今回は福祉国家についてまとめてみます。
イギリスでは第二次世界大戦中に社会保障について研究を進め、それをベバリッジ報告としてまとめた。いわゆるゆりかごから墓場までというスローガンがそれだが、租税中心型の手厚い社会保障は財源調達が難しい上、多少ダラダラしても社会が保障してくれるもんねと60年代には英国病と呼ばれる状態が蔓延したため、サッチャー政権は社会保障費を削減した。しかしスウェーデンは、高福祉高負担を突き進み、租税負担率は50%以上、お腹の中から墓場までと言われている。
一方の大陸ヨーロッパ、フランス、イタリア、ドイツなどは保険料中心型と言われ、保険料はその人の所得に応じて決められ、給付されるレベルも異なっている。
社会保障
国家の責任で現金やサービスなどの給付を行なう制度のこと。社会保障政策は、所得保障(失業給付、年金)、医療保障(疾病予防、治療の機会を均等に保障、3割負担の医療保険)、社会福祉(高齢者や児童、母子家庭、心身障害者に人的支援、介護サービス)に分かれる。
ただ中学校や高校の教科書では以下の4つに分類されることが多い。
①公的扶助
生活に困窮する人全てを無償で救済する。日本では、701年の大宝律令にはじまり、日本国憲法25条の生存権で「健康で文化的な最低限度な生活」を保障している。このような社会権はドイツのワイマール憲法が有名。
かつては、地域社会や教会や寺院、ギルドによって行われていたが、今日では国家が担っている。
1601年イギリスのエリザベス救貧法では、ニートのような働けるのに働かない人は強制的に作業に従事させ、働けない人は最低限の救済がなされた。
費用は裕福な人から税として徴収し、貧民を国家が管理することで、社会治安を維持しようとする意図もあった。イエスの教えはけっこう合理的だった。
日本の生活保護がこれにあたり(生活保護法)、その人が生活保護を受けるほど貧しいかどうかを、国や自治体は判断する必要がある(選別主義)。桶川クーラー事件(生活保護を受けているのにクーラーは贅沢だろとクーラーを外され、その人が暑さで死んじゃった事件)は有名。
②社会保険
病気、出産、老後、障害、死亡、失業、業務災害などがあった時に、現金や現物を被保険者や被扶養者が受け取る制度。
公的扶助との最大の違いは、無償ではなく保険料を支払う点で、民間の保険と違い加入が強制される。
公的扶助に比べると歴史が浅い制度だが、ドイツ帝国のビスマルクが、労働者の反政府化、社会主義化を防ぐために始めたのが、その起源であると考えられている。
公的雇用保険制度は、大量の失業者が出ないようにするために発展してきた。
日本では給付の種類ごとに、医療保険、年金保険、雇用保険(旧失業保険)、労災保険、介護保険の5つがある。
③社会福祉
前述したように、援助を必要とする児童、障害者、高齢者に対して施設やサービスを提供。
公的扶助と同様に全額公費でまかなっている。
現在では、弱い人を助けるというよりは、その人の自立を支援するといったイメージが強い。
④公衆衛生
意外と忘れちゃうのがこれ。国民の健康を守るために医療環境、生活環境の整備や保全を行っている。全額公費。予防接種や感染症対策、上下水道の整備、清掃サービスなど。
14世紀のヨーロッパでペストが流行ったのは、街があまりにも不潔だったからという。
生存権
日本国憲法25条では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれているが、実はこの部分の解釈は割れている。
これは国家が国民に対する努力目標であり、国民にその権利を保障したものじゃないよ、というプログラム規定説と、25条を根拠に生存権は国家に主張できるはずだ、という法的権利説がある。
朝日訴訟では、公的扶助を受けていた結核患者の朝日茂さんが、生活保護の基準があまりにも少ないとして、国を相手取って裁判を起こした。東京地裁の一審判決では訴えは認められたが、東京高裁の二審判決では一審判決を取り消し、その後最高裁にまで持ち込まれたが、朝日さんは病死、主張は認められないまま裁判は終わった。
・・・が、地裁の一審判決のあと、日用品費は47%引き上げられ、社会保障制度は前進した。
ちなみに最近では、プログラム規定説と法的権利説(具体的権利説)の間を取った、憲法25条を根拠に生存権を国家に主張はできないが、そういう法律さえ作ればできるという抽象的権利説が取り沙汰されているという。
エスピン=アンデルセンの福祉国家の類型
福祉国家を分類するために社会学者のイエスタ・エスピン=アンデルセンは、『福祉資本主義の三つの世界』で二つの指標を考えた。
一つは脱商品化指標で、労働者が仕事に就きたいあまり自分を投売りしていないか考える。自分を安売りしすぎて、結果的に健康で文化的な生活ができなければ、社会福祉に助けてもらうしかない。一般的に、社会福祉政策が手厚いと労働者の安売り(=商品化)は減っていくので、脱商品化指標は上がっていく。
二つめは階層化指標で、福祉政策が拡充しても、全ての人に行き渡らなければ意味がない。どんな人も等しい手当が受けられているのかをこの指標は示す。
例えば日本では、大企業の厚生年金保険や公務員の共済組合の方が中小企業や自営業の人よりも手厚い年金を受け取ることができる。そう言う意味で日本は、階層化指標が高い。
この二つの指標を組み合わせて、福祉国家を分類すると、脱商品化が高く、階層化が低いスウェーデンなどは社会民主主義モデル、脱商品化が低く、階層化が高いアメリカやカナダは自由主義モデル、脱商品化は進んでいるものの階層化が高いドイツやオーストリアは保守主義モデルということになる。
この理論で行くと、日本は明らかに福祉国家ではない。だが、新生児死亡率は低く、みんな長生きだ(福祉国家への努力度は低いが、なぜか実績は良い)。そう言う意味で日本は福祉国家研究ではかなりイレギュラーな存在らしい。
日本は、社会保障を国家だけではなく、家族と企業が担い、本来なら失業者となる人を守ってきたという歴史がある。アンデルセンによると日本は保守主義型と自由主義型の混合形態らしい。
ちなみに福祉政策は累進課税制度と並ぶビルトイン・スタビライザーである。
おまけに
フィスカル・ポリシー=ビルトイン・スタビライザー+公共事業や増減税(財政政策)フィスカルは財政という意味。
ポリシー・ミックス=ビルトイン・スタビライザー+財政政策+金融政策
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