3.「第3章 知覚と想像力」要約
第3章では、表現における主体と客体の問題について触れている。主体とは感覚を備えた人間であるということは言うまでもないが、興味深いのはリードが客体を主体から離れて外部にあるものとしながらも、心(主体)に備わったものの一部であるかもしれないと定義している点である。リードは「私たちは、孤立した客体と、人格を持たない鏡のような心しか存在しないような真空状態に生きているわけではない」(1)とし、主体は受動的なだけではなく能動的な感受性を持つと述べている。さらにリードは、知覚や感覚によって引き起こされる精神の反応、この一連の過程は美的なパターンを有するとしている。
イメージについてリードは一つの客観的現象と定義し、イメージを記憶によるもの、赤いものを数十秒見た後で、中間色の背景を見ると補色の緑が見えると言った生理的残像、鮮明な視覚イメージを記憶する直観像、夢の4つに分類している。直観像記憶についてリードは、直観像記憶があったと思われる詩人のシェリ-、モチーフを見ながら絵を描くのではなく、その形態の特徴や構造を心の中に記憶して描くべきだというホガースの絵画技術のトレーニング法、時に直観像記憶を自由にコントロールできたというウィリアム・ブレイクなどの例を挙げ、作家のイメージについて考察している。
ここでリードは教育における二つの重要な問題を挙げている。ひとつは教育的発達に対する視覚的イメージの関連性であり、もうひとつは「感覚主義」と、知性や理性を重視する「主知主義」の相対的価値の模索である。リードは思考に対するイメージの関連に対して、いくつかの研究者の主張を挙げている。
エイヴリングは、イメージは思考の連想、あるいは図解として関連している可能性があるとし、リードはそれらの主張をふまえて、イメージとは思考の視覚的援助であるとともに、抽象的思考の大部分にも関係していると結論付けている。つまり想像と思考という、独自性の強い二つの精神活動のどちらにもイメージが影響を与えているということなのである。
第3章の後半に入ると、リードは本格的に教育を議論の対象に持ってくる。まずイエンシュの「子どもの人格構造に最も近いものは論理学者ではなく芸術家の精神構造である」という主張を引用し、どのようにすれば芸術の教育が学校教育において重要な役割を担えるか考察を始めている。ゲシュタルト心理学では、人間は物事をパターン化することで認識するという。この事実は、美的な基準が人間の精神活動において大きな役割を果たしていることを示唆しており、それは学習や経験の基礎的要因なのであると論じている。
このような美的基準をふまえた芸術を基礎とする教育方法の実践例として、リードは、リトミックのダルクローズを挙げている。そして主知主義のみに基づく教育では、子どもは創造的活動や感覚を楽しむことができなくなるとし、抽象概念を早期に発達させようと強制する教育は自然に反すると結論付けている。リードが考える芸術教育の目的とは、人とその精神活動の有機的な全体性を保持することであり、それは、イメージと概念、感覚と思考、さらに自然法則に関する知識と、自然に調和する習慣や行動さえも子どもたちに身につけさせることができるのである。
注
1.ハーバート・リード著 宮脇理 岩崎清 直江俊雄訳『芸術による教育』(フィルムアート社2001年)「第3章 知覚と想像力」58ページ
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