『棒』

 安部公房さんの短編小説。デパートの屋上から落下してしまった(自殺説あり)男を天使か悪魔か死神か分からない人たちがメタ的に考察するお話。・・・あれ、似たような話がどこかであったぞ。そう水嶋ヒロだ。
 私この物語まったく知らなくて、最初読み始めた時あまりの超現実的な展開にぶったまげたよ。カフカかよ!って。
 しかし、やっぱりプロの作家はすごい。水嶋さんがあれこれ本一冊で書こうとした話をたった9ページにまとめてしまっている。そして水嶋ヒロの9倍くらい深い。

 水嶋さんの小説はとっても読みやすくて、それはそれでいいんだけど、良くも悪くも読みやすすぎて引っ掛かりがない。
 そしてあの本で訴えたかったテーマを伝えるのにそんなにページ数が必要だったのか?もっと端的にまとめられなかったものだろうか?っていう気もしてきたよ。この『棒』を読んじゃうと。よかった~『棒』から先に読まないで・・・
 映画においてたけしさんも言っているけど、上手い作り手って余計な情報がないんだよね。不必要なものはバッサリそぎ落としちゃう。情報の取捨選択や引き算、因数分解なんかが出来ると表現の幅、引出しがもっと豊かなものになる。
 物語の背骨はあくまでシンプルに。そして残りは読者が想像を膨らませられるようにゆとりをもって・・・

 よく小説家志望の小説的な文章を読んでいて思うのが、説明的すぎて読み手が想像力を働かせる“ゆとり”のようなものがないってこと。いろいろ訴えたいあまり説明過多になっちゃって、読者は作家の説明を一方的に追っているだけになっちゃう。これではつまらない授業と一緒で面白くない。
 作家主義には一理あるってこの前言ったけどさ、やっぱり限度があって、少しくらいは読者だって作品に対して働きかけたいって思うもの。

 この物語の言いたいことはとってもシンプルだと思うんだけど、私にも意味がよく分からない箇所(おそらく読者が自由に想像できるゾーン)があって「天使(?)の先生がつけヒゲをしている理由」と「先生が描いた抽象的な意味のない図形が怪物の絵になって、それを先生がすぐに消した意味」が良く分からない。
 前者はさっぱりだけど、後者はなんとなく『鏡の国のアリス』の「ジャバウォックの詩」のように意味のないものも見つめ続けていると勝手に意味を作り出してしまう人間の想像力の危うさ?みたいなものをいいたかったようなそうじゃないような・・・ 
 
 先生は落書きを消してこう言う。

 きみたちも、もう、充分考えただろう。この答えは、易しすぎて難しい。

 つまり意味がないものは「意味がない」というのが答えであってそれ以上でもそれ以下でもない。デパートから落ちた私はただの棒であって、棒でしかないのだ。
 なんて陰鬱な内容の小説なんだ・・・日本人って本当にこういう内容の話好きだよね。
Calendar
<< April 2024 >>
SunMonTueWedThuFriSat
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930
search this site.
tags
archives
recent comment
recent trackback
others
にほんブログ村 科学ブログへ にほんブログ村 科学ブログ 恐竜へ カウンター
admin
  • 管理者ページ
  • 記事を書く
  • ログアウト