塀の中の中学校

 勉強したらみんな幸せになるなんてちゃう!

 千原シニア怪演!!TBSのドラマ。義務教育を修了していない刑務所の囚人が通う中学校の話。実在するらしい。

 罪を犯した囚人を俺たちの税金で生活させてやって、しかも教育までさせてやるなんてもったいない。こいつらみんな死刑にしちゃえ!
 ここまで過激ではないにしても、これに近い事は哀しいことに私たち若い連中がけっこう思っていたりする。なにしろ死刑制度賛成派が今はとっても多いから。

 こういう人たちは近代的な合理主義病にかかっている。彼らに教育をさせたって、あまり意味がない。お金の無駄だと。
 そしてそういった世間の風を一番敏感に感じているのが、囚人自身だったりする。介護疲れで妻を殺した高齢者の囚人・・・確か佐々木(大滝秀治)さんは「わしは生きていても意味のない人間です」と口癖のように言う。
 刑務所を出たって、ただでさえ不況の御時世堅気の仕事なんてつけるのだろうか?「そんなの無理じゃ!」と千原せいじさん演じる大阪のやくざ小山田は言う。

 教師の石川先生(オダギリジョー)は「きみらは絶望しているだけ力がある。普通の人は絶望する前に逃げてしまう。その力を間違った方向に持ってった。でも更生する力だってあるはずだ」とラストで締めくくる。

 この石川の言葉に一番当てはまるキャラが小山田だ。小山田は徹底的なニヒリスト。口を開けば「努力なんて無意味じゃ」と、みんなのやる気がなくなるような皮肉を言うし、退学になるために体に障害を持つ囚人にイジワルもする。
 それもこれも小山田は本当はニヒリストじゃないんだ。燃えたぎるエネルギーがあるのに、社会に上手く適応できない苛立ち。そして塀の中の中学校ですら馴染めない苛立ちからクラスメイトに嫌がらせをする“自分自身に”苛立っている。とにかく千原せいじは怒っているのだ!

 俺はただのひょうきん者だったのに、頭が悪いばかりか根性まで悪くなってもうた!

 このセリフは小山田を象徴するセリフだと思う。

 囚人たちはそれぞれどうにもならない絶望を引き受けながら、生きていかなければならない。これは辛い。しかしこの辛さは程度の差はあれ、今を生きる全ての人が抱えているものだと思う。
 石川先生は囚人じゃないけれど、そもそもプロの写真家を目指していて、その夢破れた経緯が描かれる。新人賞に応募しても「きみには華が無い。こればかりは生まれ持った才能なんだ」と雑誌の編集長にボロクソ言われ、そのショックで仕事をずる休みしてしまう。
 人間は夢をもたずに生きていけるほどニヒルな存在ではないし、かといって夢に執着すればするほど社会の不条理に絶望してしまう。夢が叶うか叶わないかなんて、最終的には運なんだから。
 普通の人はそれに上手く折り合いをつけるんだけど、不器用な人はそれができない。石川先生も、囚人たちもその点ではとても似ている。

 芸人の「さまぁ~ず」がたまにふと語る、売れていなかった時代の話はけっこう聞いてて辛い。若い人にどんどん追い越され、大竹さんなんて「え?きみらまだやってたの?」くらいのこと言われたようだ。
 そこで普通は「俺には才能がない」って諦めちゃったりするのに諦めきれない。私は夢をかなえる人って、才能以上に踏ん張りきれる人だと思うんだ。
 でもそこまで長期的に踏ん張れるって言うのは、身近な人の応援がないと嫌になっちゃうし、身近な人に評価される実力は無いといけないんだけどね。

 今描いている漫画の話が人間の夢(=希望)をテーマにしているから、ついこんな事を考えてしまうんだけど、夢に対する希望と絶望の繰り返しが生きることなんだと思う。
 そんなの意味がないって?そんな事言ったって、もともと人間の存在に意味なんてねえよ。意味のないことを一生懸命やるのが人間なんじゃんね。

 私教育学部出たから、ちょっと人権野郎かもしれないけど(死刑制度反対だし)、昔「電池が切れるまで」っていう院内学級(病院に入院し学校に行けない子供に授業をして、学力の遅れが出ないようにする)のドラマがあって、あれだって「余命いくばくもない病気の子どもに算数教えてなんか意味あるの?」ってなるじゃない。どうせ遅かれ早かれ死ぬんだからって。
 でもそれって俺たちみんなそうでしょ?不死身じゃないんだから。確かに国家的には労働力がどうこうってなるけどさ。そういう人間を数値だけで捉える合理主義者も怖いよね。

 まあ、とにかくあれだ。「塀の中の中学校」の脚本を書いた内舘牧子さんは天才だってことだ!やっぱプロはすごい!
 最近テレビがつまらないとか言うけど、半年に一回これくらいのドラマをやってくれれば文句はないよ。
 アナログ放送が終わるからそれと同時にテレビ卒業しようと思っていたけど、やっぱお金貯めて地デジ化しよう。
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