『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本②

蒼穹の空――
雲を切り裂きぐんぐん速度を上げていく航空機・・・
太陽にそのまま突き進むかのように操縦桿を上げて機首を持ち上げていくパイロット。

地球――
ライトスタッフ空軍基地
夏の太陽はジリジリとアスファルトを焼き付ける。
中学生のレオナが双眼鏡を持って空を指差している「あ!降りてきたで」
後ろを振り返るレオナ「写真写真!」
カメラを構えるヴィン「あ、ああ・・・」
天空から超音速戦闘機が滑走路に着陸してくる。
戦闘機のコックピットからパイロットが降りてくる。
ヘルメットを脱ぐ伝説のパイロット、アイザック・イエガー。
滑走路に飛び出す三人の中学生。レオナ、ヴィン、そしてライト。
レオナ「イエガーさん!イエガーさん!」
ヴィン「サインください!ぼくたちファンなんです!」
イエガー「ははは悪ガキどもめ。ここは立ち入り禁止だぞ」

基地内になる掘っ立て小屋のような店。
店内には地球連邦軍の名だたるパイロットたちが会話を楽しんでいる。
レオナ「すげ~・・・!」
ヴィン「あの人はディーク・グリソムさん、あの人はグレン・シェパード・・・!」
店主にオーダーするイエガー「マスターなんか冷たいものを未来のパイロット諸君に。
オレはいつものでいいや」
ヴィン「ありがとうございます・・・!」
コーラをグビグビと飲み干すレオナ「うめ~!」
ビールを飲むイエガー「一番近い街から100キロもあるのにどうやって来たの?」
レオナ「いや線路たどって自転車で・・・」
イエガー「あの荒野を自転車で来たの!!??」
レオナ「だって車を盗めな・・・」
ヴィン「い、今は夏休みなんです・・・!」
嬉しそうなイエガー「最近の若い子はすごいな」

すっかり打ち解けてイエガーと談笑するレオナ
レオナ「こいつなんて自分の作ったロケットの名前にしてんすよ、やめろや、イエガーさんに失礼やろ」
ヴィン「す・・・すいません・・・」
イエガー「世界一速いロケットにしてくれよメガネ君」
ヴィン「それはもう・・・!」
ライトが気になるイエガー「君は飲まないの?」
レオナ「ああ、そいつは無口なやつで・・・どうしたライト?」
席から立ち上がるライト
イエガーに近づく。
イエガー「ん?」
ライト「いつか・・・あなたを超えてみせます」
店内のパイロットたちの視線がライトに集まる。
間――
微笑むイエガー「望むところだ・・・」
ライトを楽しそうに見つめるレオナ。中学生のライトはレオナよりもずっとたくましくなっている。
おろおろするヴィン。
イエガー「オレは恒星(ほし)を超えた・・・キミは何を超える?」
ライト「光です」
パイロットたちが爆笑する。
イエガーだけは笑わない「宇宙に穴を開けてみろライトニング。」



リンドバーグ号のコックピット
ライト、レオナ、ヴィンがイエガーと撮った古い写真。
アルバムを閉じるライト。
ライト「伝説のテストパイロット、アイザック・イエガーが現役を引退したのはこのすぐ後やった」
ミグ「すごい人だったんだね・・・」
ライト「そりゃそうや。イエガーは4.4光年先のアルファケンタウルスまで10年かけて往復したんや」
ミグ「どこにあるんだその星は??」
宇宙地図を広げるライト「ええか・・・ミグの冥王星とオレの地球の距離がだいたい50億キロ・・・これくらいなんやけど、太陽とアルファケンタウルスの距離は、その8千倍や」
ミグ「この人はそんな宇宙の果てまで行っちゃったのか!」
嬉しそうに笑うライト「ちゃうちゃう、アルファケンタウルスは太陽系から“最も近い”恒星なんや。
あの人の冒険は確かに歴史に残る偉大な業績やったけど・・・
宇宙全体にしてみれば砂粒よりも小さい。
光の速さでも10万年かかるほど広い銀河が星の数ほどあんねん・・・んでその銀河団が1000億個くらいあって、それを従える宇宙が最近の研究では約・・・」
ミグ「待って待って私が悪かった・・・宇宙は途方もなくでかいんだね・・・」
ライト「オレたちは宇宙の欠片も知らん。この宇宙には未知の領域がまだたくさんある・・・ワクワクせえへんか?」
微笑むミグ「・・・・・・。」
ライト「オレはいつか必ずこの人を超えたる・・・な、なんやねん・・・」
ミグ「そうだね・・・」
ライト「そのお母さんのような温かい眼差しやめろや。
・・・それに、お前は知らんと思うけど、オレは地球ではけっこう名の知れたレーサーやねんで?
ファンだって数え切れないほどいるんや」
全然信じてないミグ「・・・あはは・・・」
ライト「いやいやマジで・・・」
笑うミグ「またまた・・・でも私だけはファンでいてあげるよ。可哀想だから」
ライト「・・・ありがとな」

リンドバーグ号のコックピットには「ライトが落ちてきて一周年パーティ」と書かれた飾り付けがしてある。操縦はオートにしてあり、リビングの小さなテーブルに小さなケーキがある。
ライト「じゃ今度はミグのアルバムな」
ミグ「いや私はいいよ・・・君と違って地味な人生だし・・・」
ライト「なにいうとんねん卑怯やぞ」
赤くなるミグ「か、からかわないでよ??」
ライト「その年で何を恥じらうことがあるんや、観念せい」
黙ってアルバムを差し出すミグ「・・・・・・。」
アルバムをめくるライト
小学生くらいのミグの写真。リボンをつけて女の子らしくめかしこんでいる。
ライト「あんた昔から半分寝たような目つきなんやな・・・」
ミグ「君と違って家で本を読んでいるようなおとなしい子供だったんだよ」
ライト「小さい頃よく遊んだ女の子がそんな感じやったよ。」
ミグ「意外だなあ。キミの周りってみんなテンション高いイメージがあるんだけど」
ミグの写真を見つめるライト「しかし、それがなんでファイティングマシーンに・・・」
ミグ「ファイ・・・十代の頃にいろいろあって・・・強くなりたかったんだ・・・」
ライト「ふ~ん・・・それで十代の写真はないの?」
アルバムを取り上げるミグ
「ま、まあもう過去の話なんかいいじゃないか・・・今が十分幸せなんだから」
アルバムから一枚の写真がひらひらと落ちてくる。
ライト「あれ?なんか男前の写真が」
ミグ「あ、それは・・・!」
ライト「はは~んあんたの恋人やろ」
ミグ「私だって恋人の一人くらいいたさ・・・」
ライト「もしかして・・・あれか、ミグにひどいこと言って振った奴」
ミグ「え?」
ライト「いや前に教会でそんなこと言ってたやん」
ミグ「・・・・・・。
うん・・・まあ、そうなんだけどね・・・写真、捨てられないんだ」
ライト「まだ好きなの?」
ミグ「いや・・・どうなんだろう・・・でも、私にとってはとっても大切な人なんだ・・・」
ライト「傷つけられたのに?」
ミグ「この人は私の命の恩人なんだよ。
貿易商でね、身寄りのない私を保護してくれて屋敷を買い戻してくれた・・・
でも・・・ある時突然行ってしまったんだ・・・」
ライト「その理由が知りたいから写真が捨てられへんのや・・・」
ミグ「もしかして嫉妬してる・・・?」
ライト「するかい」
ミグ「私にとってはもう思い出の人だから・・・」
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