政治学覚え書きシリーズ、今回は地方自治体。
地方自治は民主主義の学校である。
イギリスの政治家ジェームズ・ブライスの言葉。住民が身近な地域の政治に参加することで、民主主義を運用する能力が学べるから。
地方行政を地域住民自らが行う考え方を住民自治と言い、イギリスで発展した。
また、中央政府から独立した地方公共団体が自主的に行政事務を行う考え方を団体自治と言い、こちらはドイツで発展した。
地方自治の民主化
戦前の大日本帝国憲法には、地方自治に関する規定はなく、地方は中央政府の指揮、監督下にあった。知事は天皇に任命される官選知事で、内務大臣によって監督される官吏だった。
日本国憲法によって、地方自治が制度的に保障。地方自治法が憲法とともに施行された。
①住民自治の保障
地方議会議員、首長が直接選挙で選ばれるように。
住民投票(レファレンダム)、条例の制定・改廃請求(イニシアティブ)、議会の解散請求、首長、議員の解職請求(リコール)などの直接請求権も認められる。
②地方分権の進展
内務省が廃止。地方議会が中央政府から干渉されずに条例を制定できるように(条例制定権)。
地方公共団体の種類
普通地方公共団体:都道府県と市町村
特別地方公共団体:特別区(東京23区)地方公共団体の事務組合(事業の共同処理をするために結成)、財産区(公の施設や財産の運営処分のために結成)、地方開発事業団など。
政令指定都市
人口50万人以上の大都市のこと。人が多いため、市をさらに区に分けて行政サービスを行うことができる。桃太郎電鉄的に紹介すると・・・
北海道の札幌!
宮城県の仙台!
埼玉県のさいたま!
千葉県の千葉!
神奈川県の横浜、川崎、相模原!
新潟県の新潟!
静岡県の静岡、浜松!
愛知県の名古屋!
京都府の京都!
大阪府の大阪、堺!
兵庫県の神戸!
岡山県の岡山!
広島県の広島!
福岡県の福岡、北九州!
熊本県の熊本!
議事機関
教科書によっては議決機関。都道府県議会と、市町村議会がそれで、ともに一院制。
議員は住民の直接選挙。任期は4年で、解散やリコールがある。
主な仕事
・条例の制定、改廃、予算・地方税・使用料の決定
・議長、副議長、選挙管理委員の選挙
・副知事、副市町村長、監査委員、公安委員を知事が任命する際の同意
・住民の請願の受理
不信任決議
議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が賛成すれば可決。
不信任決議が通ると、首長は10日以内に議会を解散、もしくは辞職しなければならない。
また解散後最初に召集された議会で、再び不信任の議決をされた場合は、首長は辞職しなければならない(首長選挙やり直し)。
執行機関
大統領制と一緒で首長制を取るので、首長が単独で執行機関になる(機関なのか?w)。
任期は大統領と一緒で4年で、議会の不信任決議による辞職やリコールがある。
首長の下には副知事や副市町村長、地方公務員の会計管理人がつく(改正地方自治法が施行される2007年までは出納長や収入役が、その仕事を担当していた)。
主な仕事
・地方税の徴収
・議案の提出、予算の調整・執行、決算の議会提出
・治山治水、社会資本の建設
・教育、保健・衛生、社会保障、警察・消防の仕事
・戸籍・外国人登録の事務
拒否権
首長は、議会の議決が気に入らないときは、大統領のように10日以内に拒否権を行使して、再審議を議会に要求できる。
しかし議会が出席議員の3分の2以上のの賛成で再議決すれば、その条例や予算はそのまま成立する。
行政委員会
首長の独断や党派的支配を避けるために首長の下に設けられた独立機関。
以下いろいろある。
教育委員会
首長が任命。メンバーは5人(都道府県)、3~5人(市町村)。学校など教育機関の管理。
大津いじめ事件などで、教育委員会を独立機関ではなく、首長の指揮監督下においてしまったらどうか?という話もあり、今最も目が離せない行政委員会になっている。
公安委員会
市町村には存在しない。3~5人を知事が任命。警察の管理、運営。
選挙管理委員会
都道府県、市町村、ともにメンバーは4人で議会が選挙で選出。選挙に関する事務を管理。
人事委員会
都道府県、市町村、ともにメンバーは3人で首長が任命。地方公務員の人事行政を行う。
農業委員会
都道府県、市町村、ともにメンバーは約20人ほどで、首長に選ばれる選任委員と、選挙で選ばれる公選委員がいる。自治体によって人員の数は違う。
監査委員
首長が任命。メンバーは4人(都道府県)、3~1人(市町村)。地方公共団体の行政、会計監査が仕事で、彼らは委員会を作らない。
直接請求権
住民が署名を集めることで、条例の制定や改廃、監査請求、議会解散、リコールなどを要求することができる。
必要署名数は、イニシアティブと監査は有権者の50分の1だが、それ以外は3分の1も署名を集める必要がある。さらに有権者が40万人を超える大都市で3分の1の署名を集めるのは、現実的にかなり難しいので、40万人をオーバーした人数に6分の1をかけて出た数と、40万人の3分の1を足した数だけの署名となる。
署名が受理されても、今度は議会の同意や、住民投票にかけなければ実行はされない。自治体によっては中学生にも住民投票をさせたりしている。まさに民主主義のスクール。
①イニシアティブ(必要署名数50分の1)
首長に署名を提出。首長が議会にかけて結果を公表。
②監査請求(必要署名数50分の1)
監査委員に提出。監査結果を公表、議会、首長にも報告。割と実現しやすいので、時々本当に問題が発覚したりする。
③議会の解散請求、リコール(必要署名数3分の1)
この人たちは選挙によって選ばれているので、選挙管理委員会に提出。その後住民投票が行われ、過半数の同意があれば解散、解職。
三割自治問題
国税収入:地方税収入=7:3
でも地方の10割自治を目指すと国税収入がゼロにするしかなくなる。
依存財源:自主財源=7:3
これも地方の仕事をすべて地方税で賄えば10割自治ということになる。
『補訂版政治学』の地方自治(第13章)担当、真渕勝氏によれば、税収レベルでは中央:地方の比はおよそ2:1なのに、歳出レベルで見ると1:2に逆転しており、日本の地方自治体は非常に多くの仕事をしていることになると言う。
特に地方が中央から委託されている仕事を団体委任事務、機関委任事務といい(前者は地方政府全体に委任、後者は地方政府の特定の役職者に委任。現在は廃止されて法定受託事務に)、この仕事を中央や民間にどれだけ明け渡すかも、地方分権の大きな問題と言える。
主な法定受託事務には、戸籍事務、旅券の交付、生活保護の決定と実施、国政選挙などがある。
地方分権の推進
1999年に地方分権一括法が制定され、これまでの中央集権から、地方の独自性を打ち出した地方分権をさらに進めていく流れになった。
これは日本だけでなく世界的な流れであり、冷戦の終結によって地方自治体が中央政府とは異なるイデオロギーを打ち出すような危険性がなくなったことが大きいという。
さらに日本では自民党の55年体制が崩壊、自民党が長期的に与党を担うことが不確実になり、分権改革を進める動機が自民党側にも生まれた(中央から地方へ補助金を誘導するという“利権”が、流動的な政局ではいつライバル政党にの手に落ちるかもわからないから)。
三位一体の改革
2000年の地方分権改革は、国と地方の事務配分や、関与の仕方をめぐって争われていたが、2001年では放置されていた財政問題をいよいよ取り上げた。
「聖域なき構造改革」の一環として小泉さんが打ち出したのが三位一体の改革で
①地方交付税の縮減
②国庫補助金(使い道を国から指定されるお金)の廃止削減
③国税の基幹税目(所得税)を地方自治体(住民税)に移譲
という3つの改革を同時に実行しようとした。
財務相は国税を確保したいので①と②には賛成したが、③には反対。
総務省は全国知事会の支援を受けて、②と③は賛成したが、①には反対した。
事業省庁は族議員の支持を受け①と③には賛成したが、②には反対した。
見事に三すくみになってしまったが、事業省庁の補助金削減を共通目的とし、財務省と総務省が取引(財源移譲の規模と税目を調整、一時的な交付金制度を導入)をし、財務・総務のタッグVS事業省庁のバトルとなった。
結局①は削減額5.1兆円、②は削減額4.7兆円、③は移譲額3兆円となった。
この改革は、第一次安倍内閣になると「地方自治体に疲労感が蔓延している」と、地方税制改革を取り止め、地方分権の推進は中央省庁の出先機関を整理することで進めようとしたが、2007年に自民党が政権から下野し、この改革も頓挫した。
その後、民主党の原口一博議員が総務大臣になり「父権主義との戦い」を高らかに宣言したが、結局どうなったんだべか。
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