『「日本史」の終わり』

 これは終わりじゃない。終わりの始まりでもない。始まりの終わりなのさ。(C)ラヂオの時間

 池田信夫さんと與那覇潤さんの対談本。日本の社会システムは明治で近代化(=西洋化)したという通説があるけど、実は全然江戸時代から変わっていないまま、現代まで来ちゃったよ、という話。
 こういう、「江戸時代に現代の日本人の本質を見る」っていう評論は、割とよくあると思うんだけど、この本を読んでて面白かったのは、この江戸的なシステム(=日本人の性根)って、江戸時代よりもずっと昔から脈々と続いてきて、そんじょそこらの改革じゃ断ち切れないぜっていうこと。つまり與那覇さんは「江戸化」とか言ってるけど、おそらく資料的なものが江戸以前は少なくて、確信を持って言えないだけで、日本はずっと前から変わってないんじゃないかと思うw
 例えば、アメリカ軍だって戦後GHQ送り込んで「ジャパンは民主主義の国になったよ、万歳」とか言って喜んだけど、実は全然民主主義国家じゃないっていうねwその勘違いした成功例をもとに「今度はイラクもやってみようか」ってなったら、事態がこんがらがっちゃったわけで・・・

 私がなにげにショックだったのは、日本では司法が本当に全然機能していないという現実が具体的に紹介されていたということ。
 かくいう私も、サイトのコラム(水戸黄門に絡めて)や、Ustream(やっぱり水戸黄門に絡めて)や、ツイッター(絡めたかは忘れた)とかで散々言ったけど、日本人ってもう法律よりも感情で動いちゃってて、感情的に許せない!っていうのがジャスティスになっちゃっているのは、もはや自明の理じゃないですか。
 ヘーゲルみたいな、面倒くさい手続きを踏む合意形成は嫌いで、その場の空気で曖昧にやっちゃうっていう。そしてあとの面倒なことはみんな、お上任せっていうw
 とはいえ、これ(日本は民主主義国家だけど、日本人は民主主義が嫌い)は、多少風刺を込めて大げさに言ったつもりだったんだけど、どうやら本当だったっていう。

 私は学習塾で、現代社会とか公民も教えているから、一応法治主義とか、モンテスキューの三権分立とか学生に説明しているんだ。んでなんだかんだで、日本は法治国家で民主主義国だって思っていたのよ。どうしょうもないのは、末端のオレ達だけで、システムの根幹は近代国家のそれだろ、と。
 だからこそ表現規制の問題は、「ほっときゃいいじゃん」って楽観視していた。なぜって憲法違反だから。だけど、違憲の法律や条例が通っても、裁判所が体たらくで官僚たちに負けちゃうっていう池田さんの話が本当だったら、これはパキPさんの皮膚感覚――悲観論の方が、現状をよく把握しているなって反省したよw
 実は、日本は、この前見た映画のクリプトン星みたいに法が絶対なんかじゃ全然なくて、どんな立場の人も気分で決めちゃっているというw
 それでも、官僚やお役所は規則にうるさいっていうイメージがあったけど、その規則も厳密には法律とはまた違うらしいんだ。霞ヶ関は治外法権!
 だったら立法府の国会や、司法の裁判所なんて、官僚からしてみればクリボーみたいなもんなわけだよ。HP1だよ。

 そんな官僚経験者の池田信夫さんが指摘するのは、つまり、これは別に不安になるようなことじゃなくて、西洋的な民主主義っていう制度は、実は全然イレギュラーなローカルルールなんだよってこと。それも、いくつもの奇跡が重なって偶然できた稀有な例だとw
 池田さんって、なんというかすっごい頭が理系な人で、徹底した構造主義とか相対主義をドラスティックに論じる人で、もう前半なんて、私、読んでて嫌な気分になったからねw
 つまり人間を徹底的に、動物として論じていて、これは社会学とか歴史学というよりは、動物行動学とか社会生物学の話で、なんか自分も中学から高校にこういう話をかじって、得意げに振りかざしていたから胸がキュンとしちゃいましたwエドワード・ウィルソンが・・・とかねw今もたまにやるけどw
 
 例えば、池田さんはもう身も蓋もないんだけど、人間の行動は8割は、まあ、気分とかノリで決めているんだよ、というカーネマンのプロスペクト理論を引用する(^_^;)

カーネマンの認知システムの階層構造
システム1:直感のこと。自動的=潜在的。速い。偏見。省エネモード。原始的。動機オーライ。
システム2:推論のこと。コントロール。遅い。柔軟。燃費悪い。高次的。結果オーライ。

 これは小林よしりんで言うなら、情緒と論理の話であり、自分が論文で取り上げたH・リード的に言えば、感性と理性の話だろう。
 そして、どうやらこの8:2という割合は、人間の集団にも当てはまるっぽい。つまり人間の社会集団においては8割がシステム1で動いていて、2割がシステム2で動いていると。
 これは、偶然にも私が一時期ハマった池上彰ごっこで論じた「そうだったのか!世界樹理論」とも合致する話だ。つまり巨大なリゾーム(無秩序な地下茎)の上にとても小さなツリーが生えていて、その比率はいつの時代のどこの国もだいたい変わっていないよ、という話。
 この現実を議論の前提に置けば、ヨーロッパ型(※)の社会システム(法=システム2の支配。大きな政府)も、中国型システム(徳がある君主が専制政治。超小さな政府!)も、日本型システム(たくさんの拒否権者による相互支配。実はそんなに大きくない政府)も、優劣関係のない世界樹のマイナーチェンジに過ぎないという理解ができる。

 ※(本書では曖昧だが大陸ヨーロッパってことで理解したほうがいい。欧米はちょっと違う気がする。)

 ちょっと我田引水しちゃったけれど、なんにせよ、この人の相対化は本物で、ネット上のほとんどの人がポストモダン思想や相対主義を、自分のアイデンティティとして振りかざすけど(人は人、自分は自分。だからほっといてくれ!というプラグマティックな用法w)、この人は一貫して中立。虚無。そこは科学者って感じですごい。まあ池田さんは経済学者なんだけどw
 だから、ヨーロッパみたいな近代化や民主化がいいことで、どの国もそのルートへ進化するのが正しい、みたいな一昔前の科学的社会主義みたいな、「べき」論じゃなくて、いやいや中国はこういうルートできたし、日本だってかなり変だぜ?という、多元主義的な視座を提示してくれる。
 それも、ヨーロッパ、日本、中国の三つのルートを中心に、かなり細かいところまで討論してくれている。
 ここまで来たら、朝鮮や東南アジアがちょっとだけしか触れられなかったのは残念だし、アフリカや南米、そしてアメリカやロシアはどうなんだっていうのも気になる。
 三つに絞ったのは、この二人がことさら詳しいってだけで、もっといろいろ調べれば、まあ見事に立論の底板が抜けて、もうどうでもよくね?になるよねw

 ただ日本の社会システムは、とりあえずみんなに拒否権を持たせて、いい気持ちにしておいて、一部の行政担当者が暗黙の了解で、法律は、まあ、それはそれとして置いといて(!)テテっと、社会を動かしちゃうんだけど、このやり方を担保していたのは、中世ヨーロッパの封建制度や江戸の幕藩体制のように、権力が一極集中せずに分立していた現状があったからで、もしそれが崩壊すると、日本はヨーロッパよりも中国に近い社会になるんじゃないかって予想している。どっちも西洋化失敗してるからw
 池田さんは、鎌倉時代の貞永式目(中学校で言う御成敗式目)を、日本が法治国家になるチャンスだったって評しているけど、結局逃しちゃって、そのままダラダラ成文化されたルールなんか使わずにやってこれちゃった。大岡越前の公事方御定書だって、裁判に当たった奉行の気分でさばいちゃダメってしただけで、判例主義(コモンロー)でやれってことだしね。

 それなのに、日本は明治憲法をガッツリ成文化されたプロイセンの憲法を元に作っちゃったから、本来ならそんなもん使いこなせないのに、本音(社会の実態)と建前(法)のギャップを生真面目に埋めようとしてよくわからないジャッジドレッドを量産しているというw
 その点、朝鮮や中国は本音と建前をうまく使い分けていて、そんな純粋まっすぐな葛藤はないとw日本人って意外と、法を超えて匿名で私的制裁をするアメコミヒーローとかに、心情的には近いのかもしれない。
 少年漫画誌に私が馴染めなかったのも、扇動的な少年漫画の文脈と、私の作風があまりに違っていたからかもなあ。私は自分勝手な事をすると最終的にはバチがあたるよっていう、話が好きだから・・・ジュラシックパークとかギエロン星獣とかね。

 でもさ。與那覇さんは『中国化する日本』とか本を書いたけど、もう日本って中国みたいなもんだよね。さっきも言った、地域ごとの権力の分立というタガがネット上にはないから、日本人の心性のデフォルトが中国に近いんだなあってことがよくわかる。同じアジア人だしねw
 だから、中国人を叩いている人って実は、中国人の言動に自分を見ているから腹立たしいっていうのは絶対あるよね。
 私も、対象は中国人ではないけど、アーティストとかはやっぱりむかつくもんw絵かきなんて頭悪いくせに偉そうで、すぐに観念に逃げるトンチキくらいに思っているからねw
 それは、自分の中にある嫌な部分を、そいつがさらけ出しちゃっているからなんだ。シラーが言うように人間は鏡。

 與那覇「法は権力の発動を抑制するためにあるという立憲主義を知らない人が、憲法をうんぬんしている。法を政府が庶民を罰則で脅すための武器だと思っているわけだから、もう法治国家ではなく、韓非子的な「法家国家」とでも名乗ればいいと思います(笑)。」(128ページ)
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