「面白い度☆☆☆☆☆ 好き度☆☆☆☆☆ クリストファー☆☆☆☆☆」
ドイツ軍は愛ゆえに戦争に負けたぞ。
本作は『ビューティフル・マインド』のジョン・ナッシュ、『ソーシャル・ネットワーク』のマーク・ザッカーバーグに続く、人の感情の機微や空気が読めない、理系バカの哀愁を描いた映画である(人ごととは思えねえ!)。
題名のイミテーション・ゲームとは、いくつかの質問をすることで、相手が本当の人間か、それとも人間のふりをしたマシンかを判断するテストのことで、もしこのテストで人間と判定された相手がイミテーション、つまり人工知能だった場合は、そのマシンは人間の思考を持つことになる。
本によっては考案者の名前からチューリングテストとも呼ばれてるんだけど、私はこのテストの具体的な内容はよく知らないんだけどさ、これって言ってみればあれだよね。『ブレード・ランナー』の取り調べだよね。
もっと言えば、こんなもんSNSで毎日みんなやってるよね。すごい時代になっちまったよなw
だいたいツイッターなんかはリアルで会ったこともない人と会話しているわけで、相手がただのbotの可能性だってあるし、実際どう考えてもbotのアカウントに熱心にリプライ送っている人もいるもんな。
あれは謎だよな。もしかしてbotがbotとやり取りしている可能性もあるわけで、そうなるともう誰が人間なのか、もしかしたら引きこもってネットしかやってない人にとってみれば、フォロワー全員botというオリエント急行殺人事件的な展開もありうるわけだ。
ここまで来ると、リアルで会っている人間だってもしかしたら中身は新聞紙詰まっているハリボテかもしれんぞという、哲学的ゾンビ問題になっちゃうんだけど、とりあえず今んとこ人間とマシンの区別がつかないようなことはない・・・って思ったらこないだチューリングテストで、人間認定されたマシンができちゃったらしく、まあそいつだって見た目はコンピューターなんだろうが、こいつとディスプレイ越しで交流したらもう人間と区別がつかないわけで、いよいよ恋愛シミュレーションゲームはさらなる輝きの向こう側へ行くぜっていう。
・・・すまん、それくらいしか思いつかなかった!(SFを書いているとは思えない貧困な想像力)
ほかに何かあるかな・・・ああ、オレオレ詐欺プログラムとかが開発されて、全国のおじいちゃんおばあちゃんに一斉送信されそうだな。もう詐欺組織は電話かける必要もねえぜって。
そうなると保険会社とかのCMに出てくる「お客様の声がうんたら・・・」的なオペレーターのお姉さんもみんな失業しそうだな。こええな。第二のラッダイド運動始まりそうだな。
まあ、でもさ、人間も結局は人工知能と同じ条件(=自然法則)で動いている以上、どっちもコンピューターみたいなもんっていうのはあるんだけど、人間の脳がマシンのそれよりも特に優れている点は、曖昧なことをなあなあで流しちゃう点だよね。
つまり、物事にプライオリティをつけて、わからないものや考えても仕方のないものはとりあえずペンディングしちゃうという。ここが、そんじょそこらのコンピューター共とは違うところだよ。
まあ人間の脳とコンピューターじゃ求められている用途も違うっていうのもあるんだろうけど。人間は、なんだかんだいって、やっぱり自然界で暮らす動物なわけで、食物連鎖や自然淘汰に勝ち残る必要があるけれど、コンピューターの仕事って基本的に計算だからな。3回に1回足し算を間違う電卓とか、絶対売れないもんな。
これがもし、コンピューター的な知性がサバンナで暮らしたら、すぐにライオンに捕まって食べられちゃうだろう。
コンピューターってやつは変なところ愚かで、行動の選択をする際に、考えられるすべての選択肢をしらみつぶしにリストアップして、そのあとに最も適切な選択肢をそっから選ぶんだけど、向こうからやってくるライオンをどう対処するかというパターンなんてそれこそ無限にあるわけで、リストアップしている最中にガブリッてやられて終わりだぜっていう。
だいたいライオンの対処なんて「たたかう」「にげる」「ぼうぎょ」くらいにしぼり込める筈なのに、コンピューターはバカだから「三角測量でライオンとの距離を計算する」とか、どうでもいい行動も選択肢の中に入れて吟味しちゃうんだ。
こういう系の問題を、NP完全問題とかフレーム問題とかって言うんだけど、この映画に出てくるナチスドイツの暗号(エニグマ)解読機「クリストファー」くんも、10人の天才が毎日計算しても2000万年かかる演算を一生懸命続けていて、当然そんなアプローチじゃ計算が終わるはずもなく、パトロンの軍人に「ボッシュートです」とか言われちゃうんだけど、これはそもそも問題の解き方のアプローチが違っていたわけだ。
よく出来た映画ってなによりメタファーの使い方がうまいんだ。『ショーシャンクの空に』とか『WALL・E』とかさ。因数分解的というか、重層的というか。メタファーを使ってそれぞれの要素を完結にひとまとめにすることで、伝えたいテーマが見ている人に明確に届くんだよ。
この映画もまさにそうで、アラン・チューリングというマシン的な思考を持つ人間が、人間的思考を持つマシンを創ることで、彼にとっては暗号同然の対人コミュニケーションと格闘する話なんだよね。
吃音症の数学者といえば、やっぱり『不思議の国のアリス』のルイス・キャロルが出てくるけれど、それ以上に彼のキャラクターを象徴するのはアスペルガー症候群だろう(あと同性愛なんだけど、この問題はここでは割愛します)。
アスペルガー症候群っていうのは本によって若干定義が異なるんだけど、知的障害を伴わないタイプの自閉症で、社会性、コミュニケーション、想像力に難がある場合が多い。
こういう問題って、社会で生きる以上、多かれ少なかれどんな人も苦労はすると思うだけど(スペクトラム障害っていうくらいだから診断も難しい)、その程度がちょっと甚だしく、曖昧だったり婉曲的な表現や、言葉の裏にある相手の感情を読み取れなかったり、「あなたブスですね」的なバカ正直なことを言って集団で孤立したり、常人には理解できないような独自のルールに沿って行動したり、同じパターンを繰り返したり、興味のあることに関してはものすごく没頭するんだけど、その興味の対象がすごい狭いとか、難しい言葉を使うんだけど実は大して理解してないとか、まあ、総じて作らなくてもいいトラブルを周囲に作ってしまうところが特徴で、チューリング博士は見事にこれに当てはまる。
学校で人気者だったろ?
気難しい態度が許されるのは本物の天才だけだぞ。
このような皮肉を同僚に言われちゃうのも、アスペルガー症候群に重度な知的な遅れがなく、言葉のやりとり自体は普通にできるためである。
しかし『ソーシャル・ネットワーク』のザッカーバーグは、ホントただのムカつくやつに見えて、それはそれで面白かったけど、この映画のチューリング博士はなんか、分からないなりになんとか人を理解しようと頑張っている感じがして、すごいけなげで愛らしい。
そもそも本当に論理的に考えるならば、不必要な人間関係のトラブルは作らないはずだからね。チューリング博士なりにそれ自体は理解してた感じがする。
でも、そのためのアプローチがどうしてもイメージできなくて、フィアンセのアイディアに素直に従ったんじゃないかな。あのリンゴのシーンは本当、萌えました。高倉健さんの「不器用ですから」に匹敵する、なんか、こう、切ない・・・
まあ、それで、同僚に「あ、この人別に悪意があって胸が張り裂けそうなこと言ってるんじゃないんだ」って理解されて、チューリング自身もなんとなく人間の思いやりとか愛情における傾向みたいなのを論理的に理解できるようになって、ついにエニグマ攻略の糸口を見つけるという。ここら辺の展開がすごい上手。
そう、人間の思考はコンピューターのそれとは大きく違う。そして毎日エニグマの設定を更新しているのはドイツ兵――ほかならぬ人間だったのだ。
チューリング博士は気づいた。ライオンに襲われる際に「測量をする」みたいな選択肢を選ぶバカはいない。そういう、どう考えてもいらない選択肢は初めから除外すればいいんじゃないか?と。
これは分枝限定法と現在では言われているんだけど、チューリング博士は人間の思考を理解することで、難攻不落のマシンを攻略したわけだ。
実際人工知能の研究は、ファジー理論に代表されるように人間の思考のある種おおざっぱな点を導入することで、飛躍的に進歩している。これを人工知能のO型化と呼ぼう。
私なんかも血液型がO型だから、ネットでのやりとりで「そんなロジックで考えても絶対答えが出ない問題を、こんなところで議論しなくてもいいやん」とか思ってたんだけど、実はああいうやり取りをする人って、ネットプロレスや不毛な言葉遊びをしたいんじゃなくて、もっと切実に、机上の空論どころかむしろ地に足着いた問題として本気で悩んでいるのかなって思った。
なら、私も論理的な思考には自信があるから答えを教えるよ。
答えがないものとして、とりあえずスルーするのが答えだよ。
なんかマロさんが仏教に詳しくて、宇宙がどうとか政治がどうとかマクロなことばっか批判してた弟子マールンキャプッタに、ガウタマの兄貴が「んなこと考える前に身近な人に手を差し伸べろよ」って一蹴した話があるんだって(毒矢のたとえ)。
つまり、お前の職業が自然科学者や哲学者、政治家ならともかく、身近な人間関係で悩んでいるのなら、まずもって考えることはそういうことじゃないだろって話だろう。
君が悩んでいるエニグマの答えは、そのアプローチでは絶対に解決できない。だから、この世の中には論理では答えが出ない問題があることを受け入れようよ。論理的に。ダメ?
イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
2015-04-06 00:52:41 (9 years ago)
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