『青春アタック』脚本㊵奸雄終命

高体連本部ビル
黒服たちを集めて捜査本部を立ち上げる狩野。
狩野「高体連のローカルエリアネットワークは外部から完全に遮断されている。
警察は必死に存在しないハッカーを探しているけど、そもそも高体連のセキュリティシステムに外部が侵入することなど不可能よ・・・どういうことかわかる?」
黒服たち「・・・・・・。」
ロケットランチャーを黒服たちに向ける狩野
「この中に内通者がいるってこと。」
慌てる黒服たち「我々では決してありません・・・!」
狩野「このパンツァーファウストで木っ端みじんになったやつは、生前だいたいそんなことを言ってたわ・・・」
土下座する黒服たち「我々は高体連を絶対に裏切りません!」
黒服A「裏切者はお前だろ!」
黒服B「な・・・何を言うか、それならお前だろ!!」
引き金に指をかける狩野「・・・もう誰だかわからないので、全員食らっとく・・・?」
パニックになる捜査本部。
その時、後ろの席で一人の中年女性がパイプ椅子に座って、いびきをかいて寝ている。
狩野「・・・誰?」
黒服「先週入ったパートのおばさんです・・・」



給湯室
ださいメガネをかけた司書のようなパートのおばさんがお茶を入れている。
給湯室に入ってくる狩野「総裁はアールグレイを好むわ・・・」
微笑むおばさん「これはわたしが飲む煎茶。」
狩野「あの状況でよく寝てたわね・・・」
おばさん「あの狭い部屋でロケットランチャーは撃てないわ。あなたも吹き飛んじゃうもの・・・」
狩野「あなた・・・何者なの・・・?」
おばさん「ハッキングが外部攻撃ではないことに気づいたのは鋭いわ。
ビル内のセキュリティシステムはインターネットに接続されていないから外からの侵入は不可能・・・
それに、仮に侵入できたとしてもRSA暗号の突破には、1000桁の素因数分解を計算しなければならない・・・素数の規則性が不明な以上、どんな天才でも歯が立たないわ・・・」
狩野「では、血液サンプルの紛失はわたしの気のせいかしら・・・?」
おばさん「桁の大きな素因数分解は不可能だけど・・・二つの素数の積は電卓で簡単に出せるわよ。」
狩野「・・・システム開発元か・・・」

資料庫のカギを開ける狩野。
書類をあさるパートのおばさん。
おばさん「あった・・・プロメテウス・テクニカルサービス・・・」
狩野「・・・この一流企業がちんけな盗みをする動機は?」
おばさん「一流企業が自社で製品を作ると思う?下請け、孫請けがいる・・・」
すると、ある資料を狩野にわたす。
おばさん「はい。見つけた。」
狩野「詩留々高専情報工学科・・・」
おばさん「つながったわね。」



華蔵寺公園
バックアタックを決めるスバル「おらああ!」
スコアボードは「詩留々22―白亜17」で逆転している。
実況「すごい展開になりました!百発百中のバックアタックはまさにスナイパー!」
スバル「あと5点取ってコールド勝ちだ!」
火野「うちの主将が確変に入ったぞ!!」
月野「スーパーラッキー!」
息を切らす海野「・・・強い・・・!」
花原「前衛が全員アタックができるからブロックがしきれないよ・・・」
水野の必殺サーブをレシーブしまくり、さすがのブーちゃんも腕が赤くなっている。

さくら「・・・まいったね。うちの連中に疲れが出てきた・・・」
山村「まだ、三回の表だが・・・」
さくら「バレー歴3か月の素人が、全国レベルの選手である海野5人とやり合ってんのよ?
埼玉県のクズ相手とは疲労度は段違いよ・・・」

スバル「どうだい?こちとら打倒海野で一年間必死に練習を重ねてきたんだ・・・
賞金目当ての素人には絶対負けない・・・!」
海野「スバルちゃん・・・」
スバル「あんたが言う通りバレーボールは楽しいよ・・・もしかしたらソフトボールよりもな・・・
だが・・・強敵に勝つのはもっと楽しいだろ・・・」
海野「そうだね・・・決着をつけよう・・・!」

海野と互角のラリーの応酬をするスバル。
スバル「嬉しいぜ・・・!バレーボールで初めて敗北を教えてくれた、あこがれの選手とここまでの打ち合いができてよ・・・!」

さくら「・・・執念だな。」
山村「なにか手はあるのか・・・?」
さくら「この戦いに小細工は野暮ってもんよ、マッスルくん。
ただ・・・ロボットには疲労はないと思っていたけど・・・あんな繊細な動きを制御しているんだ・・・
バッテリー的に、もしかしたらそこまで長時間は稼働できないのかもしれない・・・」
山村「・・・では、両者の根性で勝負は決まると・・・?」
さくら「プロのバレーボールの勝敗はだいたいそこで決まるのよ。
ゲームには必ず流れと・・・潮目がある・・・」

りかぜ(・・・さすがに勘づいたか・・・試合時間を夜にしたのは失敗だった・・・
木野さんの無回転サーブで短期決戦のはずが、ここまで互角の長期戦になるなんて・・・
彼女たちの太陽充電式のバッテリーパネルはあとどれだけ持つか・・・
お願いスバルちゃん・・・ここで勝負を決めて・・・!)

りかぜの様子に目をやるさくら。
さくら「・・・ねえ、詩留々のマネージャーさん。」
りかぜ「・・・?」
さくら「・・・私はコートの選手よりもあなたの体調が心配よ・・・
体・・・丈夫じゃないんでしょう?」
りかぜ「ここにきて敵に同情ですか・・・」
さくら「あなたは勘が鋭いのよね・・・自分の未来はわからないの・・・??」
りかぜ「何が言いたいのかしら。」
さくら「・・・医者として忠告するわ。あなた・・・このままだと過労死する・・・」
りかぜ「バカバカしい。」
さくら「・・・私には超能力者のことは分からないし、今まで信じてなかったけど・・・乙奈さんのサーブを予知してから、もうフラフラじゃない。せめて椅子に座ったら?」
りかぜ「選手が頑張っているのに私だけ座れないわ・・・」
さくら「・・・あなたがここで意地を張って倒れても、私には治療ができないのよ?
サイキック少女の病理経験なんてないんだ・・・」
りかぜ「・・・チームのためなら本望よ・・・」
さくら「たかがバレーボールに、あなたは命をかけるの?」
りかぜ「そうよ・・・!あなただってそうでしょう!?」
悲しそうな目でクローン人間を見つめるさくら「・・・・・・。」

主審の笛がなる。
実況「ついに9点差だ~!!詩留々高専のコールド勝ちまであと1点!」

山村「おい!とうとう追い込まれたぞ!!」
ぼろぼろな両選手。
花原「ここまで来て・・・負けてたまるか・・・!華白崎さんに申し訳が立たないわ・・・!」
海野「勝負はまだ決まっちゃいない!がんばろう!」
小早川「アウトボールは全てお任せください・・・!」
ふらふらする木野「まずいですわ・・・もうバッテリーがない・・・」
水野「スバルちゃん・・・私たちはもう限界・・・」
月野「にゃ~・・・」
金野「止めをさしてください・・・!」
火野「頼んだわ主将・・・!私たちの思いを・・・!」
スバル「おう・・・!この部は、うちが絶対に守る!!」

慌てる山村「どうするんだ!?あんたのことだ!奥の手はあるんだろう?」
缶ビールを傾けるさくら「あるっちゃあるけど・・・
バレーボールはバレーで勝敗をつけたほうがいいんじゃない?」
山村「負けるんだぞ・・・!??」
さくら「・・・山村くん、負けのない人生なんてこの世にないのよ。
しかし人生でひとつだけ取り返しのつかないことがある・・・」
りかぜの方を向くさくら「あんたみたいに命を粗末にすることよ・・・」
りかぜ「人気者の吹雪さくらに何がわかるんだ・・・
巨額な開発費を回収するために、生まれた時からずっと見世物小屋の珍獣のように扱われた・・・
5才で二次方程式の解の公式を書いたときは喝采が起きたわ・・・」
さくら「・・・・・・。」
りかぜ「でも・・・私が三次方程式の解を一般化したときには、もう世間はクローン人間に飽きていた・・・
製造会社の人間には、金食い虫と罵倒され見捨てられたわ・・・
あるとき、クローン人間を恐れた人権団体が、帰る家のない私を拉致して炎天下の野球場に放り出したの・・・
その球場がここよ・・・」
さくら「でも、あのスバルがお前を救ったんだろ!!
こんなことして、あの子が喜ぶと思うのか!!」
吹雪さくらが初めて本気で怒る姿にびくっとする山村。
白亜高校のチームを指差すさくら「あの子たちが順風満帆な人生を歩んでいると思うの!?
誰だってみんな、人には言えない苦しみを抱えて必死に生きてるんだ!
私の部員は、お前のように生きることを諦めたりはしない!!」
目に涙をたたえるりかぜ「・・・見えないのよ・・・」
さくら「・・・?」
ガタガタ震えるりかぜ「もう・・・」
りかぜ「わたしの未来が・・・」

スバルの強烈なアタックをレシーブをするブーちゃん。
しかし、とうとう疲労が頂点に達したブーちゃんはラフプレーをしてしまいボールがコートアウトする。
猛ダッシュでそのボールに飛んでいく小早川「・・・・・・!」
スコアボードと審判台の方に行ったボールを飛び込みレシーブでひろう小早川。
小早川と激突し、ガシャーンと大きな音を立てて倒れるスコアボードと審判台。
小早川「うぎゃあああああ!!」
海野「・・・小早川さん!!」
乙奈「大事故ですわ!!」
土煙が上がるが、そこからポーンとボールが返ってくる。
花原「ボールは生きてる!!」
ちおり「海野さん!」
勢いよく飛び上がって体を反らす海野「・・・負けない!!」
渾身のスパイクを放つ海野。
剛速球はスバルの方へ向かうが、もはやスバルはボールの方を向いていなかった。
コートに叩きつけられるボール。
ちおり「やったー!」
花原「これでチェンジよ!あぶね~!!」

しかし、スバルはボールなど全く興味がない様子でコートの外に駆け出していく。
コートの外では、網野りかぜが意識を失ってうつ伏せに倒れていた。



試合中断。
網野りかぜの制服を脱がせて、胸を必死に両手で押すさくら。
人工呼吸を繰り返す。
さくら「誰か・・・車を・・・!!お願い・・・本当に死んじゃうわ・・・!!」
球場に狩野が入ってくる。
海野「・・・レイちゃん・・・!」
駆け寄ってくる狩野「私が車を出します!救急病院は近いわ・・・!」
息を切らせるさくら「よっしゃあ、呼吸が戻った・・・!
出盆総合病院の倉井外科部長を頼りなさい。ERの神様よ。吹雪さくらの友人だって言って!」
狩野「分かりました・・・!」
さくら「冷静にね。くれぐれも交通事故には気をつけて。」
頷く狩野。
小さくか弱いりかぜを両手で抱えて車に乗せる狩野。
スバル「うちも連れてってくれ・・・!」
狩野「試合は棄権となりますが・・・」
スバル「あいつと勝たなきゃ意味がないんだ!!」
狩野の車に乗り込むスバル「狩野さんよ、頼む・・・!うちのかけがえのない友達なんだ・・・!」
狩野「しっかりつかまってなさい・・・」
球場を出て行く自動車。

小さくなる車を見送る白亜高校バレー部。
花原「大変なことになっちゃったわね・・・」
海野「レイちゃんが都合よく来てくれて本当に良かった・・・」
小早川「もし死んじゃったら・・・」
小早川を小突くブーちゃん。
小早川「ごめんなさい・・・」
さくら「大丈夫・・・大丈夫だから。」
ちおり「なんで倒れちゃったの・・・?」
ちおりを優しくなでるさくら「ちょっと無理しちゃったんだよ・・・
お友だちのことが大好きだったからね・・・」
祈る乙奈「主よ・・・
どんな形で生を受けても、人の命は平等なはずですわ・・・あの子をお救いください・・・」

今度はパトカーが会場に集まってくる。
山村「今度は何だ??」
警察官「・・・網野りかぜさんはいますか?
電波法違反、住居侵入、窃盗の容疑で逮捕状が出ています・・・!」
さくら「あら・・・日本の警察もバカじゃないのね・・・」
警察官「今なんか言いました?」
さくら「なにも・・・」
警察官「ここに大人はあなただけですか?」
さくら「・・・あの子が何を盗んだって?」
警察官「あなたがたの血液サンプルです。」
さくら「馬鹿な子・・・」
さくらが詩留々高専のコートを振り返ると、海野ロボがバッテリー切れで倒れている。

さくら「逮捕状を出すのは結構だけど・・・
あの子が高体連のシステムをハッキングした証拠はあるのかしら・・・?」
警察官「・・・え?」
さくら「それに盗まれた血液はそもそも高体連のものじゃない・・・わたしら白亜高校のものよ・・・
被害届なんか出してないんだけど?
こんな強引な捜査して許されるのかしら・・・?」
警察官「しかし・・・高体連が・・・」
さくら「破門戸だろ?
あんな詐欺師に忖度してんじゃないよバカ警察・・・
とっとと帰んな・・・今のわたしは機嫌が悪い・・・」
警察官「ちょっと、あなたね・・・!」
さくら「この一部始終を私の友人が録音してんだけど?」
警察官の上司「おい・・・!帰るぞ・・・」
球場から出て行くパトカー。

マウンドに降りてくるつよめ「・・・警官を殴るかと思った・・・ハラハラさせないでよ・・・」
さくら「そこまでバカじゃないわよ。」
山村「もしかして・・・監督は知っていたのか?」
さくら「必ずなにか手を打ってくると思ったから・・・つよめにりかぜちゃんを尾行させててね・・・
うちらの血液を盗んだ証拠写真を突きつければ、相手をいつでも反則負けにすることができた・・・
でも・・・そこまでして勝つ気にはなれなくってね・・・」



出盆総合病院
病室のベッドで目を覚ますりかぜ「・・・試合は・・・?」
涙を流すスバル「よかった・・・本当に・・・」
りかぜ「廃部期間は10年よ・・・」
スバル「10年後にまた二人でやろうや・・・」
目が潤むりかぜ「なんでそこまで・・・」
スバル「・・・そういう運命だから。」

――白亜高校決勝進出。
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