『森の心 森の智恵』

 著者は林進さん。文章が上手くかなり読みやすい。

 人間と自然との付き合い方についての本だけど、特に国の天然記念物ニホンカモシカの食害問題に関しては為になった。

 まず林さんは鳥や動物たちの行動はまだまだ未知の部分が多く、それゆえ、動物の行動の結果に対して人間が受忍したり(仕方がないと人間側が我慢すること)歯止めをかけたりする基準を作ることが難しいと述べています。

 同じ鳥でも桜のつぼみを食っちゃうウソは「てめ~このやろ~」になるけど、樹木に被害を与える害虫を食べるカッコウやホトトギスは「どうぞどうぞ」と人間は歓迎する。人間の利益になるか害になるかで、その動物の運命は変わってしまうといってもいいと思う。
 林さんが言うように、鳥や動物なんて人間にとって何が大切なのかなんて意識せずにただ行動しているだけなんだから、それを「害になるから駆逐」「利になるから繁殖」って短絡的な基準で判定していいのかはちょっと難しい。

 ヒノキの木をニホンカモシカは食べてしまうけれど、これは林業で生計を立てる人にとっては生活に直結する深刻な問題。
 とはいえカモシカがちょっとやそっとヒノキを食べたからって、本来の自然ではヒノキは滅びはしない。林さんの指摘はかなり的確で・・・

 カモシカに継続的に主軸を摘み取られない限り、幼木は再生能力を持っているので、代わりの芽が立ち、上に伸びていく。
 しかし林業というのは、ただ木を大きくすればよいというわけではなく、できるだけ「良い木」をつくって、高い評価で売れるようにもっていくことを目標としている。

 
 つまりカモシカはヒノキ全てを駆逐はしないが、林業を取り巻く「経済の合理主義」においてカモシカはまぎれもなく「悪」になってしまう。
 そしてその高いクオリティの木材を要求するのは「森に住む人々(生態系を保全し木を育てる林業や農業に携わる人のこと)」ではなく「森の外」の思考であると論じています。
 都市で便利な生活をしながら、森に生きる人の苦労を理解もせず「いい商品を大量に作れ。しかしカモシカも生物多様性のために殺すな」というのが「森の外の思考」ですが、これは結局徳川綱吉の「生類憐みの令」と同じだと、林さんは批判します。この例えは本当に上手いと思う。

 犬嫌いの人はいても、犬を憎悪する人はいまい。しかし犬が「お犬様」になったとき、人々は犬を憎悪した。それは、犬に向けられたものではあっても、犬自体に向けられたものではなく、犬を「お犬様」にした理不尽さへの憎悪であった。

 確かに、都市部が森に住む人に要求する身勝手な思考は、これと何ら変わらないのかもしれない。ニホンカモシカが「お鹿様」になった時、林業の人は「カモシカを保護しながらも、いい木材を大量に作れなんて無茶言うな!」とカモシカに憎悪するかもしれない。
 でもそれは「お犬様」が幕府のせいであったように、「地球を守れ、生物多様性ばんざい」と理想を語るだけで、現場に無関心な政府の対策が悪いのだと思う。
 「森に住む人々は、鳥もいれば動物もいる中で生活していきたいのだ」と林さんは言います。森に住む人すべてがそう思っているかは分からないけど、確かに鳥や動物の鳴き声すらしない森なんてさみしいものがあります。

 人々は森に接し、利用するに当たって、「森は無料」と思っていたのではなかったか。(中略)自然を作り、育て、維持している人々の存在を、一体どれだけの人が理解していたのであろうか。

 自然と言うのは、必ずしも人間の住みよいものとは限らない。だから人間は自然を切り開き開発し、快適で住みよい環境に変えてしまった。これは悪いことじゃないと思う。
 しかし人工と対極的な「自然」と感じる森だって人間の手が全く入っていないわけではない。むしろ積極的に人間が森を育てて、自然環境を保全している。
 質の高い木材ができる森は勝手に放置して成り立つものではない。「人間の住みよい自然」「人間が利用できる自然」と言うのは結局「人工的」なんだよね。

 これは砂漠とか荒野の観光地とはわけが違う。ああいう雄大な大自然は人間にとって、とても厳しいの。だから人の手がつかないの。人が住めないんだから。
 「あ~雄大な自然に癒される~」とか言うなら実際そこに住んでみりゃいいんだよ。絶対エアーズロックよりエアコンの効いた部屋の方がいいから。
 そしてそんな生活は人工的な自然を保全する「森に住む人々」に支えられているんだろうな。ありがたや~
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