『小学校図画工作科指導の研究』

 今日は論文の参考文献ということで、上記の本を先生に借りました。なんか日本の美術教育に対する解釈に誤解があったようで、「これで勉強しろ」ってことなんですけど、この本、なかなか解りやすいです。もっと早くに読んでればよかった。
 しかも監修がリードの『芸術による教育』の翻訳者の宮脇理さんなんですね。

 美術教育を理解する上で難しいのが、美術教育を単純に「美術(の表現技法)を学ぶ教育」と考えるのではなく、「美術(=表現活動)を通して子どもの人格を陶冶する教育」とも考える必要があるということです。
 前者を一般的に「美術の教育」、そして後者を「美術による教育」といい、美術教育にはこの二つの側面が存在するということをおさえる必要があるといいます。

 私は普通に自身の経験から、今の学校教育は「美術の教育」なんじゃないか、と至極単純に思っていたんですけど、なるほど「理念」としてはそういった内容(「美術による教育」)がちゃんと学習指導要領にも書いてありました。
 とりあえずの前提は、どんな教科も「普通教育は子どもの人格陶冶の教育」であり、専門教育ではなく、教養教育だと言うのです。この重大なポイントを先生に断定してもらったことは大きかったなあ。

 また小学校から中学、高校と進学するにつれて、発達段階をふまえ、美術教育における「美術の教育」が「美術による教育」に対して占める割合が増加していき、逆に「美術による教育」のウェイトは相対的に減っていくべきだともと言います。

 しかしこのような理念の下、日本の学校教育がおこなわれているならば、「創造的な表現活動によって人格を陶冶する」というリードの発想は現在では物珍しいものではなく、「そんなの普通じゃん」ってなるはずなのに、なぜ今なおリードの教育論がラディカルに感じてしまうのかが納得できません。
 というか、公的な学校教育という国家の「巨大なシステム(エスタブリッシュメント)」が、いちいち子ども一人ひとりの人格形成にどこまで突っ込めているのかは、甚だ疑問です。
 私は「組織は巨大化すると、ろくなことにならない」という考え方の持ち主なので、子どもの人格形成を相手にするのなら、効率を無視してとことんやるべきだし(その為には一人の教師が一つの教室を管理するという、大人数を効率よくさばく、戦後民主主義教育は解体せねばなりません)、それができないのならば、中途半端に子どもの心に首を突っ込むのはやめて、知識や技術を客観かつ公平に授けるべきだと思います。

 私は教員経験がないので、よくわからないんですけど、人間の心っていわゆる「心の教育」で教育されるのではなく、まずは言葉や読み書きといった、いわば全然心の問題に突っ込んでない基本的な技能ができて、はじめて人間らしい心を獲得できると思うのです。
 というのも人間は、何を持って「人間」というか考えてみれば、他者との関係性、つまり社会性だったりコミュニケーションを築くことで、健やかな人格は形成されると思うのです。
 そう考えれば人間とは、西部邁さんが言う「言葉の動物」という定義以上に「表現する動物」と定義することができます。
 これは作家じゃなくても他人になにかを表現しないで生きていくことは絶対に無理ですから。

 だからそのために必要な「道具」である、言語、リテラシー、教養、知識などを(客観的気に)教えるだけで、十分最終的には心の教育になるんじゃないかな、と思っています。
 心を上手く操縦する道具をまずはしっかり授けなければ、心の教育もへったくれもないし、道具を教えるだけなら教育に付きまとう厄介な主観性の問題も排除できます。

 結論。やっぱり美術にしろ、国語、算数にしろ、客観的な技能を学習者の発達に合わせて、まずは教えればいいんじゃないですかね。
 あとこれは私の個人的な意見ですけど、日本もヨーロッパみたく哲学や弁論術を授業でやった方がいいと思いますよ。絶対。
 先生は私の考えとは全く逆で、知識の享受は塾にもう任せちゃって、学校では体育、音楽、美術といったいわゆる副教科を中心にやらせたらどうでしょうか?と考えていて、これも大変面白い考え方だと思います。さすが美術教育学者らしいアイディアです。
 でもそれだと「五教科VS副教科」の勢力図の力関係が逆転しただけのような気もするし、それならば行くところまで行っちゃって、リードの言うような「芸術による教育」、すなわち全ての教科を「表現」という名前の接着剤を使ってつなげてしまう、教科横断型教育の方が面白いかもしれません。
 理科の観察の授業で行うスケッチなどでは、理科の先生と図工の先生がセッションしてもいいじゃないですか。
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