宇宙戦争

 「面白い度☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆」

 違うヨーロッパなわけないだろ!

 H・G・ウェルズの名作SF小説をスティーブン・スピルバーグ監督が映画化。いや~スピルバーグ天才。
 絵でも漫画でも(おそらく映画でも)「上手いことが面白い、かっこいいとは限らない」という説があって、いくら絵が下手でも読者の胸を打つ漫画はあるし、重要なのは小手先の技術や理屈じゃなくて一瞬のうちに受け手の心をはっとさせるようなケレンミ(はったり)。これがあるかないかが、おそらくクリエイタ―の才能の有無につながるんだと思う。
 で、スピルバーグ監督はやっぱすごい。火星から来た巨大ロボットをあんな怖く撮れる人いないよ。こういう荒唐無稽なものをリアルに見せちゃう力は本当に半端無い。この人にかかればティラノサウルスも宇宙人も笑い話じゃなくなってしまう。

 私これ映画館で見たんですけど、とにかくあの教会をぶっ壊してトライポッドマシーンが登場するシーンが最高にかっこよくて、スピルバーグ監督はでかいものの威圧感や怖さを演出するのは本当に天才的だよなあって息をのんだ覚えがあります(音響もぜんっぜん映画館の方がいい。テレビで観るより10倍怖く感じる)。
 CGもすごいですよね。今のCG大作映画って『マトリックス』にしろ『ハリー・ポッター』にしろ、もう漫画的表現の延長線上に行っちゃった感じがありますけれど、『ジュラシック・パーク』や『宇宙戦争』はあくまでも現実には無いものを現実的に見せるためのツールとしてCGを使っているので、すっごいリアル。何度も言うけどあのシーンは本当に怖い。
 あの三脚の脚だけ出てくるところとか、ロボットの全体像がなかなか把握できなくて、徐々に観客が「こんな感じのロボットなのかな?」って予想できるかできないかあたりで、俯瞰でロボットの全体像を見せるところとか本当に上手い。あれでしっかりロボットの高さも見せている。実はこんなにでかいんですよって。

 昔の映画版『宇宙戦争』(1953年)ではこのトライポッドはデザインが大きく変更されて空飛ぶ円盤の上に熱線銃がついたようなものだった。その熱線銃で宇宙人とファーストコンタクトしようとした人が溶かされちゃうんだけど、あの人の影だけ地面に残る演出はなかなかインパクトがあった。原爆かなんかのメタファーだったのかもしれない。
 スピルバーグ版ではトライポッドを原作そのままに出してくれてすっごい嬉しかったんだけど、あのジョージ・パルの演出に対してどんな人類殺戮方法を考えるんだろうと思っていたら、なんと人間の肉体だけ粉々にしちゃって服だけ残るという、恐ろしくシュールな演出!こんな発想どうやったら出てくるんだ?教えてほしい。
 空からひらひら服だけ舞い落ちてくる・・・これは一歩間違えればギャグになっちゃうんだけど(下着ドロボ―の人とか喜ぶんだろうな、とか)あくまでもその光景をシリアスに見せちゃうのがスピルバーグの底力。

 本作で(もはや天災に近い)父親として成長するレイを演じたのはトム・クルーズ。トム・クルーズみたいなイケメンがイケてるヒーローをやるのは当たり前だけど、こういう不器用なダメ人間を演じるとなかなか萌えるものがありますよね(でもガントリークレーンをダブルピックできる天才w)。
 行動力と正義感が半端無いレイの息子のロビーや、オーガニック食品をケータリングし年齢の割にどこか悟った感じの娘レイチェルもなかなかキャラが立っていて面白かった。
 レイチェルはキャアキャアうるせえとか言う意見があるけど、あの歳の女の子があんなことに遭遇してごらんなさい。あれがリアルな反応だと思うよ。
 あとフェリアー一家が自動車を運転しながらいろいろ宇宙人の攻撃について会話するシーン、これは状況を会話だけで説明しなきゃいけない、観客に飽きられる可能性の高い危険なシーンなんだけど(でも絶対必要な部分)、観客を退屈させないようにカメラをぐるぐる動かすのがうまい。走行する車をどうやればこう撮影できるのかはかなりの謎だけど・・・

 最後に『宇宙戦争』という作品自体に関して少し。これはもともとウェルズが19世紀末に産業革命および進歩主義を批判するために執筆した作品だという説がある。
 進歩だけが本当に素晴らしいことなのか?恐ろしく残酷な兵器だって生まれているじゃないか?と。
 人類よりも科学が進んだ火星人は、おそらく科学の未来そのもののメタファーなのだと思うけど、科学(=知性)が進歩しすぎたあまり人間的感情を失った冷酷で無慈悲な火星人は、未来の人類どころか科学兵器でバシバシ人を殺す現代人そのものなのかもしれない。
 とはいえこの映画は原作発表から200年後の2005年に公開された。冷戦による科学の軍拡競争は終わり、今の私たちは「科学の進歩が必ずしも人類を幸せにするわけではない」ことを公害問題などで学びちょいニヒリズム気味。
 だから監督は911テロ事件をイメージして現代風にアレンジし直したらしいんだけど、この路線変更はちょっと原作の訴えたいこととズレが出ちゃったような気がする(また脚本家デビット・コープの改悪か?)。だって911テロは科学の進歩によってに起きた事件と言うよりは、民族や宗教戦争の部類だったと思うから。飛行機という科学技術が武器になったとも言えるけど・・・

 SFの名作古典はやっぱりその作品が発表された当時の時代性をふまえた上で楽しまないと、頭の悪い私たちは「ベタすぎてつまらない」とか「地球の微生物でやられるなんて結局宇宙人バカじゃん」とか言って鼻で笑ってしまう。
 しかし宇宙人を科学技術が発達した現代の私たちだと想定すれば、あのラストはとてつもなく深いのだ。なにしろいくら発達した科学をもってしても地球環境は変えられなかったわけだから・・・ウェルズの予言は案外的中していると思いませんか?
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