クライトン版ジャングルクルーズ!1980年の冒険小説。原題は『Congo』で後に映画化もされています。この映画版は細かな展開(特にラストのバトル)は違うのですが、クライトン作品にしてはけっこう原作の雰囲気を残してくれていて、なかなか楽しめると思います。
あらすじは大体こんな感じ。時は1979年。機械工学は、真空管、トランジスタ、そして次はソリッドステート、半導体の時代が到来しようとしていた。
「地球資源開発技術社(略称ERTS)」は早くも光速通信の時代を予測し、宝石としての価値は無かった為これまで顧みられなかったが、半導体特性のある「タイプⅡbダイアモンド」の鉱床を求め、ザイールのジャングルの奥地に調査隊を派遣した。
しかしヒューストン本部と衛星通信を行いながら探検をしていたERTSの第一次調査隊は、何者かによって全滅させられてしまう。調査隊のベースキャンプのビデオカメラは、強力な力で頭をつぶされ殺されてしまった調査隊の無残な死骸と、動物の影を映していた。
すぐさまERTSは最高の画像処理技術を駆使してビデオを解析する。そして同じくタイプⅡbダイアモンドを狙うドイツ、日本、オランダの日欧合弁企業の調査隊よりも早く、再びザイールに第二次調査隊を投入することを決定した。
・・・まるで「デザーテッドアイランド」のような展開・・・!私がこれを初めて見たのは、映画からなんですが、なんか人の死に方とかが残酷で(人間の目玉を投げつけられたり)最新の技術がバシバシ出てくるので「クライトンっぽいなあ・・・」と思ったら、やっぱりクライトンだったって思い出があります。
古典的なジャングル探検を最新の通信技術を駆使して行ったらどうなるのか?これが今回のクライトンの着想だと思いますが、全体的な雰囲気は「川口浩(藤岡弘、でも可)探検隊」!!あの番組が大好きな人には、絶対お勧めの一冊です。
今回は登場人物を紹介しながら、感想をまとめていこうと思います。ネタばれあるので御注意ください。
「キャレン・ロス」
ERTSの女性科学者。一応ERTS第二次調査隊のリーダーらしいが、若き天才でまだ24歳。私よりもいくつか歳下ですが、「20代の女性がよくあんな修羅場に行くよなあ」って感じで、惨たらしい死体を見ても全く動じない冷たい女です。
ダイアモンドを獲得するならどんな犠牲も厭わない彼女に、私は感情移入することがなかなかできないでいましたが、キャレンちゃん最後の最後にやってれますw。ダイアモンド鉱床にはっぱかけて、火山をおじゃ魔女どれみドッカーン!「OH!キャレンはん、そらあかんで!お約束すぎまんがな!」
「ピーター・エリオット」
霊長類を専門とする動物学者。ゴリラに言語を習得させる研究を行ない「動物虐待だ!」と動物保護団体からいわれのない批判を受けているさなか、どうやら第一次調査隊は霊長類によって全滅したのではないか、と言う可能性から、ERTSの第二次調査隊に外部アドバイザーとして参加。
彼自身も、今研究をしているメスのゴリラ「エイミー」が見る「ジャングルの中の建造物?の悪夢」の正体を突き止めるため、彼女の生まれたザイールに飛ぼうとしていたのでERTSの資金援助は願ったりかなったりだった。
彼の性格はあくまで普通の人なので、大体の読者はこの人の視点で冒険に参加していくのだと思います。
「エイミー」
エリオットが研究しているメスのゴリラ。エリオットが考案したゴリラ版の手話を習得しており、エリオットと完全に会話が出来る。これがまたベラボウ可愛い。この可愛さは本書を読まなきゃ分からない・・・!飛行機でテンションあがって吐いた時、「ひらあやまりにあやまった」エイミー。こんなのゴリラのすることじゃない!
映画版では、バウリンガルのような音声に変換する機械をとりつけられて、実際に“喋って”いました。
「チャールズ・マンロー大尉」
映画版では黒人の格好いい方でしたが、原作は白人。まあ人種はともかく・・・アフリカをまたにかける最も優秀でギャラも超一流の凄腕の傭兵。
本書の邦訳を担当した(『ジュラシックパーク』からクライトン作品ではおなじみの酒井昭伸さんじゃなく)平井イサクさんによるものなのか、マンロー大尉の口調が結構いい!「捕まったら食われちゃうんだぞ!」とか酒井さんの翻訳ではそうならないだろうなあ・・・と。「ちゃうんだ」っていう口調は面白いなあ、と。
クライトン作品では『ロストワールド』でもそうだったけど、知識型と経験型の人を出す場合が多くて、この人はまさに後者。で「経験は結局土壇場では知識に勝る」ってのが王道なんですよね。
「R・B・トラヴィス」
ERTS社長。けっこうクライトン作品の企業の社長は強欲で嫌な奴が多いんだけど、この人はサポート役で悪役じゃなかったです。日本や中国の企業を「上がり目」と警戒していて、日本の10年後はこのハイテクレースに中国が参入してくると予言しています。
本書に出てくる日本企業「ハカミチ社」はすごい嫌な奴で、ERTSにあの手この手の妨害を仕掛けてくるのですが、ERTSも負けずに日欧合弁企業調査隊の飛行機の離陸を遅らせたり、そんな攻防が結構面白かったです。
・・・つ~か「ハカミチさん」って何者だ!お前絶対日本人じゃないだろ!怪しすぎるぞ!どういう漢字当てるんだろう・・・八上地とか?
ちなみに日欧合弁企業の調査隊も頭砕かれて全滅。でもジャングルに墜落した彼らの物資補給機が主人公たち一行を皮肉にも救ってくれました。
「ジェンセンとアーヴィング・ラヴァイン」
ERTS社員。ジェンセンは地質調査員、ラヴァインは電子工学技術者。第二次調査隊のメンバーで「絶対こいつら殺されるな・・・」と思っていたら、日本企業の罠で空港で足止めされて冒険に参加できず。堂々と登場人物欄に名前が書かれているのに・・・この展開は『スフィア』の海洋生物学者と一緒だ・・・!やられた・・・!
「トム・シーマンズ」
本国アメリカからキャレンをサポートするのがトラヴィス社長なら、エリオットをサポートするのがシーマンズ。エリオットの研究スタッフでプログラマー。
ERTS第一次調査隊が殺された時に一瞬映った動物の映像を解析。それがゴリラでもチンパンジーでもないことを突き止めます。
「カヘガ」
陽気な黒人の現地コーディネーター。キクユ族のポーターを集めてくれます。マンロー大尉とも訳知り顔で、なかなか気のいい男。この冒険の後中華料理店で働いてたと言う後日談には爆笑。仕事を選ばない人なのね。
「キガニ族」
ザイールの奥地に住む人食い族。人を喰う習慣のある部族は決して凶暴ではないが、その文化が20世紀には理解されずザイール政府軍によって滅ぼされようとしている。彼らの武器は主に弓矢だがザイール政府軍と日夜戦闘を繰り広げており、現地の情勢は極めて不安。
なんでも「人を食えば、ちょっとあんたブタなんてまずくて食えないよ」とのこと。へ、へ~
「ピグミー族」
小柄で身のこなしが機敏なジャングルの原住民。第一次調査隊の生存者を村で保護してくれていた。映画版にも出てくる。「ぜひ夕飯を食べていけ」と一行に親切にカメ、イモ虫、バッタ、カエル、カタツムリ等々をふるまい、見事に下痢にさせた。
「G.エリオテンシス」
ザイールの奥地のダイアモンド採掘古代都市“失われた都ジンジ”が生み出した、まさに殺戮兵器。強力な腕の力と石でできた卓球のラケットのようなもの(なんじゃあそりゃー!)で人間を殺す夜行性の灰色のゴリラ。
ジンジはこのゴリラを調教しダイアモンド鉱山の労働者の監視役に当たらせたが、失敗。彼らによって「ゴリラクーデター」を起こされ滅ぼされたらしい。
ちなみにエリオットさん。学名って基本的に自分の名前つけられないっすよ!
最後に「ジャングルクルーズ」と言ったら獰猛なカバ。案の定川で襲ってくるのですが、カバが見た目と違ってジャングルで最も人を殺す恐ろしい動物だと言う事は、芸人アンタッチャブルの柴田さんが布教してくれたので嬉しい限り。奴らにはワニの装甲も敵いませんからね。
繰り返しになりますが「藤岡弘、探検隊」が好きな人には、ぜひお勧めの一冊ですよ。
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