『80日間宇宙一周 From Earth with Love』脚本⑪

惑星連合放送の中継衛星
オフィスで惑星連合放送の役員会議が開かれている。
ハル・ケプラーが役員たちにプレゼンをしている。
ケプラー「いいか、我々が忘れちゃいけないのは、報道は真実じゃない、娯楽だってことだ。
それを間に受けて真剣に議論をしている救いようのないバカがいるからオレたちはメシが食える。
勘違いするな、オレたちにとって重要なのは、その情報が真実かどうかじゃない。
“視聴者が見たいものを見せてやる”ってことだ。
いかにして無知で、無教養で、忍耐力のない、移り気な視聴者の心をつかむかだ。
虚構こそ今や真実(リアル)なのだ」

役員会議が終わる。
イワン「連中いい顔をしていなかったぞハル」
振り返るケプラー「ふん偽善者共が・・・
で?今日はどうした?なにか面白いネタでも持ってきたのか?」
イワン「その逆だ・・・どこか二人で話せないか?」
ケプラー「オフレコか?」
イワン「ああ。ここに来たことはTIAには知らせないで欲しい。
最近上の連中がオレのやり方が気に入らないらしくてな・・・
情報管理もずさんだし、足引っ張ってばっかりなんだよ」
ケプラー「わかった。オレのオフィスでいいか?」
イワン「すまない」

ケプラーのオフィス
豪華なソファーに座るケプラー
ケプラー「サーペンタリウスに関しては我々は実態がある組織じゃないと踏んでいる。
惑星連合を裏で操っているのがサーペンタリウスとか・・・その手の陰謀話はいくらでもあるが、それは逆に言えば、いくらでも作れるってことだ。
これまでオレたちがネタにしてきた多くの秘密結社と同じく、結局は絵にかいた餅なのさ・・・」
ケプラーにウォッカを注いでもらうイワン「それは、テレビ屋の勘か?」
ケプラー「いや長年の経験に基づく確信だよ・・・
人の人気と一緒だイワン。
何か重要なものがあると思って蓋を開けたら中身は空っぽなんてことはよくあるもんだ。
思い込みってやつはそれだけ強大だ。
世界を動かしているのは案外そんなものなのかもしれない・・・」
イワン「本当に?本当にそれだけなのか?
我々の世界はもっと具体的な危機に瀕しているとは考えられないか?」
ケプラー「なるほど・・・確かに恐怖は金になる。
小惑星の衝突、ブラックホールの接近、太陽フレア・・・ガンマ線バーストなんてのもあったな。
どいつも結局は世界の滅亡には役不足だったが・・・そんなのはどうでもいい。
重要なのはそういった恐怖の存在は、大衆が自分自身で作り上げているってことだ」
イワン「小惑星は何度も衝突しているぞケプラー。実際に海王星では・・・」
ケプラー「ああ、そのとおり。だが先月の木星の大地震でかき消されたな。
今回の宇宙温暖化はさらにいい。
つかみどころがない上に、業界団体という視聴者が叩きやすい敵がいるからな。
どんなに被害が甚大だろうと自然災害には“敵”はいない・・・」
イワン「・・・そういえば宇宙サミットはいつだ?」
ウォッカを飲むケプラー「来週だ。コズミックグランプリの最終戦と同じ日さ。」
グラスを置いて立ち上がるイワン「・・・ありがとう」
ケプラー「あんたも気をつけろよ。情報は利用するためにあるんだぜ」
イワン「肝に命じる」



レース会場
実況「いよいよコズミックグランプリの第5戦がはじまります!
初戦で最下位だったライト・ケレリトゥスが驚異の追い上げを見せた本レース、
ついにルナ・マイヤースとライト・ケレリトゥスの一騎打ちになりそうです!
オッズはマイヤースが1番人気、ライトは3番人気です!
最終戦はコースが大幅に変わるんですよね。一体どんなレースなんでしょう?」
解説「はい、火星から太陽までを回る星間コースになっています。
その距離は8億キロ。太陽の引力を利用してうまくスイングバイできるかが勝負の鍵となりそうです。」


満員の観客席
飲み物を持ってくるイワン「ライトは勝ち進んだな」
楽しそうなイルミナ「ええ・・・ライトくんはすごい・・・」
イワン「ああ、あいつはすごいやつだ・・・(飲み物を渡す)」
イルミナ「ありがとうございます」
席に着くイワン「どうやら尾けられてはないようだ・・・」
イルミナ「いつもそうやって後ろを気にして生きているんですか?」
イワン「弁護士も敵が多いのさ・・・」
イルミナ「大変な職業なんですね・・・」
イワン「私も宇宙を飛び回り、いろいろな人物に会って、いろいろなものを見てきた・・・
いや・・・見すぎたのかもしれない・・・」
イルミナ「・・・・・・。」
コインを取り出すイワン「・・・だから、ほとほとこの仕事が嫌になってね、
コインに自分の人生を委ねることにしたのさ・・・」
悲しそうにイワンのコインを見つめるイルミナ
イワン「・・・どうだ賭けをしないか?」
イルミナ「え?」
イワン「このレースで誰が優勝するか」
微笑むイルミナ「私はライトくんに全額ベットしますよ」
イワン「君の肝っ玉には負けるな。」



ライトのピット
ライトとクルーとミュウが打ち合わせをしている。
クルーチーフ「いいかライト。このレースで一着になれば優勝できる。
お前をさんざバカにした連中に目にもの見せてやれ」
ライト「おう、任せとけ」
ミュウ「それに・・・彼女に優勝カップをプレゼントするんでしょ」
ライト「ああ・・・」
ピットにミグを連れてくるミュウ。
ミグ「ライト・・・」
ライト「ミグ、行ってくるからな」
ミグ「待ってるから・・・」

ライトアロー号のコックピットに乗り込むライト。
それをピットから見つめるミグ。



レースがスタートする。
エンジンを起動させるライトたちパイロット。
各機が太陽を目指して勢いよく飛んでいく。
大歓声の観客席
身を乗り出すイルミナ「すごい、すごい・・・!
私一度でいいからレースを生で見たかったんです」
イワン「キミのライトがトップだぞ。これは賭けはキミの勝ちかな?」
笑うイルミナ

イルミナ「・・・今でも私を無罪だと思いますか?」
コインを指で弄るイワン「ああ・・・それにキミはもう死んだ・・・
外の世界で自由に生きればいいさ・・・」
複雑な表情のイルミナ「自由・・・」
イワン「・・・」
イルミナ「そういえば、ライトくんはいつも自由だったな・・・」
イワン「ライトとは・・・?」
イルミナ「幼馴染だったんです。
・・・幼い頃は二人ともおとなしい子供で、よく一緒に遊んでいました。
今では想像もつかないと思いますけど、ライトくんままごとしてたんですよ?」
イワン「はっはっは・・・」
イルミナ「でも・・・私と違って、あの人はどんどん世界を広げていった・・・
気づいたらライトくんはずっと遠くへ行ってて・・・
私に残ったのは・・・私だけの・・・小さな世界」
イワン「・・・・・・。」
いじらしく微笑むイルミナ「知っていますか?宇宙は私たちのごく身近なところにもあるんですよ?
顕微鏡と望遠鏡・・・覗いているものは違うけれど・・・
そこに広がる世界は間違いなく宇宙なんです。」



宇宙ロケットが次々に火星の軌道を離れていく・・・
ピットでロケットを見つめるミグ。

係員「ちょっとここは関係者以外立ち入り禁止ですよ!!」
ゲオルグ「うるせえ!どけ!!」
係員を蹴散らしライトのピットに入ってくるゲオルグ。
ミグ「ゲオルグ警部!?」
ゲオルグ「ミグ!?ライトはどこだ!!」
ミグ「もうレースは始まっちゃいましたよ・・・」
ゲオルグ「くそ!!」
アリエルとルヴェリエも入ってくる。
ルヴェリエ「大変なんです!」
ミグ「ど・・・どうしたんですか??」
ゲオルグ「トランキュリティからヴェルヌが脱獄した!
ウェイドを人質にこの星に逃げたらしい!」
ミグ「え・・・!?」
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