南北朝時代の概要(1336年~1392年)
天皇中心の社会に戻そうと建武の新政が行われたが結局すぐに失敗、その後、朝廷が京都と奈良の二つにでき、政治は大混乱。
日本史における戦乱の時代と言ったらやっぱり戦国時代がイメージされるが、南北朝戦争は戦国時代に匹敵するほど長期化しており、その利害関係があまりに複雑な上に、情勢が二転三転しているため、テレビゲームなどにはややこしくて取り上げられないという事情がある。
戦争を略奪のチャンスとしか考えない新興武士の悪党、部下になんでもあげちゃう足利尊氏によって権限が大きく拡大した守護、その守護から独立しようと国人と名乗る地頭、そして守護と主従関係を結び侍の身分を獲得する農民など、戦国時代におけるバトルロイヤルの伏線がはられている。
建武の新政
鎌倉幕府滅亡後に京都に戻った後醍醐天皇が、10世紀後半の醍醐天皇や村上天皇に習って1333年~1336年の間に行った、急進的な天皇親政。
後醍醐天皇は幕府、院政、摂政・関白の全てを廃止し、中央には重要政務を一手に引き受ける記録所、鎌倉時代の引付衆に当たる雑訴決断所、警察省に当たる武者所(長官は新田義貞)、後醍醐天皇を支持した武士に恩賞を与える恩賞方を設置した。
地方では行政府の国司の力を強化、守護の権限を引き下げると共に、東国には陸奥将軍府(頼良親王と北畠顕家)と鎌倉将軍府(成良親王と足利直義)を置いた。
また、後醍醐天皇は天皇の法令である綸旨(りんじ)によって、土地所有権は天皇の許可がなければ認められないようにし、さらに強力な人事権を行使して、役職と家柄を切り離し(得宗専制政治を廃止)、官職と官位を切り離した(大宝律令からの官吏相当制を廃止)。
このような後醍醐天皇の改革は、醍醐&村上の延喜・天暦の治よりは、中国の君主独裁制に近く、その上、武士の力に頼りながら、武士社会の慣習を無視したものだったので、武士たちは当然反発し、護良親王のクーデターや、西園寺公宗による後醍醐天皇暗殺計画などが起きた。
中先代の乱
1335年に鎌倉時代の執権北条高時の息子の北条時行が鎌倉を占拠した事件。
このクーデターを後醍醐天皇のために鎮圧した足利尊氏は、協力してくれた武士たちに勝手に恩賞を与え始め、これを危険視した後醍醐天皇は足利尊氏を朝敵として認定、新田義貞に足利尊氏討伐を命じた。
ちなみに足利尊氏はかつては歴史ファンの人気が低く、江戸時代に水戸学を始めた水戸光圀(水戸のご老公)も『大日本史』において天皇に弓を引いた逆賊だと批判していたが、現在では客観的な評価がされている。
南北朝時代の始まり
朝敵にされてしまった足利尊氏は当初は苦戦したものの、九州での大逆転(多々良浜合戦)をきっかけに、西国のほとんどの武士を、自身のカリスマ性や、持明院統の担ぎ出し、宗教的演出などで味方に付け、1336年に京都を制圧、新たに光明天皇を即位させ、聖徳太子を思わせるトラディショナルな建武式目を発表した。
これにより戦争は集結したかと思いきや、講和に一度は納得した後醍醐天皇が吉野で正統な天皇であると主張したため、京都の光明天皇と奈良の後醍醐天皇という、二つの王朝が日本にできてしまった。
二頭政治
1338年に征夷大将軍に任命された足利尊氏は、弟の足利直義(あしかがただよし)と職権を分担して政治にあたった。
人情味があり武士の人気が高かった尊氏は軍事的な指揮権や人事権を、理論派で冷静だった直義は法令順守に則った行政権や司法権を掌握した。
一方南朝の後醍醐天皇は、新田義貞や北畠顕家を失い劣勢のまま亡くなった。
観応の擾乱
1350年。武力によって領土拡大を訴える急進派の高師直と、戦争を早急に終結させようとする保守派の足利直義による北朝の内部分裂。
最終的に幕府派(尊氏派)と、足利直冬率いる旧直義派、そして南朝の三つ巴の戦いになった。
単独相続
南北朝戦争時には、所領の細分化が進みすぎたため(子孫が幾何級数的に増えるため一人あたりの土地の面積がどんどん減る)、本家と分家の嫡子(長男)がそれぞれに土地を単独相続するようになり、それまでの惣領制を支えてきた血縁的結合よりも地縁的結合が優先されるようになった。
そのため本家と分家の対立も増え、それが南北朝戦争を長期化させることになった。
ちなみに、この単独相続への移行によって夫と別に財産を持っていた嫁、つまり女性の社会的地位が低下した。それまでは自分の旦那を選択できたり、複数の異性との交際がOKだったりと、割と日本の女性の地位は高かった。実際北条政子は夫婦別姓だったしね。
南北朝統一
南北朝戦争は60年も続いたが、1392年に3代将軍足利義満が南北朝を統一させ戦争を集結させた。
具体的には、南朝の後亀山天皇が、北朝の後小松天皇に神器を渡し、以後は北朝の持明院統が皇位を継承することになった。
ちなみに、義満は京都の室町にある邸宅「花の御所」で政治を行ったので、足利幕府は室町幕府と呼ばれるようになった。
したがって学校の教科書では南北朝時代も室町時代に含んでいたりするけれど、1392年以前は室町幕府は存在しないので足利幕府と呼ぶ本もある。
守護大名
南北朝戦争の際、味方を増やしたい幕府によって、苅田狼藉(田地の紛争の際に一方が勝手に稲を刈り取ってしまう行為)の取り締まりが出来る権利、使節遵行権(しせつじゅんぎょうけん)という幕府の判決を強制執行する権利、半済令(はんぜいれい)という国内の荘園や公領の年貢の半分を徴収する権利などを与えられた全国の守護たちは、他の荘園や公領を襲撃し、その利益を分け与えることで地方武士を支配しだした。
また、本来領主の仕事である年貢の徴収を請け負う守護請も現れた。
このような国衙の権限を吸収し一国を支配する守護を守護大名という。
国人一揆(こくじんいっき)
国人とは地頭などの領主をやっていた一部の地方武士。
彼らは守護に頼らず自分たちで結束し、自主的に紛争を解決したり農民と契約を結んだ。
このような結束を一揆といい(暴動って意味じゃなかったんだ)、ひとつの地域権力として守護と対立した。
惣村の普及
惣村とは、荘園の内部に農民が自主的に作り上げた自治的な村のこと。
惣村の農民は惣百姓と呼ばれ、農業につかう灌漑用水などの共同管理や入会地(いりあいち)と言う共同利用地を確保し、年貢も惣村単位でひとまとめに行った(村請)。
また、おとな(沙汰人)と呼ばれた惣村の指導者は、寄合という会議で決められたルールである惣掟に従って村を運営した。
惣村の祭礼は宮座という集団が行った。
惣村は力をつけ、惣百姓の中には守護などと主従関係を結んで、侍の身分を獲得するような地侍も現れた。
南北朝文化
動乱の時代だったので多くの歴史書、軍記物語が書かれた。
『増鏡』:源平争乱後の歴史を公家の立場で記述。
『梅松論』:室町幕府成立過程を描く。
『神皇正統記』:北畠顕家の父親の北畠新房(親房)が伊勢神道を根拠に南朝の正当性を主張。
『太平記』:南北朝の動乱を描いた軍記物語。戦争で翻弄される人々の姿を描く。
連歌
平安時代にできた長句(5・7・5)と短句(7・7)を別の人が交互に詠むゲーム。
武家、公家問わず大流行した。
南北朝時代の歌人である二条良基(にじょうよしもと)が『応安新式』というルールブックを執筆し、方式を確立。彼は『莬玖波集(つくばしゅう)』を編纂し、これは後に勅撰和歌集に準じるものとして和歌と対等に扱われた。
このように本来は格式高いものだが、バサラ大名はパーティーピーポー的なゲームとして楽しんだ。
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