『オタクはすでに死んでいる』

 としおのたたかいはおわった。(MOTHER2風に)

 ・・・なんでこの本の内容で波紋が起きたのかが分からない。いつも濃ゆいオタク的極論を嬉しそうに喋る岡田さんが、この本ではかなり気を使っていちいちエクスキューズ入れて、むしろ論が薄くなっちゃっているほどなのに、それでも反発しちゃう人がいるのか。

 まあ受け取り方によっては、今時のオタク(第三世代オタク)を上から目線で批判している感じもするけど、でも岡田さんは「そんな時代をぼくは別に否定していないから、どうぞご勝手に」って言ってるじゃん。

 ああ、その冷めた態度が腹立つのか!

 いや、でもあとがきでかなり熱くこれからの若いオタクにエール送っている気もするけどな、まあいいや。第4世代以降のオタクなんかは、おそらくこの人すら知らなくなっちゃうんだろうから。かつてこの国でオタキングと呼ばれた男の知られざる戦いの物語を・・・

 とはいえ私はアニメも漫画も秋葉文化も全く無知です。この前もdescf氏に『ドラゴンボール』読んでいないの丸出しで「ナメック星人」を語り大恥をかいた・・・そんな奴です。
 だから前半は結構理解するのが困難だったんだけど、でも後半にかけて論が収斂してきて、最後まで読めば何が言いたいのかは解った。

 まずオタクが誕生する前に、日本にはまず「SFファン」もしくは「SFマニア」がいたという。
 ちなみに本書での「マニア」と「オタク」には厳密な定義の違いがある。それは「民族であるかどうか」。つまりオタク文化はあるけど、マニア文化は無いのはそのため。
 いわばマニアとは、共通の文化を形成して仲間となれ合うような事をしない孤高の存在であり、もっと言えば濃すぎて仲間と群れるといっても絶対数がいないのだ。

 たとえば本書32ページに「オタク人口と市場規模」という図があって、ジャンルごとにそれぞれのオタク人口を表している。
 これによればコミックオタクが25万人、ゲームオタクが16万人、アニメオタクが11万人、鉄道オタクが2万人だそうだ。あの鉄道オタクでさえたったの2万人!?
 これはまずいぞ、いったい日本に恐竜オタクは何人いるんだ!?って一瞬思ったんだけど、結論から言おう。日本に恐竜オタクはいない。いるのは恐竜マニアなのである。だから恐竜は文化たりえないのだ。

 文化を形成するほど恐竜が好きな人の人数がいないんだよ。その上もし日本にいるのが恐竜マニアではなく恐竜オタクなら、恐竜文化の普及に努めるはずだもん。
 でもネット上の恐竜好きってやっぱりそういったおせっかいな活動はしないで、己の恐竜道を追及している人ばかり。
 恐竜を一般に広めようと無茶なことしているのは、日本ではサイエンスライターの金子隆一さんくらいで、それにあまり同調しない恐竜ファンはなんてドライなんだ・・・
 『恐竜学最前線』や『ディノプレス』といった濃い恐竜専門誌が休刊する時、ぼくたちは何かアクションを起こしたのだろうか??
 
 ・・・と、いきなり横道にそれちゃったけど、とにかくオタク登場以前のSFマニアって言うのは「SF1000冊読んでやっと一人前!」とか言うほどのすっごい濃い人たちで、岡田氏いわく彼らはオタクを生み出す土壌を作った「オタク原人」だった。
 彼らSFマニアはSFを愛するあまり、程度の低いSFアニメ(=サブカル。ガンダムとかのことね)を認めなかった。おそらく「あんなのSFじゃない!」って感じだったんだろう。大丈夫。オレも『ガンダム』や『時をかける少女』なんてしょうもないアニメはSFじゃないと思うよ。
 また当時『スターウォーズ』のヒットでSF人気が過熱し、こういう一過性のブームには必ず現れる「にわかSF好き(=モグリ)」の増加もSFファンは嘆いていた。「オレはスターウォーズしか見ていないような奴をSFファンとは認めん!」とか。

 なんかすっごい想像できる・・・

 そんな中SFも好きだけど、アニメ、漫画といったサブカルも並列的に好きという岡田斗司夫さんのような人が現れた。
 いい歳してサブカルにはまる人への世間の風当たりはまだ強く、彼らはどんなジャンルだろうが「子供っぽい趣味を持つ」というだけで、アニメ好きも漫画好きも鉄道好きもミリタリー好きも、み~んな「オタク」という強制収容所的レッテルを貼られてしまう(なぜか「なんか暗い人」「社会性がない人」も、とばっちりを受けてオタクにされてしまった)。

 これがオタク第一世代(貴族主義的オタク)。つまりオタクは世間のサブカルに対する差別から生まれた。
 でもオタク自身は、「ああ、“オタク”って言うレッテルを逆にスケープゴートにしちゃえば、自分がサブカルにのめり込む理由を人に説明するとき便利だな。ぼくオタクだもんってだけ言えばいいわけだし」と呑気だった。
 なにしろオタクの第一世代を自負する彼らは貴族主義。オタクに対する世間の評価なんてどこ吹く風だった。

 またオタク第一世代は、研究対象となるサブカルコンテンツがまだそこまで多様化も進化もしていなかったから、ある程度自分が興味がなくても別のサブカルジャンルも追っていけた。
 たとえば特撮オタクがSF小説の有名どころを基礎教養としてちゃんと読んでいたり、そもそも排他的なSFマニアや世間との戦いからうまれた民族だったから、同族意識が強くてオタク的なサブカルチャーなら専門外でもどれも広く浅く知っていたのだ。ある種、他ジャンルのオタクへの礼儀と言うか。まあ、貴族のたしなみっていうのか。

 この風潮は私が思うにオタク第一世代がSFマニアの亜種だったことにも関係していると思う。
 なにしろSFを楽しむためには基礎的な科学の知識が必須だ。それを勉強せずに理解できるSFなんてマニアからしてみれば物足りないのだろう。「ガンダムはSFじゃない!」という議論の原因はここら辺だと思っている。「科学を学ばないでSFを語るな!」と。

 サブカルに寛容だったオタク第一世代もSFファンと重なっていたから、かなり勉強熱心だった。『マクロス』と『ムーミン』を分け隔てなく基礎教養としてたしなみ、もっと大きなアニメと言うメディアそのものをメタレベルで論じていたのだ。
 このように、彼らは「理想のオタク像のようなもの」に少しでも接近するために、それがサブカルであるなら、雑食的に自分の教養として取り入れたのである。
 
 さて、アニメやゲーム、漫画といったサブカルコンテンツの進化と共に青春をすごしたのがオタク第二世代(エリート主義的オタク)だ。
 貴族主義的オタク第一世代が、サブカルが理解できない庶民をある意味スルーしていたのに対して、第二世代はそこまで大人じゃない。「アニメが分からないのはお前ら世間がダメだからだ!」というスタンス。
 アニメの批評をするにしても、詳しくない人に分かりやすく説明しようともしない。アンチ池上彰。

 でも、第二世代は熱い。一般にもオタクやサブカルを広めよう!と燃えていて、オタクのアカデミズム化を望んでいた。
 「オタクはすごいんだ!」ってやたら世間を意識するのが第二世代。それは1988~89年の連続幼女誘拐殺人事件で、全てのオタクが「ロリコンで危ない犯罪予備軍」だと短絡的にメディアが報じたことへの反動だったりもする。
 このオタクに対するネガティブなイメージを払しょくしようと頑張ったのが岡田さんだったりする。「海外ではオタクってキモイどころかクールって言われているんだぜ?」って言ったり、オタクについて東大や海外で講義したのもオタクのイメージアップのためだった。 

 そして第三世代(自分の気持ち至上主義的オタク)。彼らの青年期にはサブカルのコンテンツはもうほとんど出尽くしていて、彼らはその進歩や発展の歴史も分からないし、はじめからジャンルが多様化しているので膨大なコンテンツをすべてカバーするのは事実上不可能となった。
 よって自分の中の「好きか嫌いか」「楽しいかつまらないのか」の感覚だけで古今の膨大なサブカルを選び、興味のないものはそれが例えサブカルでも触れなくなった。
 つまり「アニメ好きです」とか名乗りながらも『マクロス』が好きな奴は同じアニメなのに『ムーミン』を見ないのだ。これを「自分の気持ち至上主義」と言うらしい。

 そして岡田さんは自分がイメージしていたオタクと第三世代のオタクは余りにもかけ離れてしまったと感じたのである。これはよく言えばサブカルが発展し、オタクが社会的地位を得たことの証明だとも言える。
 オタク同士がサブカルにおける基礎教養を学び「オタク大陸」と言う共通のカテゴリの中で団結する必要はなくなった。それをオタクは死んだと岡田さんは言った。
 岡田さん本人も言っているように、それはオタク第一、第二世代の死であり、オタキングの死である。世間のオタク対するネガティブなイメージと戦ってきたオタキングの戦いの終わりなのだ。

 オタクは貴族だけのたしなみではなくなった。大衆文化となった。つまりオタクはもはや特権階級――ステイタスではなくなったというわけです。
 理想のオタク像に近づくために能動的にサブカルを学ぶオタクはもういない。オタクに教養はもういらない。オタクに哲学もいらない。
 だから個性的でクリエイティブであったオタクは、どんどん薄くつまらない人の集まりになってくる。彼らは大衆消費者とあまり変わらない。サブカルとの関わり方が受動的なのだ。

 最近はまって見ている岡田さんの「一人夜話」は面白い。しかしちょっと世代が下のオタク評論家東浩紀さんが女の声優とやっている番組はあまり面白くない。濃くないんだ。
 そう思うと私は別にオタクが好きなんじゃなくて、個性的な自分語りができる人が好きなんだと思う。
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