『働かないアリに意義がある』

 創刊一周年(歴史がねえw)というメディアファクトリー新書。著者は長谷川英祐さん。日本のエドワード・ウィルソンの如くアリやハチといった真社会性昆虫を、とんでもない忍耐力で観察・研究する社会生物学者だ。
 どんな集団でもその内の2割は怠けてしまうという「パレートの法則」をアリのコロニーで実際に確認した際、どっかの新聞の読者投稿欄に「暇なんですね~」と茶化されたらしいが、冗談じゃない。
 あんなちっこいアリを毎日カウントし行動を常に記録するわけだから、スタッフの一人が赤いおしっこを出したのも頷ける。趣味的かつ地味だがとっても過酷な仕事なのだ。

 さてあとは例によってツイッターのペースト。最近本当に締め切りがやばくて、毎日夜を徹して描いているんだけど、それでもギリギリになりそうなんだ。定期的にブログを見に来てくれる人には本当悪いけど、勘弁な~(c)金八

 『働かないアリに意義がある』読了。ハミルトン則の第3章は分かりやすくて良かったけど、綾波レイが出てきた第4章が急に難しくて謎。引用の仕方も分からないし。説明が難しいからってアニメキャラだしてごまかすなよw

 あと第5章の最後で急に経済のグローバル化の話をしだしてそこがそこらの経済学者よりも話がずっと面白く示唆にあふれていた。この本の白眉だ。
 そーいや東京ドッグさんが教えてくれた「チート」って言葉がこの本でも出てきたwフリーライダー(タダ乗り野郎)のことらしい。

 ひとくちにアリやハチ(真社会性昆虫)といっても、その社会の実態は種によってかなり違う。面白いのはオスと交尾しながらも女王の遺伝子系が結局変わらない奴とか、王も女王も遺伝子系が結局変わらない奴とか(ワーカーの遺伝子系はちゃんと半々で交わる)w
 要はクローン帝国が一番血縁選択的にはいいんだろうけど、そうするとひとつの要因で共倒れの危機が。あと分業が上手くいかない。反応閾値の多様性がなくなるから(小難しい専門用語である「反応閾値」を「仕事をやる際のそいつの腰の重さ」と要約したのはうまい)。
 私が一番気になったのは、どういう了見で単数倍数性(受精卵からメス「2n」が、未受精卵からオス「n」ができる生殖の仕方)が進化で出てきたのかが謎。真社会性昆虫の社会の多様化や葛藤はこの生殖方法がそもそもの原因になっているんだけど。
 
 そうだ、本書のハミルトン則への鋭い指摘もまとめておこう。

 ハミルトン則は「br-c>0」って書くんだけど、つまり自分と血縁度の高い別の個体を助けることで発生する利益(b×r)が自分が利己的に生きた場合のメリット(c)よりも大きいってことなんだけど(これを包括適応度という)、実はこれ実験で確認するのは相当難しいらしい。
 なんでかって言うと、真社会性昆虫において自分の子さえ助かればいいというような利己的シングルマザーがいないからなんだってさ。だから利己的に生きることと利他的に生きることのメリットデメリットの比較ができない。式の不等号の部分が確認できないわけだ。
 
 ひとはつい美しい理論に飛びついて満足しがちなんだけど、その理論が現実の振る舞いと異なるのなら意味がないとも言っている。だからなんとか利己的なコロニーを人工的に作ったりして対照実験をしようとしているんだけど、やっぱハイゼンベルグの不確定性原理に抵触しちゃうんだろうな。

 余談はともあれできないことはできないのでした。人間できないことがわかっていることはやりたくないものです。最初はワーカーの包括適応度を測ることに熱中していた研究者たちの情熱も、ハミルトン則を検証できないことがわかってくると、次第に冷めていきました(95ページ)

 なにしろ相手は生き物だ。授業参観で親がくるとクラスの雰囲気がいつもと変わるのと同じである。まあアリはバカだからちゃんとしたデータを出してくれるかもしれないけど。

 あと血縁選択説派と群選択説派の抗争なんてもんがあるのも初めて知ったwとりあえず筆者は「単数倍数性の真社会性昆虫には群の効果がなくても利他的行動が進化しうる土壌があった」としている。その上で群選択も働いているわけで“どっちが”じゃなくて“どっちも”らしい。なぜ人間はいがみ合うの?

 最後に爆笑したのが、大学で学生に「先生の言ったことは教科書に載っていませんでした」と言われた長谷川さんが「科学者は自分が正しいと思ったことは世界がみんな違うと言っても、こういう理由であなた方は間違っていると言わなければならない存在なんだ」と怒ったって話w
 う~ん、論理をすり替えている気もww純粋にカチンと来たんだろうなwまあある程度定説として確定した、言うならば「旬をすぎた研究」が教科書には載っているわけで、それを覚えるのも大事だけど、科学研究の最先端ではないよね。
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