「面白い度☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆」
あなたはもうこんな夢物語を信じたりする歳じゃないでしょう?
デルトロ祭り第三弾。公開前、テレビ東京のショウビズカウントダウンで、とんでもない映像のインパクトで視聴者にトラウマを与え(私だ)、ギレルモ・デル・トロ監督の名を世界に轟かせた話題作。
もう見る前から、どう考えてもポジティブな映画じゃないってことは分かっていたので、精神的に私が調子に乗るまでは見るのを控えていたんですが、結局今になっちゃった。それもCnoteのけんこさんがごり押ししたからやっと重い腰を上げたっていう(^_^;)
ほいで、この前の『ヘルボーイ』の記事で「デルトロ監督はビジュアルがダークなだけで、内容は割と王道でそこまで暗くはない」という傾向を見出そうとしていたんですけど・・・
暗い。暗すぎる!!(´;ω;`)
もうすごいよ。冒頭一番最初のシーンで主人公死にかけてるwんでなんでこういうことになっちゃったの?って感じで、少女の鼻血が巻き戻され、物語が長~い回想に入るんですが(回想が本編!)、この映画って『ウォッチメン』のごとく物語の構造が円環になってて、実はもう最初のシーンのナレーションでオチを言っちゃってるというwでもそれがオチだとは所見の人にはわからないように作っているのがうまい。
自分がいったい誰なのか、どこから来たのかも忘れ、寒さや病、痛みに耐えながらやがてお姫様はその命を終えました。
これは主人公の女の子オフィリアが空想したおとぎ話のお姫様のことかと思ったら、実はオフィリア自身の顛末を暗示していたという。
まあ、だから見た人はほとんどみんな感じるように、これスペイン版のアリスなんだよね。それも虚構と現実を隔てる壁がすごい曖昧な『鏡の国のアリス』の方に近い。
もしアリスの世界が、アリスの夢の中に存在する王様の夢だったとしたら、なにがなんだかウロボロスという・・・衝撃のオチのやつ。ドリーム・オブ・胡蝶。
とはいえ総合的に見れば、私はやっぱり全体主義の時代に生を受け、辛い現実に居場所がなくて、虚構の世界(死や彼岸を暗示)を選ぶしかなかった、悲しい少女の話なんだと思う。
その根拠はまあいくらかあるんですけど、例えばオフィリアの夢と現実世界の共通点から考えるならば、お母さんに医者が睡眠薬を2滴だけ入れるんだけど、そのあとオフィリアに仕えるというすっごい胡散臭いヤギ男「パン」が「マンドラゴラの根に血を2滴入れてお母さんのベッドの下に置きなさい」とか言うんだよ(どこの黒魔術だ)。
さらにパンくんは物語の終局でも「弟の血を2滴頂戴」っておねだりするんだけど、重要なのは「2滴に意味があるの?」とかじゃなくて、シーンの順序なんだ。
現実に起きた出来事としてお医者さんがお母さんに薬を2滴処方する様子をオフィリアが見てから、パンが2滴2滴って言うんだよ。
つまり、この映画って必ず現実の世界が先で、ファンタジーの世界があとになっているんだ。
よってパンや妖精の世界は、オフィリアの空想でしかないってことが構造的に暗示されていることになる。この映画が『ヘルボーイ』や『パシフィックリム』はなんだったんだってくらい救いようがないはそのためだ。
この順序関係がてんで無秩序なら、妖精の世界が現実で、大佐やスペイン内戦の世界の方が虚構だったのかもよ?っていう『鏡の国のアリス』的解釈もできるんだけど、現実と虚構の順序関係が、オフィリアが撃たれて死んでしまうまで貫徹しているから、救いようがなかった。
もし、オフィリアがお姫様っていう世界が現実で、現実だと思っていたものが虚構でしたって大逆転オチにするならば、あの救いようのないラストシーンのカット割りや順序はああなってないはずだ。よくわかんないから、ちょっと細かい話だけど説明してみるか。超ネタバレ。
①オフィリア撃たれる。
②穴のそばで横たわるオフィリア。
③オフィリアの手にクローズアップ(手が震えている=瀕死だけどまだ生きてる)
④手から血が滴り穴に落ちて流れる。
⑤オフィリアのそばで子守唄を歌うメルセデス。
⑥オフィリアのアップ。息が荒くなる。
⑦黄色い光を浴びてお姫様として王国へ帰る。
⑧現実のオフィリアが微笑む。
⑨オフィリアの息が途絶える。メルセデス号泣。
やっぱり現実と虚構の順序が崩れてない。もし妖精やヤギの世界の方が現実でしたって可能性を残すなら⑨のあとに⑦を入れるはずなんだ。でもこの順序だと⑦は瀕死のオフィリアの今際の際に見た夢ってことになってしまう。
唯一の望みは、ラストカットに出てくる妖精に変わるナナフシと(でも妖精の姿じゃないのに注目)、アリス的なドレスをかけた木の枝に咲く不思議な花なんだけど・・・あれなんだろうな。深読みをさせるブービートラップかもしれないし(^_^;)
・・・と、こんな感じで、この映画って本家『不思議の国のアリス』並みにメタファーだらけで、世界観や物語の構造がすっごい作り込まれている(ように見える)。なんか皮肉っぽい言い方したけれど、真面目な話、この“見える”っていうのはファンタジー(異世界)を描く上で大事で、しかも最も困難な点。
だから、このクオリティでディズニーは『アリス・イン・ワンダーランド』やればよかったんだろうけど、あの映画を擁護するならば、このレベルの世界観はそうそう作れない。
実は、ファンタジーの世界って見た目が不思議ならいいのか?っていったらそうじゃないんだ。まあ、視覚的に楽しめれば、それだけいいってタイプの人もいるんだろうけど、そのヴィジュアルに歴史的、文化的な根拠があると、空想の世界の説得力はずっと増す。
つまりそれは「面白い漫画のお話のつくり方」のときにも言ったけど、その世界を支配するルールがちゃんと存在するかどうかなんだ。世界観の背骨、本質というか。
こういう美しくもシュールで、主人公(≒お客さん)にすらルールがよくわからない世界といえば、やっぱりテレビゲームの『MYST』シリーズを思い出してしまう(あの不気味で物悲しい虚無的な歌詞のない子守唄は『MYST3EXILE』のテーマ曲を彷彿とさせる!)。
私あのゲームがすっごい好きで、あれルール全くわからないまま本の世界に放り出されるんだけどw(そして世界一役に立たない説明書付き)、あのゲームのすごい偏執的なところは、ルールが存在しないからプレイヤーはルールがわからないのではなくて、実はルール(規則性)はちゃんとあるんだけど、それにプレイヤーは気づいていないってところ。
普通のテレビゲームはこういうルールのゲームですって説明してから、ゲームが始まるけれど、MYSTはプレイヤーには最初ルールらしいルールを全く明かさず、ある程度ゲームを進めていくにつれ、「あ、この世界はこういうルールで出来ているんだ」ってなんとなく理解できるようになっている。これは最初にやった時相当ビビった。なんじゃこりゃ!って。そして魅了された。
こういうゲームは日本ではなかなかない。というか作れない。つーか商業ベースに乗らない。まあ、日本のゲームはどうでもいいんだけど(艦コレやってりゃいいんだよ・・・)、なんにせよ、そういった世界を潜在的に支配するルールは、最初にプレイヤーに明かされないほうがリアルだということ。なぜなら、この現実世界がそうだから。
自分にむかって語りかける母親のことばを聴いているとき、子どもはまだことばを知りません。しかし、すでにことばによるコミュニケーションの現場に引き出されています。子どもは彼が生まれる以前に成立した言語に絶対的に遅れて生まれます。言い換えれば、子どもは「すでにゲームが始まっており、そのゲームの規則を知らないままに、プレイヤーとしてゲームに参加させられる」という仕方でことばに出会うわけです。(内田樹著『先生はえらい』172ページ)
この事実は恐竜ファンならおなじみの世界の見方だと思う。なぜなら恐竜の時代を知ることで、人類が誕生するずっと前から生物が、地球が、宇宙が存在し、内田樹先生風に言うならば、すでにゲームは始まっていたということがわかるからだ。
人間が一人も存在しない世界があって、さらに人間はゲームの参加者としては超新参だったっていう事実の与える、センスオブワンダーは計り知れない。
私たちはパッと見わからないし見えないけれど、なんか世界を支配してそうな潜在的なルールを、神話や宗教、哲学、自然科学などを用いながら、歴史の中で少しずつ明らかにしていった。このように人間とは、ただルールに適応し従っているのではなく、ルールを意識の俎上にぶち上げてしまう強大な力――想像力を持つ動物なのだ。
なぜなら何も疑問を抱かずに、ただ従うなんてことは、あんたのような人間にしかできないからだ。
そして、その人間にだけ与えられた気高い力は、私たちに天国も――同時に地獄も見せてくれる。
よく「子どもはおとぎ話の世界に入り込んで、現実と虚構の区別がつかない」とか「子どもは大人が忘れた想像力があって純粋でいいわね~」とか言うけれど、私に言わせれば子どもほどの現実主義者はいないと思う。
だから大人の綺麗事や理想にある嘘や偽善を見抜き、笑ってしまう。美しい物語に素直に感動して泣くのは、子どもよりは大人の方だ(『風立ちぬ』を観て号泣している小学3年生はイメージできない)。現実と虚構の区別がつかないのは、いろいろこじらせちゃった大人の方だ。
この映画はスペイン版アリスって言ったけれど、オフィリアは、本当におとぎ話の世界を夢見るアリス・リデルのような空想少女だったんだろうか。そうじゃなくて、あの全体主義的な現実の世界のどこにも自分の居場所がなかったから、ところてんのように虚構の世界で生きるしかなかったんじゃないだろうか。彼女に選択の余地はなかった。生まれる親と環境は選べない。そこが子どもの不幸な点だ。
私も現実で嫌なことがあると、つい「あ、でもこれ今度の漫画で使おう」と、もう一人の自分が意識の中に現れて、客観的に自分の境遇を茶化しちゃう癖があるから分かるんだけど、オフィリアも現実世界で現実的に生きるために、空想の世界を空想とわかった上で没入していったのかもしれない。二次元の嫁がいないことなんて、きっとみんな知っているはずなんだから。
そういえば、私も小さい頃はオフィリアのように、よく森や山の中に入って遊んだんだけど(昭和の子どもなんで・・・)、決して夢見がちな空想少年なんかではなく、妖精とかヤギ男や巨大ガエルの存在なんて1ミリも信じていなかったし、アニメや漫画だって小さいなころから「嘘くさい」と言ってあまりハマらなかった。
でも森の木や霧や、雨露がついた葉っぱ(この光景は今でも鮮明に覚えている。位置もわかるけど、もう公園になっちゃったw)など、いろんな美しいものに夢中になった。ファンタジーよりもファンタジーな世界はすごい身近にあったから、人の作った嘘の話なんて必要なかった。
だから自分は、現実ってもっと面白いのに、なんでもっとちゃんと観察しないんだよって、虚構である自分の作品を現実に接近させて表現しているのかもしれない。
しかし私の子ども時代と違って、オフィリアの境遇はまるでアンネ・フランクのように陰惨だ。彼女はきっと私とは逆に現実を虚構に接近させたかったのかもしれない。
どちらにしろ行き着く先は、現実と虚構の区別がつかない痛い大人行き・・・あ、死んじゃったけどね(^_^;)
“妖精”は大人になると見えなくなるのでは決してない。大人になると面倒くなっちゃって見ようとしなくなるだけなんだよ。嘘だと思うなら今でも壁や床や天井の模様をじっくり見てみなって。今でもやっぱり顔に見えるから。(※肉体疲労時におすすめの遊び)
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