――1985年。
どこかの体育館でバレーボールの大会が行われている。
観客たちの大歓声。
選手「点差は開くばかりだわ・・・」
スコアボードのアップ。
JPN16点、USA24点
カウガールのようなバレーボールアメリカ代表「HAHAHA!ファッキンジャップくらいわかるYO!」
タイムを取る日本代表。
破門戸ジャパンの選手――狩野紗耶
「冷戦ファイナルラウンドね・・・やはり昨夜のうちにホテルで連中を暗殺するべきだったわ・・・」
吹雪さくら「怖いんだよ、お前は・・・」
寺島明日香「冗談は置いといて・・・どうする?さくらちゃん、何か手は?」
さくら「・・・私がいつでも奇策を思いつくと思わないでくださいよ先輩・・・
ドラえもんじゃねえんだ・・・」
有葉奈央「わたしはもう鬼怒川温泉に浸かりたい・・・」
すると、コートに入ってくる謎のバレー選手「みんな!試合はまだ始まったばかりよ・・・!」
病田通代女「・・・いや・・・もう終局のような・・・」
謎の選手「希望を捨てなければきっと勝てるわ・・・!」
――あの日、本当に奇跡は起きたんだ・・・
破門戸ジャパンは、世界ランキング一位のアメリカ代表に逆転勝ち・・・
あの人は、誰よりも賢く・・・誰よりも優しく・・・そして誰よりもバレーボールが強かった・・・
・・・その才能をバレーボールだけに使っていれば、あんな大事件は起きなかったのに・・・
・
東京駅前の大型書店で写真集のサイン会を行っている鮎原姉妹。
出版社の編集者「美少女双子姉妹の女子高生時代最後の写真集となります!
ぜひ、この機会にお買い求めください・・・!」
ファンの長蛇の列。
ゴスロリのフリルだらけの学生服を着て、笑顔でファンの写真集にサインをする幹。
対照的に、Tシャツとジーパンを着て、学校のジャージを羽織っている咲。
幹「あなた・・・双子の統一感を出しなさいよ・・・
イノセント出版は私たちのおおぐちスポンサーよ。
毎年お歳暮で新作ハードを送ってきてくれるんだから。」
咲「そんな服着るくらいなら、私は死ぬわ。」
その様子を見つめているマネージャーのようなおばさんの携帯電話が鳴る。
マネージャー「はいもしもし・・・」
マネージャーが鮎原姉妹に耳打ちをする。
「準決勝の結果が出ました・・・」
小声で幹「・・・で?どっちが私たちの相手・・・?」
小声でマネージャー「海野美帆子です・・・」
突然立ち上がって叫ぶ咲「なんですって!!」
幹「あのチームが詩留々を破ったっていうの・・・?」
咲「言ったとおりになったね・・・芝さん・・・」
冷静な幹「そういえば、この前高体連に行っていたけど、それもこの結果に関係があるの・・・?」
マネージャーの芝「いえいえ・・・あれは、ただのパートです・・・」
咲「給料足りないの・・・?ごめんね・・・・・・来月から2倍にするね・・・」
幹「わたしのバーチャルボーイもあげるわ・・・」
芝「あはは・・・」
・
聖ペンシルヴァニア大付属高校。
部室の隣のマネージャー専用の小さな部屋に入っていく、聖ペンシルヴァニア大付属高校女子バレー部の監督・・・芝衣舞。
部屋の中には、白亜高校の部員の写真やデータなどが壁にびっしり貼り付けられている。
ずらりと並んだモニターには、白亜高校の今までの試合が全て録画されている。
野生動物と戦った三畳農業高戦。
9人制バレーで戦った上武商業高戦。
海野ロボやクローン人間と戦った詩留々高専戦・・・
一番奥の壁には「借金返済まであと6億円」と書かれた紙が貼られている。
「・・・鮎原姉妹を優勝させれば・・・私は自由・・・自由なんだ・・・
でも・・・」
ヘアバンドを外してメガネを取る芝。
美しいロングヘアーが解かれ、大人の色気をまとった美女の顔が顕になる。
花原めぐなの大会の写真を見つめる芝。
・
白亜高校
生徒会室に入ってくる海野とさくら。
生原「おかえり!」
花原「・・・網野さんは・・・?」
海野「ストレスがかなり溜まっていたみたい・・・でも・・・命に別状はないって・・・」
花原「よかった・・・」
乙奈「華白崎さんの怪我のほうは・・・?」
さくら「そっちは結構やばくて・・・骨が折れてたのよ・・・
残念だけど、この大会の出場はもうダメだ・・・
・・・ドクターストップをかけてよかった・・・」
花原「カッシー・・・」
さくら「でも、同じ病室のりかぜちゃんと楽しく数学談義をしていたよ・・・これお土産。」
高崎駅で買ったラスクを机の上に置くさくら。
さくら「さて・・・いよいよ決勝戦だ・・・泣いても笑ってもこれが最後の戦い。
詩留々高専との激戦で鮎原姉妹は手負いの獅子だが・・・
ボロボロなのは我々も同じ・・・」
絆創膏だらけの小早川「わたしはまだ、走れます・・・」
乙奈「わたくしもサーブはまだ打てますわ・・・」
無傷のちおり「わたしもトスを上げられるよ!」
花原「お前だけは無傷だからな・・・」
さくら「よろしい。では、鮎原姉妹がなぜ絶対王者と呼ばれているか・・・その理由を教えよう。」
花原「ふつうにバレーがうまいからなんじゃないの?」
さくら「純粋ねえ、花原さんは。
もしそれだけの理由で負けなしなら、私は何個も金メダルを取っているわよ・・・
つまり、どんなプロでも不敗はありえない。しかし、鮎原姉妹は絶対に負けない・・・なぜ?」
乙奈「つまり・・・大会主催者が忖度をしている・・・と?」
指を鳴らすさくら「さすが芸能界の漆黒を知る乙奈さんだわ・・・」
花原「ちょっと待って!あいつら八百長をやっているって言うの・・・!?」
さくら「そこまでは言っていないよ・・・でも、地位と金と知恵さえあれば自分たちに有利なシチュエーションはいくらでもお膳立てできる・・・実際私たちも、2億の金で勝ち抜けたわけでしょう?」
海野「でも・・・詩留々高専での神風は・・・?」
さくら「あれは本当に珍しいパターンね。りかぜちゃんというとんでもない天才に、おそらく人生で初めて追い込まれたんじゃないかしら・・・
・・・さて、この日本を支配しているのはズバリどこ?」
花原「・・・え?この日本にそんな黒幕がいるの・・・?」
ちおり「私知ってるよ!あの優しいおじいちゃんでしょ?きんじょうてんの・・・」
花原「やめろ。」
さくら「与党の自由民政党と、その圧力団体である経団連よ。
そして経団連の会長こそ・・・鮎原姉妹の祖父・・・豊臣藤吉郎・・・
豊臣自動車はバブル崩壊後も時価総額が55兆円でダントツ。
つまり・・・おじいちゃんにおねだりすれば、鮎原姉妹は死ぬほど金が使えるの。」
花原「ち・・・ちくしょ~!なんて羨ましいんだ~~!!」
さくら「さらに・・・向こうにはとんでもない参謀がいてね・・・
地位も金も知恵もあるわけ・・・」
乙奈「あら、吹雪監督が他人を一目置くのは初めてですわ・・・」
さくら「まあね・・・人生でこいつにはまったく勝てないなって思ったのは後にも先にもそいつだけ。」
花原「・・・勝てるんですか・・・?」
さくら「言ったでしょう?わたしは勝てない勝負はしない。ぶっつぶす。」
花原「まじか・・・」
さくら「あなたたちは船で鮎原の妹に会ったよね?どんな印象だった?」
花原「・・・え?」
さくら「金持ちを鼻にかけた嫌な奴だった?」
花原「・・・なんかいい人だったような・・・なんかフェアプレーとか言ってたし・・・」
海野「うん・・・咲ちゃんも幹ちゃんもいい子だと思うな・・・」
さくら「その通り・・・あの姉妹はフェアプレーで純粋にバレーボールを楽しみたいんだ。
大人たちがお膳立てをした接待試合なんてもうたくさんなのよ・・・
だから、詩留々高専のイニング制のバレーボール勝負に乗っかってきた・・・
知らないルールにワクワクできるから。」
海野「確かに、勝ちが決まっているスポーツなんてやってて面白くない・・・」
花原「じゃあ、今度も特殊なルールのバレーボールを持ちかければ・・・」
さくら「あの姉妹は必ず乗ってくる・・・」
・
聖ペンシルヴァニア大附属高校
ポカンとする咲「・・・ビーチバレー?」
ゲームボーイをしながら幹「あの2対2でやるやつ・・・?」
芝「はい・・・現在私たちのチームは、咲ちゃんと幹ちゃん以外は満身創痍です・・・
それに・・・この前の白亜高校の試合を見て・・・
あの学校の選手には全員とんでもない特殊能力があることが判明しました・・・素人の弱小チームだと思ってたけど大違い。
全国レベルのオールラウンダープレイヤー海野美帆子と華白崎桐子・・・
予測不能のサービスエース、乙奈ひろみ・・・
レシーブの職人、高木智子・・・
アウトボールをすべてコートに戻す超速スプリンター、小早川一咲・・・
安定したトスを打つ天才セッター、生原ちおり・・・
そして・・・
野生のくまを吹き飛ばす驚異のアタックを繰り出す花原めぐな・・・
2人に絞ってしまった方が勝機はあります・・・」
咲「たしかに・・・
幹ねえはどう思う?」
ゲームボーイのボタンをいじる幹「私は楽しければなんでもいいよ。
でも、向こうが乗ってくるかな。6人が2人になっちゃうわけで。」
芝「もって行き方しだいかと・・・」
幹「・・・それで、水着でやるの?風邪ひかない・・・?」
咲「もう暖かくなってきたし大丈夫じゃないかな。」
幹「あと、東京体育館にビーチはないけど、それはどうするの・・・?」
芝「すでに、横浜の赤レンガ倉庫に特設ビーチを用意しました。」
咲「幹ねえ、楽しそうじゃない!」
幹「いいよ。全部芝さんに任せる。
あとは、白亜高校をうまく説得してくださいな。」
芝「・・・かしこまりました。」
・
高体連本部ビルの総裁室
ネコを撫でる破門戸「ハッキングの犯人を見逃したのですか・・・?
あなたにしては手ぬるいですねえ・・・」
狩野「私が駆けつけた時には死にかけていたので・・・」
破門戸「なら、とどめをさせばよろしいでしょう・・・」
狩野「総裁・・・私がこれまで手を下した人間は、私腹を肥やし他者を踏みにじる悪人です・・・
しかし・・・今回は違う・・・
大切な親友のために行ったことです・・・私に免じて見逃してくれませんか・・・?」
総裁「あなたの気持ちはわかりますが・・・それを許すと、今後友人やチームのためだとうそぶいて平気でルール違反をするチームが増えそうですねえ・・・
それに・・・そのクローン・・・本当に忍び込んだのは友人のためなのでしょうか・・・
優勝賞金で、自分自身の開発にかかった費用を返済したかったんじゃないですか・・・?」
資料を机に投げる破門戸。
資料を手に取る狩野。
破門戸「・・・開発費用がちょうど6億円だ。」
震えた声で狩野「・・・どこの世界に、自分が生まれるためにかかった費用を返済しなければならない子どもがいるんですか・・・」
破門戸「分かりました・・・この件はあなたが手をくださなくてもよろしい。他の者にやらせますよ。
ゆっくり休んでいてください・・・」
ひざまずく狩野「震災で死にかけていた私を救っていただいたのは総裁です・・・!
傷ついた者には手を差し伸べる・・・
同じことではないですか・・・!お父さん・・・!」
破門戸「あなたが私の娘だと思っているなら、親の言うことには従うものです。」
立ち上がる狩野「・・・分かりました。網野りかぜの息の根を止めます・・・
しかし・・・これを私の最後の仕事にさせてください・・・」
破門戸「ほう・・・」
深々と頭を下げる狩野「3年間・・・ありがとうございました・・・」
部屋を出ていく狩野。
部屋に入ってくる黒服「・・・どういたしますか?」
破門戸「・・・相手はロシアの暗殺者の末裔です・・・くれぐれも仕損じないように。」
・
出盆総合病院の病室
チェス盤のアップ。ルークが逆さにひっくり返っている。
華白崎「ちょっと・・・これはダメだから・・・」
りかぜ「え・・・?ならないの?」
華白崎「将棋じゃないんで・・・やめてください・・・はい、チェック。」
りかぜ「ちょ・・・!ちょっと待った・・・!」
華白崎「あなた、何回目ですか・・・」
りかぜ「歩兵3体と交換条件で、3ターン前に戻さない・・・?」
華白崎「そういうゲームじゃないって何度・・・」
2人の病室に息も絶え絶えに入ってくる狩野。
狩野「クローン人間はいる・・・?」
手を上げるりかぜ「・・・は・・・はい・・・」
華白崎「その呼び方やめてくれませんか?網野さんにはちゃんと名前があるんだから。」
狩野「はあはあ・・・ご・・・ごめんなさい・・・気を悪くしないで・・・」
りかぜ「いえ・・・」
狩野「りかぜちゃん・・・この病院から出たほうがいいわ・・・」
りかぜ「退院ですか・・・?」
狩野「私に正直なところを教えて・・・あなた・・・高体連のビルに侵入して、白亜高校の血液サンプルを盗んだんじゃない・・・?」
華白崎「・・・え?」
狩野「違ったらごめんね・・・証拠は一切ないし・・・
でも・・・あなたじゃないとあのセキュリティシステムは絶対に突破できない・・・」
頷くりかぜ「・・・はい・・・」
華白崎「だから、我々そっくりなロボットが作れたんだ・・・」
りかぜ「・・・ほ・・・本当にごめんなさい・・・あたし・・・罪を認めて警察に出頭します・・・」
狩野「・・・正直に話してくれてありがとう・・・
白亜高校の吹雪監督が動いてくれたから、あなたが警察に捕まることはない・・・でも・・・
高体連はあなたを絶対に許さない・・・ここにいたら殺されるわ。」
華白崎「なんですって・・・!?」
狩野「私も戦闘の心得が多少あるから、数人までなら撃退できるけれど・・・武装した集団でこられたらもう敵わない・・・なので、あなたには私の祖国でしばらく身を隠して欲しいの・・・」
コンテナ輸送船のチケットを渡す狩野。
狩野「税関には話は付けておいた・・・あなたは貨物庫のアカゲザルのコンテナの中に入ってほしい・・・」
りかぜ「ま・・・まあ・・・入れないこともないか・・・」
華白崎「確かに窃盗は犯罪ですが・・・なんで殺されなきゃいけないんですか・・・!」
狩野「・・・見せしめよ。
お願い・・・この計画でうまくいくのか・・・未来を予知できない・・・?」
首を振るりかぜ「・・・もう、その力は使わないことにしたんです・・・
狩野さん・・・ありがとう・・・あなたのその気持ちだけで嬉しい・・・
私・・・コンテナ船に乗ります。最後にスバルちゃんへの手紙だけ書かせてください・・・」
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