グリーン・ゾーン

 「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 嘘を欲したのはアメリカ政府そのものだ。だから君がここにいる。

 イラク暫定政権の安全地帯「グリーンゾーン」にちなむタイトルの本作は、2003年に起きたイラク戦争を題材にした戦争サスペンス映画。
 CMの印象ではシュワちゃんやセガール主演の(悪く言えば)ありきたりな一騎当千の軍人が戦うアクションものって感じですが、この映画はどちらかというとドキュメンタリータッチ。そう考えるとテレビCMはやっちまったな。もっと社会派っぽく宣伝すればよかったのに・・・

 そもそもこの映画の物語の核は、記憶に新しいイラクの大量破壊兵器に纏わるごたごたです。イラク戦争って私が思うにかなりスキャンダラスな戦争で、私もニューヨークの同時多発テロの報復でアメリカがアフガニスタンを攻撃しタリバン政権を追い払ったところまではついていけたんです。
 でもいつのまにかアメリカはイラクも攻撃してて「タリバンのついでにフセインもやっちゃうか?」ってかんじでさりげなく始まって終わっていたのが、このイラク戦争。
 当時のアメリカはブッシュ政権で、ブッシュ大統領と言えば、お父さんの代から中東イラクに挑戦し続けた偉大な政治家(フェイバリット文学は『はらぺこあおむし』)。
 イラクは石油資源も古代の貴重な遺跡もあるのに、イギリスにはクウェートを作られて石油の輸出を妨害されるわ、それに頭にきたイラクがクウェートに侵攻したら話が大きくなって湾岸戦争になっちゃうわ、その挙句アメリカには「大量破壊兵器作ってるだろ、お前」と言いがかりをつけられてフセイン政権は崩壊するわ、とにかく踏んだり蹴ったりの歴史。

 なぜアメリカがイラクを攻撃したのかは諸説ありますが、映画のラストでは石油工場らしきプラントが映っていたので「石油の利権のため」という説をとっていたようです。
 他にもトルクメニスタンの天然ガスを供給するパイプを敷くのにフセイン大統領が支配するイラクが地理的に邪魔だったとか、チェイニー副大統領と戦地に人材を派遣するブラックウォーター社がつながっていて雇用創出のためにあえて戦争を起こしたとか、内政問題がガタガタだった当時のアメリカ国民の政府への不満をそらすために他の国を敵国にしたてあげた等・・・まあいろいろあって、これは恐竜絶滅説のように複合的に起こったんだろうなあ・・・って感じがします。どれも理由の一部なのでしょう。

 これらの点でイラク戦争を起こした方がトレードオフの原理でデメリットよりメリットが上回ると判断したアメリカは、次に「じゃあどうやってイラクを攻撃する正当な理由を作ろうか?」となったわけで、国際社会に非難されないためにもいろいろ知恵を絞った挙句、嘘か本当か分からないけど可能性は0ではない「イラク大量破壊兵器製造の阻止」を掲げて戦争に踏み切ったのでしょう。
 結局イラクには大量破壊兵器はなかったわけだけど(とりあえずそんな形で落ち着いた)この理由を考えた人は頭いいですよ。
 兵器が無ければないで、「そういう悪さしていると思われるようなお前の態度にも落ち度があったんじゃないか?」とか「お前隠しやがったな!」って言えるし、なんとか上手い具合にことは運ぶとアメリカは当初は思ったのでしょう。
 この政治的な判断は決して間違ってなかったと思う。アメリカのような軍事大国の政治家って時に罪もないイラクの民間人をたくさん殺しても自国の利益を取るような冷酷なところがないとやっていけないと思うし、よく「バカだなアメリカは。破壊兵器があるかどうかよく調べてから攻撃を決めればよかったのに」と批判する人がいますが、私が思うに最初からイラクへの攻撃は決まっていたんです。あんな理由は後付け。だから何とでもかわせるであろう理由を作ったのは上手いと思う。

 しかし世界は甘くなかった。「イラクの大量破壊兵器の存在はアメリカのでっち上げ?」という話が出たとたん国際社会におけるアメリカの信用度は暴落。「世界の警察アメリカ」とか「パクスアメリカーナ」とかそんな時代は終わってしまいました。
 アメリカはパクス(平定)ではなくカオスをイラクにもたらしてしまい、イスラム教スンニ派、シーア派、そしてクルド族をなんとか独裁体制でまとめていたフセインを失ったイラクはもうドチャメチャ。対立する三つの勢力がそれぞれ自分勝手に権利を主張する会議のシーンはかなり印象的でした。
 これって今なおイラクを悩ます問題で、私が見たドキュメンタリーでは軍をまとめるアメリカ軍の兵士にイラク軍の兵士がやってきて「おい聞いてくれよ!シーア派のあいつ、オレがスンニ派だからっていじめるんだよ!」とか「クルド人が何か悪さしているのを俺は見た」って告げ口したり、もう学級崩壊している小学校のような状態になっていました。
 さらにこれまでフセイン政権で権力をセーブさせられていた最大勢力シーア派の横暴は「いじめ」で済むものではなく、まさに虐待。電気ドリルでスンニ派の人を突き刺したり本当に残酷。おそらくスンニ派の人も「目には目を」でひどいやり方で報復をしているだろうし、家族や友人を殺されちゃったら日本人だって「犯人を殺してやりたい」と思うわけで、イラクにはそんな人が数え切れないほどいる。

 この原因はやっぱりアメリカにあると思う。最初にスンニ派、シーア派、クルド族問わず無差別爆撃したのはアメリカ軍だし、「第二次大戦後の日本のように、野球とSEXと映画、あとチョコレートでも皆にあげとけば上手いこと民主化できるだろ」と甘い見通しをしてしまったのもアメリカ。
 この三つ巴ならぬ“四つ巴”の状態を予想し、当初から危惧していたのがCIAの「マーティ捜査官」。太っちょでベテラン捜査官の風格漂うマーティさんは、国を棄て亡命したズバイディ氏を新たなイラクのリーダーに仕立て上げようと目論むアメリカ国防総省のインテリメガネ「パウンドストーン氏」と対立し、主人公のミラー准尉に協力するのですが、結局結末は現実と同じに・・・

 『アバター』の時も思ったけどアメリカってちょっと他民族に対する配慮とかデリカシーが足りない気がします。でもこの映画は『アバター』とちがって「それじゃダメなんだ」と頑張るイラク人のフレディが象徴的に描かれていて、彼の「この国の未来を決めるのは、あんたらじゃない」というセリフは悲痛でした。
 本当に余計な干渉って事態をこんがらがらせるだけ。「虚構の大義名分」大量破壊兵器をミラー准尉のチームに捜させるより、米軍が壊したインフラを直してやればいいのに・・・

 そういえば日本の自衛隊も小泉さんのイラク攻撃支持によって、イラクに派兵されましたが、彼らはひたすらイラクの人に水をくれてましたよね。
 それでも「駐留地に迫撃砲とかぶちこまれたらひとたまりもない」とかハラハラしていて、特に自衛隊員に死傷者が出なかったのは本当に奇跡(ボランティアの人が捕まった時も無事に帰してくれたし)。小泉さんて本当にツキまくっていたなあ・・・
 自衛隊と言えば後に国会議員になったヒゲの隊長だけど、アル・ラウィ将軍もいいヒゲしてました。けっこうフセイン役もできたんじゃないかってほど貫禄充分。
 でもフセイン大統領の命令で反乱分子を消したりしてたんだろうなあ・・・フセイン大統領は独裁政権を守るために結構処刑していたらしいから。
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