少年Aという悪魔の証明

 この前「映画『告白』の少年Aみたいなのはいるわけないだろ」って言っちゃったんですけど、もちろん特殊事例を普遍的事例として過大に論じてしまう、マスコミなどのスタンスに対する反動で言ったわけで、世界のどこかではああいう危険な天才少年はいるかもしれません。

 こういった話でよく出てくる「悪魔の証明」というおはなしがあります。これは悪魔の存在を証明するのは、どこかで一匹でも悪魔を発見してしまえば可能なのに対し、悪魔の存在を否定するのはこの世の全てを探しつくして悪魔が存在しないことを確認しなければいけないので、事実上不可能である。という肯定よりも否定の方がずっと難しいよ、というオチの話です。

 似たような話で「ヘンペルのカラス」というのがあるんですけど・・・「カラスという鳥が存在する」という前提の下「カラスが黒い」ということを証明する際には、すべての黒くない鳥を調べ上げ、その中に一羽も黒色以外のカラスが存在しなければ、なんと黒いカラスを調べなくても「カラスが黒い」ことを証明出来てしまうという話ですが、まあ抽象度の高い話ではあります。
 ※この論理自体は正しい。バラエティ番組などで「ロシアンワサビ寿司~♪」とかのゲームやるときに、一個ずつ順番にプレイヤーがお寿司を食べていって最後の一個までセーフだったら、ラストの一個がワサビ寿司であることは確定するので、出川さんあたりが「なんだよ~・・・!」っていう、あれ。あれ「ヘンペルのカラス」です。

 で、話を戻しますが、万が一大学を吹っ飛ばせる爆弾を作れるほどの頭脳を持った子がいたとして、それを実行しようと思わなければ不可能とほぼイコール。
 つまり爆弾が作れるほど頭が良かったら、そんなことやっても自分の利益にならない、デメリットの方が多いと計算するので、実行しないと思います。

 この映画を見て思い出すのは、やっぱり「酒鬼薔薇事件」。当時中学生だった私は「今の中学生は何を考えているか分からない危険だ」という世論に辟易としてました。
 少年Aという極めてまれなケースで、「現代の中学生は・・・」という普遍的な全体論にまで発展するのが馬鹿馬鹿しかった。
 先天的な気質における集団内の個々の気質パターンの割合というのは「ガウス分布」を描いていて、つまりはグラフにすると一つの山になっていて、中央に多数派が配置されていて、その両端にレアな人がごく少数配置されているようになっていると思うのですが、とにかく遺伝子プールと同じで、特殊な子は少数ながらいる。
 そして気質に遺伝子が関係していることも分かっている(・・・とか言うと決定論的に誤解する人がいてうんざりするけど)。

 その点で「酒鬼薔薇は生まれつきのサイコパスでレアで危険なやつだ」といった『おぼっちゃまくん』の作者「小林よしのり先生」は中学生のヒーローだった(すいません。嘘です。私が「おぼっちゃまくん」好きだっただけ)。
 しかしそれと「親の躾や学校やコミュニティがしっかり機能していれば、酒鬼薔薇の暴走は止められたのでは?」という説は対立しない。先天的な気質がやばかろうと、後天的な学習や教育、経験でどうとでもなるから。
 だから逆にどんな人でも運が悪ければ犯罪者になる可能性はある。

 私はこの前K氏に「お前は決して変なやつではないが、かなり稀なタイプの人間だ」とか言われたのですけど、そんな正規分布の端っこにいて、大学の嫌いな教員からも「異端児」とか言われた私だって、あんな不条理な殺戮はしない。それはやっぱり他者との関わりで、人は十分正気を保てるから。
 思えば中学時代の私って、理科の先生に授業をやらせてもらったこともあったけれど、だからと言ってまわりに一目置かれてたわけでは決してない。
 なにしろあだ名が「馬鹿」だったし。所詮理屈しかしらない口だけ野郎だったから、モノをいじくって構造を理解してしまう工作好きな友達の方がずっと天才だった。
 『告白』の天才少年Aが、自分の天才ぶりにうぬぼれて自身のサイトを立ち上げたら、来客者が一人も来ないかったのでしょげたのと一緒で(オレのサイトも一緒だけどw)世間ってよほどのことをしないと関心を持ってくれない。

 で、彼は殺人をするんだけど、これがどうも賢くない。現実でもたしかに佐賀のバスジャック事件や秋葉原の事件は、世間の注目も集めたくてやったのかもしれないけど、その先にあるのは破滅なわけで。
 ルナシー事件や少年Bの母親殺しなんかと張り合うよりも、ノーベル賞最年少記録を打ち立てた方が、こいつはもっとメディアに取り上げられたとも思うんだけどね。
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