カプリコン・1

 「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」

 なんか近くに聞こえる。宇宙にいるなんて嘘みたい。

 vicさんお勧め映画。お勧めどころか生涯見た映画のベスト10に入る一本なのだから見ないわけにはいきません。
 これってずっとSF映画だと思ってたけど、SFというより社会派サスペンスだと思う。だからかなり展開が意外だった。
 主人公はカプリコン計画のねつ造を強制された宇宙飛行士ではなく、どっちかというとその陰謀を暴こうと奔走する放送記者。もう中盤以降は大活躍。
 主役を喰う大活躍と言ったら最後に出てくる農薬散布のがめついジジイw。『カプリコン・1』ってどんな映画?って聞かれたら、あの「頭を下げろ!前が見えねえ」って言う飛行機乗りのオヤジが、追手のヘリコプターを鮮やかな操縦技術で撃退する映画って言いそう・・・
 あのジジイ絶対尋常じゃねえ。戦時中は空軍のパイロットとみた。

 古い映画なので(1977年公開)、いまどきの銃バンバン、漫画のように敵と格闘なんてシーンは一切ない。派手なシーンといえば、記者の車のブレーキが細工されて暴走するシーンと(運転巧すぎだって!w)、この最後の最後にある空のチェイスだけ。
 それが逆によかった。FBIが秘密を知った記者の家に踏み込むシーンとか、なぜかやたら怖かったし。
 もしこの映画を今改めて撮ったとしたら、あの記者とか宇宙飛行士はインベーダーのように大量に出てくる追手を「ソルト」の如くバシバシぶっ殺しながら逃げてたんだろうな・・・それはやっぱり嫌だな。

 しかしアメリカって最近コンステレーション計画(ロケットに人を乗っけて他の星へ送る計画)を打ち切ったから、この映画の状況と意外とシンクロしてて面白かった。
 カプリコン計画を指揮する科学者「ケロウェイ博士」は作中こう言う。

 マーキュリーが初めて軌道に乗った時、駅に受像器が置かれたために電車に乗り遅れた人が大勢出た。アポロが月に降りた時はTV局に抗議が殺到したよ。“ルーシー”の再放送が中止になったからだ。
 “宇宙は巨費を喰いすぎる。がんやスラム対策は?夢に金をかけるな”とね。夢まで計理士つきさ。


 この手の批判は今でもあるのだと思う。だからこそ一回有人宇宙計画はやめて、とりあえず性能のいい宇宙ロケットの開発だけに今は取り組もうよ(今の技術では火星に行くのに何カ月もかかる)ってことになったんだろうけど、ケロウェイ博士(と大統領)は科学を愛するあまりとんでもない事実のねつ造をでっちあげる。
 活力のない現代のアメリカのみんなに夢とロマンを与えるために、ひそかに打ち切られたカプリコン計画を地球に建てた映画セットで成功させてしまおうと言うのだ。

 まるで『こち亀』の話にありそうな強引な嘘なんだけど、彼らは本気だ。すごいのはこの偽火星探査映像にかかわるスタッフは本当にごく一部で、基地でカプリコン一号と交信するスタッフすらこの茶番を知らない。
 あれ?なんか火星との交信には21分のずれがあるはずなのに、まるで地球から電波が飛んでいるような気がするな?とか感づいた賢い技術者の顛末は推して知るべし。
 この話で思い出すのは、やはりアポロ計画ねつ造疑惑だけど、こういう国家を挙げてのトンデモ陰謀ものはアメリカならではだよね。

 私も科学は嫌いじゃないからケロウェイ博士の気持ちは分からんでもないんだけど・・・やはりこの人は科学が好きすぎて人として一線を越えちゃったよな。
 いや気持ちは分かるよ。科学軽視はアメリカに限ったことではなく、日本でも熱湯風呂なんか入ってたタレント上がりの女性政治家に「スパコンは一位じゃなきゃいけないんですか?」と言われ、それを叩いて次の選挙では「一番」をスローガンにした前の与党も「はやぶさ計画」の予算を削っていたらしいし・・・あれ結局成功したからいいけど失敗していたら・・・
 だからもしフォン・ブラウン博士とかがこんな状況になったら、こういうこともやりかねないのが・・・科学者魂の叫びであろう。
 『ジュラシック・パーク』でエリー・サトラーが「人の命よりも価値のある夢なんてこの世には無いわ」とジュラシック・パークの創始者ハモンドを諭すシーンがある。
 この映画も科学のあり方について考えさせるという点では科学を題材にしたフィクション・・・SFかもしれない。

 あとこの映画って「映画」と言うものをメタ的に考えることもできる構造にもなっているのが面白い。宇宙飛行士が奥さんとウエスタン村に遊びに行った時「こんな風に撮ったら嘘だって真実のように作れてしまう」と言っていた。
 この映画から早30年以上・・・CG技術の進歩によって「嘘を事実のように撮る」のは『ジュラシック・パーク』で完成し、その後は「嘘を嘘のままに、いかにスタイリッシュかつクールに表現するか」に主題が移ったようにも思える。
 日本は昔からリアルよりも「かっこよさのリアリティ」に行っちゃうところがある。だからアメリカでは『ジュラシック・パーク』(空想を事実に近づける)をやるけど(もう過去形?)、日本では『ゴジラ』(事実を空想に近づける)を作っちゃう。
 個人的にはもうさんざんかっこよさ(だけ)を追求した映像は見飽きてるって感じなんだけどな。

 ・・・と言うものの、この映画古いけど冒頭の曲とかタイトルロゴがカッコいい。あの黒いバックに映える、丸ゴシックっぽいフォントの赤い字とか。こういうかっこよさもSFの醍醐味だよね。矛盾してるぞ。

 追記:ロケット打ち上げ当日の宇宙飛行士の朝食。ステーキ、グレープフルーツ、ジュース、卵、トースト。こんなにがっつり食っちゃって宇宙酔いで吐くんじゃないか??w・・・と思ってたらあの展開。これが伏線だったのかな?
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