

主審の笛がなる。
乙奈「このまま、そっくり点差を広げられれば・・・!」
無回転サーブを打つ乙奈。
海野「ナイスサーブ!」
ふわふわと空中を漂うボール。
火野の方へ落ちていくが・・・
りかぜ「・・・違う・・・!金野さん!」
金野がレシーブ体制に入る。
金野「了解!」
すると、本当にボールの軌道が変わり、火野から金野に変わる。
金野が変化球をレシーブしてしまう。
金野「月野会長!」
月野「ほいっ!」
スパイクを打つ火野「もらった!!」

花原「嘘でしょ!返した・・・!?」
ブロックをするが、勢いが止まらずコートアウトしてしまう。
主審「アウト!」

水野「やったね!」
火野と金野がタッチする「よっしゃあ!」

海野「そんな・・・!なんでボールの軌道が判ったの・・・!?」
花原「なんか、最初からどこへ落ちるかを知っていたような・・・」
ちおり「あのサーブってどこに落ちるか、打ってる乙奈さんは分かるの?」
首を振る乙奈「わたくしにもさっぱり・・・まるで・・・未来を予知していたような・・・」
華白崎「それなら、ただの偶然です・・・気を取り直していきましょう・・・!」
海野「うん、まだ1アウトだもの!」

もう一度無回転フローターサーブを打つ乙奈「いきますわよ~え~い・・・!」
今度はかなり球速がある。
火野「なんで、私の方にいつも飛んでくるのよ・・・!」
りかぜ「違う・・・!ボスです!」
スバル「サンキュー!」
すると、スバルの方へ直角にボールの方向が変わる。
なんとかレシーブするスバル。

ショックを受ける乙奈「・・・!そんな・・・!」
海野「みんな、攻撃が来るよ!!」

月野がトスを上げようとする。すると、火野と水野がアタックモーションに入る。
ブロックする花原が混乱する「うわ!私が嫌いな奴だ・・・!!」
海野「だいじょうぶ!私もブロックに入る・・・!」
すると、月野がそのままアタックを決める。
海野「しまった・・・!」
ちおりをモデルにしたロボットとは思えないほどの剛速球がコートに叩き込まれる。
華白崎がレシーブに入るが、間に合わない。
華白崎「悔しい・・・油断した・・・!!」
主審が笛を鳴らす。
主審「2アウト!」

月野「わ~い、やった~!」
水野「作戦大成功!」

花原「おい!ちおりロボがあんなアタックを打っていいの!?」
華白崎「申し訳ない・・・あのロボットのベースはすべて海野さんであることを失念していた・・・」
花原「それって・・・」
華白崎「私たちの個性は、海野さんの身体能力にさらに付加されているということです・・・
つまり・・・私たちは5人の海野さんと、鮎原姉妹を圧倒した榛東主将と戦っているのです。」
海野「それより、やっぱり変だよ・・・!乙奈さんのサーブの最終標的がすべて読まれているなんて・・・!」
乙奈「・・・ブーちゃん・・・」
乙奈を見て頷くブーちゃん。
乙奈「答えは・・・あのマネージャーの子ですわ・・・」
海野「網野りかぜさん・・・?」
花原「確かに、あの子が指示を出していたような・・・でも、なんで・・・乙奈さんの心を読んでも、乙奈さんだってどこに落ちるかわからないのに・・・」
乙奈「わたくしのサーブの行き先があらかじめ決まっていたら・・・?」
花原「・・・え?ランダムなんでしょう?」
乙奈「ええ・・・ですが、それは私たちには結果がわからないから・・・
チョコレートの箱は開けてみなければ、何が入っているかはわからない・・・
だから子どもたちはわくわく心を躍らせるの・・・
でも・・・チョコレートの箱の中身はすでに決まっている・・・そうでしょう・・・?」
海野「・・・?乙奈さん・・・もう少し私たちにも分かるように教えてくれるかな・・・」
華白崎「もしかして・・・乙奈さんは・・・この世界は決定論であると・・・?」
乙奈「数学ではそう言うのですね・・・ええ・・・
わたくしたちの運命はすでに決められているのです・・・主によって・・・」
花原「ちょっと待ってよ!じゃあ、あのクローン少女が神さまだって言うの!?
やめてよ・・・そんな怖いことを言うのは・・・!!」
乙奈「そうとは言ってはいません・・・いませんが・・・少し先の運命が・・・もし見えるのだとしたら・・・?」

りかぜ(・・・できれば、この能力は使いたくなかった・・・精神的にも負荷がかかるし・・・
気味悪がられてクローン人間の風当たりはさらに強くなるから・・・)
微笑むスバル「りかぜちゃんは本当に頼りになるなあ!」
誤魔化すりかぜ「え?ええ・・・わたしは勘が鋭いの・・・」
スバル「みんな!これで、お互いに乙奈の変則サーブは無効化した・・・!
スリーアウトを取るぞ!」
海野ロボ「おー!!」



相手コートのそばにいるりかぜに話しかける乙奈
「網野りかぜさんとおっしゃいましたか・・・?
あの鮎原姉妹との試合の時も、最後に突風が吹くのを予言されてましたわね・・・」
りかぜ「・・・?」
乙奈「わたくしはプロテスタントです・・・主のご意思が覗ける預言者の存在を否定は致しません・・・」
りかぜ「あなたは、私の予知能力を信じるの・・・?」
微笑む乙奈「ええ・・・むしろ・・・気苦労も絶えないことでしょう・・・同情しますわ・・・」
りかぜ「あら、ずいぶん余裕なのね・・・」
乙奈「ふふ・・・あなたは、どれくらい先の未来まで見えるのかしら・・・?
未来が全て見えるなら・・・吹雪監督の罠にはかからなかったはず・・・」
りかぜ「・・・だから宗教関係者は嫌いなのよ・・・」
乙奈「教会は厳しくて・・・わたくしも利き手を強制されたものですわ・・・」
ハッとするりかぜ「・・・!うそでしょ・・・」
ボールを持つ手を左手から右手に持ち帰る乙奈。

右手で勢いよくボールを放り投げる乙奈。
すると、左手の拳を握り、風車のように力強くスイングをする。
りかぜ「ドライブサーブ・・・!!」
海野「乙奈さんが大此木くんの必殺サーブを・・・!?」

ネットをスレスレでカッ飛んでいく剛速球。
スバル「速い・・・!」
金野「大丈夫・・・!アウトです!!」
ドライブサーブはものすごい速度でエンドラインを超えていく・・・が、突然軌道をUターンさせ、エンドラインの内側に戻ってきて、後衛の背後の床に叩きつけられる。
金野「馬鹿な・・・!!」
スバル「おいおい、あんなサーブ打っちゃダメだろ・・・!」

ちおり「すげ~!!」
花原「なによあれ・・・!あんな超必殺技を隠してたなんて・・・!」
乙奈「ふふ・・・ごめんなさい・・・
大此木さんに教わって・・・できるようになったのがついこないだなんです・・・」
海野「利き手・・・左だったんだね・・・」
乙奈「こちらの手なら体重も乗りますわ・・・
どうですか、預言者さん・・・
どこに落ちるか予知できても、この軌道にみなさんは対応できるかしら?」
肩を震わせるりかぜ「くくく・・・あなた達こそ本当の怪物よ・・・いいわ。退治してあげる。」
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