14.ワイズマン博士の異常な実験

 ラマルクが唱えた「進化」は実際に起きている事実だ。彼が間違えたのはそのメカニズムの説明「獲得形質の遺伝」の部分である。

 ではなぜラマルクはこのようなモデルを考えてしまったのだろうか?答えは簡単だ。この当時に遺伝子と言う概念がなかったからである。世界が水、火、風、土という四大エレメントで出来ているとか公然と言われていた当時のフランスの科学を考えれば、逆によくまあそこまで頑張ったと思う。
 一世代の努力と言うスピリットが子どもに受け継がれてもいいじゃないか・・・?

 この獲得形質の遺伝が本当に起こるのか奇想天外な実験で検証した人がいる。それが医学者のオーギュスト・ワイズマン(1834~1914)だ。
 ワイズマンはハツカネズミの尻尾を何代にもわたってちょん切り続けた人で、尻尾を必ず失う環境にネズミを置けば、尻尾がないという獲得形質が子どもに伝わり、いずれ生まれつき尻尾のないネズミが誕生するのではないかと確かめた。
 しかし結果はそんなネズミは生まれなかった。この実験には、「ネズミが尻尾を失って何か利点があるのか・・・?そんな獲得形質はデメリットだったから親は子に遺伝させなかったんじゃない?」というような突っ込みもあったものの、ワイズマンが突っ込みどころ満載の実験で辿り着いた結論は、まさしく真理であった。

 ワイズマンは生物の情報は生殖細胞(子どもを作るときに使う細胞。精子や卵など)を経由して遺伝するという生殖質連続説を主張したのである。
 今考えれば、これは中学生でも知っている当たり前の話かもしれないが(生殖細胞は遺伝子の量が体細胞に比べて半分になるという「減数分裂」の名付け親もこの人)、遺伝について謎だらけだった時代においてワイズマンの功績はやはり大きい。大きすぎる。
 ワイズマンは生殖細胞は体細胞とはまったく情報が切り離されていて、世代から世代へ連続しているのは生殖細胞だけだと言いきった。
 つまり親の体の細胞がどんなに環境から影響を受けようと、それは決して生殖細胞には伝わらない(これをワイズマンバリアーという。必殺技みたいだが)。
 私たちが親から受け継ぐ形質についての情報は生まれる前から決定されている。
そう生殖細胞の中に・・・
 現在用いられているダーウィンの進化論のモデル「ネオ・ダーウィニズム」を正しく理解する上でこのワイズマンの主張は超重要事項。今のうちに要チェック。

 進化と言う現象はラマルクの言うような努力という意思の力によってではなく、生殖細胞の中にある遺伝情報がなにかのきっかけで変化し、そこで新しい形質が生まれている。これこそかの有名な突然変異である。
 オランダの植物学者ド・フリースがオオマツヨイグサの花のなかでひときわビッグな奴が混じっているのを見つけ、それを突然変異体と読んだのは1901年・・・20世紀に入ってからだった。
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