宮崎駿監督の教育論

 宮崎アニメは作家主義的でいまいちな私なのですが、宮崎駿監督自体はすごい魅力のある人ですね。NHKで養老孟司さんとの講演をやっていたのですが、やっぱり目をつけているところとか発想が面白い。

 宮崎監督は、野山で虫を触ったり、走り回ったりするリアルな「経験」があってはじめて、リアルなアニメの表現の役に立つ、と考えているようで「それはそうだよな」って感じだったんですけど、宮崎監督のすごいところは、自身のアニメという媒体を想像以上にメタ的というか、客観的に見ていて、それ(アニメ)は「あくまでも非現実的な模倣に過ぎない」というんですよね。
 エキセントリックなイメージの宮崎監督が、自分の仕事をここまで冷静に見れる人とは知らなかった。

 アニメやゲームばかりじゃなく、まずはリアルな経験を大切に。自分のアニメでは「湿度」までは表現できない。エアコン効いた部屋で「トトロ」観るのと、実際に「トトロ」っぽい田舎に出かけて遊ぶのでは、後者の方が素晴らしい。
 ・・・この宮崎監督の意見はすごいなと思うと同時に、サブカル直撃世代はやっぱり「トトロっぽい田舎」よりも「トトロ」を観る方が好きなんだろうな、と思いました。
 これは宮崎監督のジレンマですよね。宮崎アニメは(観る人によっては)現実を凌ぐほど魅力的ですから。

 ただし、これは手塚治虫さんも「漫画を描くときは漫画を参考にするな」って言っていたらしいのですけど、漫画やアニメを書く時に、やっぱりそういう職業を目指す人は漫画やアニメが好きな人である場合が多いから、自分が走り回ったり、手で触ったりしてきた「リアルな経験」よりも、自分が好きな漫画やアニメといった「非現実的な経験」を参考にしてしまうんですよね。
 でもこれって言わば「模倣の模倣」で劣化コピーになりうる可能性がある。

 素晴らしい「非現実」を描きたいのならば、まずは現実の感覚を大切にすること。この意見は、宮崎監督の「土を書かせれば、そのアニメーターの故郷の土が解る」って言葉に端的に表れていると思います。

 今回、宮崎監督の教育論が聴けたのはかなり面白くて『崖の上のポニョ』で保育園の隣に、ホスピスを隣接したりするアイディアは、宮崎監督の教育論に基づくものだったんですね。
 確かに老人ホームに介護体験に行った時、若い人が来るとすっごい嬉しそうな顔する人もいて、まあマイペースに友人と将棋している人もいましたけど、お年寄りをお年寄りだけの集団で閉じ込めておくよりは、子どもたちと触れ合わせた方が、なんか精神衛生上もいい気がします。
 ちびっこだって、人生の大先輩で経験値の量が半端ないお年寄りと会話した方が、たかだかどっかの大学の教育学部出たての、人生経験が半端なく乏しい先生の授業よりも、ずっと価値があるのかもしれません。

 最後にスタジオジブリのスタッフの高齢化の対策として、若い人材を小出しに3、4人入れても、なかなか現場が若返らないっていう話は興味深かったです。
 年長者はいつかは必ず若い世代に自分の夢を託すべき、と私は思ってて、でも日本ってみんなお年寄りがかなり元気で、なかなか若いもんに任せてくれないんですよね。
 それで政治なんかはエスタブリッシュメント批判になるんですけど、私は学校教育において本当にリードのようなラディカルな「芸術を基礎とする教科横断型教育」を実行するならば、もう教員採用試験で、気心の知れた同世代の学生を「全科目セット」でチームごとに採用するしかないんじゃないかと思っています。もうばら売りじゃダメだと。それならば、チーム単位で採用したほうが、教科の枠を超えて友人同士自由な議論が出来るしいいんじゃないか、と。

 このアイディアに近いことを宮崎監督も言ってて「すごいなあ」と思ったんです。つまり、新人を小出しにスタジオに入れるのは意味がないから、数年採用をやめて(結局さらに高齢化が進んだだけだったようですが・・・)東京以外の場所に養成所でも作って、人材をまとめて育成しようと。
 とにかく宮崎監督自身がまだまだ描けちゃうからかどうか知りませんけど、後継者育成は大変なようです。「宮崎監督は天才だけどワンマン説」もありますからね。

 というか、宮崎監督いなくなったらジブリ解散するんじゃないかって気もします。やはり芸術って、科学理論のように普遍的に継承出来ないですからね。まあマニュアル化して継承できるものってやっぱり味気ないって言うのもありますし。
 結局、宮崎監督のアニメは本人しか作れない。もう産業として割り切っているアメリカと違って、漫画でもアニメでも作家主義的な日本では、この問題はしょうがない気もします。
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